「Lean Analytics」(分析を事業において適切に利用する方法を解説する最新の書籍)の執筆者の一人、ベン・ヨシュコヴィッチによるゲスト投稿。現在、ベン・ヨシュコヴィッチは、2012年にSalesforceが買収したGoInstantで製品部門のVPを勤めている。また、ブログ「Instigator Blog」で定期的に記事を投稿している。また、ハンドル名「@byosko」でTwitterを利用している。
ピボットした経験はあるだろうか? 恐らくあるはずだ。
適切なピボットだっただろうか? そうであったと願いたい。
残念ながら、リーンスタートアップ、そして、リーンスタートアップが広めるコンセンプトのおかげで、ピボットは、ほぼ意味がなくなるほど価値を下げてしまった。「ピボット」と言う用語を耳にすると、唸るか、もしくは、肩をすくめてしまう。ピボットを言い訳として用いる人達が多いためだ。
起業家には妄想癖がある。これは起業家の特徴の一つである。現実歪曲空間に自ら身を投げ入れ、スタートアップを運営する厳しい環境を乗り越え、心の中で、自分達が作るもの、そして、思い描くものが成功することを確信している。起業家は、世界に飛び出し、消費者、投資家、提携者等に同じことを信じてもらう必要がある。証拠がない状態では、妄想、そして、現実歪曲空間に身を委ねて、前に進むしかない。
しかし、現実歪曲空間が、濃い霧で覆われ、事実と創作を見分けることが出来なくなったなら、破滅してしまう。起業家の多くが、この状況に追い込まれる。私達にとっての地獄である。
リーンスタートアップは、現実歪曲空間に穴をあける。その結果、壁にぶち当たらずに済み(あるいは、当たってもかすり傷程度で済む)、適応する上で必要な、知的な正直さを十分に私達に与えてくれる。
それでは、ピボットとは一体何なのだろうか?
私は次のように定義している: ピボットは、検証学習に基づき、スタートアップの焦点の一つの領域における変更を指す。
ビジネス全体を変えようとしているなら、それは「やり直し」である。やり直すことに問題があるわけではないが、それはピボットではない(また、正しい方向に導いてくれる見解がなければ、やり直しても失敗してしまう)。ピボットは、やり直しよりも遥かに定義の範囲が狭く — 学んだことを基に始める行為を指す。これは「バリデイティドラーニング」(検証学習)と呼ぶものだ。ピボットする場所、そして、理由を理解している時にピボットするべきである。取り組みを通じて(リーンスタートアップのメソッドを通じて取り組む)、自分自身が向かう方角を指し示す見解を得ることが出来る。
検証学習
バリデイティドラーニング(検証学習)は、リーンスタートアップの心臓と言っても過言ではない。仮説で始まり、続いて、テストを行い、仮説の正しさ、もしくは、誤りを証明する。 そして、分析を用いて、実験の成果を計測する。Backupifyを例にとって、考えていこう。
Backupifyは、オンラインバックアップ保存サービスを提供している会社だ。当初はリーンスタートアップの法則を徹適的に採用しているわけではなかったものの、創設者のロバート・メイ氏は、創設時からアイデアをテストする取り組みを実施していた。「当初、私達はサイトのビジターに専念していました。なぜなら、サイトにとにかくアクセスしてもらいたかったためです。その後、製品をテストしてもらう必要があったため、トライアルに焦点を絞るようになりました。」と、メイ氏は、当時の取り組みを振り返っている。当初、「サービスの提供を継続する上で、オンラインバックアップ保存サービスに関心を持っている人達は十分に存在するのか?」と言う仮説を立て、 ウェブサイト、そして、ビジターを獲得する(そして、登録してもらう)取り組みは、実験であった。継続する価値があることを正当化するためには、「十分な人数」をターゲットとなる目標で定めるべきであった(10名?100名?1000名?)。
ロバート・メイ氏は、十分に多くのネットユーザーが、オンラインバックアップ保存サービスに関心を持っていることを学んだ。しかし、事業が成長していき、料金を請求するようになると、問題に直面することになった。 顧客を獲得するコストは、得られる収益よりも遥かに高いことが判明したのだ。
「2010年の前半の時点では、1人の顧客を獲得するために243ドルを投資したものの、顧客一人当たりの年間の収益はたった39ドルでした。完全な赤字です。大半の消費者向けのアプリは、高額の顧客獲得コストをバイラル化によって避けていますが、バックアップはバイラル化しないのです。そのため、[顧客のセールス]からピボットし、企業を狙う必要がありました。」とメイ氏は指摘している。
ここで重要な点を2つ挙げる:
- メイ氏は、その他の多くのポイント(消費者がオンラインバックアップに興味を持っていること、顧客が長期的に関心を持ち続けること等)を学ぶまで、赤字である点に気づかなかった可能性がある。Backupifyが、顧客を獲得して、維持する方法を解明して初めて、メイ氏は、利益に焦点を絞ることが出来るようになった。
- 消費者向けのビジネスを拡大することが出来ると考えた、同氏の仮説は、赤字が判明したことで、無効になった。ロバート・メイ氏が得た教訓の「検証」された部分は、とても明白であった — ただ単に計算が合わなかったのだ。
そこで、Backupifyは企業に狙いを定める方針に転換し、その後、ビジネスを拡大していくことに成功した。企業は(基本的に)同じサービスにより多くの金額を支払い、メイ氏は、顧客獲得コスト:生涯価値の比率に注目し、コアの金銭の流れに目を光らせることが出来る。
検証学習は必ずしも定量化することが出来るわけではない。 スタートアップを創設したばかりの頃は、質的なアプローチを行う可能性が高い。質的なフィードバックは、厄介であり、解釈するのが難しいものの、重要度はとても高い。経験上、10-20名に話しかけると(十分に構成を練ったインタビューを顧客に行う)、パターンが見出され、十分に鋭い見解を得られ、決定を下すことが可能になる。その後、調査を用いて、より多くの人達により量的な方法で接触することで、この教訓をスケールアップすることが可能になる。
怠惰なピボット
検証学習を行わない状態では、闇雲にピボットしてしまう。これが「怠惰なピボット」であり、ビジネスを失敗に導く可能性が高い。怠惰なピボットは、次のような思考過程を経て形成される:
「今取り掛かっている試みは、あまりうまくいかない…理由はよく分からない…しかし、この別の試みは面白そうだし、格好いいから、やってみよう。」
恐らく、既存のアイデアに徹底的に力を注ぐことなく、また、別のアイデアに転換するために必要な見解を得ているようにも見えない。光り輝くアイデアから、別の光り輝くアイデアに飛び移っただけである。
リーン分析を使ってピボットを成功に導く
ピボットを成功させるには、焦点と学習が欠かせない。ビジネスの1つのポイント — ビジネモデル、価格設定、あるいは、ターゲットのマーケット等 — を変更し、結果を確認する必要がある。リーン分析に関する記事を作成している際、アイデアや製品をテストして、ピボットするべきか否かを判断するプロセスを説明する上で役に立つサイクルを思いついた:
リーン分析サイクルを作成すると、仮説をテストして、必要に応じて適応するために必要な焦点の絞られた注目、そして、知識に基づいた正直さが求められる点に気づくはずだ。これはスタッツベースのアプローチだが、ハイレベルな問いを自分に問いかける手もある。
ビジネスモデルを評価する
私はLean Canvas(リーンキャンバス)を「自分の取り組みをしっかり理解しているかどうか」を確認するために必ず利用している。リーンキャンバスを良く知らないなら、絶対にチェックしてもらいたい。これは1ページのビジネスモデルツールである。リーンキャンバス(20-30分のセッションで作ることが出来るはずだ)を見た際に、自信を持って前進を続けることが出来るほど、十分に答えを得たと正直に言えるだろうか?解決しようとしている問題を本当に理解しているのだろうか?製品を売るチャンネルを把握しているのだろうか?不当な優位性を持っているだろうか?
次の一手を適切に判断するためには、ビジネスを定期的に見直さなければならない。
一部の人達はリーンスタートアップ(そして、その延長線上にあるリーン分析)を完全に機械的なプロセスであり、熱意に欠けており、効果がないと考える。あるいは、プロセスに従っていれば、必ず成功すると考える人達もいる。しかし、どちらの考えも誤りである。スタートアップは、工場の製造ラインで作られているわけではない。本能と熱意をないがしろにするべきではない。
リーンキャンバスに従い、次のステップに進む上で十分な情報、そして、十分な自信を得ているか自分自身に問いかけてもらいたい。いきなり問題に直面している場合は、解決する価値があるほど、その問題が深刻だと理解したと正直に言えるだろうか?顧客候補を対象とした、質の高いインタビューを十分に実施しただろうか?
リーン分析に関する記事を作成した際に、問題のインタビューを採点する取り組みを提案した。インタビューでは構成を良く練ることを前提としているため、特定の質問にスコアを割り振り、インプットに量的な印象をもたらすことも可能である。すると、質的なインプットのみを利用する方針を超えるため、検証学習にプラスの影響を与える可能性もある。
熱意は重要
実施している取り組みに対して熱意を持っていないなら、失敗する。成功に導くには、多大な労力が必要とされるため、強烈な思いやり、そして、感情がなければ、うまくいくはずがない。プロセスに焦点を絞る方針と、食い違うこともあるが、熱意/本能と情報に基づく正直さと厳しさを組み合わせる方法を見つける必要がある。
何か興味深いアイデアを発見し、ピボットする場所を導く — 現在のビジネスをベースとしたデータを持っていると仮定する。自動的にピボットし、ピボットを続ける前に、「本当に関心があるかどうか」を自分自身に問いかけるべきである。関心がないなら、ピボットが理に叶っているかどうか考え直す必要がある。
自分達の取り組みが分からなくなり、あまりにも力を入れていたため、当該のビジネスを始めた理由を忘れてしまった人達(私もその一人)に出会ったことがある。実に恐ろしい状況である。
ピボットを行う前に、向かおうとしている目的地に強い思い入れがあるかどうかよく考えてもらいたい。思い入れがあるなら、ピボットするべきだ。ないなら、ピボットを中止する必要がある。一歩下がって、評価を再び行う、または、時間を割いて、深呼吸をして、よく考える、もしくは、負けを認め、傷を癒して、再起を誓うべきかもしれない。
ピボットする前の簡単なチェックリスト
検証学習を行い、ピボットするべき方向に関するデータを得たと仮定する。また、ピボットを行い、事業を継続することを望んでいるとしよう。その他に何が必要だろうか?
- 大きなビジョン。 会社を始める前、達成しようとすることに対して、大きなビジョンを持っていたはずである。大きなビジョンがない状態では、拡大するポテンシャルのない小さな(一つの機能に特化した会社)スタートアップを作ってしまう。大きく、斬新なゴールが存在しないなら、ピボットを行う意味はない。ピボットは、大きなビジョンに向かってジグザグに進む行為である。
- 問題を深く理解する。 私が話しをする起業家の多くは、解決しようと試みている問題、そして、解決する価値があるうのかどうかを理解していない。十分に問題を調査していないためだ。あるいは、不変の真理を解決しようとしている起業家もいる。 根本的な問題を理解していないなら、適切にピボットする方法を解明することは出来ない。
- 実際の(反証可能な)仮説。 検証学習を行うだけでは、十分ではない。対照としてテストすることが可能な、反証可能な仮説が必要になる — さもなければ、ピボットがうまくいくかどうかを把握するのが大幅に難しくなる。
- 絶対に譲れない基準。 追跡する適切なスタッツを選び、比較する基準を設けることが、リーン分析のコアのコンセプトである。そのため、重要な計測基準を一つ(状況を把握することが出来る単一の計測基準)を持ち、譲れない一線を示す必要がある — つまり目標のターゲットを定める。ターゲットを達成することが出来なかったら、見直しを行う。ターゲットを達成したら、次のステップを進む自信(とデータ)を得られる。
ピボットは難しい。 適切にピボットを行い、成功に導く取り組みは、難しい。適当に、怠惰に、楽観してピボットを行うことも可能だが、それでは害をもたらすだけである。 正直さ、そして、データでピボットを支えることで、輝かしい未来を持つ事業を見つけられる可能性が得られるのだ。
この記事は、A Smart Bearに掲載された「The *real* pivot」を翻訳した内容です。