こんにちは。デジタルマーケティング事業部、事業組織基盤ユニットの糸田川五大です。随分といかつい名前をしていますが、「組織」に関するさまざまな課題を解決し、コンサルタントが顧客に高い価値を発揮することに専念してもらえるようにするための部署です。
事業組織基盤ユニットが取り扱っている職掌は広いですが、自分は新たに入社したメンバーが少しでも早くコンサルタントとして活躍してくれるよう、研修・マニュアル整備・コミュニケーションの活性化といった仕組みを作ったり、運営したりするのが仕事です。
この記事では、主にコンサルタントの入社初期の研修プログラムをどのように作っているのかを書こうと思います。まだまだ改善途上といった状況ですが、弊社での仕事に興味がある方や、スキルの属人化に悩まれている方にとって、興味深い内容になれば幸いです。
魔法のことば「OJT」
かつて、ナイルにはまだ研修らしい研修というのはなく、OJTという名のもと、基礎知識のテストやワークを済ませたのち、「じゃあ実業務を通じて学んでね」というのが中心でした。
とはいえ、実業務の中で学ぶ、というのも難しいもので、いろいろな課題が生じていました。
- 教える側の力量や精神的な余裕にフィードバックの質が左右されてしまう
- 「実案件で必要な業務をこなす」ことが第一になってしまい、習得するスキルの幅が狭くなってしまう
- 個々人が何をどこまで学び取っているのかがわからず、レベルの高すぎる案件にアサインされて消耗する
などなど、挙げていくときりがないですが、要するに事業の成長に伴う案件規模の大型化・複雑化に新人が追いついていくのが難しいという状況があり、適切なオンボーディング(入社から戦力化までの設計)が必要とされていました。
その中で当時、社外業務委託やアルバイトスタッフの指導・管理を受け持っていた自分が、コンサルティングユニットに協力して「オンボーディング研修」を作っていったという経緯です。
基礎は「重要」であって「簡単」ではない
当初、オンボーディング研修の狙いは、「SEOの基礎業務を現場でつつがなく行えるようになって、早くチームに貢献してもらうこと」が偽らざる本音としてあったわけですが、この基礎が意外と曲者でした。
基礎、という言葉には「簡単で誰にでも出来る」みたいなニュアンスがありますが、現場で基礎とみなされていたことは、実際のところ「だいたいの案件で行うため発生頻度が高く、作業量も多いので猫の手も借りたい」というものであって、別に求められる能力のレベルが低いわけではなかったのです。
基礎だと思われていた業務の例
- サイトの特性や案件の狙いに応じて、対策キーワードのリストを作る
- サイトの情報・内部リンク・URLパスを加味しながらツリー構造に整理する
- そのページで対応するべきキーワードを定義した上で、titleやdescriptionの記述を刷新する
- サーチコンソールやサードパーティツールを使って、SEO上、不利に働くサイトの仕様を見つける
このへんを見て「簡単だな!」と思った方、ぜひ弊社採用ブログ「ナイルのかだん」や「キャリア採用サイト」もご覧ください。お問い合わせの際には「糸田川からのリファラルです」と言ってもらえると大変ありがたいです。
冗談はさておき、これらの業務はSEOの施策の流れ、ビジネス、マーケティング、技術的仕様など、いろいろな背景知識がなければ、ちゃんとした質のアウトプットは出せません。現場で格闘しながらやってきた昔の自分や今のメンバーは偉いなと思う一方で、教えるとなるといろいろな工夫が必要でした。
実践:どうやって「SEOのコンサル」を教えるか
研修の当初の趣旨は「SEOコンサルの現場で、まずは助手として役立てること」というところなので、求められることは以下になりました。
現場で求められていること
- 現場で発生する主要な業務(前掲のような)を一通りやれる
- 作業やアウトプットを作る上で必要なツールやマニュアルが実際に使える
- SEO案件の大まかな流れや、パターンを知っている
- SEOだけでなく、Webマーケティングの基礎的な部分の理解も出来ている
新人の皆さんの経験は様々あり、これらを全てゼロから教えるというわけではないですが、少なくとも上の2つを教えるにあたって、下記のような枠組みを設計しました。
- マーケやSEOの基礎知識の習得
- データベース型のサイトでの現状調査と課題立案
- 記事メディアの調査・課題解決まで
- サービスサイトについて、課題の整理と提案まで
実際、このメニューを自分がマンツーマンで1ヵ月くらいの期間にかけて指導していくようになっているのですが、これだけ見ても「何のこっちゃ」という感じなので、ひとつずつご説明します。
(1)知識と概念を把握してもらう
マーケティングに限らずどんな仕事でも、そこで用いる概念や用語の理解は必要になります。SEOは、特に検索エンジンの技術的な仕様の理解が重要で、新しい情報を正確に知っておくこと、少なくとも必要に応じて公式ヘルプや信頼できる情報ソースにあたれることは必須です。
そういうわけで最初に行うのは、課題図書や必読サイトの提示と、基本的な技術理解や判断を確かめるためのテストです。テストは100問ほど作っており、研修期間中に回答してもらうことになります。
ほかにも、実際に仕事で使う「内部技術要件のチェックリスト」を使いながら、その調査方法や技術的部分の概念理解について講義しています。
▽「SEO100問100答」では実際に顧客から受けた質問などを元に、知識を上手く伝えられるような練習をしています。
(2)~(4)サイトタイプ別に実際の案件を模して研修する
SEOの方針は、先程の図のようにサイトのタイプによって大きく3種類に分けられます。
- 不動産、求人、商品といった、何かしらの要素のデータベースを持ち、それらを条件ごとに切り分けた一覧ページが数多く存在する「データベース型サイト」
- コラムや読み物など、記事の集積である記事「メディア型サイト」
- 上記2つの要素が複合することも多い、商品や問い合わせなどの明確なコンバージョンポイントを持つ「B to Bサービスサイト」
「SEOに効く施策」というのは、調べるだけで数多く情報が出てきますが、実際にどういったサイトにおいて何が有効なのかを判断するには経験が必要です。
例えば、「クロールを改善する施策は、大量のページを持つデータベース型サイトでは有効だが、せいぜい数百ページの記事メディアでは問題にならない」など、サイトの特性や顧客の要望を踏まえて、適切な課題を設定し、それに対する施策に優先度をつけられることが「一人前」の一つの到達点になります。
基本的なSEOコンサルティングの流れは、「調査・分析」を行い、「課題抽出・解決策」を用意し、「提案」して顧客に動いてもらい、実装された後に「成果を検証」することです。
調査・分析のポイントや課題抽出のポイントはサイトのタイプごとに異なるため、3つのタイプすべてで研修します。しかし、すべてを順番に研修していくのは時間がかかりすぎるので、フェーズをずらしつつやってもらっています。
▽データベース型サイトのキーワード作成の例。単語をグループごとに考えて、グループ同士を掛け合わせることで検索キーワードを考える
▽記事メディアでの研修内容の例。対策キーワードを厳選した上で、そこで上位表示するための記事の必要要件を整理する。
▽サービスサイトでの研修内容の例。調査結果の資料をもとに、途中まで作られた提案書の中身を埋めていく中で、提案の要領を伝える。
(+α)実際の案件に同行する
このような研修をこなしていくかたわら、実際の顧客との商談に、営業やコンサルタントと同行してもらっています。実際の現場で繰り広げられている会話を、自分の知識や経験に紐づけて、自分のものにしてみないとわからないことは多いからです。
例えば、道中で先輩にいろいろ話を聞いてもらったり、心得を伝授してもらったり、顧客との距離感を肌でつかんでもらったりしています(このあたりは、ほぼコンサルタントの皆さんに任せています)。
学びを支えるための仕組み
これらのプログラムはサンプルワークを終わらせることが目的なのではなく、「力をつけてもらい、顧客やチームに貢献してもらい、良い仕事をしてもらうこと」が目的です。どういう学びが自分を成長させるかについては、人それぞれ流儀があると思うので、手段の幅は広げようとしています。
いまさら聞けないSEO質問スレッド
チャットアプリのSlackには、新人から1、2年目のメンバーとベテランを中心とした有志で、SEOに関する質問を「いまさら聞けない」と思うことなく、「個々人がスキルアップして、顧客により高い価値を提供することに集中する」ための、クローズドな質問チャンネルを用意しています。
正直、こんな初歩的なことを聞いたら、「半人前扱いされてしまうのではないか」などと思ってしまうのは、痛いほどよくわかります。一方、過去のDGMでは「そういうことを思わない心臓が毛深い人」が成長していく傾向がありました。
しかし、そういったことで成長が止まるのは、顧客のためにもならないので、以下のようなことを「そもそも考えるの禁止!」という誓約をさせた上で、質問チャンネルを用意しています。
<質問チャンネルでのNG思考>
- 何で知らないの?(知らないものは知らないです)
- ちょっとは調べたの?(調べてわからなかったから聞いている)
- こんな質問したら微妙じゃないか?(わからないことがあるのは当然なので)
- さすがにこれでは心配だわ(だから積極的に発言してがんばっているのです)
社内Wikiでのマニュアル管理
Confluenceというツールを導入して、過去にさまざまな人が独自に作ったマニュアルやフロー図を、「社内Wiki」として用意しています。
「実際のサンプル資料をここに格納していったり、マニュアルをみんなで更新していったり、といった動きがとれるようになっていくと最強だよな」と思いつつ、まだまだ工事中です。
ちなみに、社内Wikiについては、自分が業務支援ユニット時代に高久というメンバーといっしょに作り上げたものを引き続き用いています。関心がある方は、こちらの記事を見ていただけると幸いです。
◆ナイルのかだん 暗黙知の可視化/数値化/仕組み化によってコンサル業務を20%削減!業務支援ユニットの挑戦
「正解」だけなら無数にある
とまぁ、こういった形で知るべきことを伝えて、実際にやってもらい、サポートをする…、という状態にはしているものの、正直これはまだ「スタートラインに立ってもらった」という状態にすぎず、やることはまだまだ残っています。
- 単にアウトプットのやり方を覚えただけではなく、より筋の良い課題を見抜くトレーニング
- 過去の成果が出た事例を、より適切に参照できるようなナレッジシェア体制
- 新人の前歴での経験や、得手不得手に合わせた研修プログラムの柔軟な運用
- 既存のメンバーのスキル状況の管理と、学び直しの機会提供
などなど、現場の努力で支えられている部分はいくつもあり、助けられるように知恵をしぼっているところです。
ナイルのSEOコンサルティングの仕事は、「物知りな人として、正しいことを教えてあげる」というようなものではありません。「顧客の横に立ち、同じ壁を見据え、その壁を越えさせていくこと」という、問題解決の仕事になります。
それは、常に「未知」に直面し続けるハードなもので、そこで必要になるのは「正解の知識」自体よりも、「解けない問題を解ける課題にし、実際に解ききる力」です。
教育や研修を担う者は、他人にそれを求める以上、自分自身が常にその力を求めて悪戦苦闘していくべきだと思います。
SEOにも教育にも「正解」だけは無限にある中で、「一人でも多くのメンバーがより自信を持って顧客と向き合い、顧客に成果をもたらせるようにする」という理想に組織を近づけていくのが自分の仕事です。
今後!次回予告
事業組織基盤ユニット(ジソキ)は、先月の11月から3人体制になり、教育や研修だけでなく、根本的な能力評価についても設計を進めています。
見えてきた課題や打ち手も多々あるので、いずれはそのあたりの構想や、取り組みの結果もご紹介していければと思っています。
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SEOコンサルの新人研修プログラムの作り方はナイル株式会社 - SEO HACKSで公開された投稿です。