チャット小説アプリ「peep」が2.7億円を調達、縦型動画×小説の“シネマ小説”強化へ

スマートフォンからチャット型のUIで小説を楽しめるチャット小説アプリ「peep」。同サービスを展開するtaskeyは5月10日、複数の投資家を引受先とする第三者割当増資にて2.7億円を調達したことを明らかにした。

同社にとっては2018年7月に1.5億円を調達して以来の資金調達ラウンド。今後は新しいコンテンツの制作やプロモーションの強化、海外展開などを進めながらpeepの事業をさらに加速させる。なお今回同社に出資したのは以下の企業だ。

  • グローバルブレイン
  • Global Catalyst Partners Japan
  • 三井住友海上キャピタル
  • VOYAGE VENTURES
  • 三生キャピタル

peepは2017年12月ローンチのチャット小説アプリ。もともとtaskeyでは同名の小説投稿SNSを2015年にスタートしていて(2018年11月にクローズ)、そこで培った作家とのネットワークやナレッジを活用して開発されたのがpeepだ。

チャット小説アプリにはユーザー投稿型のものもあるが、peepで扱う小説コンテンツはすべて公式作家が執筆したオリジナル作品。代表取締役CEOの大石弘務氏自身も以前から作家として活動していて、同サービス上で人気を集めるホラー作品「監禁区域レベルX」などを生み出している点も面白いポイントだろう。

現在はホラーや恋愛を中心に1000以上の作品が掲載。ダウンロード数はリリース1年半弱で70万件を突破し、プレミアム会員数も1万名を超えているという(peepは無料プランに加えて、従量課金プランや無制限に作品を楽しめる定期購読プランを提供)。

2018年12月からはチャット小説に縦型の動画を組み合わせた「シネマ小説」という新しいフォーマットの作品も開始。このフォーマットではチャット小説を進めていくとシーンに合った短尺動画が流れる仕組みになっていて、今後はタレントや俳優を起用したコンテンツを増やしていく計画だ。

2019年にはアメリカ版のリリースも予定。コンテンツの拡充やプロモーション強化も含め、調達した資金を活用しながらpeepの事業を一層強化するという。

「今スマホで楽しまれている読み物のエンタメは、そのほとんどが紙のコンテンツに依存しており、スマホならではの特性をうまく活かせていないように感じています。手塚治虫がハリウッド映画を見て、それを紙に描き起こし『漫画』を作り出したように、我々もスマホで表現する新しいエンタメのフォーマットを作り出したいと思っています」(大石氏)

チャット小説(チャットフィクション)は数年前から国内外で広がっているフォーマットで、日本発の関連サービスとしてはpeepの他に「Balloon」や「TELLER」などがある。

チャットフィクションアプリの「TELLER」が30万ダウンロード、今後はユーザー投稿作品の公開も

チャット型のUIで友人とメッセンジャーをやり取りするかのごとく展開するストーリーを読んで楽しむ、スマホ版のケータイ小説とも呼べる「チャットフィクション」。すでに海外では「Hooked」や「Yarn」といったアプリが、ティーンを中心に人気を集めている。

国内でもこのチャットフィクションを体験できるアプリはいくつか登場している。TechCrunchでも、7月には元ベンチャーキャピタリストの久保田涼矢氏率いるFOWDがリリースした「Balloon」のリリースを紹介している。

このBalloonに(10日ほど)先駆けてサービスをリリースしたのが、1月にDMM傘下となったピックアップが提供する「TELLER」だ。ピックアップによると、9月にTELLERのダウンロード数は30万件を突破。順調な滑り出しを見せているという。

TELLERは、7月にリリースされたチャットフィクションアプリ。ユーザーはあらかじめ運営サイドが投稿されているストーリーを読んだり、自身でストーリーを作成して投稿したりできる(投稿作品の閲覧機能は今後提供)。ユーザーの年齢層は13〜18歳のティーンが50.3%、19〜22歳が20%以上と非常に若いサービスになっている。

「若い人が活字離れしているという話は良くあるが、実際は活字を読むフォーマットが変わってきたのではないか。海外でHookedなどが出てきてそう考えるようになった。『恋空』(2000年代にヒットしたケータイ小説)のようなヒット作もこのフォーマットで出していきたい」——ピックアップ代表取締役社長の宮本拓氏はTELLERをリリースした背景についてこう語る。

まだマネタイズについても広告モデルや課金モデルなど検討中だが、当面はコンテンツ拡大に注力する。すでにユーザーから投稿されたストーリーは3500件を越えており、社内でのチェック体制を整え、審査の上で公開していくという。また同時に、運営が提供するストーリーのジャンルも拡大していく。現在公開されているストーリーはホラーが中心だが、恋愛やサスペンスといったジャンルのストーリーを提供していく。7月には、フリマアプリ「FRIL」を手がけるFablicの共同創業者の荒井達哉氏が同社に技術顧問として参画。今後エンジニアチームを拡大していくとしている。

ピックアップは2014年7月の設立。TELLERのほかに第1弾のプロダクトである写真ストレージアプリ「POOL」、ライブコマースアプリの「CHIPS」(こちらはアプリこそ公開しているが、「方向性も含めてまだテスト中」(ピックアップ)とのこと)などを開発している。

ピックアップの荒井達哉氏(左)と宮本拓氏(右)

チャット形式でストーリーが展開、スマホ時代のケータイ小説「Balloon」がローンチ

先月の米国TechCrunchの記事でもあったが、「チャットフィクション」と呼ばれるジャンルのアプリが、今ティーンを中心に注目を集めている。

これは言ってみれば「スマホ時代のケータイ小説」。自分の読みたいストーリーを選択すれば、まるでチャット型UIのメッセンジャーを見ているかのごとく、チャット形式で物語を読み進めることができる。サービスにもよるが、プロの投稿したストーリーを読めるだけでなく、ユーザーがストーリーを投稿できるプラットフォームになっているものある。

“ケータイ小説”なんて説明をしたが、実際は「小説」というよりはチャットでの「会話」。一般的な小説のような地の文での情景描写は基本的にはなく、多くは1人、ないし2人程度の登場人物による吹き出し——つまり会話だけで話が進んでいくのだ。小説というよりはライトノベル、いや、脚本の世界を想像してもらったほうが分かりやすいだろう。

冒頭の米国TechCrunchの記事にもあるように、すでに海外では「Hooked」や「Yarn」といった人気アプリが登場している。Hookedは数カ月前に日本語化されていて(ただし当時ほとんどは機械翻訳のようなテキストで、英語のほうがよっぽどか読みやすそうだったが)いくつかのストーリーを読んでみたが、2人の登場人物の会話から徐々にその環境があきらかになっていくあたりは、ホラーやサスペンスもののストーリーを読むのにはピッタリな気がした。

そんなチャットフィクションの領域に挑戦する日本のスタートアップがFOWDだ。同社は7月10日、チャットフィクションアプリ「Balloon」をリリースした。App Storeから無料でダウンロードできる。

「Balloon」のイメージ

Balloonは国内のクリエーターが執筆したストーリーを読めるチャットフィクションアプリ。特徴的なのは連載型を採っていること。連載ストーリーは毎日更新で、常に何かしら新しいコンテンツを読むことができるようになっている。

サービスは無料だが、いわゆるソーシャルゲームの「スタミナ制」のように、一定量のストーリーを読むと読み続けることができなくなり、しばらく時間を待つ必要がある。7月24日までの2週間は期間限定で無制限の読み放題とするが、以後はこのスタミナ制が採られると同時に、月額数百円の読み放題プランを提供する予定だ。

ローンチ時には21作品を掲載。3、4話で完結する短編と、12話完結の長編ストーリーを用意するという。内容は日常系、サスペンス、ファンタジーなど広いジャンルをそろえる。

ちなみに執筆するのはいわゆる小説家よりも、マンガ家や脚本家を本業とする作家が中心なのだそう。要は「小説」でなく、吹き出し(会話)で展開するストーリーを得意とする人達ということだ。ターゲットとするのはティーンから25歳くらいまで。8月にもプラットフォームを開放し、一般ユーザーの投稿も可能にする予定だ。コンテンツやIPを持つ会社との連携なども進めていくという。

ベンチャーキャピタリストから起業家に転向

サービスを手がけるFOWDは2017年6月の設立。代表取締役社長の久保田涼矢氏は学生時代からウェブ制作やウェブマーケティングなどに携わったのち、コロプラおよびコロプラネクストでベンチャーキャピタリストとして投資に携わっていた人物。

起業家がその経験をもとにアドバイスを行う投資家になるという話はたまに聞くが、投資家、しかも1995年生まれという若さで起業家に転向するのは珍しいケースだろう。同社は独立系ベンチャーキャピタルのTLM、East Venturesに加えて、千葉功太郎氏ほか個人投資家数名からシードマネーを調達している。金額は非公開だが数千万円前半程度の額だという。

FOWD代表取締役社長の久保田涼矢氏

「まずはチャットフィクションだが、『チャット』だけでサービスを縛りたくない。時代によってUIも好まれる絵柄も変わってくる。広義でストーリーを提供するプラットフォームに育てたい」(久保田氏)

また今後は、ヒットするストーリーの解析にも力を入れていくという。「日本のエンタメコンテンツは魅力的で、レベルが高い。でも海外の勢いに負けつつある。そこには(エンタメの)解析がされていなかったということがあると思う。(ヒットの)再現性やストーリーの研究をやるべきではないか。ただし他の人の先に行くには、データの解析だけでは難しい。インフルエンサー事務所と組んだり、自社のコンテンツをより研究したり、ダーゲットとする若年層とどれだけ触れているかが重要」(久保田氏)

ちなみに僕が複数の関係者に聞いたところだと、この夏には複数の会社からチャットフィクションアプリのリリースが予定されているという。DMMが1月に買収したピックアップもチャットフィクションアプリ「TELLER」をローンチしている。