安価に大量生産が可能な6G通信の電波制御のための新規材料「三次元バルクメタマテリアル」を開発

安価に大量生産が可能な6G通信の電波制御のための新規テラヘルツ光学材料「三次元バルクメタマテリアル」を開発

東北大学は3月10日、6G通信を見据えたテラヘルツ光学材料「三次元バルクメタマテリアル」を開発し、液状樹脂に混合して任意の形に加工できる粉末状での提供を可能にしたと発表した。テラヘルツ領域での「光学特性をオーダーメイドで設計できる革新的な新素材」の基盤技術になるという。

2030年代の実用化を目指す6G通信では、ミリ波と赤外線の中間の、波長が非常に短いテラヘルツ波が使われることになっている。しかし現状では、テラヘルツの電波を自在に制御できるレンズ、プリズム、フィルターといった光学素子の材料が限られているため、加工が容易で、幅広い屈折率特性を有する新規素材が求められている。そこで注目されているのが、制御対象の電磁波の波長よりも小さな単位構造で構成される人工光学物質「メタマテリアル」だ。これは、「これまでの電磁波操作技術の限界を打ち破る革新的な人工構造体」として期待されている。東北大学大学院工学研究科の金森義明教授、岡谷泰佑助教らによる研究グループは、このメタマテリアルを含み、成形が自由で任意の屈折率特性を持たせられる「三次元バルクメタマテリアル」を安価に大量に提供できる製造技術の開発について、世界で初めて成功した。

これまでも、メタマテリアル単位構造を形成した立体的なメタマテリアルはあったが、厚みや構造の向きに制約があった。それに対して同研究グループが開発したものは、製造上の厚みの制約がなく、方向性の制限もない、どんな形にしても「三次元的に等方分散した真の三次元バルクメタマテリアル」とのこと。

研究グループが開発したメタマテリアルは、テラヘルツ波の波長よりも小さい数十から数百μm(マイクロメートル)ほどのメタマテリアルを含む樹脂製粉末だ。これを液状樹脂に入れて攪拌し、型に入れて固めることで、任意の形で、設計に応じた屈折率特性を持つ「三次元バルクメタマテリアル」ができあがる。実際に、直径12mm、厚さ1.6mmの三次元バルクメタマテリアルの製作を成功させている。これは、代表的なメタマテリアル単位構造であるスプリットリング共振器を内包した1辺100μmの立方体の粉末から作られている。マテリアルはランダムに分散配置されていて、周波数0.7THz付近で、屈折率を0.135変化させることができたという。

(a)三次元バルクメタマテリアル、(b)内包されているスプリットリング共振器

これまでメタマテリアルは平面的に形成されたものが多く、自由に加工できなかった。また、メタマテリアルを部材として入手することが困難で、メタマテリアル光学素子を作る際には、高度な微細加工技術が必要だった。それらが社会実装を妨げていたのだが、個体の粉末材料として提供される研究グループのメタマテリアルは、「自由に加工してテラヘルツ光学素子を実現できる点が画期的」と研究グループは話す。またこの技術は、医療、バイオ、農業、食品、環境、セキュリティーなど幅広い分野での応用が期待できるという。

テラヘルツ波で人間も「透視」する画像センサー

赤外線とマイクロ波の間には、現在の電子機器や光学機器では扱うことができない目に見えない電磁波領域が広がっていいる。その領域であるテラヘルツ波がすごい点は、X線によく似ていることだ。テラヘルツ波を使えば、ある種の固体物質を透視することができるが、X線過剰照射時のような「あれあれ、死んじゃった」という副作用はない。Ruonan Han(ルオナン・ハン)准教授が率いるMITのテラヘルツ統合エレクトロニクスグループの研究者たちは、この領域を利用しようとしている。MITの研究室では、電子的に操縦可能なテラヘルツアンテナアレイが開発されたばかりだ。

このトランプサイズのテクノロジーを使うことで、研究者たちはその領域への扉を開けようとしている。この技術により、より高速な通信や、霧や埃の多い環境でも視野を確保できるシステムが実現できるかもしれない。研究者たちはこれを「リフレクトアレイ」と呼んでいて、コンピュータで反射方向を制御できる鏡のように動作すると説明している。

このリフレクトアレイは、1万本近いアンテナを小さなデバイスに集約し、テラヘルツのエネルギービームを微小領域に精密に集めることが可能だ。可動部がないため、正確かつ迅速に制御することができる。この装置が生成する画像は、LiDAR(ライダー)装置に匹敵するものだが、雨、霧、雪を透過することができる。研究者は、この種の商用デバイスで軍用レベルの解像度を実現できる初めてのソリューションだとしている。

「アンテナアレイは、各アンテナに与える時間遅延を変えるだけで、エネルギーを集める方向を変えることができ、しかも完全に電子化されているので、非常に興味深い存在なのです」と、最近MITの電気工学・コンピュータ科学科(EECS)で博士号を取得したNathan Monroe(ネイサン・モンロー)氏は語っている。「つまりモーターでぐるぐる回る空港の大きなレーダーアンテナの代わりとなるわけです。このアンテナアレイでも同じことができるのですが、コンピュータの中でビット少し変えるだけなので、可動部品は必要ないのです」。

イメージ検知装置として使用する場合には、照射角度1度のビームがセンサー前のシーンの各点上をジグザグに移動し、3次元の奥行きのある画像を作成する。他のテラヘルツアレイは、1枚の画像を作るのに何時間もあるいは何日もかかるのだが、この製品はリアルタイムに動作する。これまでは、1万本のアンテナを同時に制御するために十分なビットを計算 / 通信すると、リフレクトアレイの性能が大幅に低下していた。そこで研究者たちは、アンテナアレイをコンピューターチップに直接組み込むことで、これを回避した。フェーズシフターは、トランジスタがわずかに2個という非常にシンプルなもので、このためチップ上の約99%のスペースをメモリとして確保することができた。その結果、個々のアンテナは異なる位相のライブラリを保存することができる。さらに、2トランジスタのフェーズシフターは消費電力を半減させ、別電源が不要になるというメリットもある。

「この研究以前は、テラヘルツ技術と半導体チップ技術を組み合わせてビームフォーミングが行われることはありませんでした」とハン氏はいう。「今回の研究によって、独自の回路技術により、非常にコンパクトでありながら効率的な回路をチップ上に実現し、そこでの波の挙動を効果的に制御することができるようになったのです。集積回路技術を活用することで、過去にはまったく存在しなかった素子内メモリやデジタル動作が可能になりました」。

「このリフレクトアレイは、高速に動作し非常にコンパクトなので、自動運転車のための画像認識に有用です。特に、テラヘルツ波は悪天候でも見通すことができますので」とモンロー氏はいう。

モンロー氏と彼のチームは、とあるスタートアップを通じてこの技術を市場にライセンスしようとしているが、このデバイスは軽量で可動部品がないため、自律ドローンに適しているかもしれないと示唆している。さらにこの技術は、数分ではなく数秒で動作する非侵襲型のボディスキャナーを実現することで、セキュリティの現場にも応用できる可能性がある。

以下は、システムの仕組みを紹介した動画だ。

画像クレジット:MIT

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:sako)