(編集部)この記事は同じ記者による「初のファンドマネージャーにとって新型コロナ禍は『パーフェクト・ストーム』」の続編
長年、正確にはこの数十年、金持ちでなければベンチャーキャピタリストになれないのは自明のことと考えられてきた。個人投資家も機関投資家もファンド運営者自身が金持ちで相当の割合のポケットマネーを注ぎ込んでいるのでない限りベンチャーファンドに一口乗ろうとはしなかった。
実際私は5年前に、ベンチャーキャピタリストになるための大きな障壁としてジェダーギャップが大きいことを指した。アフリカ系、ヒスパニック系女性の場合これは特に顕著だった。しかし資産が少ない人間がベンチャーキャピタリストになるのが困難なのは人種や性別を問わず同様だった。
幸いなことにこの状況は最近変わってきた。ベンチャーキャピタリスト志望者が最初のファンドの資金を調達する方法が多様化してきたからだ。もちろんどれを使うにせよ、これでファンド組成に100%成功するという保証付きの方法などはない。しかしどれも現実に利用されており、ベンチャーキャピタルの仕組みの理解にも有効だ。
ともあれまずカネの主要な出し手、つまりファンドのリミッテッドパートナーが必要だ。通常ファンドの組成目標額の3%から2%(1%以下のこともある)の出資を約束する。この「コミット」の割合が小さくなると投資者を見つけるのが困難になる。ともかく非公開株式ポートフォリオで110億ドル(1152億円)の価値をもつシカゴ大学信託基金のファンドを運用するJoanna Rupp(ジョアンナ・ラップ)氏によればRupp氏や他のファンドマネージャーは「ジェネラル・パートナーの出資額については柔軟」だという。
Rupp氏は「業界の標準的はあるが、資産の少ない若いジェネラル パートナーに対しては特定の出資比率を求めていない」という。
ファンド運営企業のStandish Managementのファウンダー、Bob Raynard(ボブ・レナード)氏によれば、「比較的少額の出資しかしていなくてもジェネラルパートナーになれるという考え方は一般的になっています。(出資比率が少ない場合)管理費や報酬を減額するという慣行は以前から行われてきました」という。
ファンド管理費の節約はベンチャーキャピタリストがファンドの魅力を増すために利用される。Cendana CapitalのMichael Kim(マイケル・キム)氏によればこれは珍しいことではないで、何十ものシードファンドで行われており、節税にも役立つという。ただしIRS(内国歳入庁)はこの抜け穴を防ぎたい意向を示している。
具体的に例を挙げればこうだ。ファンドを組成する投資家の平均的コミット(確約出資額)が100万ドルを10年間(これもファンド活動期間だ)に払い込むものだとしよう。100万ドルの用意ができない場合、 ファン総額に対する持ち分割合はそのままにして払込額を80%減額し、20万ドルとする方法がある。その代わり他の出身者に請求する10年間のファンド管理費をそれだけ減額する。つまり確定した管理費収入を投資実績に応じて変動する収入に置き換えるわけだ。
また手持ちの株式も抵当として利用できる。Kim氏は、著名なベンチャーキャピタリスト2人がキャッシュをいっさい支払わず、代わりにスタートアップ企業の持ち分を現物出資したファンドがあるという。
どちらの方式でもポートフォリ企業の株価は大きくアップしKim氏にとっては大成功だった。ファンド管理者はキャッシュを払いこまずに減額前の持ち分比率で投資利益の配分を受けられたわけだ。
金持ちの知り合いや友達と契約を結ぶのも有力な手法だ。Kim氏はファンドを組成する際、6人の友達から合計100万ドルの資金を調達した。当時のKim氏は家の抵当とまだ小さい子供たちをかかかえていたが、この資金で2年間の活動が保証された。出資した友人たちはKim氏のベンチャーキャピタリストとしての能力に賭けたわけだ。しかし上で例を挙げたようなファンドの有利性をアップする手法も用いられた。Kim氏のケースでは友人たちにCendanae Fundの一定の持ち分を永久的に譲渡している。
コミット資金に銀行融資を利用することもできる。ただしRupp氏はジェネラルパートナーがコミットを銀行融資に頼る手法には懸念を抱くという。投資結果は予測ができない。投資が期待した収益を実現できなかった場合、融資は大きな問題となる。またジェネラルパートナーにとって投資の返済が至上命題になりやすく、スタートアップが順調に成長しているにもかかわらず売却を急ぎすぎるというリスクも高まる。
そうではあっても融資による資金調達の例は多いとRaynard氏は述べた。Silicon Valley BankやFirst Republic Bankのようなベンチャー投資に経験、実績のある銀行はジェネラルパートナー志望者に対してファンド組成資金の貸付に熱心であり、キャッシュのコミットを可能とする貸付極度額を設定してくれるという。 しかし同氏によれば、ファンドに誰が参加するのかによって銀行融資の可否は大きく影響されるとして「 ファンドへの投資家が多様性に富んだグループであれば銀行はベンチャービジネスに参加し、有望なスタートアップとの関係を確立する助けになるというメリットを考えて融資に前向きになることは多いです」と述べた。
いわゆる「フロントローディング(管理コストの組み込み)」という手法が用いられる場合もある。Kim氏によれば「これは大胆なパートナー向きの手法」だという。Chris Sacca(クリス・サッカ)氏は現在はビリオネアの著名なベンチャーキャピタリストだが、最初のファンドを組成したときにはこの方式を取った。ビジネスに参入したばかりのベンチャーキャピタリストはファンドの管理費と持ち分に応じた投資収益を分けず、ファンドの存続期間を通じて投資結果に応じた収益のみ受け取るという仕組みだ。
フロントローディング方式の場合、ポートフォリオが実際に利益を出すまでファンドの組成者は収入が得られるない。しかし最近のスタートアップ市場の動きは速まっているため、ファンドを管理するジェネラルパートナーはすぐに次のファンドを組成し、そちらから収入を得ることができる。
これらは大金持でなくてジェネラルパートナーになろうとする場合の手法のいくつかの例だ。Alphabetのベンチャーキャピタル、GVのパートナーを務め現在Plexo CapitalのマネーjングパートナーであるLo Toney(ロ・トニー)氏によれば、他にも「自身の個人年金も資金として利用できる」という。またスタートアップ企業の持ち分の一部、あるいは自身のキャリー(投資利益持ち分)の一部を売却してコミットの資金とすることもよく行われる。しかしPrecursor Venturesの Charles Hudson(チャールズ・ハドソン)氏、 Fika Ventures のEva Ho(エヴァ・ホー)氏らは「できるかぎりこうした道は割けたほうががよいです」と述べている。
トニー氏は「いずれにせよ、重要な点はベンチャーファンドのための資金を調達するためにはこれだけが正しいという方法などはない。一つの方法がよくて別の方法はいけないということはありません」と述べた。
今週Toney氏から受け取ったメールには「ベンチャーキャピタリストの過去の実績は将来の成功の保証にはまったくなりません」ともあった。
画像:John Lund / Getty Images
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