採血なしで血液中の脂質を測定、北大発のメディカルフォトニクスが1億円を調達

左から科学技術振興機構の元島勇太氏、メディカルフォトニクスの飯永一也氏、ANRIの鮫島昌弘氏

独立系ベンチャーキャピタルのANRIが総額60億円規模の3号ファンドを立ち上げたのは8月に報じたとおり。このファンドではこれまで通りシード期のITスタートアップに投資すると同時に、大学や学術機関での研究をベースにするハイテク領域のスタートアップへの投資を行うとしていた。その1社が北海道大学発のメディカルフォトニクスだ。同社がANRIおよび国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)から総額約1億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

メディカルフォトニクスが開発するのは、非侵襲(注射針による採血など、器具で生体を傷つけないこと)で利用できる脂質計測器だ。通常、脂質を検査する場合、医療機関で採血を行い、その血液を分析するのが一般的だ。だが同社が開発する製品を用いれば、肌の上に機器を装着するだけで、血中の脂質の検査が可能になる。

非侵襲脂質計測器の試作機

同社のコアとなるのは、北海道大学・清水孝一教授が研究していた、光を用いた生体の診断技術だ。液体に一方向から光を当ててのぞきこんだ際、その液体に含まれている物質の量や種類によって、光は散乱し、ぼやけて見える。同社の脂質計測器では、生体にLEDで光を当て、その散乱度合いをもとに脂質を計測する。メディカルフォトニクス代表取締役の飯永一也氏はもともと製薬メーカーの社員として清水教授と接点を持っていたが、この技術をもとに非侵襲脂質計測器を開発すべく起業した。

この計測器で効果的に計ることができるようになるのは、動脈硬化や心筋梗塞になる危険性が高まる「食後高脂血症」。食後、一時的に血液中の中性脂肪の値が上昇するこの症状は、(主に食事を制限したタイミングで)1回採血をするだけというような通常の健康診断では発見が難しい。もし症状を判断したければ、食前、食後○時間、というかたちで数時間内に複数回の採血が必要になる。これでは体への負荷も大きい。だが同社の脂質計測器であれば採血の必要がないため、手軽に食後高脂血症の測定ができるようになる。

計測器は現在も開発中。年度内には研究機関向け製品の販売を開始する予定だ。今後は医療機器の承認を受けることを目指す。将来的には低価格の個人向け製品の販売を行うとしている。

なお今回のラウンドではJSTが出資を行っているが、彼らは2014年に施行された産業競争力強化法を背景に、25億円の予算枠でテック系のスタートアップを中心に投資を行っているという。以前も紹介したとおり、これまで学術機関での研究はPOC(Proof of Concept:概念の実証)を越えるまでは研究費でまかなうということが多いという。だが徐々にではあるが、彼らの起業を支援する体制も整いつつあるようだ。