医療プラットフォーム事業展開のメドレーが東証マザーズ上場、公開価格1300円で初値1270円

複数の医療プラットフォーム事業を展開しているメドレーは12月12日、東証マザーズ市場に上場した。主幹事証券会社は大和証券で、公募253万株、売り出し1123万株、オーバーアロットメントによる売り出しが206万4000株となる。オーバーアロットメントとは、当初の募集・売出予定株数を超える需要があった場合に実施される株式の販売方法。主幹事証券会社が対象会社の株主から一時的に株式を借り、売出予定株数を超える株式を、募集・売出しと同じ条件で追加販売すること。

公開価格は1300円で初値はそれを30円下回る1270円をつけた。12月12日午前9時18分現在の最高値は1350円で時価総額361億500万円となり、株価は1310円前後で推移している。

同社の具体的な事業内容は、人材採用システムの「ジョブメドレー」、クラウド診療支援システムの「CLINICS」、医療メディアの「MEDLEY」、介護施設検索サイト「介護のほんね」など。累計登録会員数は2019年9月末時点で53.3万人。顧客事業所数は17.5万カ所となっている。

直近の業績は、2018年12月を決算期とする2018年度(2018年1月〜12月、単独)は売上高17億1200万円、営業損失1000万円、経常損失8700万円、当期純損失は1億5300万円。2019年度(2019年1月〜12月、連結)の予想は、売上高46億7700万円、営業利益8000万円、経常利益8100万円、当期純損失4億1400万円。

なお、2019年度の業績予想が連結になっているのは、同年3月に日本医師会標準レセプトソフト「ORCA」(医事会計ソフトウエア)を開発していたNaClメディカルを買収したことによるもの。この買収後、ORCA事業の継続性および保険請求基盤の維持発展という目的で、従来は無料で使えていたORCAの一部機能有償化が決定し、2020年1月以降は月額利用料の支払いが必要になっている。実際にはORCA自体はオープンソースで開発されており無償で利用できるが、その周辺サービスが有償になる。

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医療×ITの土壌作りへ、メドレーが30億円規模の出資プロジェクトーー鍵は“技術のオープン化”

「医療業界全体を良くするために、もっと業界をインターネットテクノロジー色に染めていきたい」

医療ヘルスケア分野のサービスを複数展開するメドレーで取締役CTOを担う平山宗介氏は、新たに発足したプロジェクトへの意気込みについてそう話す。

プロジェクト名は「MEDLEY DRIVE」。医療ヘルスケア分野における技術のオープン化および情報活用を推進していくことで、業界全体がインターネットテクノロジーの恩恵を十分に受けられるようにするのが目的だ。

具体的には医療ヘルスケア業界で旧来から事業を展開してきた企業や、新たな医療情報システムサービスを開発するスタートアップに出資するとともに、プロダクト開発やマーケティング、コンプライアンス面でのナレッジ共有・体制構築を支援する。当初の投資総額枠は30億円規模と大きい。

子会社設立やファンドの組成を伴うものではなく、あくまでひとつのプロジェクト。位置付けとしては過去に紹介したメルカリの「メルカリファンド」などにも近いだろう。

それにしても、自身もスタートアップであるメドレーがなぜこのようなプロジェクトを実施するに至ったのか。今回はMEDLEY DRIVEのプロジェクトオーナーであるCTOの平山氏と執行役員の加藤恭輔氏に、背景や目指している世界観について聞いた。

業界全体が“インターネットテクノロジーの恩恵”を受けられるように

メドレー取締役CTOの平山宗介氏

まずは改めてMEDLEY DRIVEの全貌を紹介したい。同プロジェクトは大きく3つのターゲットに対して、出資を始めさまざまな形のサポートを実施するものだ。

  • 医療ヘルスケア分野において長く事業を展開しており、今後インターネットテクノロジーを活用したさらなる課題解決を模索している企業
  • 医療ヘルスケア分野において、将来デファクトスタンダードとなりうるインターネットプロダクトの開発をおこなう企業
  • 医療ヘルスケア分野において、次世代標準になりうる要素技術の開発をおこなう企業

ポイントは支援の内容が資金面だけでなく、技術的な支援を中心としたプロダクト開発周りやマーケティング、コンプライアンス領域にまで及ぶこと。CTOの平山氏がプロジェクトオーナーを務めることからもわかるように、むしろ“資金面以外”のサポートを充実させたい意向もある。

メドレーではオンライン診療アプリ「CLINICS」やクラウド型電子カルテ「CLINICS カルテ」など医療とテクノロジーを掛け合わせたプロダクトを複数展開してきた。これらのプロダクトは地道に成長しているが、その一方で平山氏は「今後を見据えた時に超えなければならない大きな壁がある」と話す。

それが現在の医療業界におけるインターネットテクノロジーの浸透具合の問題だ。歴史が長い業界であるからこそ「たとえば技術的な標準化においても古い技術をベースに議論がされたりする」(平山氏)など、テクノロジーの活用がスムーズにはいかない部分も少なくない。

そういった要素はメドレーの電子カルテを普及させる上ではもちろん、テクノロジーを強みとする新規のプレイヤーがこの業界で挑戦したり、業界全体をアップデートしたりする上でもネックになりうる。

だからこそMEDLEY DRIVEではスタートアップだけではなく、すでに業界内で長期に渡って事業を展開してきた企業とも積極的にタッグを組むことを重要視しているのだという。そのような企業に「インターネットや技術に対する知見」を積極的に共有していくことが、業界のスタンダードや基幹システムのあり方、テクノロジーに対する考え方を変えていくことに繋がるからだ。

培った知見や経験を、業界に還元する

また医療ヘルスケア分野でチャレンジするスタートアップや、AIなど医療分野においても今後の基準となりうる要素技術を開発する企業には違った面からもサポートができるという。

この分野においては法規制やガイドラインとの向き合い方、多様なステークホルダーとの関係性の築き方など、業界特有の“難しさ”がある。メドレーが実際に蓄積してきた知見や経験をシェアするという点は、このプロジェクトならではの大きな特徴だ。

特にコンプライアンス体制の構築など、業界に精通していないと相応の時間と労力がかかりそうな面もサポートしてもらえることは、スタートアップにとって心強いだろう。

「CLINICSを2年間運営する中でいろいろと苦戦することも多かった。ガイドラインを考慮しながら同時に未来のプロダクトのあるべき姿を考える必要もある上に、日本の医療や医師会の考え方も踏まえて一企業としてどのように振る舞うかを常に求められる。(プロダクト開発やマーケティングだけでなく)そういった知見や経験も溜まってきたので、どんどん業界に還元していきたい」(平山氏)

現時点で決まっているのはスタート時の投資総額枠が30億円ということと、出資の対象となる企業の属性くらい。出資対象となる企業のステージや1社あたりの出資総額などは特に縛ることはなく、個々の事案ごとに柔軟に対応していく方針だ。30億円の枠にもとらわれすぎず、インパクトのある投資を実行したいという。

インターネットを前提とした議論がされるような業界へ

近年はインターネットテクノロジーの進歩が凄まじく、いろいろな業界が大きく変わり始めている。

医療分野においても、2010年2月の厚生労働省の通達により診療録等の保管場所がクラウド上に広がったことを機に変化が訪れた。今では関連ガイドラインの改訂を経て、電子カルテだけでなく、オンライン診療システムなど様々なサービスが現場で活用され始めている。

とはいえ、そこにはまだギャップがあるというのが平山氏や加藤氏の見解。特に業界を変えていく上では必須となる“人材面”で課題感を感じているようだ。

「テクノロジーに強い優秀な人材がなかなか入ってこないことには危機感を感じている。(人の生死に関わる領域なので)法律やガイドラインなど考慮するべきことや、ステークホルダーの数が多かったりすると、プロダクトの開発だけに集中できず大変なイメージを持たれて敬遠されることもある。そのイメージを変えていくためには、技術のオープン化を進めて空気作りをしていくことが大切だ」(加藤氏)

そのような背景も踏まえ、これまでメドレーでは「ORCA API」のオープンソース公開や、ブロックチェーンを活用した電子処方せん管理方式の技術公開といった活動に取り組んできた。

ただ業界内のカルチャー自体を変えていくには、メドレー1社だけではなく他のプレイヤーを巻き込んでいくことも必要だ。MEDLEY DRIVEには、共に医療×ITの土壌作りを加速させる“仲間集め”の意味合いもあるのだという。

「(今後活動を続ける中で)医療業界で挑戦したいと思うクリエイターや、そういう人材を積極的に採用しようという企業が増えたり、業界で長く事業をやっている企業の方々がよりインターネットに関心を持つように変わったりするのが理想。インターネットを駆使することで医療がどのように変わるのか、その世界観をしっかりと広げられれば、議論も当然のようにインターネットを前提としたものになるのではないか」(平山氏)

ゆくゆくは医療現場のIT化が進むことで、医療従事者が今まで以上に診療に専念できる環境が整い、患者にとっても「納得できる医療」を実現することがMEDLEY DRIVEの大きな目標。とはいえ、いきなり文化を変えると言ってもそう簡単ではないので「まずはひとつひとつ積み上げながら、業界を少しずつ変えていきたい」(加藤氏)という。