東京大学先端科学技術研究センターは10月29日、街路を歩行者空間化することで、街路に立地する小売店や飲食店の売上げが、非歩行者空間に立地する事業者に比べて売上げが高くなることを定量的に示す研究結果を発表した。ウィズコロナに対応した街づくりにおいて、パンデミックへの備えと経済活動とを両立させる街路の有効活用といった政策立案や住民との合意形成に、強い根拠になりうるとしている。
この研究は、東京大学先端科学技術研究センターの吉村有司特任准教授、熊越祐介特任研究員(研究当時)、小泉秀樹教授のグループが、マサチューセッツ工科大学センセーブルシティラボのセバスティアーノ・ミラルド、ポスドク研究員、パオロ・サンティ主任科学研究員、カルロ・ラッティ教授、アーバン・サステイナブル・ラボのイーチュン・ファン博士課程、スーチー・セン教授、ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)のホアン・ムリーリョ氏らとの共同で行われた。研究対象となったのはスペイン全土。2010年から2012年にかけて、毎月、歩行者空間の分布情報を取得、またBBVAからは、歩行者空間周辺に立地する事業者の匿名化された取引情報の提供を受けて調査が行われた。車が通れない歩行者と自転車専用の空間(歩行者空間)の周辺に立地した小売店や飲食店の売上げを、そうでない地域の小売店、飲食店と比較したほか、非歩行者空間から歩行者空間へと街路の用途変更が行われた地区での「周辺環境に及ぼす経済的影響」が調査された。その結果、どちらも歩行者空間での売上げが向上することが判明した。
以前から、生活必需品の購入は歩行者空間であるか否かはあまり影響しないが、ランチやディナー、お茶を飲むといった体験型の消費活動は「歩行者中心で編成される街路」が好まれるという推測はあったが、それがデータとサイエンスにより裏付けされる形となった。