完成しているからこそあえて変えない新ThinkPad X1 Carbon、第10世代搭載の順当進化だが発熱は高め

レノボ・ジャパンは、14型薄型ノートPC「ThinkPad X1 Carbon Gen 8」を5月26日に発表、5月28日より販売開始した。ThinkPad X1にはクラムシェル型のThinkPad X1 Carbon、ディスプレイ360度回転型のThinkPad X1 Yogaの2モデルを用意。Carbonは重さ約1.09kgと軽量さを重視したモデルで、Yogaはマルチタッチ、スタイラスに対応した2 in 1 PCだ。ちなみに低コスト化、サポートの効率化を目的にマザーボードは共用で、処理性能は基本的に同じ。利用スタイルに合わせてモデルを選べる。

ThinkPad X1 Carbon Gen 8の最小構成モデルからイーサネットアダプターを省いたときの直販価格は17万8640円(送料込み、6月1日時点のeクーポン適用価格)

ThinkPadのフラッグシップには最小構成で18万円の価値はある

ThinkPad X1 Carbon Gen 8には第10世代(Comet Lake)のインテルCore iプロセッサーを採用。CPU以外の進化点としては、無線LANがWi-Fi 6(IEEE801.11ax)、WWANがLTE Cat.16に対応し、コラボレーション専用キー(アクションセンター、着信応答、通話終了)を実装したことなどが挙げられる。

CPUは、Core i5-10210U(4コア8スレッド、1.60~4.20GHz)、Core i7-10510U(4コア8スレッド、1.80~4.90GHz)、メモリは8GB/16GB(LPDDR3-2133、オンボード)、ストレージは256GB/512GB/1TB/2TB(M.2 NVMe接続)、ディスプレイは14型FHD(1920×1080ドット)/WQHD(2560×1440ドット)/UHD(3840×2160ドット)が用意され、これら主要パーツが組み合わされた複数のラインアップが販売されている。また購入時には、顔認証カメラ、WWAN、NFC、拡張コネクターの有無、キーボード(日本語/英語)、ACアダプター(45W/65W)の種類もカスタマイズ可能だ。

ちなみに、Core i5、メモリ8GB、ストレージ256GB、FHD液晶、WWAN非対応、イーサネットアダプターなし、NFCなし、日本語キーボードという構成で最安の17万8640円。Core i7、メモリ16GB、ストレージ2TB、UHD液晶、WWAN対応、イーサネットアダプターなし、NFCあり、英語キーボードという構成で最高の37万8840円となる(6月1日時点のeクーポン適用価格)。

最安構成で18万円弱というのは最近のノートPCの相場から考えると割高だが、ThinkPadのフラッグシップならではの上質なキーボード、Thunderbolt 3を含む豊富なインターフェイスを考慮すれば納得感はある。

天面は、カーボン柄とブラック・ペイント・カーボンから選択可能

 

底面には吸気口とふたつのウーファーが配置されている

 

FHD液晶の輝度は400cd/平方m、WQHD液晶は300cd/平方m、UHD液晶は500cd/平方m。またFHDとWQHD液晶はNTSCカバー率72%、UHD液晶はHDR対応が謳われている

 

ThinkPadシリーズはキーボードの打鍵感、タッチパッドの操作感、双方の静音性には定評がある。キーボードとタッチパッドの機構には変更はないが、F10に着信応答、F11に通話終了が割り当てられている。キーボード奥にはふたつのツイーターが配置されている

 

前面には360度集音のための4つのマイクが、背面にはSIMカードスロットが用意されている

 

右側面には電源ボタン、USB 3.1 Gen1、セキュリティ・キーホールが、左側面にはUSB 3.1 Gen2 Type-C(Thunderbolt3対応、電源共用)、USB 3.1 Gen2 Type-C(Thunderbolt3対応)、イーサネット拡張コネクター2、USB 3.1 Gen1、HDMI、マイク・ヘッドフォンコンボジャックが配置されている

第10世代Core iの性能を引き出しているものの最高負荷では発熱が高め

今回は、Core i7-10510U、メモリ16GB、ストレージ512GB、UHD液晶という構成のモデルを試用した。CPUベンチマーク「CINEBENCH R20.060」のCPUスコアは1566ptsとなった。同じCPUを搭載する「ZenBook Duo」が「1426 pts」だったので、Core i7-10510Uのパフォーマンスを十分引き出せていると言えそうだ。

ただ気になったのが発熱。室温24.4度の部屋で「ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズ ベンチマーク」実行中のキーボード面の最大温度が52.5度に達していた。室温が高い環境では電源モードを低めに設定して、発熱を抑えたほうがよさそうだ。

バッテリー駆動時間についてはディスプレイ輝度40%、バッテリー残量40%までという条件でバッテリーベンチマーク「BBench」で計測したところ、6時間50分27秒動作した。バッテリー駆動時間を優先させるのであれば、UHD液晶ではなく、ディスプレイ輝度の低いWQHD、FHD液晶を選んだほうがいい。

CPUベンチマーク「CINEBENCH R20.060」のCPUスコアは1566pts

 

「ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズ ベンチマーク」(1920×1080ドット、標準品質)のスコアは2612(やや快適)

 

ストレージベンチマーク「CrystalDiskMark 7.0.0」で計測したシーケンシャルリード(Q8T1)は3567.68MB/秒、シーケンシャルライト(Q8T1)は2988.53MB/秒

 

サーモグラフィーカメラ「FLIR ONE」で計測したキーボード面の最大温度は52.5度

 

底面の最大温度は49.9度

 

キャリブレーション機器「i1Display Pro」と色度図作成ソフト「ColorAC」で計測したNTSCカバー率は81.3%

sRGBカバー率は99.4%

 

「Battery report」コマンドで計測したバッテリーの設計容量は51010mWh、フル充電容量は54120mWh

完成の域に達しているからこそ、変わらないことをあえて選択

ThinkPadのフルサイズキーボードは、キーピッチ約19mm、キーストローク約2mmというスペック以上に、打鍵したときの感触が上質だ。もしMacBookのキーボードに満足できていないのなら一度ThinkPad X1シリーズのキーボードを使ってみるといい。OS論争がどうでもよくなるほどThinkPad X1シリーズのキーボードに惚れ込むかもしれない。

今回のThinkPad X1 Carbon Gen 8は順当な進化モデルだ。サイズや重量は従来と同じで、外見的にはロゴしか変わっていない。クラムシェルスタイルのノートPCとして完成の域に達しているからこそ、変わらないことをあえて選択しているのだろう。

レノボの14型ノートPC「Yoga S940(14)」はMacBook Proのライバルになるか?

レノボはハイビジネス向けのThinkPad&ThinkBook、スタンダードビジネス向けのLenovo、コンシューマー向けのIdeaPad、マルチモードPCブランドのYoga、ゲーミングブランドのLegionと多くのブランドを擁している。今回レビューする「Yoga S940(14)」は、Yogaブランドのフラッグシップモデルに位置づけられているが、唯一、ディスプレイが360度回転するマルチモードを備えていないクラムシェルスタイルのノートPCだ。

レノボ「Yoga S940(14)」23万30円(クーポン適用後の税込み、送料込み価格)

CPUは第10世代Core i7を採用、薄型モバイルノートPCとして上限に近いスペック

Yoga S940(14)は、OSにWindows 10 Home 64ビット、CPUに第10世代(Ice Lake)のCore i7-1065G7(4コア8スレッド、1.30~3.90GHz)を採用。メモリーは16GB(LPDDR4X)、ストレージは1TB SSD(NVMe)を搭載。ディスプレイは、14.0型UHD(3840×2160ドット)のIPS液晶(光沢、輝度400cd/平方m、DisplayHDR対応)が選択されている。

ハードウェア的に用意されているのはこの1構成のみで、Office非搭載モデルが23万30円、「Microsoft Office Home & Business 2019」搭載モデルが25万50円という値付けだ(どちらもクーポン適用後の税込み、送料込み価格)。

メモリー、ストレージをカスタマイズしたいという方はいるだろうが、ハードウェア構成を1モデルに限定したからこそ、この低価格を実現できているのだろう。

Core i7-1065G7は内部グラフィックスとして「Intel Iris Plus Graphics」を内蔵。高いグラフィックス性能を期待できる

外装の質感も非常に高い。ボディはアルミニウムから削り出し、サンドブラスト加工が施されている。設計容量5万2000mWh、フル充電容量5万5160mWhのバッテリーを搭載し、約9.2時間のバッテリー駆動時間をうたいつつ、本体サイズは幅319.3×奥行き197.4×厚さ12.2mm、重量約1.25kgという小型、軽量ボディを実現している。

本体カラーは「アイアングレー」一色。サンドブラスト加工により比較的手脂は目立ちにくい

本体背面のヒンジ側にはバータイプのゴム足が装着されている。本体後ろ側から排出した熱気を底面の吸気口から吸わないための装備だ

上が本体前面、下が本体背面。ディスプレイのヒンジは片手で開ける固さに設定されている

右側面にはThunderbolt 3×2、左側面にはUSB 3.0 Type-Cとヘッドセットジャックが配置されている。充電はUSB 3.0 Type-CとThunderbolt 3のどちらでも可能だ

14.0型UHD(3840×2160ドット)IPS液晶ディスプレイの上部には720pのウェブカメラと、顔認証用のIR(赤外線)カメラが内蔵されている

ポインティングデバイスのTrackPointはないが、キーボードの打鍵感はThinkPadと遜色ない。タッチパッドも浅めのストロークにしっかりしたクリック感が与えられており、操作しやすい

処理性能は申しぶんなし。今回、レノボ独自の管理ユーティリティー「Lenovo Vantage」の電源設定を最大の「エクストリーム・パフォーマンス」に切り替えてベンチマークを実行してみたが、「CINEBENCH R20.060」のCPUスコアは1740pts、「CINEBENCH R15.0」のCPUスコアは792cb、「ファイナルファンタジ-XIV: 漆黒の反逆者 ベンチマ-ク」のスコアは5047(とても快適)、「CrystalDiskMark 7.0.0」のシーケンシャルリード(SEQ1M Q8T1)は3528.82MB/秒、シーケンシャルライト(SEQ1M Q8T1)は3016.95MB/秒と、いずれも高いスコアを記録した。

CINEBENCH R20.060のCPUスコアで比較すると、第6世代(Skylake)のハイエンドノートPC向けプロセッサー「Core i7-6700HQ」(4コア8スレッド、2.60~3.50GHz)の約1.06倍のパフォーマンスを発揮したことになる。メモリー、ストレージも十分な容量なので、動画編集やRAW画像現像にも十分活用できる能力を備えていると言える。

「Lenovo Vantage」の電源設定を最大の「エクストリーム・パフォーマンス」に設定すると処理性能は向上するが、冷却ファンの回転速度が速くなるため動作音が大きくなる

「CINEBENCH R20.060」のCPUスコアは「1740pts」

「CINEBENCH R15.0」のCPUスコアは「792cb」

「ファイナルファンタジ-XIV: 漆黒の反逆者 ベンチマ-ク」のスコアは「5047(とても快適)」

「CrystalDiskMark 7.0.0」のシーケンシャルリード(SEQ1M Q8T1)は3528.82MB/s、シーケンシャルライト(SEQ1M Q8T1)は3016.95MB/s

コスパに優れた1台

外部グラフィックスを搭載していない14型4KノートPCであるYoga S940(14)のライバルを、MacBookシリーズから探すとなると「13インチMacBook Pro」ということになる。しかし13インチMacBook Proは後継モデルの発表が多くのメディアで噂されている。MacBookとどちらがいいかと悩む方であれば、新モデルの発表を待ったほうが無難だ。

Yoga S940(14)は非常にオーソドックスなスタイルながら、高いトータルスペック、高級感ある質感、ThinkPadと遜色ないキーボードと、クラムシェルスタイルの理想型に限りなく近いノートPCだ。ThinkPadブランドとTrackPointなどのThinkPad固有の装備にこだわりがないのであれば、コストパフォーマンスに優れたノートPCとして魅力的な1台だ。

道具としての佇まいはThinkPadに見劣りしない