非白人女性がシリコンバレーでベンチャー投資を獲得した秘訣

世界のデジタル化が進むと、生身の付き合いがより渇望されるようになる。Squad(スクワッド)は、Z世代やミレニアル世代のための密接な人間関係をキュレートすることにより、招待者専用のコミュニティーとアプリで、オフラインでのつながりを満たそうとしている。

「リアルな人生で人間関係を築く方法を模倣しています」と創設者でCEOのIsa Watson(イーサ・ワトソン)氏は言う。

このアイデアには、すでに投資家のバックアップがついている。Squadは350万ドル(約3億8000万円)のシード投資を手にし、2020年の初めにはシリーズA投資が確定する予定だ。ポッドキャスト「How I Raised It」(私はいかにしてそれを調達したか)で、ワトソン氏は、苦難の末に資金調達を実現した独特な方法の話を聞かせてくれた。

資金調達の前に数年間かけて信頼関係を築く

彼女は、家族からの支援も含めた自己資金を元手に事業を立ち上げた。そして、公式にシードラウンドを開始する前の段階で、シリコンバレーで200回を超えるミーティングを行い、企業創設者としての信用を積み重ねていった。そこが何よりも重要だと彼女は強調する。

「MITを卒業していても、JPモルガン・チェイスで10億ドル規模のプロジェクトのマネージャーを務めていても、巨大なデジテル製品を作り上げていても、私はまだシリコンバレーではよそ者でした」とワトソン氏は話す。

米国の一流大学の卒業生なら、シリコンバレーに行けば即座に受け入れられると考る人もいるが、実際にはそんなことはないとワトソン氏は言う。

「苦労に苦労を重ねて高い信用を築かなければなりません」と彼女。「公式にシードラウンドを始める前の数年間に、私たちが実際に行ったことです。シードラウンドを始めるときには、すでに私の評判が、いわば私に先回りしていて、すっかりおなじみになっていたんです」。

SquadのCEOであるイーサ・ワトソン氏

冷たい売り込みはしない、必ず温かい紹介を通す

シリコンバレーに割って入るためのに200回以上ものミーティングを重ねたワトソン氏だが、血の通わないミーティングは一度もなかった。「多くの企業創設者は、無機的な売り込みを戦略にしているようですが」と彼女。「有効な関係は、人と人のつながりから生まれます」と語る。

自分で築いた人脈が、ワトソン氏が実際の投資家たちとのつながりを得る上で決定的な役割を果たした。「みんなが、次に会うべき3人を紹介してくれます」とワトソン氏。「それが木の枝のように広がって、人脈が乗法的に成長するのです」

Squadに最初に投資したのは、当時GoDaddy(ゴーダディー)で最高製品責任者を務めていたSteven Aldrich(スティーブン・アルドリッチ)氏だった。アルドリッチ氏もワトソン氏も、ともに北カリフォルニアで子ども時代を過ごしていて、アルドリッチ氏の父親が、彼女と同じ街の出身だった。それが最初のつながりを作るきっかけとなった。

「そうした人脈作りを、私はずっと続けてきました」と彼女は話す。「スティーブンは3人の人に私を紹介してくれました。そしてその3人は、それぞれ2人の人に私を紹介してくれました。基本的にそうやって私はボールを回してきたのです」。

すべてのミーティングがコーヒーやランチを必要としていたわけではない。ワトソン氏は電話も大いに活用してネットワークを広げていった。しかし重要なのは、まずそのような人に出会う段階だ。そのため最初の2年間は「まさに粉骨砕身で突き進みました」という。

助言を求めるときは可能な限り具体的に

シリコンバレーの人たちに会ったり、投資してくれそうな人たちの人脈を広げようとするとき、ワトソン氏は投資をねだったり、目的のあやふやな会合を求めたりはしなかった。

ネットワーク作りでは、彼女はまず、鍵となる2つの要素のリサーチを心がけた。本当に強力な製品を作るために必要となる人は誰か、そして、安定した供給とグロースマーケティングを実現するために必要となる人は誰かだ。そのような人を特定すると、個人的に接触し、その人たちの専門分野の具体的な助言を求める。

「『お金が欲しいときは助言を求めろ、助言が欲しいときはお金を要求しろ』とよく言われます」とワトソン氏は話す。「非常に重要となる彼らの時間と頭脳の利用方法を、実にわかりやすく説明した言葉」であり、「ちょっとお知恵を拝借」などという曖昧な要求に付き合っていられるほど、彼らは暇ではないということだ。

誰かとつながりが持てたなら、グロースマーケティングや製品など特定分野の専門家への推薦を必ず依頼する。何人かの名前を挙げてもらえたら電子メールを送るので、紹介状を添えてその人たちに転送してくれないかと頼む。

紹介をもらっても、それで一件落着ではないと彼女は言う。紹介をもらって、その人に会えたなら必ず相手にミーティングの感想と感謝の気持ちを伝える。

「これは本当に本当に親密な人間関係のマネージメントなのです。そしてこれは、心の知能指数がとても高い人たちが得意とすることです」とワトソン氏。「私は、必要なことを特定して具体的な質問をします。そして、力になってくれそうな私たちがやっていることに興味を強く持ってくれそうな3人を紹介してもらえなかったとき、必ずはっきりと聞きます」

秘密兵器は資金調達のクォーターバック

Squadの資金調達を開始する時期だと感じたとき、彼女の最初の一手は資金調達のクォーターバック(司令塔)を見つけることだった。同社の場合は、Precursor Ventures(プレカーサー・ベンチャーズ)のCharles Hudson(チャールズ・ハドソン)氏がその役を担った。 ワトソン氏によれば「キッチンには料理人は多すぎないほうがいい」という。意見が多すぎて収集が付かなくなるからだ。

その当時、ハドソン氏はすでに同社に少額の投資をしていたが、それからすぐにワトソン氏は、自分のピッチの感想をハドソン氏に聞くようになった。ハドソン氏は、プロセス実行に関するさまざまな側面で彼女にアドバイスしてきた。

「資金調達について、そのときチャールズが教えてくれたのは、成功を目標の核心に据えることで成功に近づくということでした」とワトソン氏。「受け身ではできないことです」。

そこでハドソン氏とワトソン氏は、ターゲットとする35人のベンチャー投資家のリストを作成した。彼は、話が合わないと彼女が考えていた5人の投資家を紹介した。彼らはまず、その完璧な組み合わせにはなりそうもない投資家たちに会った。スクワットが実際に投資対象として準備ができているかどうかを見極めるために、その投資家たちの意見を参考にしようとしたのだ。

この最初の5つのミーティングでは、1人か2人は「ぜんぜんダメだった」という。あからさまにSquadは拒絶された。しかしワトソン氏は、残る3人とのミーティングを、パートナーミーティングにすることができた。その投資家たちが同社を真剣に考えてくれた証だ。

そのフィードバックをもとに、ハドソン氏はワトソン氏に10人のベンチャー投資家を紹介した。その直後に、シードラウンドを主導したHarrison Metal(ハリソン・メタル)のMichael Dearing(マイケル・ディアリング)氏と出会った。

シード投資家は慎重に選べ

ディアリング氏が300万ドル(約3億3000万円)の条件規約書を提示すると、すぐさま他の投資家からもオファーが届くようになった。

「おかしいですよね。私は2か月半ほど、資金調達で市場を必死に走りまわって、やっとマイケルからイエスを引き出せたんです。それまでお金の話は一切なかったのに」と彼女。「それで、300万ドルの条件規約書を受け取ったと人に話してからほんの数日後に、600万ドルとかの話が来たんです。ベンチャー投資家って、ほんとうに追随型なんですね」。

ディアリング氏に続いて数多くのオファーが出そろうと、彼女はまさにシードラウンドに参加する投資家を選ぶ側になった。どうやって選んだのだろう?

「まずは付加価値です」とワトソン氏は言う。彼女はこう自問した。「必要とする価値はきちんと揃っているだろうか。製品にものすごく強い人が欲しくなるかもしれない。グロースハックに、マーケティングにすごく強い人が欲しくなるかもしれない」。

選択のための2つめの基準は、レジュメから少し離れることだった。単純に、自分の感覚を信じることだ。「投資家たちが、本当に本当に軽視しているのは、その人が人間として善良であるか? ということです。私は、いちばん気持ちよくやっていける人たちを選ぶことにしました。人間関係を通して信頼できると感じられる人たちです。いつでも力になってくれる人たちです」。

【編集部注】著者のNathan Beckord(ネイサン・ベコード)氏は2016年より20億ドル以上の資金調達を行った起業家のための資本調達と投資家管理のためのプラットフォームFoundersuite.com(ファウンダースイートコム)のCEO。また、ファウンダースイートのポッドキャスト『How I Raised It』のホストも務めている。

原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

Emissaryはセールスネットワークの変革を狙う

セールスに必要なのは最高の製品ではない。スタートアップは、最高の製品、最高のビジョン、そして最も説得力のあるプレゼンテーションを持ちながら、結局営業チームが話していた相手が、間違った意思決定者だったり、相手に適切な種類の話題を振っていなかったことが後になって判明することがある。残念なことに、そうした重要な情報(キー人脈情報)はどこかの本やオンラインフォーラムには書かれておらす、通常は広範囲の人脈と噂を通して明らかになっていくのだ。

Emissaryを創業したDavid Hammerと彼のチームにとっては、それこそが解決すべき問題だった。「人脈作りに長けたものが勝つ世界が必ずしも良いとは思っていないのです」と彼は私に説明した。

Emissaryは、営業チームを、ターゲットとなる企業の営業プロセスをよく知り、ガイドできる人物(エミッサリーと呼ばれる)と結びつけるハイブリッドSaaS市場である(注:エミッサリーには使者の他に密偵という意味合いがある)。一般的には最高のエミッサリーとなるのは、対象となる企業を最近辞めたばかりの元幹部や従業員たちである。こうした人びとは意思決定プロセスや組織のポリシーを熟知しているからだ。「私たちの第一のミッションはとてもシンプルなものです:世の中の取引の全てに、エミッサリーがいるべきだ」とHammerは語る。

GLGのような専門家ネットワークは、何年も前から存在してきたが、こうした組織は伝統的に、対象企業の戦略思考を理解するために、喜んで大金を支払う投資家たちむけのものだった。Emissaryの目標は、より広い範囲の意思決定者と顧客を対象にした、より大衆化されたものである。そのプロダクトはインテリジェントに設計されており、販売プロセスの調子が悪くなる前に援助を求めるよう顧客たちに促す。Crunchbaseによれば、このスタートアップは現在までに1400万ドルを調達しており、最新のシリーズAラウンドはCanaanによって主導されている。

Emissaryは確かに創造的なスタートアップだが、私が最も興味深いと考えるのは、それが提起する、知識仲介、労働市場、倫理にわたる諸問題だ。

社会科学者たちは一般に、著名な学者マイケル・ポラニーの研究から生まれた、知識の2つの形態を区別する。最初の形態は明示的な知識である。書籍やTechCrunchで見つけることができるような知識だ。これらは事実と数字である ―― 資金調達ラウンドはこの金額だった、ある会社のCEOはこの人物であるといった知識である。他の形態は暗黙的な知識である。典型的な例は自転車に乗ることだ ―― それを学ぶには実際にやってみなければならない、そして乗り手が自転車から転落することを防いでくれる物理学の数字も、力学の教科書も存在しない。

組織図は明示的な知識かもしれないが、暗黙的な知識はすべての組織の中核をなすものだ。それは政治、人物、興味、そして文化である。こうしたトピックに関するハンドブックはないが、ある組織で十分に長い時間働いてきた人は、何かを成し遂げるために必要なプロセスを正確に知っている。

その知識は 重要かつ貴重であり、それゆえにマネタイズできる価値があるのだ。それこそがHammerが新しいスタートアップを設立する際に感じていた、元々のインスピレーションだった。「なぜGoogleが間違った決定を行うのだろう?」Hammerはそのとき自分自身に問いかけたのだ。ここには、世界で最も多くのデータを持ち、それを検索するツールを持つ会社がある。「どうして必要な情報を持っていないなどということがあるのだろうか?」。その答は、彼らは世界のすべての明示的な知識を持ってはいるが、必要とされる暗黙的な知識を何も持っていないということだ。

最終的にはその思索は、顧客とセールスパーソンとの間の情報の非対称性が明らかな、セールスという行為の考察へとつながった。「セールス関係者と話せば話すほど、彼らがその顧客の考え方を理解する必要があることが分かりました」とHammerは語る。セールスオートメーションツールは素晴らしいものだが、結局どんなメッセージを送るべきなのだろう、そしてそれを誰に対して?それこそが解決するのがもっと難しい問題だが、結局のところそれが契約書への署名につながる問題なのだ。Hammerが気が付いたことは、価値のある知識に、価格をつけて取引することのできる個人がいることだった。

そうしたマネタイズは、そうした種類のコンサルタントたちにとっての新しい労働市場を生み出す。大企業の従業員たちはいまや、退社したり、引退したあとに、その組織について知っていることを語ることで、収入を得られる可能性があるのだ。Hammerは「基本的に人びとは、自分が役に立つ方法を探しているのです」と語る。確かに報酬は重要だが、多くの人びとが単に関与する機会を探しているのだという。明らかにその命題は魅力的なようだ、なにしろプラットフォームには現在1万人以上のエミッサリーが登録されているのだ。

しかしこの市場を長期的により魅力的なものにできるかどうかは、転職の間に行う一時的な仕事から、より長期的でプロフェッショナルなものに変えていけるかどうかにかかっている。政府調達システムに関わる企業をサポートする人びとのネットワークと同様に、例えば「Oracleの購買はどのように機能しているのか」といった命題に特化することができるだろうか?

Hammerはこの点に関しては少々意義を唱えた「そうしたことに関わる多くのものが、壁の向こう側にあるのです」と指摘した。潜在的なコンサルタントが、セールス担当者よりも簡単に、会社外からその意思決定を学ぶなどということはできない。さらに、社内のプロセスに関する知識は、組織によって異なる速度ではあるものの、着実に劣化していく。いくつかの企業は急速な変化と変革を経験する一方で、他の企業の知識は10年以上続く可能性もある。

そうは言うものの、Hammerは企業が自社への売り込みを考えるセールスパーソンたちの支援に、エミッサリーを推薦し始める転換点がやってくると考えている。自社の複雑な調達プロセスを認識している企業の中には、最終的にはその調達プロセスを全ての側面から円滑に運んでくれる人物からのアドバイスを、セールパーソンが受けることを望むところも出てくるだろう。

明らかに、お金や知識をやりとりすることによって、重大な倫理的懸念が発生する。「倫理は私たちが行うことの中心になければなりません」とHammerは語る。「皆は大切な機密情報を共有しているわけではなく、組織の文化に関する知識を共有していのです」。Emissaryは、倫理的コンプライアンスを監視するための仕組みを導入している。「Emissariesは同時に競合他社と協力することはできません」と彼は言う。さらに、明らかにエミッサリーは会社を辞めていなければならないので、購入意志決定自身に介入することはできない。

人脈作りはすべてのセールス担当者の進むべきステップだった。それは時間のかかる作業であり、電話攻勢やコーヒー消費が売上を改善するのかに関するデータはほとんど存在していなかった。もし、Emissaryのビジョンを受け容れるならば、こうした作業はみな置き換えられていく可能性がある。知識を持つ人のガイドを受けることで、のらりくらりとしたセールスプロセスを、適切な話し合いポイントを適切なタイミングに行うことのできるスムーズなプロセスに変えることができるだろう。そうなれば結局最高の製品が勝てるかもしれない。

[原文へ]
(翻訳:sako)

画像クレジット:Prasit photo/Getty Images