Nixieのドローンを使った水質検査は都市行政の時間と費用を節約する

水路や貯水池の定期点検は、水道を提供する公益企業や行政にとって終わりなき務めだが、そのためには当然、ボートや防水長靴が必要だ。Nixieはその仕事をドローンにやらせて、より速く、安くそして人間があまり水で濡れないようにする。

水源を点検する方法が昔からあまり変わらないのは、それが簡単で有効だからであり、他の方法がないからでもある。川の中へ入って1リットルの水を採取してくれるソフトウェアやウェブサイトは、どこにもない。

しかしプロフェッショナルで頑丈な産業用ドローンの登場とともに、状況は変わった。Nixieはドローンの応用開発メーカーであるReign Makerのプロダクトで、使用するアームをカスタムすることで標本採取用としても、各種現場用センサーとしても利用できる。

標本採取では主に下の写真のような長いアームを使用し、その先端の施錠できるケージに標本容器を収める。そこに空の容器を入れたらドローンを採取現場まで飛ばし、アームが水面下になるように降下するする。ドローンが戻ってきたらホバリング状態で容器を取り出し、新しい容器と交換して次の採取地へ飛ばす。交換作業は最大風速8m/sまで可能、標本を採取は水流が5ノット以下の状況であれば行うことができる。

画像クレジット:Reign Maker

複数の場所で迅速なサンプリングを行えるが、ドローンの最大稼働時間は約20分間であり、天候や場所にもよるが2〜4回の採取が限度だろう。もちろんバッテリーを交換して、次の任務に飛ばしてもいい。

Reign Makerが挙げるニューヨーク水道局の使用事例では、水質標本の採取をボートなどの方法で行なうと1日で得られる標本数が30で、費用(人件費、ボートの燃料など)は1標本あたり100ドル(約1万1000円)だった。複数の作業員がNixieを使用すると、1日に得られる標本数は平均120で、1標本あたりの費用は10ドル(約1100円)だった。確かにニューヨークはすべての物価が高い都市だが、それでもなお、両者の差は大きい。水をすくうためのジッパーは、ドローンの標準装備ではないので850ドル(約9万4000円)で購入することになる。

ただし現在のところ自動操縦ではないのでパイロットの視界線を飛ぶだけだが、その方が規制とその要求も単純だ。これまでボートとそのクルーおよび少量の燃料を要した場所を、2人のチームとわずかな交換バッテリーがあればサンプルを収集できる。使用しているドローンは、DJIのM600とM300 RTKだ。

画像クレジット:Reign Maker

ドローンを使用すると、それぞれの標本のGPSによる正確な位置情報を得ることもできる。また、ボートを使うとどうしてもあたりの水(表層水)を動かしてしまうが、ドローンはホバリングしているだけなので標本にノイズがほぼ混入しない。将来、Nixieのサンプリングがもっと「スマート」になれば、複数のセンサーを搭載して、その場で水質検査ができるだろう。水温やpH、有害有機物、各種の化学物質などの検査が即座に可能だ。試料をいちいち持ち帰る必要がないため検査過程が非常に簡単になる。

現在、Reign Makerは、ニューヨーク市の環境保護局の仕事を行っており、他の部署からの引き合いもある。若干の初期投資と訓練や慣れが必要だが、そんなことよりも速くて安上がりな検査の魅力の方が大きい。

今後、同社の構想の中には、いかにも今風に水質検査とその広域マッピングをSaaSで提供することがある。しかもそのマップは、リアルタイムで自動的に更新される。今はまだ議題にも上がっていないが、もし2〜3の都市で実現したら市民にとって、とても魅力的な行政サービスになるだろう。

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カテゴリー:ドローン
タグ:Reign Maker公益事業

画像クレジット:Reign Maker

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

公益事業の未来には自動化と機械学習が不可欠と米大手電力会社National Gridは考える

コーポレートベンチャーキャピタル企業のポートフォリオが、親会社の戦略的優先事項のシグナルと考えられるならば、National Grid(ナショナル・グリッド)は、公益事業の未来として自動化に大きな期待を寄せているようだ。

約2000万人の顧客基盤を持つ米国最大の民間公益事業会社の1つが、自動化と機械学習に重点を置いていることは、非常に重要な意味を持つ。そしてそれは、この産業がどこに向かっていくのかを示している。

ナショナル・グリッドのベンチャー企業であるNational Grid Partners(ナショナル・グリッド・パートナーズ)は、その立ち上げ以来、機械学習を事業の中核に据えた16のスタートアップ企業に投資してきた。最近では、機械学習アルゴリズムを使用して衛星画像を分析し、ナショナル・グリッドの送電線に植生が侵入するのを察知することで停電を回避するAI Dashを支援している。

もう1つの最近の投資先であるAperio(アペリオ)は、重要なインフラを監視するセンサーから得たデータを使用して、劣化やサイバー攻撃によるデータ品質の低下を予測する企業だ。

実際、同社が行った1億7500万ドル(約181億円)の投資のうち、約1億3500万ドル(約140億円)が機械学習をサービスに活用している企業への投資となっている。

「AIはエネルギー業界が積極的な脱炭素化と分散化の目標を達成するために、不可欠なものになるでしょう」と、ナショナル・グリッドの最高技術・イノベーション責任者であり、ナショナル・グリッド・パートナーズの創設者兼社長でもあるLisa Lambert(リサ・ランバート)氏は述べている。

2020年は新型コロナウイルス流行のために、ゆっくりとしたスタートを切ったナショナル・グリッドだが、投資のペースは回復し、今年の投資目標を達成する軌道に乗っている、とランバート氏はいう。

ランバート氏によると、この業界では、いまだにほとんどがスプレッドシートと集合的な知識に基づいて運営されており、従業員の高齢化が進み、退職した際には不測の事態に備えた計画もないため、近代化は非常に重要な課題であるという。そのような状況が、ナショナル・グリッドや他の公益事業会社に業務の自動化を迫る要因となっている。

「現在、公益事業部門のほとんどの企業が、効率性とコストの理由から自動化に取り組んでいます。今日では、ほとんどの企業がすべてをマニュアル化していますが、いまだに業界としては、基本的にネットワークをスプレッドシートと従業員のスキルや経験に基づいて運営しています。そのため、そのような人たちが退職してしまうと深刻な問題が発生します。Next Grid Alliance(ネクスト・グリッド・アライアンス)で話を聞いたすべての公益事業者は、自動化とデジタル化を最優先に考えています」。

これまでに自動化されてきた作業の多くは、ビジネスプロセスの基本的な自動化が中心だった。しかし、様々な活動を自動化してバリューチェーンを強化する新しい技術が現れていると、ランバート氏はいう。

「機械学習は次のレベル、つまりアセットの予測的な維持として、顧客のために提供されるものです。たとえばUniphore(ユニフォア)では、顧客とのあらゆる相互関係から学習し、それをアルゴリズムに組み込み、次に顧客に会ったときには、より良い結果が得られるようにします。これが次世代です」と、ランバート氏は語る。「すべてがデジタル化されれば、アセットからも人間からも、それらとの関係において学習することができるようになります」。

新しい機械学習技術に対するもう1つの需要源は、電力会社が急速に脱炭素化を進める必要性にあると、ランバート氏はみている。化石燃料からの脱却には、送電網の運用と管理においてまったく新しい方法が必要になる。人間がループの中にいる可能性が低くなるような方法だ。

「今後5年間で、ネットゼロの世界を実現するためには、電力会社は自動化と分析を正しく行う必要があります。つまりこれらのアセットを別の方法で運用する必要があるということです」と、ランバート氏は語った。「風車やソーラーパネルは、従来の配電網(の一部)ではありません。従来のエンジニアの多くは、おそらく革新の必要性について考えていないでしょう。なぜなら、彼らは数十年前にアセットが構築された時代に関連するエンジニアリング技術を発展させているからです。その一方で、(風車やソーラーパネルのような)再生可能なアセットは、すべてOT / ITの時代に構築されているのです」。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:National Grid公益事業機械学習

画像クレジット:dowell / Getty Images

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(翻訳:TechCrunch Japan)