米国時間の6月24日に打ち上げが予定されているFalcon Heavyには、数多くの宇宙船や人工衛星が搭載されるが、Planetary Society(惑星協会)のLightSail 2には、中でも一番興味が惹かれる。すべて順調にいけば、打ち上げから1週間後に、ゆっくり、しかし着実に、太陽光の力だけで航行し始める。
LightSail 2は、太陽光発電エンジンを搭載しているわけではない。太陽エネルギーや熱を別のものに変換して使うこともない。これは文字通り、非常に大きな輝く帆に光子を受けて、その物理的な力で推進する。間違えないで欲しいのは、太陽風ではないということ。これとはまったくの別物だ。
このアイデアの起源は、Planetary SocietyのCEOで、テレビ番組『Bill Nye the Science Guy』のホストとしても知られるBill Nyeが打ち上げ前の記者会見で話したことによると、数世紀前に遡るという。
NASAは深宇宙原子時計などの実験をSpace XのFalcon Heavyで行うと詳細を発表(本文は英語)
「それは実に1600年代にまで遡ります。ケプラーは、太陽が発する力が、彗星の尾やその他の効果を生み出しているに違いないと推測した。そして、いつの日か勇敢な人々が虚空を帆走するようになると、思いを巡らせていました」という。
現代の天文学者やエンジニアたちが、その可能性をもっと真剣に考えるようになれば、実現するかも知れない。
「私がこれを知ったのは1970年代、ディスコ時代でした。私はカール・セーガンの天文学クラスを受講していました。なんと、42年前です。彼は太陽帆走の話を聞かせてくれました」とNyeは振り返る。「私は、1980年、創設とともにPlanetary Societyに参加し、そこを中心に、当時から太陽帆走について議論してきました。実用的な応用性が驚くほど高い、ロマンチックなアイデアです。太陽帆走の利用が間違いなく最適なミッションも、いくつかあります」。
それらは、基本的に、地球から少し離れた、地球に似た惑星の中軌道に長期的に滞在するミッションとなる。また、太陽光やレーザーでゆっくり着実に加速を続けられるために、将来的には、他の推進方式よりも実用的となる長距離ミッションも考えられる。
ミッションの概要
目ざとい方なら、ミッション名の「2」が気になっていることだろう。LightSail 2は、事実、このタイプの2番目のミッションだ。第1号は2015年に打ち上げられたが、帆を開くことだけを目的とし、1週間ほどで燃え尽きることになっていた。
このミッションには、ちょっとした欠陥があった。帆が完全に開かず、コンピューターの異常で通信が途絶えてしまったのだ。太陽帆走は想定されておらず、実際に行われなかった。
「私たちはCubeSatを打ち上げ、無線、通信、エレクトロニクス全般の検査を行い、帆を展開させて、宇宙で開いた帆の写真を撮りました」と、COOのJennifer Vaughnは話してくれた。「純粋な展開テストであり、太陽帆走は行いませんでした」。
宇宙船本体。もちろん、帆は別
しかしそれは、夢のような乗り物の形を目指す後継者への道を均すことになった。その他の宇宙船も貢献している。なかでも有名なのが、金星を目指すJAXAのIKAROSミッションだ。これはもっとずっと大きい。しかし、LightSail 2の開発者たちは、彼らの宇宙船とは効率がまるで違い、目的もまったく違うと指摘した。
この最新の宇宙船は、ほぼ食パン1斤の大きさの3U CubeSatのエンクロージャーに収められ、アメリカ軍のペイロードに便乗して約720キロメートルの高度に運ばれる。そこでペイロードは切り離され、1週間ほど自由に浮遊し、放出される他のペイロードから遠く離れる。
安全が確保されると、LightSail 2はペイロードから撃ち出され、帆を広げ始める。その食パンほどのパッケージからは、32平方メートル(ボクシングリンクと同じほど)の反射マイラーが展開される。
この宇宙船には、リアクションホイールと呼ばれるものが内蔵されている。これを回転させたり速度を落としたりして宇宙船に相反力を加え、宇宙での姿勢を変更できる。この方式によりLightSail 2は、常に光子が当たる角度を保ち、目的の方向へ進み、目的の軌道に乗ることができる。
1HP(ハエ・パワー)のエンジン
開発チームの話では、推進力は、ご想像のとおり非常に小さい。光子には質量がない。しかし(なぜか)運動量がある。どう見てもそんなに強くはない。しかしゼロではない。それが重要なのだ。
「太陽光が私たちに与える力の量はと言えば、マイクロニュートンの単位です」とLightSailのプロジェクト・マネージャーDave Spencerは言う。「化学推進に比べたら、微々たるものです。電気推進と比較しても非常に僅かです。しかし、太陽帆走の鍵は、その力が常にそこにあるということなのです」
「数字にまつわる面白い話がたくさんあります」とNyeが割って入り、そのひとつを解説した。「その力は1平方メートルあたり9マイクロニュートンです。なので32平方メートルなら100マイクロニュートンになります。わずかに聞こえるでしょうが、Daveが言うように、それが連続するのです。ロケットエンジンは、燃料が切れて停止すればおしまいです。しかし太陽帆は、昼も夜もずっと力を受け続けます。あれ……」(と彼は、夜ってあるのかどうか自問自答を始めた。下の図のような感じだ)。
LightSailの主任科学者Bruce Bettsも、もっと信頼性の高い数値を示そうと割って入ってきた。「帆に加わる力の全量は、地球上で手の平にハエを乗せたときとほぼ同じです」。
しかし数時間続けて、毎秒新しいハエを増やしていけば、たちまちその力は加速度的に増加する。このミッションは、その力を捕まえることができるかどうかを確かめるためのものだ。
「私たちは今回の打ち上げを大変楽しみにしています」とNyeは言う。「なぜなら、大気圏から十分に離れた、実際に軌道エネルギーを蓄積して、できるならば、感動的な写真が撮影できる高高度に打ち上げることができるからです」。
前回と(ほぼ)同じ第2の宇宙船
今週打ち上げられるLightSailには、前回の宇宙船から改良が加えられている。とはいえ、全体的にはほぼ変わらない。しかも、比較的シンプルで、低コストな宇宙船だと彼らは主張する。この10年間に、クラウドファンディングと寄付で相当な額の現金を集めてプロジェクトを進めてきた。それでもNASAが同等のプロジェクトを行った場合の数分の1に過ぎないとSpencerは言う。
「このプロジェクトは、前回のLightSail 1よりもずっとしっかりしていますが、前にも言ったとおり、小さなチームでやっています」と彼は言う。「私たちの予算はNASAよりもずっと小さく、同じようなミッションをNASAが行うとして、恐らくその20分の1程度です。これはローコスト宇宙船なのです」。
展開した太陽帆のサイズは5.6×5.6m、支柱の長さは46m、総面積は32平方6mで、ボクシングリングとほぼ同じ。推進材は数cm幅で碁盤の目状に糸を縫い付け、スペースデブリなどによる損傷が広がらないように対策している。帆の厚さは4.5ミクロンで、人間の髪の毛の幅よりも薄い。加速度は0.058ミリ毎秒毎秒。帆の展開方式は、4本のコバルト合金の支柱が巻き尺のように収納されていて、モーターによってそれぞれが伸びる(解説図提供:Planetary Society)
この改良は、LightSail 2の前任者が遭遇した問題にた対処するものだ。まず、内蔵コンピューターは、より頑丈にして(ただし、放射線対策は強化されていない)、不具合を検知でき、必要に応じて再起動できる能力を追加した。LightSail 1のときのように、コンピューターやケースが予測不能な宇宙線の攻撃を受けて、勝手に再起動するのを待たずに済む(実際にそれが起きていたのだ)。
帆の展開方法も改良された。以前のものは、完全展開された状態の90%までしか開かず、後からそれを修正する手段を持たなかった。その後、100%展開するにはモーターを正確に何回転させるべきかを調べるテストが続けられたと、Bettsは話してくれた。それだけではない。伸びる支柱に印を付け、どこまで展開したかをダブルチェックできるようにした。
「さらに、完全に展開されていないとわかったときに、軌道上でもう少し広げられる機能も追加しました」と彼は言った。
ひとたび打ち上げられたなら、そこは未開の領域だ。このようなミッションを実行した者はまだいない。まったく異なるフライトプロフィールを持つIKAROSも行っていない。センサーやソフトウェアが正常に機能することを、彼らは祈っている。それがハッキリするのは、帆を展開してから数時間内だ。
もちろん、これはまだ実験段階だ。ここで習得した知識は、彼らが目指す将来のLightSailミッションに活かす予定になっている。しかし同時に、宇宙飛行コミュニティや太陽帆走を目指す人々にも公開される。
「私たちはみな顔見知りなので、すべての情報は共有しています」とNyeは言う。「実際に、これ以上の言葉では言い表せないのですが、やっとこれが飛ばせるようになって、本当に興奮しています。間もなく2020年です。私たちはこのことを、そう、まさに40年間話続けてきたのです。本当に最高に嬉しい」。
LightSail 2は、SpaceXのFalcon Heavyで6月24日以降に打ち上げられる。最新情報はPlanetary Societyのサイトで確認できる。打ち上げ間際になったら、ライブストリームをチェックしよう。
[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)