教育市場は、長い間、Appleのハードウエア事業の成長に不可欠なものだったが、今では教育市場、とくに大学生の間での人気を新たな取り組みに利用し始めた。10月2日より、Appleは、大学施設への出入り、食事や本の購入、その他の学内のサービスが利用できるように、学生証と、Apple WatchとiPhoneのコンタクトレス決済システムWalletの統合を開始した。これを最初に導入する学校は、デューク大学、アラバマ大学、オクラホマ大学となっている。
Appleは、このサービスを6月のWWDCで発表していた。そのときに予告されていた3つの大学は、ようやくこれが使えるようになったわけだ。Appleによると、今年の年末までに、ジョンズ・ホプキンズ大学、サンタクララ大学、テンプル大学も導入を開始するという。
この機能拡張は、Appleのモバイルウォレットが成長の波に乗っている時期に行われた。iPhoneとApple Watchのユーザーは、支払いにこれらの機器を使うのが大好きな人たちであると見なされる(Androidユーザーの3倍は熱心だ)。その背中に乗ったApple Pay(現在24の市場で利用されている)は、今もっとも人気のあるモバイル・コンタクトレス決済システムだとAppleは主張している。前四半期だけで10億回の取り引きが行われたという。これは前年の3倍だ。
この取り引きのほとんどは、とくに、昔ながらのアメリカン・エキスプレスやビザのクレジットカードを使ったApple Payに結び付いており、昔ながらの小売店で使用されている。Appleは、今年の年末までにはアメリカの60パーセントの小売店がApple Payに対応すると見ている。これには、上から100位までの小売チェーンのうちの70社が含まれる。
しかしAppleは、ポイントカードや都市交通機関の乗車カードなど、さまざまなサービスのカードをアップロードして利用するようユーザーに働きかけ、第二の成長の波によってWalletを便利にしようと努力してきた。すでにアメリカの12の大都市圏ではApple Payが導入されているが、その範囲はイギリス、中国、日本など海外にも広がっている。
学生証の統合も、その圏内にあるとAppleは話している。
「iPhoneとApple Watchは、日常の行動に変化をもたらし、モビリティーの新しい時代へと私たちを導いてくれました」とAppleのインターネットサービス副社長Jennifer Baileyは声明の中で話している。「Apple Payを開始したとき、物理的な財布に取って代わるというゴールを目指して乗り出したのです。交通、ポイントカード、コンタクトレス・チケットを追加することで、Walletには、単に支払いを行う以上の能力が備わりました。今、大学のコンタクトレス学生証によって、お客様に、さらなる簡便性、利便性、安全性をお届けできることを嬉しく思っています」
Apple Payは、Appleに莫大な利益を直接的にもたらすものではないかも知れないが(第三者の指摘では、支払いのパーセンテージは非常に低いとのこと)、間接的にそれは、人々と電話機や腕時計との新しい関係を生み出し、それらの機器を、ユーザーにとってより価値の高いものにする。そしてユーザーは、Appleのエコシステムとのつながりをさらに強めることになる。
大学では(その他の学校でも)、学生証は身分を示すものとしてだけではなく、サービスや施設の利用や支払いなどにも使われるようになってきている。コンタクトレス版の学生証の利用も増えてきた。
その理由のひとつに安全性がある。すべてが1枚のカードに収まれば、学生はいくつもの貴重品を持ち歩かずに済む。紛失したり盗まれたりしても、カードならすぐに再発行が可能だ。同時に、腕時計や携帯電話は、つねに持ち歩くものなので、それらを統合すれば、Appleのデバイスロック機能によってカードの安全性が向上する。これは理にかなったことだ。
不明なのは、その学生証を使って学生が支払いを行ったとき、Appleは(ほんのわずかでも)手数料を取るのかどうかだ。その件についてはAppleに問い合わせているので、わかり次第報告する。
Walletがこれから参入する学校は、単に「大きな取り引きが行われない小売りの場」というわけではない。AppleはWalletで、スポーツ観戦のチケットを持ち運べるようにした。それを使って会場に入ってから、人々は売店での支払いにWalletを使う(Appleが手数料なしの取り引きで利用を促すための手段になるかも知れない)。
今日、Appleは、アメリカではK-12(幼稚園児から高校生まで)の教育市場を占める割合は14パーセントから17パーセントの間と見られている。K-12市場と、さらに上の学年の市場を獲得しようと必死になっているGoogleやMicrosoftとの競争の中で、こうしたサービスの追加がAppleにどれだけ大きなシェアをもたらしたかがわかるだろう。
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(翻訳:金井哲夫)