NASAアルテミス計画用の宇宙服は体格に関係なく月面歩行が楽になる

NASAは、Artemis(アルテミス)世代のミッションのための新しい宇宙服を公開した。アルテミス計画は、2024年までに最初の米国人女性と次の米国人男性を月面に送ることを目指している。この新しいデザインの最大の特徴は、基本的にあらゆる点における動きやすさと柔軟性にある。NASAは、月面での船外活動用のフルスーツと、月の軌道上を移動する際のフライトスーツの両方を披露した。

NASAのジム・ブライデンスタイン長官に導かれ、NASAは初めて宇宙飛行士が月面で使用する(この改良型が火星でも使用される)宇宙服のデモンストレーションを行った。xEMU変形型と呼ばれるこの宇宙服は、宇宙服と聞いてみんなが頭に思い浮かべるであろう形とそっくりそのままだ。しかし、アポロ計画で宇宙飛行士たちが月面を訪れたときに着ていたものとは、いろいろな面で大きく違っている。

これは本当のムーンウォークを可能にするものだ。月面活動のために作られた最初の宇宙服は体の動きの制約が大きく「ニール・アームストロングとバズ・オルドリンが月面で基本的にカンガルージャンプで移動するしかなかった」というのはブライデンスタイン長官の言葉だ。この新しい宇宙服なら、より活動的に体を動かせる。普通に歩いたり、腕もさまざまに動かせる。新しいグローブでは指も自由に動かせるようになり、地面の石も比較的楽にを拾える。

「新しい宇宙服は、1パーセンタイル順位の女性から、99パーセンタイルの男性まで実質的に宇宙飛行士になりたいすべての人の体に合わせられるようにデザインされている」とNASA先進宇宙服エンジニアKristine Davis(クリスティン・デイビス)氏は話していた。彼女は米国時間10月15日に開催されたイベントのステージ上で、xEMU異形型を来てデモンストレーションを披露した。

「宇宙に行きたいという夢を持つすべての人が、こう言えるようにしたいのです。そう、みんなにチャンスがあるよってね」とブライデンスタイン長官は、この宇宙服のインクルーシブデザインに触れて、そう言い加えた。

NASAでは、再び月を訪れたときに、持続可能性を確認したいと考えている(実際に作業場を建設して滞在する計画を立てている)ため、宇宙服は北極と南極、さらには赤道付近の温度変化に対応できるように耐熱性能に大きな幅を持たせてある。このxEMUの場合、マイナス156.6度からプラス121.1度まで耐えられる。

NASAはまた、国際宇宙ステーション(ISS)で現在使われている宇宙服からも、大きく進歩していると話していた。ひとつには、この宇宙服には実際に使える脚が付いている。ISS用の宇宙服は、無重力や微小重力の環境で使用するために脚には保護の役割しかない。新しい宇宙風の腕の接続部分にはベアリング使われているため、前述のとおり手を伸ばしたり物を掴んだりと可動域がずっと大きくなっている。

もうひとつの宇宙服はOrion Crew Survival Suit(オライオン乗員救命スーツ)と呼ばれ、打ち上げと着陸のときに着用する軽量な宇宙服だ。通常の使用中は減圧されているが、事故による減圧が起きた際には体を守るように作られている。これをデモンストレーションしたのは、オライオン・スーツのプロジェクト・マネージャーであるDustin Gohmert(ダスティン・ゴーマート)氏だ。彼によると、xEMUほどで強力ではないが、熱と宇宙放射線を防御できるという。

大きなxEMUスーツは、アップグレードが可能なようにも作られている。ちょうどPCのマザーボードのように、新しい改良されたテクノロジーが使えるようになったとき、わざわざ地球に戻って作り直さなくても宇宙空間でアップグレードして使うことができる。

ブライデンスタイン長官は、今月の初めにNASAが発表したとおり、アルテミス計画用宇宙服の製造で民間のパートナーと提携していることを繰り返し伝えていた。また、それらの企業からは、この宇宙服に使われているテクノロジーの今後の発展やアップグレードをどうすべきかに関する助言やアイデアの提供も求めてゆくことを検討していると話していた。

全体としてブライデンスタイン長官は、商業化について、またNASAがアルテミス計画や宇宙全般で民間のパートナーの協力を求めていることについて、熱っぽく語っていた。

「これまでにNASAは、国際宇宙ステーションの補給の権限を民間企業に与えました。【中略】今は民間のクルーを受け入れています。来年の初めには、2011年にスペースシャトルが退役して以来初めて、米国人宇宙飛行士を、米国の土地から、米国製のロケットで打ち上げる予定です」と彼は言った。「これは我が国にとって、非常に建設的な進歩になりますが、それは民間企業によって行われます。【中略】そしてもちろん、地球の低軌道にたくさんの確固とした商業拠点が生まれることを期待しています。最終的に、私たちの活動を可能にしているものは、次に納税者から預かった資産を活用して、月を、火星を目指すことになりますが、そこでも常に商業化を見据えてゆきます。私たちの目標は、これまで以上に、人類の活動を宇宙に広げることにあります」。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

NASAが月面用新型宇宙服を開発、人体3Dスキャンでジャストフィット、HDカメラ搭載で高速通信も可能に

次に月面に足を下ろす米国人は、まったく新しい宇宙服を着て行くことになる。それは1970年代に最後に月面を歩いたオリジナルのアポロスーツをベースにしながらも、大幅に改良されたものだ。簡単に装着でき、楽に動けて、コミュニケーション能力も向上する。体が自由に動かせない制約の大きかった過去のものとは雲泥の差があるが、それでも家の中を着て歩けるような代物ではない。

Exploration Extravehicular Mobility Unit(xEMU、探査船外活動移動ユニット)と呼ばれるこの新型宇宙服は、まだ開発初期段階だが仕様はほぼ固まっている。すでに水中でのテストが行われ、2023年には軌道上でテストされる予定だ。

一からまったく新しいものを作る代わりに、NASAのエンジニアは、従来の実績あるデザインで苦痛だった部分(文字どおり本当に痛いところも含め)を改良する方式を採用した。そのため、外見は私たちがよく知っている、宇宙飛行士たちが月面を飛び跳ねていたときのあの宇宙服によく似ている。元のデザインなら、高真空と宇宙放射線から体を守ることが比較的簡単だからだ。

NASAでは、宇宙服は「過酷な環境からの保護と、地球とその大気がもたらす基本的な資源のすべてを模倣するパーソナルな宇宙船」だと言われている。そのために必要な空間しか確保されていない。

しかし、昔からほとんど変わらない部分もあるものの、大きく改良される部分もある。最初にして最大の改良点は、安全性とミッションの目的を両立させるための、動きやすさが大幅に改良される。

NASAの新しい改良型xEMU宇宙服の図解

上図の左上から左下へ、高速データ通信、HDビデオと照明、情報ディスプレイと制御装置、統合コミュニケーション(スヌーピーキャップは廃止)、自動スーツ点検、強化された上半身の可動性、環境保護下着(EPG)防塵機能付き、歩きやすい。右上から右下へ、29647.5から56537パスカルの気圧変動に対応、緊急帰還1時間、真空再生二酸化炭素除去システム、薄膜蒸発冷却、モジュレーター/ORU PLSSデザイン、後方脱着。xEMUは、月面を歩く最初の女性、そして第二の男性が着用する宇宙服です。新世代のテクノロジーと能力がこの宇宙服に投入され、新宇宙での宇宙遊泳(EVA)、月面、さらに火星表面の探査を可能にする

ひとつには、既存の宇宙服に新しい関節が導入されて可動域が広がった。よく言われる宇宙飛行士の立ち方はアポロスーツの動き辛さを示唆した言葉だが、自由度が高い新しいxEMUのユーザーにはもう縁のないものになる。通常の範囲の動きが楽になるばかりでなく、自分の胴体の反対側に手を伸ばしたり、頭上に何かを持ち上げることも可能になる。

柔軟になった膝と、靴底が柔らかいハイキングスタイルのブーツにより、しゃがんだり、立ち上がったりも楽にできる。そんな基本的な動作もできないまま、よくもここまで来たものだ。

xEMUのデジタル・フィッティング・チェック。体を3Dスキャンして(点で表示)、スーツの各部分や部品がどのようにフィットするかを確認する

xEMUのデジタルフィッティングチェック。体を3Dスキャンして(点で表示)、スーツの各部分や部品がどのようにフィットするかを確認する。

宇宙服の体へのフィット感も向上する。NASAは人体計測、つまり体を3Dスキャンして、それぞれの宇宙飛行士ごとに、各部分がぴったり体に合うようにするのだ。

フィットと言えば、宇宙服の各部分はモジュラー式になっていて、簡単に交換ができる。例えば下半身は、宇宙遊泳と地表探査のときで、それぞれに適したものに交換できるようになる。ヘルメットのバイザーは“犠牲”防護式なので、ダメージを受けたら新しいものと簡単に交換できる仕組みになっている。

ヘルメットの中は、マイクなどを内蔵した、馴染み深いが明らかにみんなが嫌っているスヌーピーキャップが廃止され、現代的な音声起動式マイクとヘッドホンが組み込まれた。これで音質がずっと良くなり、汗をかくことも少なくなった。

さらに、通信スタック全体が新しいHDカメラと照明に置き換えられた。これは高速無線データリンクで接続される。月面からのライブ映像などはもう古臭い感があるが、1969年の荒いモノクロ映像とはちょっと趣が違って見えるはずだ。

最も重要な改良点に、背後からの着脱方式がある。昔のEVA宇宙服の着脱はかなり厄介な作業で、広い空間と人の手が必要だった。新しい宇宙服は、背後のハッチから中に入る仕組みになっているため、肘の位置決めなどが自然に行えるようになる。これはおそらく、宇宙服の着方を変えるものだ。宇宙服がエアーロックのような役目を果たすことは、誰でも簡単に想像がつく。背中から中に入ると、密閉されて、そのまま宇宙に出ることができるという感じだ。実際はそれほど単純ではないのだが、背後の着脱用ハッチは、その工程をずっと楽にしてくれるはずだ。

関連記事:NASAは月面用の宇宙服を将来的には民間企業にアウトソーシングへ

NASAはこの宇宙服のデザインと認定を行うが実際の製造は手がけない。NASAは先週、民間宇宙産業に宇宙服の製造を委託するもっともいい方法について意見を求めた。

これは、2024年の有人月面着陸に向けて、請負業者や民間企業の依存度を高めていくというNASAの決定の一環だ。もちろん、アポロ計画でも請負業者は重要な役割を担ったが、現在のNASAはさらに自由度を高め、民間の打ち上げサービスの利用も考えている。

今後ももちろん、宇宙服に関する最新の情報をお届けする。NASASuitUpタグも要チェックだ。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

NASAは月面用の宇宙服を将来的には民間企業にアウトソーシングへ

NASAは、特に宇宙服に関して、業界からの情報を求めるという正式なリクエストを発行した。宇宙服の生産と付随するサービスを、外部の業者に委託するための将来の道筋を探ろうと考えている。

これは、宇宙服の設計と生産を、ただちにアウトソーシングするという意味ではない。NASAは、最初のArtemis(アルテミス)ミッションで使う宇宙服を自ら開発し、検証するつもりでいる。実際にArtemis IIIでは、引き続きアメリカ人男性と、最初のアメリカ人女性を月面に送り込む予定となっている。その後のArtemis計画としては、さらにAltemis 4から8まで、5つのミッションが提案されている。そのうちの4つでは、乗組員を月まで運ぶことになっている。

もちろん、すでにNASAは、民間企業だけでなく、学術機関や研究者とも協力して、自らの宇宙服に組み込むべき技術について検討してきた。現在の探査用宇宙服が、将来の設計の基礎となること前提とした上での話だ。しかしその一方で、宇宙服の製造と検査を、その業界のパートナー企業に完全に移管することも視野に入れている。さらに、そうしたパートナーが「宇宙服の進化を促進させる」ことにも期待している。また、現状の宇宙服の設計の改良も持ちかけたいと考えている。

NASAは、宇宙服だけではなく、船外活動の際に宇宙服と組み合わせて使うツールやサポート用のハードウェアに関する情報も求めている。飛行士を運ぶ輸送船の内部や、地球と月面の中継基地となるゲートウェイでも、そうした宇宙服がうまく機能する必要があるからだ。

それからNASAは、宇宙服や宇宙遊泳を、うまく事業化するにはどうすればよいか、といったことについても、多くの企業から話を聞きたがっている。NASAの外部の顧客にも、そうした技術を提供するためだ。

最近のNASAは、Artemisだけでなく、将来の火星探査、現在のISSに関して、さらにISSを事業として企業に引き継いでもらう可能性などについて、より深く業界と提携することに強い関心を示していることが見て取れる。それを考えると、宇宙服についての動きも、まったく驚きではない。NASAが発行した完全なRFI(情報依頼書)は、ここから入手できる。宇宙服のスタートアップを始めたいと考えている人は、見てみるといいだろう

原文へ

(翻訳:Fumihiko Shibata)

Elon MuskがSpaceX宇宙服の全身ショットを初お披露目

Elon Muskが社内でデザインしたSpaceX宇宙服の写真を披露した。これは、同社によって作成された新しい宇宙服のデザインを、Muskが公開した2枚目の写真だ。なお全身が見えるのは今回が初めてである。

最初の写真は頭部と肩に焦点を当てたもので、色の付いたフルフェイスマスクのヘルメット、角張った肩、そして白黒のデザインを見せていた。今回の写真は、宇宙服を(SpaceX初の有人打ち上げで使用する)Crew Dragonカプセルと並べて見せたものだ。

Instagram Photo

Crew Dragonの横に立つ宇宙服を着た宇宙飛行士

このスーツの全身ショットは、屈曲時の可動性を確保する柔らかな膝を特徴とするズボンとともに、初めて手袋とブーツのデザインを明らかにしている。背中には、カプセル内に座っている間快適に過ごすのを助けるような、黒い詰め物の領域があるように見える。

ブーツはとても軽量に見えるが、おそらく移動性のために最適化されているだろう。いずれにせよ、この宇宙服は船外活動(EVA)のためにデザインされたものではない。宇宙飛行士たちがカプセルの中にいる間に保護を提供するために作られたものだ。また完全に真空状態に晒されるのではなく、ある程度空気が存在する状況下での他の宇宙船(例えばISS)への移動の際にも用いられる。

以下に示したのが、以前公開されたヘルメットショットだ:

Instagram Photo

SpaceX宇宙服の最初の写真。この先数日で更に枚数が増える予定。実際に機能するというところに注目すべき価値がある(モックアップではない)。各種真空テストも行われている。美しさと機能のバランスをとるのは非常に難しかった。別々ならば簡単なのだが。

[ 原文へ ]
(翻訳:Sako)

商用ロケットStarliner乗組員の宇宙服をボーイングがお披露目

starliner_gallery14_960x600

商用宇宙産業は、新しいロケットやそれらに関連する機材の開発では、偉大な仕事を成し遂げている。しかし宇宙服に関しては選択肢があまり存在していなかった。これまでは。ボーイングはそのStarliner機に搭乗する宇宙飛行士が着用する宇宙服を公開した。既存のものに比べて、大いなる改良が施されているもののように見える。

元宇宙飛行士で現在はボーイングのStarliner Crew and Mission Systemsを率いるChris Fergusonは、昨日(米国時間25日)カメラの前でその宇宙服を披露した

これは船外活動を行うためのものではなく、宇宙飛行士が打ち上げ段階から宇宙ステーションへ到着するまで、あるいはその逆の場合に着用されるものだ。それでも気密性と、極端な温度、高真空、宇宙放射線だけに限らないその他の「極限」状況への耐性は必要とされる。しかし、間違いなく、1990年代以降NASAが作っている、明るいオレンジ色のAdvanced Crew Escape Suitsには改善の余地があったのだ。

「私たちは宇宙服をシンプルなものにしました」とFergusonはボーイングのビデオの中で述べている。「これまで宇宙飛行士たちは、太い首のリングを有する比較的かさばる重いスーツを着ていました。しかしこの年月の間に、私たちはそのリングは不要であることがわかりました」。

  1. 32141923950_c6a9a6069f_k.jpg

  2. 32141926980_3eb9cf5061_k.jpg

  3. starliner_gallery14_960x600.jpg

  4. starliner_gallery13_960.jpg

  5. starliner_gallery15_960.jpg

  6. 31677346374_c95e07194f_k.jpg

  7. starliner_gallery17_960.jpg

関連記事

SpaceXがドローン船を使ったFalcon 9ロケットの回収に成功 民間企業の宇宙レース激化―ボーイングCEOが「SpaceXより先に火星に着く」と宣言 Elon Muskが、来月SpaceX社本社からトンネルの掘削を始めるとツイート【英語】

NASAの宇宙服が30ポンド(約13.6キロ)あるのに対して「ボーイングブルー」スーツの重量は12ポンド(約5.4キロ)であり、よりコンパクトでかつ多くの機能を有している。内部はより涼しく、より柔軟で、通信機器はヘルメットに埋められていて、大きな金属の首のリングは存在していない。その代わりにヘルメットはジッパーで装着され、使っていない時には、フードのように後ろに垂れ下がるようになっている。

リーボックによってデザインされた靴は、ブーツと言うよりも大きなソフトランニングシューズのようだ、そして手袋には21世紀に於いて最も重要な機能が備わっている:タッチスクリーンを操作できるのだ。

ボーイング社は、2018年にはそのStarliner CST-100ロケットに最初の商用乗組員を搭乗させる予定だが、その際にはこの宇宙服が着用されることになる。

ということで、目下の疑問は、SpaceXは果たして更にクールな宇宙服でボーイングを巻き返すのだろうかということだ。その答は程なく分かることだろう。なにしろSpaceXはボーイングがスポットライトを独占し続けることを許さない連中だからだ。

[ 原文へ ]
(翻訳:Sako)