環境汚染や異常気象、人口過密によって、大規模な屋外農場の存続が危ぶまれている。Bowery Farming Inc.と呼ばれるスタートアップは、この度のラウンドで750万ドルを調達し、都市部でも屋内で食物を栽培できるよう努力を重ねている。同社は、ロボット工学やLED照明、コンピュータビジョンやセンサー、データ解析といったハイテク技術を駆使し、農薬ゼロかつ少量の水を使って葉物野菜を栽培している。
Boweryは、自社で栽培したレタスやケール、ほうれん草、バジルなどの野菜を、業務用スーパーやレストラン、食料品店などに販売して収益を挙げている。同社の技術を使えば、1年を通して野菜が栽培でき、収穫量は同じ作付面積の従来の屋外農場と比べて100倍以上にもなる上、水の量は95%も少なくてすむ。
Boweryの共同ファウンダーでCEOのIrving Fainは、「過去10年間のテクノジーの進歩によって、今では農作物を安定して生産できるようになりました。私たちは2年前から、この進化したテクノロジーの活用に取り組みだし、近いうちに世界の人口は90億人に達すると言われ、そして約35年後には世界中の70%の人が都市部に住むことになると言われている状況で、人々に食べ物を供給するにはどうすれば良いのだろうと考えはじめました」と話す。
Boweryがつくった「現代的な屋内農場」を使えば、都市部でも新鮮な野菜の地産地消が実現できるとFainは言う。「LED照明など人工の光源を使った屋内栽培は、既に何年間も行われています。しかし照明機器の値段が下がったことで、商業目的での屋内農業ができるようになったんです」
Boweryの施設のほとんどは市販の製品から構成されているが、同社が開発した「FarmOS」とよばれる自前のシステムで全てが管理されている。Boweryはコンピュータビジョンの技術やセンサーを使って、作物の様子や屋内の気候をモニタリングし、作物に影響のある数値を何百万というデータポイントからリアルタイムで集めることで、何が作物の成長度合い、もしくは色、質感、味といった個別の要素に変化をもたらすかというのを把握することができる。
First Round Capitalがリードインベスターを務めた今回のラウンドには、Box Group、Lerer Hippeau Ventures、さらにはショートリブの蒸し煮が看板メニューのシェフで、レストラン経営者としても人々に愛されており、その上Bravoのテレビ番組Top Chefで審査員も務めるTom Colicchioが参加していた。Fainによれば、Colicchioが経営するレストランの中にも、既にBoweryの野菜を使っているところがいくつかあるという。同社の作物は、それ以外にもWhole Foods Marketsなど、ニューヨークを含むトリステートエリア(3つの州の境界が交わる地域。この場合だとニューヨーク州、ニュージャージー州、コネチカット州)のお店で販売されている。
First Round CapitalのパートナーRob Hayesは「今すぐにとは言わずとも、仮に15年もすれば水の値段は上がり、作物を育てられるような土壌は貴重な存在になり、屋内よりも屋外で作物を育てるほうが高くつくようになるというのは、農業に携わっている人たち全員が考えていることです。そこで、わざわざ悲劇が起きるのを待つ必要もないだろうと私たちは考えました」
自称楽天家のHayesの言っていることは、決して誇張ではない。California Climate and Agriculture Network(CalCAN)によれば、「サラダボール州(salad bowl state)」とも呼ばれるカリフォルニア州の農地は、開発のせいで毎年平均5万エーカーも減少しており、この状況が過去30年間続いている。昔は作物の栽培や家畜の育成に使われていた土地が、ここまで舗装されてしまっているとは驚きだ。
Boweryの競合には、葉物野菜の生産大手のEarthboudやFarms、Doleがいるほか、屋内での持続可能な農業に取り組んでいるスタートアップとしてはAerofarmsや、温室栽培のBrightFarmsなどが存在する。しかしHayesは、ただソフトを開発して、他人の農場で作物をリスクにさらしながらビジネスを展開するよりも、「種からお店まで」のアプローチで、自社の農場を使って実際にシステムに効果があることを証明してきたBoweryのやり方に惹かれたと話す。
今回の調達資金は、新しい屋内農場の設置や、他の作物を屋内で育てるための新しいテクノロジーの開発・テスト、そして引き続き食料品店やレストラン、食品EC企業などへの営業に使っていく予定だとFainは話す。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)