「VUCA」の時代を生き抜くスキル習得を、岡山大の問題発見・解決力育成プログラム「SiEED」

国立大学法人岡山大学は「SiEED」(STRIPE Intra & Entrepreneurship Empowermentand Development)を開講し、4月8日に基礎プログラムの第1回講義がスタートした。その2日前の4月6日に開催されたキックオフイベントでは、Evernote元CEOのフィル・リービン氏などが登壇して受講生にエールを送った。今回ははそのレポートの2回目。ゲストからの受講生へのメッセージを中心に紹介をする。

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思考の幅を広げるために、VUCAの時代に必要な視点とは?

「SiEED」のキックオフイベントでは、自身を「Dreamer And Doer」(夢見てそれを実行する人)と称するBio-Artistの福原志保氏、外資系企業から白馬インターナショナルスクール設立準備財団代表に転身した草本朋子氏が登壇し、SiEED エグゼクティブアドバイザーでスクラムベンチャーズパートナーの外村 仁氏がモデレーターとして、トークセッションを行った。

自身の人生の「計画性」について語る福原氏

福原氏は自身の人生は常に「計画性ゼロ」と表現。「フランス語にハマって渡仏、現地で英語を話せないことに課題を感じて英国に留学、しかし近くのアートを扱う大学の方が面白そうで、入試が終わっていたが手続き方法を聞き出して入りこんだ。」というエピソードを披露。その福原氏は大学で「バイオプレゼンス」という、故人の遺伝子を木に組み込む生物の世界の常識を破る取り組みを発表。倫理面・法律面で賛否多く反響があったという。福原氏は大学という場について「『リサーチ』という前提で、普通できないことができる。実行力とレジリエンスを発揮してほしい」と学生へのエールを送った

「VUCA」の中で戦うことの重要性を説く草本氏

続いて登壇した草本氏は、「22年教育を受け、45年間働き、余生を送る時代は崩壊し、学び続けなければならない今、VUCA(Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の中で戦えるソフトスキルを習得することが重要」と指摘。草本氏は長女の妊娠を機に魅力を感じていた白馬に移住したが、地元の高校が生徒減で存続の危機に直面、全国から生徒を集めてそれを食い止める経験をしたという。ならば「日本に限らず世界から生徒を集めよう」と、インターナショナルスクールの開校を準備。その学校で草本氏は「FAIL(First Attempt in Learning、失敗は学ぶための最初の機会)を大事にしたい。日本は失敗を認めにくい文化だが、子供達から失敗のチャンスを奪ってはいけない」とした。

「事前の計画」が通用しない中での思考法について示唆をする外村氏

こうした話を受けてモデレータの外村氏は、「計画性」が必ずしも大切ではなく、VUCAの中では計画すること自体に無理があると指摘。「既存の解答力が重要視されていた時代から、未知の問題解決力、さらには新規の問題設定力が重要な時代に移行していく」と、会場の生徒・学生たちに「思考の幅を広げる」ための考え方を伝達していた。

続いて第3部では、SiEEDプログラムの具体的な内容について、ストライプインターナショナル代表取締役社長兼CEOで公益財団法人石川文化振興財団理事長を務める石川康晴氏、岡山大学理事(研究担当)で副学長、SiEED-Okayama起業家精神養成学育成講座の代表を務める那須保友氏、モデレータとしてSiEEDディレクターでSVVI日本代表を務める山下哲也氏が登壇した。

SDGsに向けた取り組みとして「教育」を最重要視する姿勢を示す石川氏

地元、岡山でアパレルをはじめとしたさまざまな事業を展開するストライプインターナショナルは、これまでさまざまな形で岡山に貢献してきた。ただ今回の出資は一際大きなもので、背景には、同社のコーポレートメッセージ「いいこと、しようぜ。」がある。石川氏は「大企業や役所を改革しようとしていた若者がどんどん牙を抜かれて丸くなる様子を見てきた。だが、世の中を変えた地方の事例は沢山ある。ネスレやウォルマートも田舎の企業。岡山から、世界を目指せる。我々が仮に「いいこと、しようぜ。」を一つしかできないなら、教育を選びたい。大きな世界の中で新しい技術を武器に新しい世界を作っていける人を育てたい。」と、SiEEDプログラムを同社が非常に重要視していることを聴衆に伝えていた。

「悩むより考えよう」と呼びかける那須氏

続いて登壇した那須氏は、自身が「いつか海外に留学し、先進的な遺伝子治療を岡山で実施したい」という夢を持ってさまざまな課題に挑んできたエピソードを披露。ただ、そこで重要なのが「課題はどこにでもある。それを見つけて解決すると、世界は広がる。次は新しい課題を、楽しみながら解決できる。悩む暇があるなら、解決法を考えよう。というのも、悩む=答えが出ないことを前提に考えるふりをする、であることが多いので、それならば考える=答えが出ることを前提にして建設的に考える、をやっていくべきだ」と指摘。那須氏はさまざまな紆余曲折は経たものの、最終的に岡山の地で遺伝子治療を手がけることに成功している。

学生にSiEEDプログラムの概要を伝える山下氏

最後に、SiEEDプログラムの具体的な内容について山下氏から説明があった。山下氏は「SiEEDプログラムはまさに、VUCAの中で戦うスキル、特に考える力を培うもの。課題設定・解決力はこれからの時代の基礎概念であり、これを養うのが基礎プログラムだ。オンライン学習を用いた反転授業を目指す。オンラインの自習コンテンツは、何度でも巻き戻して納得するまで学べる。授業では、ディスカッションを中心に、各自が考えてきた結果を共有し、さらなる議論の場にする」と説明。

さらに、後期からは「応用プログラム」が開始される予定。ワークショップやブートキャンプを通して、アントレプレナーシップやイントレプレナーシップの概要、数学力、データ分析、プログラミング、グロースハッキングといった、これからの時代に必要な実践的なスキルを学べるようにするという。

いよいよ動き出した岡山大学の新たな取り組み。ここから地域に改革をもたらす人財が登場するか、期待して見守りたい。

岡山大学が本気の大学・地域改革へ、起業マインドを育てる「SiEED」プログラムを来春開講

写真左から、岡山大学・研究推進産学官連携機構医療系本部長の那須友保氏、岡山大学の槇野博史学長、ストライプインターナショナルの石川康晴社長、SiEEDエグゼクティブアドバイザーの外村 仁氏、SiEEDディレクターの山下哲也氏

国立大学法人岡山大学は12月6日、ストライプインターナショナルとともに、岡山から未来創造に向けた新たな学びの場を通して、新たなビジネスが創出されることを目指すプログラムを発表した。岡山大学内に「SiEED」(STRIPE & intra Entrepreneurship Empowerment and Development)」と呼ばれる全学対象の教養科目として講座を開設する。

ストライプインターナショナルとは?

ストライプインターナショナルは、岡山が拠点で創業25年のアパレルメーカー。石川康晴社長が23歳のときに4坪のセレクトショップとして起業。その後SPA(製造小売り)となり、最近はライフスタイル&テクノロジーにも力を入れている企業だ。

社名は知らなくても、earth music&ecologyやKoeなどのブランド名で知っている読者が多いかもしれない。同社はアパレルメーカーの枠を超えてさまざまな社会貢献に取り組んでおり、その一環として岡山で人を育てるために「SiEED」を岡山大学とともに立ち上げた。

SiEEDにおけるストライプインターナショナルの初期の役割は、主に資金協力。具体的には、国内外の起業家や投資家などを講座に招く際の費用などを負担するそうだ。石川社長は「数年間の活動資金としては20億円程度を用意しているが、SiEEDプログラムへの取り組みはその後も死ぬまでやる」と非常に力強いコメントを残した。

石川社長によると、SiEEDユースといった小中高校生を対象としたプログラムも考えており、大学だけでなく地域を巻き込んでの改革を進めていくとのこと。

SiEEDの具体的な取り組み

エグゼクティブアドバイザーとしてSiEEDに参加する外村 仁氏(Scrum Venturesパートナー、前エバーノートジャパン会長)は、「海外で生活していたときに地方に誇りを持って生いる人々と出会い、日本でも地方出身、地方で働くことを誇れる環境を作りたい」と意気込みを語った。ちなみに石川社長とは、ストライプインターナショナルが外村氏がパートナーを務めるScrum VenturesのLPになったことで知り合ったとのこと。

日本では過去にあった課題を素早く読み解く能力が必要とされてきたが、現在では未知の問題をどう解決するかが重要であるとし、そしてこれからは新規の問題設定力を養うのが大事になると外村氏。そのためには若いうちから「役に立っているという実感」が必要だと語った。SiEEDの具体的なスケジュールとしては、4月に基礎編、8月に応用編の講座を開講する。2019年春には岡山でカンファレンスを開く予定とのこと。

ディレクターとして参加する山下哲也氏(500 KOBEリエゾンオフィサー)によると、SiEEDは起業そのものを目指すプログラムではなく、起業家精神・発想法を学ぶ場にしたいとのこと。基礎プログラムでは、次世代に求められる思考習慣と新基礎概念、応用プログラムではイノベーションの鍵となる専門知識や応用実践手法を学べるという。講座はインターネットで無料公開され、誰でも視聴することができる点にも注目だ。

地方の大学や地域の課題

岡山大学の槇野博史学長は、東京に一極集中している現状を打破し、SiEEDプログラムによって岡山大学が得意な医療やロボティクスなど分野の強化も図っていきたいとのこと。現在、国立の岡山大学いえども、少子高齢化による学生数の減少が深刻な問題になっているそうだ。医学部は5倍超の倍率を維持しているものの、他学部の倍率は2倍強まで下がってきているとのこと。こういった状況を打破するためにもSiEEDプログラムなどを通じて、岡山大学の魅力を高めていきたいとのこと。

SiEEDの座長で、岡山大学で研究推進産学官連携機構医療系本部長を務める那須友保氏は、卒業生の県内の人気の就職先が県庁や市役所になってしまっている現状を変えたい、起業やスタートアップへの投資は岡山で他人事のように捉えている現状を打破したいとコメント。岡山大学としては、学生の起業・投資マインドを高めるのが第1の狙いだが、講座をネットで無料公開することで、大学の教職員はもちろん、県庁、市役所の職員などに学んでほしいと呼びかけた。