気候変動に配慮する企業の水に関するリスクと持続可能なソリューションを追跡するWaterplan

新鮮な水は、気候変動の影響をますます受けている多くの資源の1つである。そしてその影響は、この豊富だが限りある天然資源に依存している企業にも及んでいる。シードラウンドで260万ドル(約2億9000万円)を調達したWaterplan(ウォータープラン)は、企業の水使用が地域の環境にどのような影響を与えるかということだけではなく、避けられないと思われる危機が到来したときに事態を沈ませておくのに役立つ緩和策を分析し、追跡することを目指している。

Jose Galindo(ホセ・ガリンド)氏とNicolas Wertheimer(ニコラス・ヴェルトハイマー)氏、そしてその同僚であるMatias Comercio(マティアス・コメルシオ)氏とOlivia Cesio(オリビア・セシオ)氏は、環境セクターとその周辺で長年働いた後にWaterplanを設立した。同氏らは水にまつわる現状を意識していた。二酸化炭素排出に関する多くの行動、データ、計画が存在するにもかかわらず、水のリスクに関しては、それが脅威として認識されるに至っていないため、比較的ほとんど行われていない。4人は会社を立ち上げ、Y Combinator(Yコンビネーター)の2021年夏のコホートに参加した。

「より多くの企業が水の安全性や水に関するその他の考慮すべき事柄を開示し、行動していますが、水のリスクの定量化とメディエーションを担うSaaSプラットフォームが必要です」とガリンド氏は語る。「企業は事後対応型のアプローチを取ってきましたが、そうした(気候関連の)弊害が頻繁に起こるようになってきているため、事態の予測と先手を打つ行動のオポチュニティが生じています。気候変動はすでにこの分野に及んでおり、今後さらに加速していくでしょう」。

もちろん、これは「水道水を出しっぱなしにしない」というような単純なアドバイスではなく、雨押さえの補充や主要な自治体の工事など、産業規模の取り組みである。Waterplanはまず衛星画像からデータを抽出する。そして林冠、水域、その他の重要な指標を、客観的な測定値としてさまざまなコンテクストとともに示す。何年にもわたる画像と分析の結果から立証された明確な傾向に基づくものだ。この測定値は、これらの資源を綿密に監視する水や環境関連の当局による直接測定値と組み合わされる。

一例を挙げると、コーヒー豆を加工する工場では、近くの川の水を1時間に1万ガロン(約3万8000リットル)も使うことがある。工場の影響を示す過去のデータと将来的なデータを分析することで、5~10年後には持続可能な比率ではなくなり、下流で問題が発生することが示されるかもしれない。これらの問題により、会社はその時期に4000万ドル(約45億円)の損失を被ることにもなり得る。しかし、1000万ドル(約11億円)ほどのコストで、森林を再生して樹木の樹冠を拡大する現地の取り組みを倍増させれば、保水力が高まり浸食が緩やかになっていく。水の利用可能性が正味で増加し、4000万ドルのリスクを回避することにつながるだろう。

実際のレポートは明らかにより詳細で、特定の場所や企業に高度に特化している。それらがどのような規模で運用されているのか、どのような種類のデータを追跡しているのかを以下に示したい。

  1. waterplan-1

  2. waterplan-2

  3. waterplan-3

  4. waterplan-4

この種の分析とアドバイスは決して前例がないわけではないが、環境コンサルタントが年に1回か数回(もしあれば)行うようなものである。Waterplanのアプローチは、これを可能な限り自動化し、ビッグデータの問題として扱う。そこにはさまざまな因子が含まれており、リスクや緩和戦略のような要素が対極から浮かび上がってくる。もちろん、これはそれほど単純なことではないが、市場と自然現象の両方の変化が加速している現状では、より迅速に、よりターゲットを絞った実行可能な方法でこれを行う必要がある、と創業者たちは説明する。

「事前対応型よりも事後対応型の方がコストがかかります」とヴェルトハイマー氏。「私たちはこれを意識的な取り組みにする必要があります」。

ガリンド氏は、地元の水供給、復旧作業、その他の要因に関するデータの多くが断片化しており、互換性がないことを強調した。これらの異種の情報源を調整し、そのデータを統合されたマップと予測にまとめるには、多くの作業が必要となる。

ステージ上でイスに座る創業者たち。左からホセ・ガリンド氏、ニコラス・ヴェルトハイマー氏、マティアス・コメルシオ氏、オリビア・セシオ氏(画像クレジット:Waterplan)

「企業にとって重要なのは、さまざまな気候シナリオや場所で何が起きるのかを理解し、継続的にアップデートされた詳細な方法でそれを確認できることです」とガリンド氏は語っている。「現時点では水は安くて豊富ですが、常にそうであるとは限りません。2030年には需要と供給の間に30%のギャップが生じるでしょう。今後10年の間に圧力が生まれると考えています」。

より優れたデータを持ち、積極的に対策を講じてきた実績のある企業は、資源が減少したり、ウォータークレジットのようなものをめぐる競争が激化したりする中で、より有利な立場に立つことになる。現在でも、カーボンクレジットをはじめとする資源や投資が深刻に不足しており、何億ドル(何百億円)もの資金を投じたいと考える企業でさえ、そのオポチュニティを得られていない可能性がある(カーボン先物はこの問題を解決するポテンシャルがあり、清水などの資源についても同様の市場が出現することも考えられる)。

今後10年で気候監視エコシステムの大部分を占めることになるかもしれない分野に早期に参入することは、Waterplanの最初の投資家たち(Y Combinatorに続く)にかなり良い賭けだと判断されたようだ。260万ドルのラウンドをリードしたのはGiant Venturesで、参加者のリストには次のような著名な投資家が名を連ねている。Sir Richard Branson(サー・リチャード・ブランソン)氏一家、Monzo(モンゾ)の創業者Tom Blomfield(トム・ブロムフィールド)氏、Unity(ユニティ)の創業者David Helgason(デイビッド・ヘルガソン)氏とNicholas Francis(ニコラス・フランシス)氏、NFLのレジェンドJoe Montana(ジョー・モンタナ)氏、Microsoft(マイクロソフト)の元グローバルウォータープログラムマネージャーPaul Fleming(ポール・フレミング)氏、MCJ collective(MCJコレクティブ )、Climate Capital(クライメート・キャピタル)、Newtopia(ニュートピア)、Jetstream(ジェットストリーム)、Mixpanel(ミックスパネル)の創業者Tim Treffen(ティム・トレフェン)氏。

ヴェルトハイマー氏とガリンド氏によると、当面の計画は、主に開発を強化することに置かれているという。プラットフォームを構築するという複雑な作業を処理して、さまざまな業界や環境が望むような洞察を生み出し続けるためには、エンジニアや水文学者が必要だ。

同社が作成したデータや分析は政府やNGOに歓迎される可能性が高いが、変化をもたらす可能性が最も高いステークホルダー(そして、いわなければならないが、そのサービスのためにお金を払っている)は、リスクの削減や現地での地位の向上を目指す民間企業である。ただし創業者たち(以前は水へのアクセスやNGOとの関わりを強調していた)は、ひとたび牽引力が発揮され、プロダクトや手法が確立されれば、もっと広く利用できるようにしたいと考えている。

画像クレジット:dan tarradellas / Getty Images

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

ロンドン大学の研究者が生物のDNAを空気サンプル中から見つけ出すeDNA分析技術を発表

ロンドン大学の研究者が生物のDNAを空気サンプル中から見つけ出すeDNA分析技術を発表

Andrew Brookes via Getty Images

ロンドン大学クイーン・メアリー校の研究者が、空気サンプルのなかから、そこにいた生物のDNAを採取する方法についての研究を発表しました。学術誌PeerJに掲載されたこの実証研究は、これまで主として水圏生態系の調査で使われた環境DNA(environmental DNA:eDNA)を生態学や健康科学、医学の分野に応用できる可能性を示すものです。

植物や動物などの生物は、周囲の環境との関わりの中でDNAを排出することがわかっていて、これをeDNAと呼んでいます。eDNAは主に水、または土壌のなかに含まれるものを調べる研究がこれまでに進められて来ました。しかしこの新しい研究では空気サンプルからeDNAを集めて、動物種の同定に利用できるかどうかを検討しました。

研究者は、地下に巣を作り繁殖するハダカデバネズミを飼育していた部屋の空気サンプルから既存の技術でeDNAを採取し、その配列を調べることで、このネズミだけでなく、作業している人のDNAまでも検出できることを確認しました。

この技術はもともと生態学者が生物学的環境を研究するために使われてきたものでしたが、主任研究者のエリザベス・クレア博士によれば、実験で人のDNAを検出できたことで、このサンプリング技術がさらに進歩すれば法医学の分野でも応用できる可能性が示されたとのこと。わかりやすく言えば、犯罪の現場で科学捜査班がeDNAを調べ、現場に居合わせた犯人の痕跡を追跡することもできうるということです。また、細菌・ウイルス学者がこの技術を利用できれば、新型コロナなどのようなウイルスがどのように感染を広げるのかを理解できるかもしれません。

ただ、まだこの技術の実用化には時間がかかりそうです。研究チームはNatureMetrics社など民間企業と協力して実用化に向けた取り組みを行っていますが、混雑していた場所などでは種種雑多なDNAが検出され、必要なものが埋もれてしまう可能性もありえます。とはいえ、まったく証拠が見つからないような状況でこの技術が使えれば、決め手となるDNAが発見され、それが何かを解決するのに役立つことも十分に考えられるでしょう。

(Source:PeerJ、via:ScienceFocusEngadget日本版より転載)

関連記事
3Dプリントで作られた「バイオニックコーラル」がサンゴ礁の光合成を模倣する
京大発スタートアップ「バイオーム」が環境省「気候変動いきもの大調査(冬編)」に協力
東大発「イノカ」と東工大発「aiwell」が海の環境保全達成に向け共同プロジェクトを開始
この海洋動物用ウェアラブルは、邪魔することなく生態を追跡できる
MITの魚ロボット、フィジーで本物を調査

カテゴリー:EnviroTech
タグ:環境DNA / eDNA(用語)生態学(用語)DNA / 遺伝子(用語)ロンドン大学(組織)