マイクロソフト、アクティビジョン・ブリザード買収の規制対策でMicrosoft Storeがオープンであることを表明

Microsoft(マイクロソフト)は、世界有数の人気ビデオゲームの数々を傘下に収める計画に対する議会の圧力を和らげようとしている。同社は2022年1月、Activision Blizzard(アクティビジョン・ブリザード)を687億ドル(約7兆9400億円)で買収する意志を表明した。実現すれば史上最大規模のゲーム買収になる。

この買収は必ずしも不幸な運命にあるわけではないが、今はMicrosoftにとって規制当局の注目を引くことがリスキーな時期だ。米国では、議員と規制当局がこのテック巨人の同業者たち、具体的にはMeta(メタ、前Facebook)、Apple(アップル)、Amazon(アマゾン)らに強く焦点を合わせている。ソーシャルネットワークや広告、オンラインマーケットプレイスに関する議論の中にMicrosoftの名前は出ていないため、これまでこの巨大企業はそのサイズにも関わらずかろうじて当局の網の目をくぐってきた。

しかしActivision Blizzardとの取引が審議の対象になると、それが続く可能性は低い。2022年2月初めにBloomberg(ブルームバーグ)は、この買収提案がFTC(連邦取引委員会)の審査を受けるだろうと報じた。現在のFTC委員長であるLina Khan(リナ・カーン)氏は、過熱するテック業界の統合を破壊することに精を出している反トラスト学者だ。

MicrosoftのBrad Smith(ブラッド・スミス)プレジデントは、2月9日のブログ投稿で、規制当局の話題に直接触れ、あくまでも協調的な姿勢を打ち出しながら、規制当局の提案を受けて同社が採用する予定の「Open App Store Principles(オープンアプリストア原則)」の概要を示すとともに、世界で最も人気のあるゲームタイトル群を手に入れる同社自身の計画を発表した。

Microsoftは、この新たな方針を規制の変化に適応するための予防的取り組みであると説明しているが、同時に、連邦政府がこの買収を承認することへのアピールであることは明白だ。

生まれつつある新時代のテック企業規制は利益とリスクの両方をもたらす、と私たちは認識しています。それは1つの企業にとってだけでなく、私たちの業界全体にとってのことです。すでに指摘されているように、どんな新たな規制にもリスクがあり、公正なヒアリングと十分な検討が必要です。しかし当社は一企業として、規制と戦うのではなく順応することに今後も焦点を当てていきます。当社が20年にわたり反トラスト法を遵守し、自らの経験から学んで来たことが理由の1つです。変わることは簡単ではありませんが、新しいルールに順応し、革新を起こすことは可能であると私たちは信じています」

スミス氏がここで提示した原則は、規制当局の関心対象である問題にいくつも触れており、アプリストアのデータを使ってデベロッパーと競争しないこと、自己優先を行わないことへの誓約も含まれている。さらに同社は、自社の決済システムの使用をデベロッパーに強要しないこと、あるいは他のプラットフォームでの有利な取引についてデベロッパーが顧客とやり取りするのを妨げないことも約束している。

Microsoftは、一連のオープン化原則はWindows(ウィンドウズ)向けに作ったガイドラインを改変したものだが、Xboxにも「今日から」適用するつもりだという。気になるのは、同社が約束した中に、Microsoft Storeでの決済オープン化に関する重要事項が入っていないことだが、他の原理を実行に移すことで穴埋めしていくつもりだと話した。

当社は、アプリストアのデベロッパーがアプリ内決済で我々の決済システムを使用することを強要しません。

当社は、アプリストアのデベロッパーが、我々のアプリストアで他のアプリストアよりも有利な条件を提供することを強要しません。

当社は、当社以外の決済処理システムを使用する、あるいは他のアプリストアで異なる取引条件を提供することを選択したデベロッパーをに不利に扱いません。

当社は、デベロッパーが価格設定や提供するプロダクト、サービスなど、合法的ビジネス目的のために、自社アプリを通じて顧客と直接やり取りすることを妨げません。

スミス氏はさらに、今回の取引を巡る懸念のいくつかについても直接答えた。同氏は、取引が成立した場合でも、「Call of Duty(コール・オブ・デューティー)」はSony(ソニー)のPlayStation(プレイステーション)で「既存および将来の契約に関わらず」引き続きプレイ可能であることを確認した。これでSonyコンソールのオーナーが置き去りにされる心配はなくなった。

「Nintendo(ニンテンドー)の成功しているプラットフォームのサポートにおいても同様の手段を講じる予定です」とスミス氏は書いている。「業界にとってもゲーマーにとっても当社のビジネスにとってもこれが正しい行動だと信じています」。

スミス氏は「Activision Blizzardの他の人気タイトル」も同じ扱いを受け、ただちにMicrosoft独占になることはないことを強調した。「Call of Duty」以外に、Activision Blizzardとの契約には、「OVerwatch(オーバーウォッチ)」「World of Warcraft」「Diablo(ディアブロ)」「Starcraft(スタークラフト)」「Hearthstone(ハースストーン)」「Candy Crush(キャンディークラッシュ)」など数多くのヒットゲームが含まれる。

ゲーム・コンソール戦争は新時代に入った

Microsoftがこの巨大契約を、ゲーマーをゲーミング方程式のXbox側に引き寄せるために使わないことはとても考えられないが、ゲーム機戦争はかつてほど重要ではなくなっている。少なくとも、我々がこれまで考えていたような意味では。

Epic(エピック)対Apple(アップル)裁判の際、Microsoftはハードウェア販売には補助金を出しており、Xboxコンソールで利益を上げていないことを認めた。ゲーム売上とゲームサブスクリプションサービスが、実際にゲーム機メーカーが利益を上げる仕組みではあるが、ハードウェアもまったく関係ないわけではない。アプリモデルとよく似て、ゲーミングでも顧客をソフトウェアストアに呼び寄せ、確保し続けることがすべてだ。みんなの欲しがるハードウェアを作ることは、そのための主要な手段の1つだ。

ユーザーが他のメーカーのコンソールでゲームをプレイすれば、そのライバルは分け前(30%が標準的)を受け取るが、それでも自分たちは利益を得る。Microsoftにとって、彼らのゲーミングエコシステムをどこまでオープンにすべきかは、その計算と、ヒットタイトル(特にサブスクリプションとゲーム内購入のあるもの)を他のプラットフォームでもプレイ可能にしておくことによる顧客ベースの拡大との均衡がすべてだ。

スミス氏はブログでこの現実を明確に認め、アプリストアはゲーム業界の未来でも現在でもあると指摘した。「Windowsがオープンで広く使われるプラットフォームへと進化してきたように、ゲーミングの未来も同様の道をたどると私たちは見ています。【略】私たちのビジョンは、ゲーマーがどのゲームもどのデバイスでもどこででもプレーできるようにすることで、クラウドからのストリーミングもその1つです」とスミス氏はいう。

もちろん現在のアプリストアの仕組みは将来の変更対象だ。現在、議会を通過しようとしている反トラスト法案、American Innovation and Choice Online Act(米国のオンラインでのイノベーションと選択に関する法案)は、企業が自社プラットフォームで自己を優先的に扱い、競合相手を不利な立場に置くことを明示的に禁止するだろう。別の法案、Open App Markets Act(オープンなアプリ市場法案)もソフトウェアプラットフォームが過去10年間追求してきた壁に囲まれた庭を取り壊そうとしている。両法案とも、2022年1月に委員会を通過しており、Microsoftのような企業に重くのしかかる可能性は高い。たとえ、アプリストアや他のソフトウェアマーケットプレイスを崩壊させかねない一連の変更がゲーミングプラットフォームを対象としないとしても。

「私たちはワールドクラスのコンテンツがあらゆるプラットフォームを通じてすべてのゲーマーにもっと簡単に届くようにしたいのです」とスミス氏は書いた。「コンテンツ制作におけるイノベーションと投資が増え、流通の制限を減らすよう私たちは推進していきます。要するに、世界にはオープンなアプリ市場が必要であり、それにはオープンなアプリストアが必要なのです」。

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画像クレジット:Anadolu Agency / Contributor / Getty Images

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Nob Takahashi / facebook

Activision Blizzard、同社の未来を決める新たなサバイバルゲームを開発中

今でもまだ組織の混乱や組合いじめ、史上最大のゲーム企業買収がニュースの大見出しになってるようだが、当のActivision Blizzardは次のオリジナルゲームで忙しいらしい。

具体的な発表はまだほとんどないが、同社は今週、その「未発表のサバイバルゲーム」は「まったく新しい宇宙におけるサバイバルゲームだ」などと前宣伝している。その発表は求人ページにリンクしており、そこでは新しいゲームのアートをいくつか紹介している。

私たちはまったく新しい宇宙でのサバイバルゲームを作っています。私たちと一緒に次の章を書きましょう。https://t.co/yf7W5p9ERQ

そのアートの中では、毛皮を着て頭蓋骨の兜をかぶったハンターが膝をついて、おとぎ話の国の入り口の近くで何かを追っている。もう1つのコンセプトアートは、2人の人が、その魔法の国の別の入り口を覗き込んでいる現代的なシーンだ(自転車もある)。

このアートからわかることはあまりないが、そのコンセプトにはそそられるものがある。いずれにしても同社は、クリエイティブでシームレスなマルチプレイヤー世界を作るのが得意だ。しかもサバイバルという視点は、Twitchで人気になった「Fortnite(フォートナイト)」や「Rust」のようなゲームのジャンルへの、新鮮でおそらく洗練された参入になるだろう。Blizzardによる最新のフレッシュな大型IPといえば、eスポーツの大ヒットコンテンツ「Overwatch(オーバーウォッチ)」だが、その続編は制作は遅れており、リリースは2023年になるらしい。

「Call of Duty(コール オブ デューティ)」シリーズ、「オーバーウォッチ」「World of Warcraft」などのヒットゲームを発売しているActivision Blizzardは、2021年に同社でのセクハラと差別を主張するカリフォルニア州での訴訟のニュースで明らかになったスキャンダルに巻き込まれたままだ。

同社は証券取引委員会にも調べられており、手始めに2021年後期には従業員が召喚された。一方、この手広い企業を統括するのはCEOのBobby Kotick(ボビー・コティック)氏で、彼は同社の職場における不祥事や、それを放置したことの責任をよく自覚している。Bloombergの記事によるとコティック氏はMicrosoftによる買収が完了すれば現職を辞し、同社でXboxを担当していたPhil Spencer(フィル・スペンサー)氏がMicrosoft GamingのCEOとして同社を率いる。

この渦中にありながら、いや、だからこそMicrosoftは2022年1月、同社を687億ドル(約7兆8764億円)で買収する計画を発表した。この記録的な金額で複数の大型コンテンツが最大のゲーム機メーカーの傘下になり、国と州の規制当局が、やみくもに独占しようとしているテクノロジー企業に対しれ神経を尖らせているこの時期に、自らの運を賭けることになる。

もうこれ以上、見出しのネタに困ることはないが、しかしActivision Blizzardはさらに、同社の事業部であるRaven SoftwareのQAテスターたちが作った組合を認めないと宣言した。Ravenのグループは1カ月ほど前に、12人の契約労働者を解雇したことに抗議してストライキをしていた。

Twitter上で複数のBlizzardの従業員たちが、オーナーが変われば会社は安定すると楽観視している。もっと良い軌道に乗り、有害な職場文化を後にすることができる、と彼らは期待している。Microsoftによる買収が成立すれば、このゲーム大手は世界でもっとも安定確立したテクノロジー企業が采配を振るうことになり、その成熟と安定が、次の大型IPOを目指す企業にとって害になることはないだろう。

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画像クレジット:Chesnot

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hiroshi Iwatani)