Facebookに隷属することを嫌ったSnapchat、新戦略により新時代が到来する

SnapchatのCEOのEvan Spiegel氏は、ついにMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏のコピー軍団を撃退する妙案を思いついた。この2年半、Speigel氏は「我々の価値はコピーできない」と主張し、Facebookに対して正道で挑むという空しい時間を過ごしてきた。その無抵抗の態度により、ザッカーバーグ氏は、Instagram、WhatsApp、Facebookで、1日に10億人の「ストーリー」ユーザーを増やすことに成功した。それに対してSnapchatの1日のユーザー数は1億8600人だ。その間、ハイテク産業全体が、Snapが描いた刹那的で視覚的な未来という構想を競ってコピーしまくった。

しかしSnapchatの新戦略は、Facebookに隷属することを嫌ったその他のソーシャルメディアに向けて鬨の声を上げるものだった。それは、「勝ち目がないなら迎合せよ」という格言を、「やつらに勝つために力を合わせろ」に書き換えた。統一戦線としてSnapの仲間たちは、彼らとの差別化に集中できるように基盤を整備し、同時にSnapchatは支配範囲を広げ、戦いが継続できるよう塹壕を掘った。

Tinderはプロフィールの写真にSnapchatのストーリーを使うよう促している

Snapchatの計画は、半端なまがい物を作らせるのではなく、その最高の部分を他社のアプリに導入させることだ。オリジナルが利用できるなら、ストーリーやビット文字や広告を最初から開発する必要はない。Snapの上級幹部は、それこそが戦略なのだと、私にそっと教えてくれた。新製品を開発するとき、他社が同様の製品を欲しがっているとしたら、それを無視するのではなく「Snapchat化」を許して、部分的にコントロールするほうが賢い。そうしなければ、Snapが提案してみんなが欲しがっているものをFacebookがプラットフォームに組み込んでしまう。

この「写真屋」は、先週、故郷ロサンゼルスで初のSnapパートナーサミットを開催し、軌道修正を行い、自らの運命の支配権を取り戻した。現在それは、Snap Kitのお陰でカメラプラットフォームとなった。その新しいStory Kitを使えば、この秋から、Snapchatのストーリーを他のアプリに移植できるようになる。友達のストーリーの昔ながらのカルーセルをもっとたくさん表示できるようになり、アプリに独自の形式で織り込むことも可能になる。ハウスパーティーのストーリーカルーセルでは、そのグループ動画チャットアプリとは別の場所に仲間がアップした画像を共有できる。Tinderは、Snapchatのストーリーを写真といっしょに公開して気の合いそうな人を誘えるようにする。 しかし、カメラは常にSnapchatの中にあり、それらのアプリのストーリーに共有できる新しいオプションが付くことになる。

Snapパートナー・サミットで発表を行うSnapのCEOのEvan Speigel氏

これが、ネイティブなアプリのエコシステムを浸透させてゆくSnapchatの方法だ。Facebookが「いいね」ボタンでウェブの世界に浸入していった方法とよく似ている。しかし、Snapは個人データの管理が強力であるため、FacebookとCambridge Analyticaとの過去の関係により自社ブランドに傷が付くことを恐れる企業は、自ら望んでSnapの仲間になりたいと思っている。

Snapは、他のアプリから小さな競争相手が生まれてストーリーの世界を細分化してしまうことも静観してはいない。技術者にクラス最高のツールを与えて、時間もコストもかかる開発競争を抑制し、進んでこちらに参加してくれるように促している。こうした前哨基地を設けることで、Snapchatアカウントをどうしても必要なものに近づけ、カメラの新しい利用法を提供し、ユーザーにまた訪れたいという気持ちを持たせる。これは、他のバージョンのストーリーの間をさまようことなく、Snapchatに定着したくなる理由を持たせるものでもある。

Spiegel氏が物のわかった人間なら、Story kitの仲間たちにリソースを与えて、FacebookがSnapのアイデアを盗む前に、彼らにできるだけ多くのアプリを作らせて契約できるようにするだろう。Snapでは、App Storiesに広告を入れていない。だが、やろうと思えばすぐにできて、ホストと広告料を山分けすることが可能だ。そうすればパートナーは魅力を感じて収益が上がり、Snapの広告主はより広範囲に宣伝ができる。

Snapchatのストーリーに埋め込まれたハウスパーティー

いずれにせよ、Snapは、新しいAd Kitで利益を上げることになるだろう。今年の後半には、Snapchat Audience Networkが立ち上がり、Snapの全画面を使った縦型動画広告が掲載できるようになる。また、今はまだ公開されていない収益分配方式が導入される。パートナー企業は、広告営業部門を開設したり、入札や配信のシステムを準備する必要がない。SDKを放り込んで、Snapchatのユーザーやその他のユーザーに広告を表示するだけでいい。ここにも、コピーするよりSnapchatと手を組んだほうが簡単だというSnapのメッセージが込められている。

Snapの新しい広告ネットワーク。

広告の到達率と、独自の広告ユニット形式の再利用性が高まれば、Snapは中核的な課題の解決に近づくことになる。それは、スケールだ。Snapの1億8600万人という総ユーザー数は、InstagramやFacebookやYouTubeに比べると小さく見える。とくに、去年の第4四半期に安定する前の、第2四半期と第三四半期の落ち込みを考えるとなおさらだ。それが、Snapchatに広告料を払うことの正当性を、広告主から奪ってしまっている。だが、Ad Kitと、おそらくはStory Kitは、ユーザー数が増えない場合でも、Snapの到達率を高めてくれるだろう。

広告のサイズ拡大は、特別に重要なユーザー層ですでに人気となっていることを考えれば、Snapに有利に働くはずだ。Snapchatのユーザーは、現在、米国の13歳から34歳の75パーセント、13歳から24歳の90パーセントにリーチしている。Snapによれば、米国、カナダ、英国、フランス、オーストラリアといった利益率の高い国々では、Facebookよりも若い年代層に受け入れられているとのことだ。

Facebookは、その大きなセグメントを無視してきた。実例を挙げれば、Facebook Messengerで若者に人気のスタンプ機能は、2013年の導入以来なかなか進化していない。私が聞いたところによれば、社内の承認を巡って争いがあったとのことだ。その間、Snapchatはビット文字を使ったアバター機能を成長させてリードを保ってきた。間もなくSnapは、ビット文字による自分のアバターをFitBitスマートウォッチの画面に表示できるようにする。これを使えば、Venmoの支払いで遊んだり、Snapの新しいマルチプレイヤーゲームプラットフォームに自分の分身で参加できるようになる。

ここでもSnapは、パートナーに出来損ないの偽ビット文字ではなく本物を使うよう促している。驚くべきことに、FacebookのAvatarの開発は1年以上も泥沼にはまっており、Appleのミー文字はいまだにiMessageとFace Timeでしか使えない。Snapchatが優れているのは、その点だ。ビット文字を遍在化させることに力を入れて、写真を使わずに自分自身を表現できるようにした。Facebookのデザインのまずさと、こうした差別化された製品によるビット文字の有利なスタートが幸いして、Snapはパートナーたちに深く食い込むことができた。

ソーシャルネットワークで充実した持続性のあるものを築こうとする、弱者としてのSnapは、使えるものはなんでも使う。団結は、Snapパートナーサミットのもうひとつのテーマだ。Snapは、Netflix、GoFundMe、VSCO、Anchorとのつながりスタンプを共有し、ワシントンポストなどの出版社の記事をSnapchatに掲載する道を拓いた。ZyngaとZeptoLabは、リアルタイムのマルチプレイヤーSnap Gamesの開発を決めた。これらのゲームはチャットの中でプレイでき、メッセージの中に広告を滑り込ませる賢い方法となる。

Snapchatの新しい拡張現実開発プラットフォームScanには、以前からのメンバーであるShazamとAmazonに加えてGiphyとPhotomathが参加し、周囲の光景から楽しいインタラクティブ性が引き出されることになる。現実世界はあまりも広く、どんな企業でも、単独では十分なAR体験を生み出しきれない。そこでSnapは、そのLens Studioプラットフォームを新しいテンプレートとクリエイタープロフィールで強化し、開発者が40万種類の特殊効果を使えるようにした。FacebookはSnapの機能を真似ることができても、この開発者軍団をコピーすることはできない。

「適切なときに適切なLensを提供できれば、私たちはまったく新しい創造性の世界を開くことができます」とSnapの共同創設者であるBobby Murphy氏は話す。パートナーから開発キット、オモチャに至るまで、今回の新発表のすべてが、Snapchatのカメラへの関心を引き戻した。これにより、Snapは世界の拡張現実のリーダーになる準備が整った。

これらを総合すると、メディアの大物が肉まんをむしゃむしゃ食いながら拡張現実インスタレーションで遊ぶウエストハリウッドの派手な記者発表イベントによって中断されていたSnapchatの時代が、ついに到来する予感がする。

Spiegelは、モバイル製品のデザインに刺激を与える彼の好みを具体化する方法を発見した。この戦略が実施され、Snapが改良したAndroidアプリと新しい言語の展開が始まった今、Snapchatは再び成長すると私は確信した。総ユーザー数が伸びなかったとしてもつながりは深くなる。ハードルを越えるにはもう少しだけ投資が必要かも知れないが、2020年末までには利益が出せるようになっていると私は期待する。

イベント開始前のメディア向け説明会には、Spiegel氏とMurphy氏を含むSnapの役員が10名ほど参加した(非公開のため誰が何を言ったかは書けない)が、FacebookがSnapchatを真似るようになって7年になるため、だんだん普通に思えるようになってきたと、Snapのある上級幹部は冗談を飛ばしていた。先日ザッカーバーグ氏は、プライバシー、長く保存しないこと、メッセージングを重視する方向にFacebookを軌道修正したいと宣言したが、これはSnapchatの信条そのものだ。だが、Snapの幹部は言葉巧みに、20億人のユーザーを誇るその製品が人々を傷つけている限りは、Facebookがどんな哲学を口にしようと信用しないと語っていた。

演壇からかすかな影を投げかけ、Spiegel氏はこう締めくくった。「私たちのカメラは、この世界の自然光を使ってインターネットの闇を照らします。【中略】私たちが日常生活で、インターネットを使えば使うほど、それをもう少し人間的にする方法が必要になります」。この言葉は明らかに、他社のアプリをもっとSnapchat的にすることを意味している。

Snapchatはスーパー マリオパーティー式のマルチプレイヤーゲームプラットフォームをスタート(本文は英語)

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(翻訳:金井哲夫)