虫歯治療をサポートする歯科AIソフトOverjet、前回からわずか4カ月で約48億円のシリーズB完了

Overjetの診療情報プラットフォームがX線写真と歯科AIの検出結果を表示している(画像クレジット:Overjet/PR Newswire)

2700万ドル(約31億円)のシリーズAラウンド発表からわずか4カ月後、歯科治療人工知能ソフトウェアを開発するOverjet(オーバージェット)は、既存投資社の支援を受けて4250万ドル(約48億円)のシリーズBラウンドを完了し、さらに前進した。

同社のシリーズA以前、TechCrunchは2020年に同社が785万ドル(約9億円)調達した時に紹介記事を書いた。直近のラウンドをリードしたのはGeneral CatalystとInsight Partnersで、Crosslink CapitalとE14 Fundも参加した。これまでの調達総額は8000万ドル(約91億円)をわずかに下回る。十分な資金を得たことで、Overjetの企業価値は4倍近い4億2500万ドル(約483億円)になった、とOverjetの共同ファウンダーでCEOのWardah Inam(ワーダー・イナム)博士はいう。

「前回のラウンドの評価額は1億1500万ドル(約131億円)ですから、これは非常に大きな伸びです」と彼女は付け加えた。「歯科企業でこの節目を達成したところは多くありません」。

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ラウンドを終えたばかりのイナム氏は、これは急なシリーズBで予定外のタイミングだったが、投資家からの問い合わせが多かった結果だとTechCrunchに話した。新規の投資家が興味を示したが、同社は既存出資者だけのラウンドにすることに決め、それは将来に向けた条件が満たされたからだった。

ボストン拠点のOverjetが開発した歯科AIソフトウェアは、歯科医がスキャン結果を見て虫歯の特定と進行を判断する手助けをする。同社の製品、Dental Assist(デンタル・アシスト)はFDA(食品医薬品局)の認可を取得している。10月に発表した50カ所の歯科医院からなるNew England Family Dentistry(ニューイングランド・ファミリー・デンティストリー)との提携など、多くの歯科が参加している団体をターゲットにする戦略の同社は、現在自社ソフトウェアを数千か所の施設に導入するのに忙しくしているとイナム氏は語った。

保険に関しては、同社の顧客には主要保険会社16社がいる。シリーズA時点で5000万人のメンバーをカバーし、現在は約7500万人になっている、とイナム氏はいう。

「調達した資金は歯科クリニックへの導入を進めるためです。十分な雇用が達成されたので、これから大量の受注残をこなしていきます」と付け加えた。「1年かかると思っていた節目が、結局数カ月で達成されてしまいました」。

12月にOverjetの従業員は50名になった。2021年初めは20名だった。次の6カ月間で人員を3倍にして、カスタマーサクセス(顧客を成功に導く)とエンジニアリングを強化する予定だとイナム氏はいう。同社はリモート優先の業務形態に切り替えたので、幅広く人材を集められるようになった。新たな資金は新製品開発にも使う計画だ。

今度も同社は、口腔衛生と口腔ケアの改善と技術開発に焦点を当てていく。歯科データをコンピューターで分析することで疾病の進行をより正確に判断し、価値に基づく治療にむけて結果を判断できるようする。このようなテクノロジーは「史上初めて」だとイナム氏は確信している。

歯科業界はテクノロジーの導入が遅いほうだが、過去10年間、伝統的に手作業だった部分を自動化して患者と医師を支援するべく多くのスタートアップが参入した。具体的には、クリアアライナー(透明歯列矯正)とデンタルスキャン、歯科衛生教育などだ。

2021年、X線画像を変換して虫歯を見つけやすくするAdra(アドラ)などの会社が資金調達を完了した。歯科保険のBeam Dental(ビーム・デンタル)もそうだ。

「歯科医院の経営は急速にビジネス的になり、彼らは治療と収益を改善するためにテクノロジーやその他のツールに投資する用意があります」とイナム氏は言った。「この分野で優秀なスタートアップが次々とでき上がっているのはそれが理由です。だれもが口腔衛生の価値を軽視しているからです。そして今、そこにはもっとすばらしいテクノロジーを提供するチャンスがあります」。

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(文:Christine Hall、翻訳:Nob Takahashi / facebook

すべての歯科医を虫歯を迅速に見つける「スーパー歯科医」にすることを目指すAdra

ヘルスケアのさまざまな分野がそうであるように、歯科も着々とテクノロジーを取り入れている。その多くは歯科矯正の分野だが、Adraなどのスタートアップは歯科医の日々のワークフロー、特に虫歯の発見にAIを活用しようとしている。2021年に世界の歯科医療の市場規模は4350億8000万ドル(約47兆6800億円)になると見られている。

シンガポールを拠点とするAdraは2020年に構想を開始し、2021年に創業した。共同創業者のHamed Fesharaki(ハメド・フェシャラキ)氏は歯科医として10年以上のキャリアがあり、シンガポールで2カ所の医院を経営している。

フェシャラキ氏によれば、歯学部でX線画像の読み方は習うがきちんと読めるようになるには数年かかるという。また歯科医は患者の間を飛び回っているので、X線画像を読む時間が数分間しかないこともしばしばだ。

こうしたことから、共同創業者のYasaman Nematbakhsh(ヤサマン・ネマトバクシュ)氏によれば、歯科医は最大40%の確率で虫歯を誤診するという。同氏のバックグラウンドはイメージングで、見えにくいガンをAIで特定する機器を開発していた。フェシャラキ氏はこれを歯科にも応用できるのではないかと考えた。

フェシャラキ氏はTechCrunchに対し、Adraは経験豊富な歯科医のような見方を提供することですべての歯科医を「スーパー歯科医」にしようとしていると語った。同社のソフトウェアを使うと歯科のX線写真から虫歯などの歯の問題を短時間で検出でき精度は25%向上するため、歯科医院ではその分患者により良い医療を提供し収益を増やせる。

Adraのソフトウェアのサンプル(画像クレジット:Adra)

フェシャラキ氏は「我々は経験豊富な歯科医の視点を活かし、X線写真を画像に変換することによって問題点を表示して、何に着目すればいいかを理解できるようにします。最終的に判断するのは歯科医ですが、我々が経験的な要素を取り入れることで歯科医が比較検討をするのに役立ち、助言を提供できます」と述べた。

問題のある箇所とその程度をすばやく示すことで、歯科医は治療法を決めることができる。例えば詰め物をするのかフッ素を使うのかしばらく様子を見るのか、ということだ。

もう1人の共同創業者であるShifeng Chen(シーファン・チェン)氏とともにAdraはYコンビネーターの夏学期を終了し、これまでに25万ドル(約2700万円)を調達した。フェシャラキ氏は、正式にシード資金調達を実施しエンジニアを増やしてユーザーエクスペリエンスの向上や機能の追加に取り組む意向だ。

同社はいくつかの歯科医院で試験運用をしており、米国食品医薬品局の認可取得に向けて試験をする医院をさらに増やしたい考えだ。フェシャラキ氏は認可を受けるまで6〜9カ月かかるだろうと予測している。認可の後、2022年後半か2023年前半に製品として販売を開始できるだろう。

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画像クレジット:Adra

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(文:Christine Hall、翻訳:Kaori Koyama)