「AGC Collaboration Exhibition 2018」が開催
AGC(2018年7月に旭硝子から社名変更)は2018年12月12日に協創がテーマの技術企画展「AGC Collaboration Exhibition 2018」を東京・京橋のAGC Studioで開催した。これは11月にスタートした協創プロジェクト「SILICA(シリカ)」で実施した2つのプロジェクトを展示するというものだ。
従来は企業にガラス素材を提供するB2Bメーカーとして活動していたAGCだが、同社代表取締役兼専務執行役員 CTOの平井良典氏は「1990年代のバブル崩壊やインターネットの普及によって何が求められるのかが非常に見えづらくなり、全てを自前で開発する『自前主義』が成り立たなくなっきたことから、オープンイノベーション戦略を進めてきた」と話す。
「つなぐオープンイノベーション」をキーワードにして米国西海岸、欧州、中国、シンガポールに拠点を置き、外部と協働しながらイノベーション活動を進めていると平井CTOは語る。2020年6月には神奈川県横浜市鶴見区に新研究開発棟を設立し、「社内的にシームレスな開発を目指している」(平井CTO)という。
協創プロジェクト「SILICA」
そして今回の目玉となったのが協創プロジェクト「SILICA」のアウトプットだ。今回は、ガラスの素材や技術の新しい“魅せ方”を提案する「ANIMATED」、ガラスの新しい“使い方”を提案する「GLASS INNOVATION CHALLENGE」の2つのプロジェクトによる成果物が展示された。
ANIMATEDは無機質に感じられがちなガラスを「化学強化」(素材を混ぜ込むことで強さを加える)、「コーティング」(特殊なコーティングによって機能や意匠性を加える)、「挟み込み成形」(ガラスにさまざまなものを挟み込むことで機能性を加える)によって生き物に見立てるというものだ。
オープンイノベーションの動きとしては「GLASS INNOVATION CHALLENGE」に注目したい。こちらはA(エイス)が提供するオープンイノベーションプラットフォーム「Wemake(ウィメイク)」を活用し、さまざまなクリエイターから提出された数百ものプランの中から7つのプランを実際にプロトタイプとして作り上げたという。
WeMakeは本格的運用を開始した日本最大級のオープンイノベーションプラットフォームで、クリエイターの登録者数は約1万3000人を超えるという。エイス代表取締役の山田歩氏は「これまでに数十社の大手企業の新規事業開発と新製品開発を支援してきたが、単純なアウトソーシングではなく、主催企業がクリエイターと侃々諤々の議論をしながら一緒に事業や商品を開発できるプラットフォームだ」と話す。
「主催企業が求める事業案や抱えている問題意識などを記したプロジェクトの募集要項をインターネット上に公開すると、WeMakeのユーザーコミュニティの中からコンセプトを提案してくれるという仕組みになっている。1か月に100案から400案ほど出てくるが、その中から有望なものを選びぬいて5案から10案くらいに絞る。それらの案には主催企業の社員が担当者として付き、チームを作って事業コンセプトの事業性や採算性などを詰めていきながら企画の確度を高めていくという流れになっている」(山田氏)。
WeMakeに登録するクリエイターは大手企業に勤めるデザイナーやエンジニア、事業開発、マーケター、研究者などが副業として行っている場合が多いが、最近ではシンクタンクや外資系企業の戦略コンサルタントなども登録している。
「さまざまな個人ユーザーが企業に提案する状況ができているが、最近ではスタートアップ企業や大企業が登録するケースも増えており、大企業が大企業に提案するという事例も散見されるようになってきた。プロジェクトを主催する企業にとっては、異業種・異分野のクリエイターだからこそ知っている、普段自分たちが知ることのない“死角”からニーズを提案してもらえるのが一番大きい価値かと思う」(山田氏)。
AGCプロジェクトで有望な7つのコンセプト
「GLASS INNOVATION CHALLENGE」プロジェクトを実施するに当たって、ガラスの特徴を生かしつつ、「日常の体験を変える製品・サービスのデザインを募集した」(山田氏)。という。
素材技術がエンドユーザーの問題解決にどう寄与するのか、視覚的なイメージやサービスイメージをよりコンセプトとして提案することができれば、より技術や素材が引き立って見えるのではないか。そういう問題意識を踏まえてプロジェクト設計をスタートした。
「オープンイノベーションの成功の要件は、できるだけ多様なユーザーに提案していただくことにある。もし研究所で出回っている論文をそのまま公募にかけてしまうと、それを読み解ける研究者しかアイデア提案ができなくなってしまう。そうならないようになるべく平易で簡潔な言葉を使い、技術や個体の特徴を説明するというのに非常に苦心して募集した」(山田氏)。
今回は公募して約200程度集まった案の中から特に有望な7つのコンセプトをプロトタイプとして展示している。
自由に組み合わせられる「IoTガラスブロック」(最優秀賞)
最優秀賞となったのが、ガラスをモジュール化することで自由に組み合わせられるだけでなく、光の色などを変えられる「IoTガラスブロック」だ。「オフィス空間のパーティションや商業施設の壁を、そこで行動している人の動き、使っている人の目的などに応じて環境を最適に作ったり、商業空間でタイミングに応じて広告を流すなど、空間によってインタラクティブにデザインできるガラスブロックだ」(山田氏)という。
清掃性を向上する「ガラストップ風呂壁」(優秀賞)
お風呂の壁全面をカラーガラスとタッチパネルにして凸凹や継ぎ目がない風呂壁にすることで掃除しやすい風呂場を実現するというもの。「フラットなガラスの壁ができるので、将来的にはロボットで掃除できるようになるというコンセプトだ」(山田氏)。
高層ビルでも換気ができる「Wind-oh!GLASS」(特別賞)
高層ビルの窓ガラスははめ殺しになっているが、自然の風でリフレッシュしたいという動機に基づいて提案されたのが「Wind-oh!GLASS」だ。「ビルの窓に空気栓を設けることで、休憩時間に自然の風に当たってリフレッシュできる」(山田氏)。
「時を刻む浮遊するあかり」(特別賞)
普段はガラスに見えるものの、電気をつけると照明になる「空間や素材に溶け込む見えないガラス照明」というコンセプトだったという。「今回はそれを分かりやすく『時計』という形で表現し、文字盤の針が空間の中に浮かんで見えるような時計をモックアップとして用意した」(山田氏)。
通風性と防犯性などを兼ね備えた「風を通すガラス」
「風を通すガラス」はガラスと開口部を交互に配置するのが特徴だ。「通風性と防犯性とデザイン性などを兼ね備えた建材があれば、建築設計の自由度が上がるのではないかという建築事務所主宰者からの提案だ」(山田氏)。
適量の紫外線を届ける「SUN THERAPY WINDOW」
「一般的に悪者にされがちな紫外線だが、むしろ適量を浴びるのは健康にいいというデータがあり、AGCの技術を使って適量をコントロールして紫外線を入れてあげようというもの」(山田氏)。
死角をなくす「見えないを見える化するガラス」
「街にはたくさんの死角があり、それが犯罪や事故の原因になる。特にビルや地下の駐車場などにある曲がり角の壁をすべて透明にすることで死角をなくし、事故防止や防犯に寄与するというコンセプトだ」(山田氏)。
IoTガラスブロックは大手メーカーのインハウスデザイナーを経て独立した人、ガラストップ風呂壁は消費財メーカーのマーケティング担当者で現在はフリーランスのマーケター、「Wind-oh!GLASS」はメーカーの商品開発担当者で現在は広告代理店のプランナーなど、さまざまな分野からの応募が集まったという。大企業と大企業、大企業とスタートアップという枠組みだけでなく、大企業と個人がマッチアップすることによっても、さまざまな角度からのニーズの発見、ユニークなアイデアが出てくるのがよくわかる。
「2015年から毎年春にイタリア・ミラノで行われる『Milano Design Week』に出展している。デザイナーの意見を直接入れることによって開発スタッフが新しい発想を生み出していったり、いろいろな気付きが得られたりする。そこから何が生まれるかが私自身も楽しみだし、変革の中ではそういう取り組みがますます大事になる」(平井CTO)。
こういった数々の事例が成功を収めていけば、ほかの企業にもオープンイノベーションの動きが加速しそうだ。