受刑者向け無料ビデオ通話サービスのAmeelio、一部の米刑務所でサービス開始

非営利スタートアップAmeelioは、受刑者向けに無料ビデオ通話サービスを提供しようとしている。これは何十年にも渡り受刑者向け有料ビデオ通話サービスを独占的に提供してきた企業に対抗する試みだ。アイオワ州ではすでに9つの施設でAmeelioの無料サービスが提供されている他、2022年のサービス開始に向けて話が進んでいる施設が数多くある。Ameelioは受刑者がコミュニケーションをとったり教育を受けたりする方法を根本的に変える可能性がある。

Ameelioは創設されてからまだ2年に満たないスタートアップだ。同社はもともと通話システムに照準を合わせていたものの、最初は受刑者に手紙を送るためのウェブサービスやモバイルサービスを提供することから始めた(受刑者に手紙を送るというプロセスはたいてい、驚くほど煩雑である)。

同社の創設者兼CEOであるUzoma Orchingwa(ウゾマ・オーチングワ)氏は「以前お話した時には、当社サービスの利用者は8000人でした。そして、その数カ月後、私たちはモバイルアプリを立ち上げたわけですが、現在では、すべての州と一部の領域で30万人程の利用者にサービス提供しています」。と述べた。しかし手紙を書くのは便利なサービスだが、同社は、2022年を目処に全国で一連のデジタルサービスを提供したいと考え、そうしたサービスの開発とテストに取り組んできた。

Ameelioは独自の技術スタックを構築し、受刑者にはコスト(既存のサービスよりはるかに安い)の負担を求めていない。同社のサービスは、完全に時代遅れになっている昨今の刑務所のシステムに替わる魅力的なサービスである。

多くの人は、ひと握りの営利企業が米国の私立刑務所で使用されている有料ビデオ通話サービスをほぼ独占的に提供し、私立刑務所はこの受刑者の支払う使用料の一部から取り分を得ている、という事実を知らないかもしれない。SecurusおよびGlobal Telは長い間通話サービスを提供してきたが、彼らのビジネス慣行について、元FCCコミッショナーのMignon Clyburn(ミニョン・クライバーン)氏は「規制当局としてこれまでに見た中で最も明確な、市場原理の働いていない失敗例である」と述べている

サービス提供にはほとんどコストがかかっていないにもかかわらず、受刑者は1分1ドル(約115円)もの額を払わなければならない。これは10年前でも法外と考えられた額だが、無料またはわずかな額でビデオ通話を利用できるのが当たり前になっている現在では、この額は犯罪的である。非常に不人気のSecurusは現在「Aventis」へのリブランディングの真っ最中であり、FacebookやBlackwaterの例にならって、SPACディールを通して自らを新しく作り直し、過去を一掃する可能性もある。しかし、持って生まれた性分を変えることはできないものだ。

それだけではなく、顧客、つまり、こうした企業と契約を結んでいる州の矯正局も、提供されているサービスの価値に疑問を持つようになってきている。刑務所ではパンデミックにより面会ができなくなり、面会が一時的に無料のビデオ通話に置き換えられたのだが、AmeelioのCTOであるGabriel Saruhashi(ガブリエル・サルハシ)氏によると、多くの矯正局ではそれをそのまま利用したい考えだという。受刑者に使用料金を払わせ、その収益の一部を刑務所が我が物にするという、古く、非倫理的な方法は、現在では容認できないものになりつつあり、また彼らの側でも、物事をシンプルにしたいと考えているのだ。

Ameelioのビデオ通話スケジューリングインターフェイスのスクリーンショット

オーチングワ氏は、Ameelioは、刑務所や矯正局がどのようなレベルで関与するにしても個別に対応できるよう作られていると語った。州が有料サービスのプロバイダーを選ぶ際に活用される厄介なRFP(提案依頼書)システムがAmeelioのサービスの大規模導入を阻む可能性があるが、AmeelioはGoogle Meetのような無料ビデオ通話プラットフォームの代替システムとして使用することが可能だ。実際、ルイスビルメトロ矯正局では、特に法律を検討することなく、無料の通信手段として今まで使っていたサービスをAmeelioに切り替えた。これは重要な先例と言える。もし必要なら、Ameelioは法律による規制を受けるスケジューリング、ストレージ、およびセキュリティサービスを後から有料で提供することもできる。

これらのサービスの見積もりは、既存のプロバイダーのものよりもはるかに低くなるだろう。というのも問題が、テレコムの問題からテクノロジーの問題に変わりつつあるからで「彼らはテック企業ではありません。彼らの製品は20年間変わっていないのです」とオーチングワ氏は述べた。

代りに、彼らは既存のサービスを強化するために他の企業を買収したり、Twilioのような既成の技術を購入したりしている。そのためそもそもサービスを成立させ、さらにそこから上がる利益の一部を州に提供し、しかも事業を進めていくために、既存のプロバイダーは市場が耐えられる上限一杯の料金を請求しなければならないのだ。そしてその市場を構成するのは概ね権利を剥奪され投獄された人々とその家族であるので(明らかにロビー活動をするタイプの人々ではない)、彼らが苦情を寄せたとしてもそれが顧みられることはない。その結果として、質の低いサービスに非常に高い料金を払う事になってしまうのだ。

「Ameelioにはそういったプレッシャーはありません。当社は余分な資力を持たないスタートアップですから、すべてのことを自分たちでやっています。

コストを非常に低く抑えることができているのは、オープンソーステクノロジーを数多く活用しているためでもあります。既存のプロバイダーはTwilioを使っていますが、Ameelioはmediasoupを使っていて、お金を支払っているのはサーバーだけです。また当社はKubernetesを使用しているので、1月あたりのトータルコストは100ドル(約1万1500円)といったところです」とサルハシ氏。

またAmeelioは、カスタムエンクロージャーを備えた標準のAndroidタブレットを独自のハードウェアとして作成した。このタブレットはWi-Fiのあるところならどこでも簡単にプロビジョニングして展開できる。据え付けの電話を置き換えようとしている刑務所では、12台の電話を撤去し5台のタブレットを導入すればすむ、という点を気に入っている。タブレットを使うと、ビデオ通話も音声だけの通話も可能だ。ビデオ通話はスケジューリングし録音する(Ameelioかその他によって)必要があるが、音声の場合は何時でも利用できる。1つのサービスを1つのデバイスで行うと、物事がシンプルになる。

Ameelioのプロトタイプの教育インターフェイスのスクリーンショット

Ameelioが手がけたいと思っている最後の分野は教育だ。現在受刑者が利用できるのは、寄せ集めの教育システムである。ある施設では、バーチャルサービスがあるが、ある決まった時間、または限られたトピックでしか利用できない。ある場合には、セキュリティ要件を満たすために、学校の代表者が紙の資料や宿題を持ち込んだり回収したりしなければならないこともある(これについては2021年夏のTC Sessions: Justiceで話題として取り上げた)。英文学のコースは興味深いかもしれないが、すべての受刑者が学士号を取得することに興味があるわけではなく、職業訓練のほうが需要があるかもしれない。

音声とビデオ通話(そしてもちろん、他のテレヘルス、公式な通信、テキストベースのメッセージの送受信など)ができるタブレットが同時に教育や単になにかを読むためのプラットフォームになる。オーチングワ氏はこの市場における双方が(教育提供者や矯正局、そして教育機会を得るために何十年にもわたって戦ってきた受刑者側はいうまでもなく)デジタル化に大いに興味を持っていると語ったが、デジタル化には非常に時間がかかっている。

オーチングワ氏は「助成金は利用できるようになっているものの、教育プラットフォームがないのです。注目すべきなのは、Ameelioが実際に2つの施設でこれを実現し、郡とも初めての契約を交わしたことです。当社はLinkedIn Learning、MasterClass、PBSの他、数千冊に登るGutenbergの本をアップロードしています。職業訓練についてもアップロードできるよう取り組んでいます。CDL (商用運転免許証)のトレーニングに需要があることがわかったので、コンピューターリテラシーの問題を抱えた約50人の元受刑者を対象に、アプリを使用した学習を外部で実施しました」。

これらの取り組みは始まったばかりだ。しかしAmeelioは設立以来短期間で1980年代からサービスを提供してきた企業から多くの施設を奪い取っており、このことは多くを物語っている。業界は変化の時を迎えており、多少波風をたてることになったとしても新しいことを試したいと考えている関係者は数多くいる。

Ameelioは州がすでに支払いを行っている商用サービス(ビデオ通話の記録と保存)のプロバイダーとして行動し、また安全なプライベートコールの使用料金を弁護士に請求することで資金を得ようとしているが、実際の利用者である受刑者やその家族からは料金を取るつもりはない。オーチングワ氏は次のように語った。「Ameelioは常に非営利企業としてやっていくつもりです。家族が受刑者と話すことに対し料金を課すことは決してないと約束しますし、受刑者には今後も非営利企業としてサービスを提供します。受刑者から料金を取る営利モデルは正当なモデルとは言えないと思います」。

そうはいっても、資金を豊富に持つ協力者がいることは心強いことだ。オーチングワ氏は現在Ameelioをサポートしている人物として、Jack Dorsey、Vinod Khosla、Eric Schmidt、Brian Acton、SarahとRich Barton、DevinとCindy Wenig、Kevin Ryan、Draper Richards Kaplanといった人々の名を挙げ、またTrueVenturesから助成金を得たことにも言及した。Ameelioは今後数年で独自の収入源を確保するために、2500万ドル(約29億)のラウンドに取り組んでいる。

受刑者が安全に自然な形で家族や弁護士と話し、また教育リソースやその他のサービスを利用できる。それを可能にするデバイスを受刑者は持つことができるし、また持つべきである、という考えは極めて当たり前のことに思われる。しかし、それをかたち作っていく市場、ロビー活動、業界は長いことこのアイデアの実現を妨げてきた。Ameelioは現在きっかけを掴んだに過ぎないかもしれないが、数年後には長い間不当な取り扱いを受けてきた人々に無料プラットフォーム(無料ソフトウェア、無料ライセンス、FOSSなど形で)を提供するプロバイダーになる可能性がある。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)