Y Combinator 2019年冬クラス、Demo Day2日目のスタートアップ88社

米国時間3月19日は、Y Combinatorが開催した、2019年冬クラスの2日間のDemo Day後半だった。1日目は85以上のスタートアップがステージに上がりピッチを行った。2日目も同様に多数のピッチが行われた。

以前はマウンテンビューのコンピューター歴史博物館で開催されていたこのYC Demo Dayは、今回からはサンフランシスコの巨大な倉庫へと場所を移して開催された。1日目のピッチと同じように、2日目も「パイオニア」と「ミッション」の2つのステージに分かれて同時にピッチが進行した。お急ぎの読者のために、私たちが選んだ初日のトップ10のまとめも行っている。またここでは、2日目の中のお気に入り9社をチェックすることもできる

以下に、2日目に発表した全社と、そのプレゼンテーションに対する私たちのメモを紹介する。

Y Combinator 2019年冬クラス、Demo Day 2日目のスタートアップ
・Part 1:パイオニアステージ(1)※この記事
・Part 2:パイオニアステージ(2)
・Part 3:パイオニアステージ(3)
・Part 4:パイオニアステージ(4)
・Part 5:ミッションステージ(1)
・Part 6:ミッションステージ(2)
・Part 7:ミッションステージ(3)
・Part 8:ミッションステージ(4)

パイオニアステージ

YSplit
ルームメイトや愛する人との間で光熱費や月々に発生する支払いを、一人が立て替えて他の人たちから回収する作業はとても苦痛だ。YSplitは仮想デビットカードを提供することで自動的に請求書を分割し、ユーザーたちの銀行口座から現金を集めることを容易にする。2%の手数料を請求することで、YSplitは米国内の2600万軒のシェアハウスに対して、堅実なビジネスを構築することができた。

The Juggernaut
南アジアに関連したストーリーに焦点を当てた定期刊行物。彼らはフリーランスの作家を雇い、1日に1つのストーリーを発行し、そしてユーザーに対しては月5ドルを請求する。ここですでに、The Juggernautについての記事を書いている。

Searchlight
リファレンスチェックを行うことで間違った採用を回避することは可能かもしれないが、それでも多くのビジネスがインタビューサイクルの最終段階までそれを行わなかったり、詳細なチェックが不足していたりする。Searchlightはレファレンスチェックをサービスとして提供する。求職者は自分に対する推薦文の発行を依頼するために、レファレンス対象者を招待する。それらの推薦文をSearchlightが集めて編集し、求職者のワークスタイル、理想とする環境、そしてスキルセットなどをまとめた報告書を作成する。1件の仕事に対して平均250ドルを売り上げているSearchlightは、米国国内で1年の間に行われる3000万件のスキル重視採用のすべてに関わりたいと考えている。

Allo
地元の親たち同士をつなぎ、「カルマ」ポイントシステムを通じて、ベビーシッターやちょっとした用足しなどを頼めるようにすることで、お互いが助け合えるようにする。平均的なユーザーは週に12回ほどの利用を行っている。

Coursedog
大学は教員たちをコースや教室へ割り振るために、フルタイムのスケジュール管理者を雇用している。Coursedogは、学校のデータに接続することで、この面倒な仕事を排除しプロセスの自動化を行う。Coursedogに対しては、すでに8つの大学が、3年契約に対してそれぞれ10万ドル以上の支払いを行っている。次に狙っているのは、キャンパス内のスペースの予約プロセスと、インストラクターならびに授業料の支払いプロセスの近代化である。

AI Insurance
保険金請求のためのクラウドベースのソフトウェア。さまざまなデータを、ファイルキャビネットではなくクラウドへ送り込むことによって、顧客は「1件の保険金請求当たり、莫大な時間を節約できます」と創業者たちは主張している。彼らの目標は、十分な請求データが得られたら、次はAIを使用して最終的に請求にかかるコストなどを判定することだ。

Nebullam
屋内で作物を栽培すれば、天候に左右されないことで、単位面積あたりの食糧生産量が増える可能性がある。だが問題は人件費の高さと高額な機器の回収期間の長さである。Nebullamは、屋内農業のJohn Deere(世界最大の農業機械メーカーのブランド)になりたいと考えている。同社は収穫を最大にしそして費用を最小にすることができる、屋内栽培棚やその他の機器を販売する。農場育ちのCEOを擁する同社は、すでに機器のコストを3年で回収することを可能にしている(業界標準は7年である)。

Pronto
ラテンアメリカの小都市でのライドシェアリング。共同創業者のミゲル・マルティネス・カノ氏は、Uberモデルはこうした小都市では機能しないと述べている。なぜなら乗客になるひとたちはクレジットカードを持たず、現金での支払いを希望するからだ。ドライバー側は月額59〜99ドルのサブスクリプションフィーを支払う。現在は月に6万2000回の乗車が行われている。

LEAH Labs
人びとは飼い犬の化学的治療に、たとえそれがその生命を一時的に伸ばすだけで、病気の治療にはならないとしても年間5億ドルを費やしている。LEAH Labsは、強力な新しい治療法であるキメラ抗原受容体発現T細胞(Car T細胞)を用いて、犬のB細胞リンパ腫を治療したいと考えている。最近、Car T細胞を扱う会社たちのエグジットは200億ドルに達しているが、大手企業の中で犬に焦点を当てているものはいない。LEAH Labsは食品医薬品局(FDA)ではなく農務省(USDA)の管轄であるため、承認を得るための投資は少なくて済む。このことにより治療費を5000ドルに抑えることが可能になった。

Balto
ファンタジースポーツリーグのマネージャーたちが、自分たちの仕事からお金を稼ぐためのプラットフォーム。ファンタジースポーツ賭博はより多くの州で合法化に向かって動いているので、彼らは他の方法ですでに賭けをしている観客を捕らえたいと思っている。

【訳注】ファンタジースポーツとは現実世界の選手を選んで仮想的なチームを作り、現実世界の成績に連動して仮想チームの勝敗などが決まる「遊び」の要素が強いゲーム。これまでもアナログな遊びや賭けが行われて来たが、プラットフォーム化を行うものが出始めている。

Visly
開発者たちは、iOS、Android、ウェブ向けに同じ製品をリビルドするために、膨大な時間を費やしている。Vislyは、この作業を単純化するためのツールを利用しているのは開発者のわずか15%に過ぎないと言う。VislyのクロスプラットフォームUI開発スイートにより、さまざまなデバイス用に一貫したアプリケーションをすばやく簡単に作成できる。CEOはFacebookでYogaと呼ばれる類似のバージョンに取り組んでいたが、それがウェブとの互換性を達成することはなかった。Vislyは、開発者たちが他のオペレーティングシステムへの移植ではなく、発明そのものに集中することができるように、移植性の問題を解決したのだ。

Y Combinatorの2019年冬のDemo Day初日の有望スタートアップ10社

[原文へ]

(翻訳:sako)

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スマホアプリ開発時のフィードバックをより手軽に実現、グッドパッチの新プロダクト「Balto」

グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏、デザイナーの川又慧氏、エンジニアの寺島博樹氏、Balto プロダクトマネージャーの中村太紀氏

グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏、デザイナーの川又慧氏、エンジニアの寺島博樹氏、Balto プロダクトマネージャーの中村太紀氏

UI/UX設計に特化したデザインスタートアップのグッドパッチ。クライアントワークでスタートアップから上場企業まで、スマートフォンアプリやウェブサイトのデザインを手がける一方で、デザインにまつわる自社プロダクトも手がけている。そんなグッドパッチが1月26日、スマートフォンアプリのフィードバックツール「Balto」の提供を開始した。

2014年10月には第1弾としてスマートフォン向けサイトにも対応したプロトタイピングツール「Prott」をリリース。ユーザー数や売上の実数は開示していないが、「現在の売上は、前年同月比で230%。競合サービスが出てきているが、サービスは依然伸びている」(グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏)状況だという。その後2016年2月には、DG インキュベーション、Salesforce Ventures、SMBC ベンチャーキャピタル、SBI インベストメントなどを引受先とした総額4億円の資金調達を実施。自社プロダクトの開発を強化するとしていた。

第2弾となるBaltoは、スマートフォンアプリ開発時のフィードバックを手軽に実現するツールだ。Baltoはエンジニア向けのダッシュボードと、スマートフォンアプリで構成されており、ユーザーはまず、BaltoのSDKを組み込んだ自社アプリを作成し、ダッシュボード上から配信する。配信した自社アプリは、Baltoアプリを通じてスマートフォンにインストールできる(このあたりの仕組みはAppleが買収したTestFlightやミクシィからスピンアウトしたDeployGate、直近Googleが買収したばかりのFabricのようなイメージだ)。

フィードバックの担当者は、画面上に表示されるボタンをタップするか、二本指でスワイプ操作することで、自社アプリのスクリーンショット、もしくは動画(6秒まで)を撮影可能。スクリーンショットには丸や矢印といったシェイプをつけることも可能。さらにコメントをつけて、フィードバックを投稿することができる。投稿されたフィードバックはダッシュボード上でToDoリストとして一元管理できる。料金はスタートアップ向けのスモールプラン(プロジェクト:4件、プロジェクト作成権限者:4人まで)で年額4万3200円からとなっている。14日間のフリートライアルも設ける。

Baltoを使ったフィードバックのイメージ

Baltoを使ったフィードバックのイメージ

社内向けのツールがきっかけ

Baltoのプロトタイプが立ち上がったのは1年数カ月前。同社エンジニアの寺島博樹氏が業務のすきま時間に開発した社内向けのツールがベースになっているという。「アプリのフィードバックといえば、スクリーンショットを撮って、Skitchでコメントを付け、チャットツールやGitHubで共有したり、Excelやスプレッドシートで管理するという手間がかかっていました。それを少しでも自動化できないかと考えたのがBaltoです」(Balto プロダクトマネージャーの中村太紀氏)。

デザイナーの川又慧氏は、アプリの「実装フェーズ」を「よりプロダクトを磨くフェーズ」にするためにも、フィードバックが重要だと語る。「プロトタイピングのフェーズでは見えない、つまり体験やインタラクションに伴う課題が見えてくるのは、エンジニアが本格的に関わる実装フェーズから。ここでのフィードバックをスムーズにすれば、プロダクトを磨くスピードが早くなり、結果として品質が上がるのではないかと考えています」(川又氏)

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また製品化にあたって重視したのは、利便性だけでなく、いかに楽しくなるフィードバックを行うか、という点だという。土屋氏は書籍「みんなではじめるデザイン批評―目的達成のためのコラボレーション&コミュニケーション改善ガイド」(アーロン・イリザリー、アダム・コナー著、安藤貴子訳)を例に挙げつつ、「フィードバックの仕方によっていかにいいチームになるか、クオリティの高いプロダクトになるか、ということが開発の1つのトピックになってきました。これをいかに実現するかは課題です。Baltoの1つのテーマは『使っていて楽しくなる』。ポジティブなフィードバックで楽しくプロダクトを作って欲しい」と語る。実際、エンジニアは淡々とバグの報告をもらうより、「この仕組みはどうなっているの?」といったちょっとしたコミュニケーションも含めてフィードバックがあるほうがモチベーションが上がるようなケースもあるそうで、Baltoを使ってそんなやりとりが生まれることも期待しているという。

今後BaltoはGitHubとの連携やクレジットカード決済への対応などを進める。また今春をめどに第3弾の自社プロダクトとして、タスク管理・プロジェクトマネジメントツール「Laika」の提供を予定しているという。プロトタイピングツールのPrott、その次の実装フェーズで使用するBaltoを提供し、両方のフェーズを一元管理するプロマネツールを提供することで、「デザインチームのプロセス全体を変える、『いいプロダクトを生み出せるためのプロダクト』を提供していく」(土屋氏)としている。
余談だが、Prottは「プロットハウンド」という犬種が、Baltoはアラスカで活躍した犬ぞりのリーダー犬の名前、そしてLaikaはスプートニク2号で宇宙に行った犬の名前——ということで、同社の自社プロダクトは全て犬に関わるネーミングになっているのだとか。