CNNがNewsCoのリリースに向けパーソナライゼーションエンジンのCanopyを買収

CNN-Canopy

The Informationが昨年報じたところによると、CNNはAppleやFacebookなどに対抗する新しいデジタルニュースサービスに取り組んでいるという。現在、その計画の一部が具体化しつつある。Turnerが所有するニュース放送局(CNN)は、多目的のコンテンツパーソナライゼーションサービスを提供するCanopy(キャノピー)を買収した。Canopyのサービスでは、人間によるキュレーション、デバイス上での機械学習、差分プライバシー技術を使用して、読者が本当に知りたい内容を見つけられるよう支援すると同時に、個人データのプライバシーも守ることができる。このスタートアップは、CNNが今回予定しているニュースプロジェクトの基盤となる。

Canopy2018年に設立され、これまでにリリースされた唯一の製品はTonicと呼ばれるアプリであり、それが同社の業務内容を示す商業上の唯一の例だった。「ボストンとブルックリンを拠点とするこのスタートアップのチームと資産が新しい親会社に統合されるため、このアプリは今後数カ月かけて段階的に縮小していく」とCanopyは語った。

CNNはこの取引の金銭的条件を公開していないが、人材(計15名)、知的財産、その他の資産を完全に取得するということは認めている。CanopyはThe Echo Nestの前共同創業者であるBrian Whitman(ブライアン・ホイットマン)氏が共同創業者となり経営してきた企業で、Matrix PartnersおよびE14から450万ドルを調達した(The Echo Nestはコンテンツレコメンデーション機能を提供する企業で、Spotifyによる買収後はSpotifyのレコメンデーションエンジンの基盤となった)。

現在「NewsCo」というコードネームで呼ばれている新しいプロジェクトについて「さまざまなトピックについてユーザーを信頼できるニュースソース、ストーリーテラー、クリエイターとつなげるニュースと情報のプラットフォーム」だということ以外はCNNはまだ多くを語っていない。

tonic

CNNには、現在の消費者だけでなく、将来の消費者の好み、関心、ニーズも満たす新しいプロダクトやサービスを構築するという大きな計画があり、今回のイニシアチブはその計画の一部である。このことは、今後、捉え所のないコンセプトやユーザと広告や有料購読「など」のかたちでの収益を、大規模かつ長期的に追い求める動きが、メディア業界全体(他の放送局から、出版をルーツとする企業、当初からオンライン媒体であるニュースメディアまで)で推し進められていくことを強く示している。

この「など」は議論を呼ぶところだが、多くの場合データが含まれる。広告ネットワーク企業やそれ以外のデータを収集する企業など、有名無名を問わずさまざまな組織でデータの交換、売買が行われている。ただし、CNNはそこに一線を引き、その線を越えないサービスを作成するようその可否や方法を検討しているようだ。少なくともその点は希望であると思える。サービスはまだ何もリリースされておらず、CNNがどれほど大衆に受け入れられていて背後にどのようなビジネスモデルあるのかは、その時になってからわかるだろう。

ホイットマン氏は声明の中で「人々が自分にとって重要なトピックや問題に関する信頼できるソースを見つけることを支援するうえで、今はこれまでで最も重要なときだ。CNNのチームに加わり、全世界数百万のユーザーに向けて素晴らしいプロダクトを作成できる。このことにとても興奮している」と語った。

コンテンツのパーソナライゼーションに注力するスタートアップの買収については、これがCNNの最初の取り組みではない点に言及しておくべきであろう。2011年、CNNは同様の目的でZite(ザイト)を買収した。ユーザーが読んだり見たりする内容を「推測」することで、より関連性の高いコンテンツを見つけられるよう支援するという目的である。

私の理解によれば、この取引はCNNの以前の首脳陣によって行われたもので、その時期はZiteを活用できるような、大きな計画がなかった。結局Ziteは3年後にFlipboardに売却され、CNNが所有していた時期にはあまり注目すべきことはなかった(条件は明かされなかったが、当時はZiteに特化した取引というよりCNNとFlipboardとの間のパートナーシップが重視されたようだ)。

「人生でもビジネスでもタイミングがすべてだ」とCNNの広報担当者はTechCrunchに語った。「我々がZiteを買収した時期は適切ではなかった。Ziteの性能を活かすために買収したのだが、率直に言って当時はその性能を最大限に活用する準備が整っていなかった。ZiteをFlipboardに売却したのは正しい判断であり、関係者全員にとって正しい結果となった。組織として進化するうえで、このときに学んだことは役に立った」。

Canopyはなぜパートナーになるのではなく売却することにしたのだろうか。さまざまなコンテンツに使用できるレコメンデーションエンジンを構築するうえで、パートナーになることがCanopyのもともとのビジネスモデルだった。

注目すべきことに、少なくともCanopyの話によれば、Canopyは特定の顧客を選ぶことはなかった。また、少なくともCanopyが公表している限りでは、Canopyは創業期のシードラウンドを超えるお金を調達していない。AppleやGoogleはコンテンツの実験に多額の費用を投入できる。それ自体で収益元となるコンテンツもあれば、顧客を自社のエコシステム内に維持することが目的のコンテンツもある。このようなメガプラットフォームの時代には、多くのユーザーに使ってもらうことを目的とした場合、単体のサービスとして拡大しようとすることは非常に困難である。

「我々の長期的な夢は、数百万の人々に利用してもらい、ますます複雑になる世界でユーザーが自分に役立つ情報にアクセスできるよう支援することだ」とホイットマン氏はメールで回答した。「この買収でCanopyの夢はさらに大きくなる。数百万の人々がニュースや情報にアクセスしながら、同時にユーザーデータの安全が確保される新しい方法を我々は構築する」。

CanopyはTonicのユーザーに関する数字を公表していなかったが、データセキュリティにおける専門性がCNNにとっての魅力の一部だったと認めている。その点の詳細とプロダクトのリリース日が気になるが、ホイットマン氏は「1年以内の予定」と語った。

「この買収によって、一度の取引で実績ある最高レベルのチームが活躍できるようになる。通常、このような深い知識とスキルセットを持つチームを集めるには数カ月または数年かかるだろう」とCNNのエグゼクティブバイスプレジデント兼チーフデジタルオフィサーであるAndrew Morse(アンドリュー・モース)氏は声明の中で述べている。「Canopyの高速サイクルかつ反復型のソフトウェアおよびプロダクト開発の文化によって、より迅速に我々の野望を実現し、目標とするものを提供できるようになる」。

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(翻訳: Dragonfly)

Canopyがユーザーのプライバシーに配慮したニュースアプリを公開

パーソナライズのテクノロジーにより、一人ひとりのユーザーに応じてアプリのコンテンツがカスタマイズされ、アプリの体験が向上する。しかし同時に、ユーザーのプライバシーは徐々に失われかねない。Canopyという企業はこの状況を変えようとしている。同社は、ユーザーのログインもメールアドレスの提供も求めないパーソナライズのエンジンを開発した。デバイス上の機械学習と差分プライバシーを組み合わせて、アプリのユーザーにパーソナライズされた体験を提供する。この技術の実例として、同社はニュースリーダーアプリの「Tonic」を公開した。

この新しいアプリは、完全にプライベートでありつつ、体験をカスタマイズするためにユーザーの好みを学習し続けていく。しかし、ほかのパーソナライズのエンジンとは異なり、操作や行動の生データはデバイスから出ていかない。したがってCanopyも、コンテンツプロバイダやパートナー企業も、生データを一切見ることができない。

Canopyは次のように説明している。

(生データの代わりに)個人の操作と行動のモデルを差分プライバシー技術で処理して、当社サーバに暗号化通信で送信する。Canopyに送信されるあなたのローカルモデルは、あなたの操作と直接結びつくことは一切なく、代わりにあなたと似た人々の好みの集合を表す。これがほかとは異なる、我々のアプローチのきわめて重大な特徴だ。暗号化のエラーがあった、あるいはサーバがハッキングされたといった最悪の事態が起きた場合でも、このプライベートなモデルは個人を表していないので、誰も、何もすることができない。

もうひとつの大きな特徴は、Tonicはパーソナライズの設定をユーザーが制御できるようにしているということだ。これは、ほかにはあまりない。パーソナライズのテクノロジーを利用したアプリを使ったことがある人なら、おそらく曲、ビデオ、ニュース記事などのおすすめが表示されたが自分の好みとはまったく違うし、自分が本当に好きなものを表してはいないという経験があるだろう。ほとんどのアプリはこのような情報を詳しく説明していないため、なぜそれがおすすめになったのかわからない。

一方、Tonicではユーザーがパーソナライズの設定をいつでも見ることができ、変更やリセットをすることもできる。

Canopyの目標はTonicの公開ではなく、テクノロジーのライセンス供与だ。Tonicの主な目的はパーソナライズのエンジンがどのように動作するかをデモンストレーションすることだが、このアプリにはほかにも注目すべき特徴がある。

Canopyは人間の編集チームを雇用して、ニュースコンテンツを選んでいる。クリックべイトやヘイト記事といったノイズの山を提供しないようにするためだ。ニュース速報や、裏が取れていないような速報記事も提供しない。同社は、緊急性を求めて最新のニュースを追いかけるアプリを作ったのではないという。

Tonicは、情報を知り発想を得るために毎日読むべき記事を幅広い情報源から厳選し、パーソナライズして届けることに力を入れている。デジタルウェルビーイングという観点では、無限のニュースフィードではなく、記事の数は有限であることが重要と考えられる。

CanopyはTonicの公開にあたり、「おすすめを知るためにデジタルの自分を犠牲にするのは、もううんざりだ。それに、エンゲージメントを最大にすることを目的に最適化された無限のニュースフィードや速報、乱暴な記事に代わるものを作りたかった。そこで我々はTonicを開発した」と説明している。

テック企業大手がユーザーデータの不注意な扱いについて調査を受け、ユーザーのプライバシーへの関心が一般に高まっているこの時期に、こうした技術が公開された。例えばアップルは、同社のハードウェアやソフトウェアがユーザーのプライバシーを尊重していることをセールスポイントとして強く打ち出している。

ニューヨークを拠点とするCanopyは、Brian Whitman(ブライアン・ウィットマン)氏が創業した。同氏はEcho Nestの創業者であり、Spotifyの主任サイエンティストだった。CanopyにはSpotify、Instagram、Google、ニューヨーク・タイムズの幹部だった人々もいる。CanopyのシードファンドはMatrix Partnersが主導し、Spotify、WeWork、Splice、MIT Media Lab、Keybaseなどからも投資家が参加して、450万ドル(約4億8000万円)を調達した。

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(翻訳:Kaori Koyama)