入社が決まれば企業が奨学金返済を肩代わりしてくれる求人サービス「Crono Job」

企業が奨学金の返済を“肩代わり”することで若い人材の負担を軽減し、チャレンジを後押しする——。そんな仕組みを取り入れた求人サービス「Crono Job」が本日11月27日に公開された。

構造自体は学生(新卒)や若手の社会人(第二新卒 / 中途採用)と企業をマッチングするシンプルな求人サービスなのだけど、従来のサイトと異なり「入社が決まると、求職者は自身が借り入れている奨学金の返済資金を支援してもらえる」ことが最大の特徴だ。

Crono Jobには「入社時に奨学金の一部を肩代わりし、その後勤続年数に応じて段階的に返済用の資金を付与するパターン」と「勤続年数に応じて段階的に返済用の資金を付与するパターン」の大きく2種類の求人を掲載。どちらの求人に関しても入社決定時にはCrono Job運営のCronoから約30万円のお祝い金が付与され、奨学金の返済に当てることができる。

Cronoの立ち位置はいわゆる新卒・中途採用のエージェントで、採用が決まった際に企業から成功報酬を得るモデルだ。

Cronoによると現在大学生の半数以上が貸与型奨学金を受給している状況で、奨学金の返還者は約410万人。奨学金の返済苦により自己破産者が過去5年間で1.5万人に達するなど社会問題にもなっている。

奨学金を借りれば毎月の返済のために長時間アルバイトせざるを得なかったり、ある程度の費用が必要な挑戦を諦めざるを得なかったり。心理的な負担ももちろんあるし、入社する会社を選ぶ際にも影響を及ぼすだろう。

「企業がサポートしてくれる仕組みが作れれば、奨学金の返済の負担がなくなるので学生のうちからもっとやりたいことにチャレンジできる。無理にアルバイトをしなくてもよく、その分貴重な時間やお金を留学や自分が本当にしたい勉強に使えるようになる。Crono Jobを通じてそのチャレンジを後押ししていきたい」(Crono代表取締役の高瀛龍氏)

企業としては優秀な若い人材を採用したいことに加えて、せっかく採用した人材には社内で少しでも長く活躍して欲しいというニーズがある。もちろんCrono Jobを使って就職したからといって転職が制限されるわけではないが「奨学金返済を企業がサポートする」という仕組みを1つのきっかけに、双方の課題解決を支援したいという。

今回のサービスローンチに先行して学生の登録はクローズドで少しずつ進めていたようで、現在の登録者数は約50人ほど。国内の理系学生や海外大学に通う学生など、企業が自社でなかなかアプローチできなかったような層の人材も登録しているそうだ。

一方の企業側については約10社が初回企業として参画予定とのこと(発表は12月予定)。高氏によると最初は比較的IT系企業が中心で、スタートアップや上場企業が入ってくるという。

Crono Jobが目指す「求職者は自分に合ったキャリアを選択しながら、奨学金返済の負担も軽減できる」状態を作るためには、参画企業の拡充は必須だ。直近のマイルストーンとしては来年春の段階で100社への導入を目指しているとのことで、様々な業界・規模の企業へ導入を進めていく計画だ。

奨学金返済のため「留学を諦めざるを得なかった」

高氏は慶應義塾大学を経てアクセンチュアに入社。その後フリーランスとしてシステム開発の受託などを行なっていた際にCronoプロジェクトの立ち上げに向けて動き出した。

Cronoに繋がった原体験は学生時代、高氏自身が奨学金を活用していたこと。学費のために800万円ほどの資金を借りていて、毎月の返済額は約6万円。アルバイトをしながら資金を貯めていたものの、奨学金の返済がネックで留学を諦めざるを得なかった。

「たとえば月に6万円であれば、年間でだいたい70万円。このお金があれば長期休み中に海外にいったり、資格やスキルを得るために専門学校やスクールに通うこともできる。奨学金を借りている人の中には自分と同じように何かを諦める体験をしている人が多いこともわかっていたので、その状況を少しでも変えたいと思ったのがこの領域で事業を始めたきっかけだ」(高氏)

Crono代表取締役の高瀛龍氏

実際に会社を創業したのは2018年7月だが、構想自体は数年がかりで少しずつプラッシュアップしてきたもの。特に初期は「そういう仕組みはあったらいいと思うけど、それって本当に儲かるんですか?」と言われることも多かったそうだけれど、スキームの整理と協力者集めを続けてきた。

これまでCronoでは家入一真氏が共同代表を務めるNOW、East Ventures、ソーシャルアントレプレナーズアソシエーション(SEA)が運営するSEAソーシャルベンチャーファンドから資金調達を実施済み。特に会社を設立して本格的にスタートして以降は事業もスムーズに進んでいるという。

今後はCrono Jobを通じて学生や若手の社会人を支援するべく参画企業数と登録人数の拡大を目指していく方針。合わせて企業から奨学金を提供するサービス「Crono」も来年スタートする予定で、それに向けた準備も進めていくとのことだ(こちらについては以前の記事で少し触れている)。

「自分自身もそうだったが『生まれた家庭によってできること、できないことが変わってしまう』のは世の中的にももったいないし辛いこと。(奨学金を使って賄っているような部分についても)そこにいろんな企業が資金を入れてくれる仕組みができれば、学習費用を親に限らず出せるようになる。会社として目指すのは機会の平等の実現。生まれた環境に関わらず、最大限の挑戦をできる世界観を作っていきたい」(高氏)

入社した学生の奨学金を企業が肩代わりするマッチングサービス

ソーシャルアントレプレナーズアソシエーション(SEA)が運営するSEAソーシャルベンチャーファンドは5月16日、Cronoへのシード投資を発表した。金額は非公開。また今回の投資に併せて、SEA代表理事の荻原国啓氏がCronoの新取締役に就任する。

Cronoは、若年層向けの奨学金提供、および貸与型奨学金の返済を肩代わりする企業との人材マッチングサービス事業を計画している。同社によると近年、大学・専門学校に通う学生の約40%が貸与型奨学金を借入しており、数百万円の債務を抱えた状態で卒業。返済が困難にケースが増えているという。同社は、奨学生の生活圧迫や自己破産を防ぐだけでなく、債務が挑戦の障壁になっている問題を解決する。

Crono奨学金の仕組み

具体的には、債務のために挑戦を諦めざるを得ない若年層の学生に対して、Cronoが奨学金を貸し付ける。学生が将来的に加盟企業に入社・勤続することで、貸し付けた奨学金の返済を企業が肩代わりする仕組み。

Cronoのサービスを利用する学生の応募資格としては、就職活動に近い年制大学の2、3年生もしくは大学院生など。もちろん、同社のサービスの「本気で挑戦する人を支援したい」という理念を理解していることが最低条件となる。この奨学金システムを立ち上げた背景には、同社のスタッフが学生時代に経済的な理由で留学できなかった経験が基になっているそうだ。将来的には、就活解禁によって各種ルールが取り払われたあと、大学1年生や高校生・中学生などに奨学金を提供する環境を作る考えもあるとのこと。

奨学金返済支援マッチング

企業と奨学生のマッチングについては、オフラインとオンラインの両方がある。オフラインでは、奨学金をサポートする企業を集めた就職イベントなど開催。オンラインでは、企業側から学生側にオファー、学生側から企業への応募、Cronoシステム内で双方へレコメンドする仕組みなどを準備しているそうだ。

なお、Cronoの奨学金を受けている学生が就職後に離職した場合、奨学金はその学生自身が返済を続けることになる。加盟企業への入社によって債務が企業に移るわけではなく、あくまで肩代わり。ただし、転職先の企業がCronoの加盟企業であれば、奨学金の返済は引き続き企業側が請け負ってくれる。加盟企業は非公表だが、すでに約10社程度が賛同しているという。

なお、奨学金の返済方法は企業ごとにカスタマイズ可能にする予定とのこと。例えば20年間で完済の奨学金の場合、入社時に総額の半分を一括返済、10年後に残りの半分を一括返済とすることで、同じ企業に長く働いてもらうためのインセンティブにすることもできる。企業奨学金の提供条件として、加盟企業のインターンシップに参加することが条件になるケースも考えられるそうだ。

今後は、海外留学のプログラムを提供している機関やエンジニアスクール、資格取得専門学校とアライアンスを組み、経済面で諦めざるを得ない学生にCronoが資金面をサポートし、各スクールがコンテンツを提供する座組みも進めていく予定とのこと。