人間と手を組んでこそ発揮されるロボットの真価

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【編集部注】執筆者のMatt Beane氏は、MIT Sloan School of Managementの博士課程最終年次に在籍中で、HumaticsではChief Human-Robot Interaction Officerを務めている。

ロボットが人間の仕事を奪っていくという話が、人気メディアを騒がせている。しかし、ただなんとなく憶測するのをやめて、実際の仕事現場に目を向けてみると、高度なロボットが人間の仕事に与える影響というのは、もっと微妙で複雑であることがわかる。例えば、仕事の消失や収入格差といった問題を考えてみても、実際に数多くの人に影響を及ぼすには、ロボットの数が全く足りていない。

それでも多くの場合、ロボットは高い技術力が要される仕事のやり方に大きな変革をもたらす力をもっている。戦地でF-16戦闘機を操縦するのは、例え同じ環境下であったとしても、半自動無人航空機のReaperを飛ばすのとは、求められるものが全く違う。

ロボットがこれほど抜本的に仕事の形を変えてしまうことから、ロボットに関連した社会の大きな動きには新しい課題が伴う。そのひとつが、今後ロボットと一緒に仕事を行っていく次世代の専門家のトレーニングに関するものだ。

外科手術の世界で増加しているロボットの利用についての私の研究が、その答えの一部に繋がるだろう。しかし同時に、私の研究からは、将来的に外科手術のトレーニングや、その結果としての外科手術の質にも大きな影響を与えうる、いくつかの動向が明らかになった。

今後ロボットと仕事をするようになる、次世代の専門家にどのようなトレーニングを提供すればいいのだろう?

これまでに説明した通り、経験豊富な外科医は、ロボット手術システムを用いれば、たった一人で(重い責任を負いつつ)ほぼ完璧に手術を行うことができる。そうなると、研修医が手術に参加する機会はかなり減ってしまい、医者の適性や正当性に問題が生じることとなる。たくさんの手術を見てはきたが、実際の経験が少ないという医者に手術をしてもらいたいと思う人はいないだろう。

今がロボット時代の幕開けだとすると、熟練した技能が要される業界のためにも、学ばなければならない重要な教訓があると私は考えている。

いくつかのポイントを挙げれば、その教訓が見えてくる。多くの人が、ロボットは炭鉱のカナリア(何かの予兆)なのか、それとも燻製ニシンの虚偽(ただの論点のすり替え)なのかと激しい議論を交わしているが、私たちのロボットの認識が一様でないことにその理由の一部がある。ロボットとは、センサーでデータを収集し、AIによって動くパーツの集まりを意味するのか、それともソフトウェアやプロセスの自動化もロボットに含まれるのか。後者は前者に比べて、膨大な数の対象を指し、経済や職業に与える影響もずっと大きい。

控えめに見ても、ロボットが人間で言う「デジタル革命」に直面しようとしているという考えに至るには理由がある。例えば、ロボットの開発や、ロボットへの投資は急激に加速しており、毎年その性能は劇的に向上する一方、価格は下がっている。さらにインターネットによって、ひとつのロボットが学んだことはすぐに共有され、多くのロボットが瞬間的に同じことを学習することができる

ロボット工学の爆発的な成長がこれから起きるとすると、原理上も実際にも、ロボットは人間の代わりを務めるよりも、人間の能力を高めようとするときにこそ、その真価を発揮するということを心に留めておく必要がある。しかし、何が人間の代替にあたり、何が人間の能力の強化にあたるのかというのは、よく調べてみないとわからない。

例えば、医療ロボットのDa Vinciは、本来の目的とは矛盾しているものの、実際は外科医の能力を低下させている。昔から、外科の研修医は熟練医の手術を手伝うことで、その技術を習得していた。その一部は、手術中の外科医が、自分以外に技術をもった人の手が必要になった際に研修医を頼るという、嬉しい偶然の産物であった。研修医は、手術の様子を観察するだけでなく、経験豊富な外科医の目が光り、いつでも手が出せる状況下で、手術の一部を手伝ったり、さらには外科医に代わって手術を行うことさえあった。熟練医が皮膚を取り払って、研修医が切開や縫合を行う、といった具合に。

これまでの外科の現場では、研修医が、指導者と文字通り肩を寄せ合い、手術中常に自分の役割を果たすことが求められていたのだ。20世紀初頭から、このようにして研修医のトレーニングは行われていた。

そして、ロボットがそのダイナミズムを変えつつある。

Da Vinciを使った手術中、研修医は自分たちが現場の隅っこに追いやられているような感覚を持つことがよくある。これまでの手術では、4時間に及ぶ実践のチャンスが与えられることもあったが、現在のDa Vinciを利用した手術中に彼らに与えられる時間は、10〜15分がいいところで、全く手術に参加できないことさえある。これは、ロボット工学の技術自体が、研修医から学びの機会を奪っているということではない。むしろ、重い責任を抱えている所属外科医が手術を完璧にコントロールすることが、テクノロジーの力で、iPhoneを操作するように簡単になったということを意味する。熟練医が手術を行うというのは、短期的に見れば患者にとって良いことであるが、医者という職業自体が新しい問題に直面しているともとれる。

それでは、外科医の現場における例から、熟練した技能が必要な業界の将来について、どのような教訓を学ぶことができるだろうか。外科医というのは、最先端のロボットシステムを本格的に導入した最初の職業のひとつであり、結果的に、外科手術というもの自体が再構築されつつある。しかし、パイロットを一例とした、既にその域を超えた職業のように、最新のロボットシステムを急ぎ足で導入しようとする動きは、人がロボットとの協働を通してさらにパフォーマンスを高めることが出来るよう、既存のトレーニング法の大規模な見直しの必要性をむしろ低下させるかもしれない。

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(翻訳:Atsushi Yukutake