Slack、Enterprise Gridで大企業向けコミュニケーションのトップを狙う―SAPと提携、ボットも導入へ

2017-02-01-slack-enterprise-grid

企業向けチャット、ファイル共有サービスのSlackはわずか3年前にスタートしたにもかかわらず目覚ましい勢いで成長し、今や1日当たりアクティブ・ユーザー500万人、うち有料ユーザー150万人となっている。今日(米国時間1/31)、Slackは最大50万人までの企業を対象とする新しいサービスをリリースした。同社は巨大企業においてもコミュニケーションのデファクト標準の地位を占めるべく、さらに一歩を踏み出したようだ。

SlackがスタートさせたEnterprise Gridは非常に巨大な企業、組織をターゲットにした新しいサービスだ。

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Enterprise Gridは約1年前から開発が行われており、Slackのもっとも野心的なプロジェクトだ。単に利用可能なユーザー数が事実上無制限なエンタープライズ版のSlackというだけでなく、既存のサービスにない機能も追加されている。

今日現在はまだローンチされていないが、Enterprise Gridに追加される機能には、強化された検索、ビジネス・インテリジェス、アナリティクス・ツールが含まれる。これらは今年、順次公開される予定だ。Enterprise GridのユーザーはSlackに関連付けられた全情報を横断的に検索できる。また探している対象に関連するコンテンツや人物を提示してくれる。こうした能力によってSlackは企業横断的な対話的知識ベースのプラットフォームとなることを目指している。

Enterprise Gridは今日から利用できる。Slackの発表によれば当初のユーザーには金融大手のCapital One、オンライン支払サービスのPaypal、それにIBMなどが含まれるという。

IBM自身が独自の大企業向け共同作業プラットフォーム、 IBM Connectionsを販売していることを考えると、同社が ローンチ・ユーザーに加わっていることが特に興味深い。またIBMはAIビジネスでもパイオニアの一社であり、企業向け知識ベースとしてWatson Workspaceを持っている。企業知識ベースのライバルとなる可能性があるのはFacebookのWorkplace、MicrosoftのTeams、Jive、CiscoのSparkなどだろう。

Enterprise Gridに追加が予定されている諸機能は、一言でいえば、最新のエンタープライズ向けコミュニケーション・ソフトウェアに必須とされるサービスのセットだ。

企業のIT管理者は複数の大型チームにコミュニケーションやコンピューティング能力を供給し、適正に管理しなければならない。Slackはすでに暗号化機能を提供しているが、これも含めてエンタープライズ・プラットフォームには多階層のセキュリティー、認証システムが求められる。。ユーザー管理と認証については、Okta、OneLogin、Ping Identity/ Federate、MSFT Azure、Bitium、LastPass、Centrify、Clearlogin、Auth0などを利用できるレイヤーが必要だ。各種のコンプライアンスが必要とされるが、特に医療データのHIPAA、金融データのFINRAに対するコンプライアンスが重要だ。データ整合性のチェックとデータ漏洩の防止レイヤーはPaloAlto Networks、Bloomberg Vault、Skyhigh、Netskope、KCurのRelativity、Smarshなどをサポートできなければならない。

こうした諸機能に加えてSlackはSAPとも提携し、SAPはユーザー企業向けに開発するボットを利用する。Concurという出張および経費に関するボット、パフォーマンス管理のSuccessFactorsボット、HANAクラウド・プラットフォームの利用に関するボットが最初の3件となる見込みだ。SAPボットは新しいEnterprise Gridだけでなく、Slackの全サービスで利用可能になるらしい。

Slackが新サービスをGrid〔格子〕と名付けた理由だが、 そのコンセプトはこういうもののようだ。つまり大企業にはいくつもグループが存在し、それぞれのグループは必要があれば相互にコミュニケーションできなければならないが、通常は各個に独立の組織のように振る舞うのが普通だ。つまり何千人ものユーザーが存在するプラットフォームの場合、すべてのコミュニケーションを1か所に集めるのは不適切だ。それでは情報が過多でノイズが耐え難いものになってしまう。

Slackのプロダクト担当副社長、April Underwoodは「Slackはチームとして緊密で多様なコミュニケーション・プラットフォームである必要があるが、同時に他のチームとのコミュニケーションではメールを利用してもよい」とGridの発表イベントで述べた。

現在通常のSlackではチャンネルを新設した場合、チームのメンバーは誰でもチャンネルにメンバーを招待できる。Enterprise Gridではそれぞれのチームに管理者がおり、管理者のみが新たなメンバーを追加できる。チームの管理者の上位に全社的なIT管理者が存在し、下位の管理者の権限やチーム間のコミュニケーション方法の設定を含め、全システムを管理することになる。

現在何十万もの企業がSlackを利用しているが、そのうちどれほどがEnterprise Gridに移行を希望するかがSlackにとって重要な問題だ。私の取材に対してUnderwoodは「SlackはGridをユーザー企業に直接販売し、既存ITシステムとのインテグレーションもSlack自身が行う予定だ」と語った。エンタープライズ・ソフトの場合、販売やサポートはシステム・インテグレーターを介するのが普通だが、まだそうした販売チャンネルは設定されていないという。

Constellation Researchのアナリスト、Alan Lepofskyは「Slacが現在必要としているのは特定のビジネス分野に特化したアプローチだろう。対象とするセグメントにおけるブランド、信頼性を確立する必要がある」と語った。

「Slackはビジネス分野ごとに垂直統合を進める必要がある。〔現在は〕万人向けの汎用的なアプローチだが、Gridは製薬、金融、製造業などそれぞれの分野の特徴を理解し、特有のニーズを認識しなければならないだろう。業務のサイクル、サポートなど垂直分野ごとに大きく異なる」とLepofskyは言う。

Enterprise Gridの料金は明らかされていない。通常のSlackは1ユーザーあたり月8ドルと15ドルの2バージョンがある。新サービスの料金について興味がある場合はSlackに直接問い合わせることとなっている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+