【コラム】スタートアップが口にするマーケティング策としての「インパクト」に投資家が惑わされないようにするための3つのサイン

2021年の初めに出されたEUの報告書によれば、42%の企業が自社の持続可能性のレベルを誇張していることがわかった。このような「グリーンウォッシュ」があまりにも横行するようになったため、ある団体が企業の真の環境負荷を計算し、誤解を招くようなマーケティングを避けるためのプラットフォームを立ち上げたほどだ。


現在、世界的なインパクト投資市場の規模は7150億ドル(約81兆5100億円)と言われており、成長を続けている。しかし、良いことをしているビジネスに資金を投入しようと躍起になっているベンチャーキャピタル、エンジェル、セレブリティたちは、十分なデューデリジェンスを行っていない。

創業者の中には、トレンドに乗って投資家の注目を集めるために、インパクトと自分を結びつける者もいる。自分のことを「インパクトプレナー」(impactpreneur)と呼ぶ者がいるのはそれが理由だ。

インパクトを与えることと、マーケティングのためにストーリーを押し出すこととは紙一重の差であるため、スタートアップの真正性を見誤ると投資家は資金と評判を失うことになる。多数のスタートアップ企業と仕事をする中で、私はスタートアップ企業が本当に変革を起こそうとしているのではなく、単にインパクトを利用して世間の注目を集めようとしているだけのことを示す3つの兆候を見出した。

インパクト指標を記録・追跡していない

もし企業が、自分たちが重視していると主張しているインパクトを測定していなければ、それは赤信号だ。本当にインパクトを与えようとしているスタートアップ企業なら、自分たちの目標は何か、どうやってそこに到達するのか、そしてその過程でどのような指標をモニターするのかを明確に定義している。

私の立ち上げたFounder Institute(ファウンダー・インスティテュート)では、スタートアップ企業がインパクトのステップを段階的に追跡するのに役立ついくつかの「インパクトKPI」を定義している。

例えば成功した女性創業者の数を増やすことを目的とした女性主導のアクセラレータープログラムなら、月ごと、年ごとの女性参加者数、事業を立ち上げた参加者数、それらの事業がどれだけの資金を得たかなどの評価指標を設けることができる。一夜にしてインパクトを生み出すことはできないものの、道筋を細分化することで、企業はインパクトへの道筋を切り拓き、改善していくことにコミットしていることを示せる。

また、そうしたインパクト指標を追跡することで、企業は公表しているインパクトに対して十分な説明責任を果たすことができる。実際の指標が悪くても公表を行う企業は、何が悪かったのかを深く追求し、状況を改善するための計画を立てていく姿勢を持つことが多い。

そのすばらしい例の1つが、2020年チームの多様性に関する目標を達成できなかったことを認める報告書を発表した、Duke Energy,(デューク・エナジー)だ。この指標を改善するために、同社は新たにチーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(多様性並びに包含性担当責任者)を採用し、サービスを提供するコミュニティ内の平等性を推進するために400万ドル(約4億6000万円)を投じた。

私たち投資家はまた、スタートアップ企業が主張していることを実践しているのかどうかを見極めるために、そうした指標が企業全体に浸透しているかどうかを確認しなければならない。例えばより多くの人が教育を受けられるようにしたいと主張している企業なら、創業者は社内の研修プログラム、提供コース、開発計画、展開などに関する指標を提供することができるはずだ。

もし企業がこうした情報を持っていないとしたら、それはその会社のインパクトが外面的な目標のみを対象としていて、社内のオペレーションに組み込まれていないことの表れかもしれない。

CMOがインパクト戦略の責任者である

インパクトの責任は、最終的にはCEOの肩にかかっているはずだ。これは当たり前のように聞こえるかもしれないが、もしインパクトに関する会話や報告をする中心人物がマーケティング最高責任者(CMO)であるとしたら、それは極めて問題だ。

インパクトがマーケティングの立場だけから考えられていた場合、思いつきのインパクトやお手軽なインパクトが生み出されてしまう可能性は高い。インパクト戦略の直接的な成果ではなく短期的な成果を振り返って成功に満足しがちだからだ。例えばあるスタートアップ企業は、2020年にカーボン排出量を10%削減したと主張しているが、実際にはパンデミックの際に業務を停止したことによる減少だった。

同様に、スタートアップのインパクト目標があまりにも良すぎるように見える場合、それはたいてい見掛け倒しなのだ。マーケティング部門は世間に打って出ようとする際に大きく語りがちだ(Theranos[セラノス]のことを思い出そう)。しかし、インパクトを与えるためには、企業は月を目指す前に地に足をつけて行動しなければならない。

例えばExxonMobil(エクソンモービル)は、実験的に開発した藻類バイオ燃料を、輸送時の二酸化炭素排出量を削減する手段として宣伝した。だが消費者は、同社が二酸化炭素排出量を実質ゼロにできていないことを指摘した上で「よりセクシーな」インパクトのある代替品を求めた。

進捗ではなく予想である

創業者が資金調達をする際に、最も破壊的な側面を強調するのは当然のことだ。いわく、貧困をなくし、格差をなくし、気候変動の影響を減らすことができるなどなど。このような約束は投資家を驚かすかもしれないが、実現手段を担保したものでなければならない。

投資家なら誰でも、スタートアップのピッチデッキに書かれた財務予測のなかに盛り込まれた楽観的な気分を見て取ることができる。重要なのは数字ではなく、その背後にあるプロセスだ。インパクトの場合もまったく同じだ。

もしスタートアップを描き出すものが、インパクト目標の未来の数字だけならば、投資家は警戒すべきだ。数字よりも実現手段の方がはるかに多くを語ってくれる。

例えば、GSKは2030年までにネット・ゼロ・カーボンになるという野心的な計画を発表しているが、再生可能な電力、電気自動車、グリーンケミストリーへの切り替えといった主要な活動の内訳をみることで、同社が実際にそのインパクトに向かって動いているかどうかを確認できる。たとえトータル・ネット・ゼロに到達していなくても、意思は明確であり、やがて前進はしていくだろう──たとえペースは遅くとも。

Theranosの事例から学んだことがあるとすれば、企業が資金調達の際に、インパクトの魅力の嗅ぎ分けに敏感になったということだ。投資家が、真のインパクトとマーケティング上の策略とを見分けることができれば、自分自身を守ることができるだけでなく、その投資資金を実際に変化起こせる場所に投入することができる。

編集部注:著者のJonathan Greechan(ジョナサン・グリーチャン)は、世界最大のプレシードアクセラレーターであるFounder InstituteのCEOで共同創業者。

画像クレジット: alexkar08 / Getty Images

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(文:Jonathan Greechan、翻訳:sako)

【コラム】あなたは次世代の価値駆動型VCの在り方にフィットできているだろうか?

編集注:本稿の著者Jonathan Greechan(ジョナサン・グリーチャン)氏は世界最大級のプレシードアクセラレーターFounder Instituteの共同設立者。

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かつてないほど多くの個人が投資活動に参入している。2020年の米国株式取引の約5分の1は個人投資家によるもので、前年の約15%から上昇した。大きなリターンを見込めることから、本格的な投資事業の立ち上げを決断する人の数が増えてきている。

資金調達の世界がより民主的でアクセスしやすいものとなっている中、人々がベンチャーキャピタル会社設立への正しい道筋を見出すのを支援し、適切な人々がVCの領域に参入するようにしていく役割を私たちは担っている。スタートアップは進化しており、新しい投資マネージャーは変化する状況に適応することが求められる。今日のVCにとって、最高のポートフォリオを手に入れるためには資金以上のものを提供する必要があり、最高の機関投資家を自身のファンドに呼び込むためにはインパクトを重視しなければならない。

スタートアップ投資家は、経済的な意味で、大規模な創造的破壊に向けたバックボーンとなり得る。だからこそ、Founder Instituteでは、より多くのVCが強力な価値を保有することの必要性を強く認識している。彼らは、人類にとってより明るい未来を築く企業を支えてくれるからだ。そう考えるのは私たちだけではないようだ。当機関の最初のプログラム「倫理的VCのためのアクセラレーター」には申し込みが殺到した。

2021年に自分のVCファンドを主導したい人に向けて、意欲に燃える投資家が自問すべき主要な質問を以下に挙げよう。

適切な理由で投資を行っているか?

スタートアップへの投資は、単に金銭を得ることではない。将来の業界リーダーとなるスタートアップを選ぶ際に、VCは他の何よりも有益な(あるいは悪影響を及ぼす)力を持っている。金銭だけが目的なら、投資対象は限定的なものになるだろう。優れた企業を見出すということは、その資本の範囲を超えて、企業のビジョンの長期性、社会への現実的な影響、そして消費者がどれほどその企業に愛着あるいはその反対の感情を抱くかを見極めることを意味する。

結局のところ、大半のスタートアップ創設者は、お金を稼ぐためだけでなく、世界に影響を与え、自身のミッションに沿った製品を作るために、自らの血と汗と涙をビジネスの構築に注ぎ込んでいるのだ。最高の創業者を引きつけたいと考える新しいベンチャーキャピタリストは、自分たちのファンドのビジョンとミッションを同じ観点から考える必要がある。

環境、社会、ガバナンス (ESG)の目標に関しては、VC企業は取り組みが遅れているが、時代が変化している兆候もある。企業の中には、外部からの影響力だけでなく、事業目標を推進するためにESGを実施するコミュニティを形成しているところもある。このトレンドを加速させるべく、私たちは弊社のVC Labの参加者に、倫理的で繁栄した健全な世界を作るための金融専門家の行動規範であるThe Mensarius Oath(ラテン語で「銀行家」または「金融家」の誓いを意味する)に忠順を誓うよう求めた。

関連記事:欧州VCファンドがESGイニシアチブに関するコミュニティを構築

どのような価値をもたらすのか?

VCの数は増加の一途をたどり、業界はますます混み合った状態となっている。つまり、単に多額の資金を提供するだけでは、最高のスタートアップを引き付けることはできない。創設者は、量よりも価値を求めている。彼らは概して、空白の小切手よりも、ミッションの調整、接続性、付加価値サービス、業界の専門知識に目を向けている。

優れた創設者は複数の選択肢の中からVCを選ぶことができるのであって、その逆ではないことを忘れてはならない。自分が彼らに適した存在だと納得させるには、同じ業界での実績(または他の業界からの移行可能な経験)と信頼できる筋からの紹介が必要となる。また他のファンドとは一線を画すような、強力なバリュープロポジションやニッチも求められる。例えば、Untapped Capitalは「予想外」で「ネットワーク化されていない」創設者に、R42 GroupはAIと長寿にフォーカスしたビジネスに投資している。

創設者に価値を提供するプロフィールをまだ持っていないと思うなら、自分が何者であるかを正確に説明するために時間をかける価値がある。つまり、ファンドマネージャーとして達成したいこと、投資先企業に対するビジョン、そしてその実現のためにあなただけがどのように貢献できるか、を明確にすることだ。

秘められたソースは何か?

過去に実績のない新規VCファンドとして、リミテッドパートナー(LP)は当然ながらあなたのファンドに投資することに慎重になる。そのため、自分のストーリーを伝え、自分の評価を証明するブランドを構築しなければならない。

基本に立ち返り、自分の強みを正確に洗い出そう。インスピレーションを得るのに苦労しているのであれば「私はXを備えているので、最高の取引をすることができる」「私はXによって自分のポートフォリオ企業の成長を支援する」といった表現を使ってみて欲しい。現段階では、銀行の残高は競争力ではないので、手持ちの資金の量があなたの強みだということには慎重になるべきである。あなたの持つ独自性、信頼性、適合性にフォーカスしよう。多くの戦略的な人脈、広範な業界経験、成功したエグジットのバックシートを有することが、あなたの秘密の要素になるかもしれない。追加のガイダンスとして、私のチームがまとめたリソースをチェックすることで、ファンドマネージャーが自らのニッチを「投資テーマ」に組み入れる一助になればと思う。

リストができたら、自分の強みのトップ3を選び、それぞれの強みが自身のネットワークや専門知識によってどのように強化されるかを詳しく説明するフォローアップセンテンスを書き上げよう。理想的には、これらをテストグループ(友人、家族、仲間の起業家)と共有し、どれが最も説得力があるかを尋ねるのが望ましい。1つの点について全体的な合意が得られれば、それをあなたのVCファンドの命題の主要部分とすることができる。

強固なネットワークが確立されているか?

あなたが誰を知っているかは、あなたがどういった知識を有しているかと同じくらい重要である。最も著名なVCに見られる傾向として、情報と人々の流れの中に身を置いていることが挙げられる。ネットワークは、自分が尊敬されていることを創設者に伝え、彼らが将来のメンター、顧客、投資家、または雇用者とつながるための環境に迎え入れられることを保証するものとなる。

もしあなたが思想的リーダーや、UberやPayPalのような有名企業の出身者であったり、新興業界のコミュニティを始めているなら、ポジティブな取引フローを形成する可能性が高い。ただしこのようなステータスや関係は、ファンドを立ち上げる前に確立されていなければならない。ゼロからネットワークを構築しようとするとあまりに大変で混乱してしまい、自分を支える社会的な証明が得られなくなる。

自分のネットワークが満足のいくものかどうかを直感に頼るのは避けよう。人間関係を書き出し、親密さ(親しい人なのか、単なる知り合いなのかなど)に基づいて人を分類し、特性(消費者、金融、元CEOなど)を定義する。このような「マップ」はExcelシートのように基本的なものにしてカテゴリーごとに列を作ることもできるし、Canvaのようなもっと魅力的なビジュアルツールを使うこともできる。将来のチームと共有し、ネットワークのギャップを埋めることを促進するのに最適だ。

どのくらいの規模のファンドを立ち上げたいか?

VCファンドは他のビジネスと同じように運営される―ビジョンを描き、チームを募集し、組織を作り、資金を調達し、価値を提供し、ステークホルダーに報告しなければならない。始めるには、どのくらいの規模のファンドが必要かを検討し、少なくとも資金全体の10%をLPから調達する必要がある。LPには、企業、起業家、政府機関、その他のファンドが含まれる。

また多くのLPは、ファンド運営者がファンドの総額の少なくとも1%を個人的にまかなう「個人的関与」が望ましいと考えていることも心に留めておいて欲しい。

そうした理由から、500万ドル(約5億4000万円)から2000万ドル(約22億円)程度の小規模なスタートを切り、この「トレーニングファンド」を使ってリターンを示し、その後に続くより大規模な資金調達のための発射台を作るのが最善だ。

ローンチからエグジットまで創設者を支援できるか?

企業とのパートナーシップは長期的なものになるため、資金を提供すればそれで済むということではない。創設者はスタートアップのライフサイクル全体にわたって一貫したサポートを必要としている。あなたが最も一緒に働きたいと感じているスタートアップについて考えてみよう。将来どのように彼らを支援することができるだろうか?エグジット達成に向けてどのようなことができるのか?

スタートアップの成長に合わせて適用できるマーケティング、雇用、資金調達、文化創造に基づいた、さまざまなリソースやコネクションを確保する、というスキル中心のアプローチを取るとよいだろう。あるいは、短距離走的計画を立てて、創設者と頻繁に話し合い、その進捗に基づいてサポートの提供を繰り返すことも考えられる。サポートを構築する方法がどのようなものであっても、提供できる内容、VC側の都合、優先される関与、およびそれを実証する方法について、現実的であることに留意しよう。

ベンチャーキャピタルの将来は、創設者の新しいニーズを念頭に置いて資金を構築した、強固な価値観を持つベンチャーキャピタリストによって牽引されるだろう。かつてのVCは排他的でミステリアスな面を持っていたかもしれないが、2021年は、VCが企業や投資家に対してオープンかつ公正な空間を提供していく年になるかもしれない。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:コラムFounder Institute

画像クレジット:PashaIgnatov / Getty Images

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(文:Jonathan Greechan、翻訳:Dragonfly)