1964年に人類が初めてに発見したブラックホール、はくちょう座X-1が、実はこれまで信じられていたよりもはるかに巨大であるとの研究結果が発表されました。これにより天文学者たちはブラックホールの形成と成長のしかたを再考しなければならないかもしれません。
連星系を成しているとされるX-1は、これまで15太陽質量、つまり太陽15個分の質量とされていましたが、ハワイ~プエルトリコ間の米国各地に設置されたアンテナで構成された超長基線電波干渉計(VLBA)を用いた6日間の観測結果は、ブラックホールは21太陽質量を持つことを示しています。そして、われわれの星からX-1までの距離もこれまでの6000光年ではなく、7200光年を少し超えるぐらいに遠いことがわかりました。
銀河の中心にあるとされる超大質量ブラックホールが数百万から数十億太陽質量とされていることを考えると、恒星質量ブラックホールであるX-1の大きさなど宇宙のなかでは大したものでないように思えます。しかし、X-1が15でなく21太陽質量となると、ブラックホール形成のときに失われた恒星の質量の推定値も考え直さなければならなくなります。
ブラックホールの質量は、主にブラックホールになったもとの恒星の大きさと、恒星風(太陽風)の形で失われる質量の量に依存します。より高温で明るく輝く星はより重く、より多くの恒星風を生成する傾向があるとされます。そのため、星の質量が大きいほど、崩壊前および崩壊中に恒星風によって質量が失われやすくなり、ブラックホールが発する電波が強くなります。
しかし一般に、天の川銀河における恒星風の強さは、元々の星の大きさに関係なく、生成されるブラックホールの質量を15太陽質量以下にとどめる程度だと考えられていました。新しい調査結果はそうした認識をくつがえすものです。
「ブラックホールをこれほど重くするには、明るい星が一生の間に失う質量の量を減らす必要があります」と研究者は述べています。
新しいブラックホールの質量と地球からの距離の数値を使って計算した結果、はくちょう座X-1が信じられないほど速く、高速に近いほどの速さで回転していることが確認できたとのこと。これは、これまでに見つかった他のブラックホールよりも高速とのことです。
研究者らは、今後もX-1の観測を続けることを計画しています。オーストラリアと南アフリカで建設が進められているスクエア・キロメートル・アレイ(Square Kilometer Array:SKA)が稼働すれば、それを使った観測でX-1やその他のブラックホールの観測でより詳しいことがわかることが期待されます。天の川には1000万から10億のブラックホールが存在する可能性があり 、それらの少なくともいくつかを研究することで、この謎を解き明かすことができるかもしれません。
(Source:Science、via:MIT Technology Reviews。Engadget日本版より転載)
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