自動野菜収穫ロボのinahoが実証事業・補助金プロジェクト3種類に採択

inaho RaaS

自動野菜収穫ロボット開発のinaho(イナホ)は6月23日、「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証」「イノベーション創出強化研究推進事業」「ものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業」と3カ月連続でプロジェクトに採択されたと発表した。AIを使った自動野菜収穫ロボットを開発するとともに、RaaS(Robot as a Service)として生産者に「派遣」し、日本の農業が抱える人手不足と経営課題を解決する。

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証」の事業概要は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う産地の労働力不足に対応し、強い生産基盤を構築するため、スマート農業技術の実証を緊急的に実施するというもの。inahoは、自動収穫ロボットをアスパラガス農家へ導入し、収穫作業の自動化・省力化を通じて労働力不足の解消を図る。

また、同機構の「イノベーション創出強化研究推進事業」の概要は、革新的な技術・商品・サービスを生み出していくイノベーションの創出に向け、「知」の集積と活用の場による研究開発事業の推進を目的に研究を委託するもの。inahoは、平畝(ひらうね)対応の自動野菜収穫ロボットが枠板式高畝栽培システムでも利用可能となるよう画像診断システムの改良などを行う。

経済産業省の「ものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業」は、ソフトとハードの融合領域におけるスタートアップ(ディープテック系)のエコシステム構築を目的に、スタートアップが製品開発・量産化設計・試作の実証などを行う費用の一部を補助する。inahoの取り組み内容は、自動野菜収穫ロボットの開発において、安全性・環境耐性・コスト低減の実現に向けた量産化設計・試作としている。

関連記事
アスパラ収穫ロボは量産体制へ、開発元のinahoが資金調達
inahoがアスパラ自動収穫ロボの正式サービス開始、初号機は佐賀県の農家に導入

inahoがアスパラ自動収穫ロボの正式サービス開始、初号機は佐賀県の農家に導入

inahoは10月3日、自動野菜収穫ロボットの従量課金型のビジネスモデル(RaaS、Robot as a Service)を正式にスタートさせ、佐賀県の農家に第1号となるロボットを導入した。市場の取引価格×収穫量の一部を利用料として徴集する従量課金の料金体系を採っており、農家は初期導入費を抑えられるほか、故障によるメンテナンス費が不要なのが特徴だ。

ロボットのサイズは、全長125×全幅39×55cmで、重さは約65kg。バッテリーで駆動し、フル充電で最大10時間の連続駆動ができる。バッテリーは家庭用コンセントに接続して充電可能だ。このロボットでアスパラガス1本を12秒ほどで収穫できるという。

ロボットは、移動、探索、収穫という一連の流れで自動運転する。具体的には、畑に設置した白い線に沿ってルート走行するため、ビニールハウス間の移動や夜間の利用もOK。操作には専用アプリをインストールしたスマートフォンを使うが、遠隔でコントロール可能だ。また、ロボットが詰んでいるカゴが収穫物でいっぱいになった場合はスマーフォンに通知が届く。収穫する野菜の大きさはセンチメートル単位で指定できるほか、収穫対象となる野菜はロボットが内蔵するAIを活用した画像認識により枝や茎と判別したうえで、設定したサイズ以上のものだけがカゴに入れられる仕組みだ。

収穫するための手には医療用のロボットアームをカスタマイズしたもので、収穫物にキズを付けずにカゴに入れられるとしている。同社では収穫できる野菜の種類を増やすことを計画しており、将来的にはアスパラガスのほか、トマトやイチゴ、キュウリなど目視が必要な野菜を中心に対応作物を広げていく。今後さまざまなデータを収集し、農家へ生産性向上のアドバイスなども実施していくという。

同社は今後の目標として、ロボットの生産台数を今年中に数十台、2020年に数百台、2022年には約1万台を目標としており、九州を中心に新たに拠点を開設していく。さらに2020年にオランダに拠点を開設し、グローバル展開も目指すという。

農林水産省が公開している「農業構造動態調査報告書」や「農林業センサス」によると、基幹的農業従業者数は2010年の205万人から、2020年には152万人、2030年には100万人と20年間で半減しているうえ、施設園芸農家数、面積ともに過去15年で約25%減少。1戸当たりの施設面積も規模拡大が進んでいないなど、国内農業を取り巻く現状は非常に厳しい。

同省の「農業労働力に関する統計」や「2017年農業構造動態調査」によると、農業就業人口や基幹的農業従事者の平均年齢は約67歳、49歳以下の割合は約10%というデータもある。これらのデータから、国内農業は高齢の現役世代に支えられており、後継者がいないため年を追うごとに従事者が減るという悪循環に陥っていることが浮き彫りになってくる。

inahoは、農業従事者数の減少と高齢化を食い止めるため、開発したロボットの初期導入コストやランニングコストを抑えられる従量課金のRaaSモデルを選んだ。初期導入費用が高額になればなるほど、跡継ぎ問題の解決を含めて農家側に長期的な経営展望が必要だが、それを高齢の現役世代に求めるのは難しい。従量課金であればとりあえず導入してみることも容易だ。まずはロボットを導入してみて人件費や労働時間の削減、収穫量の安定化が図れれば、作付面積の拡大などに着手できるだろう。ロボットとの共働で農業で安定的な収益を確保できるようになれば、後継者問題も自然と解決するはずだ。

アスパラ収穫ロボは量産体制へ、開発元のinahoが資金調達

野菜収穫ロボットの開発を進めているスタートアップであるinahoは8月28日、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、創発計画、ドフ、複数の個人投資家からの資金調達を発表した。調達額は非公開。

inahoは、2018年11月にTechCrunchが開催したTechCrunch Tokyo 2018のピッチコンテスト「スタートアップバトル」のファイナリストで、そのほかピッチコンテストでもさまざな賞を受賞した注目のスタートアップ。

今回の資金調達により同社は、野菜収穫ロボットの量産と対応作物の拡大、人員の拡充、他社提携を含めたマーケティング施策を進める。対応作物については、現在はアスパラガスのみだが、きゅうりやトマトへの対応目指す。

同社が開発したロボットは、画像認識と機械学習による解析でAIが対象作物の収穫時期を判断。同じ場所で栽培しても作物の生育には個体差が出る。特にアスパラガスの場合は1日で数cm伸びることもあり、収穫シーズンには毎日のように畑やビニールハウスに行って作業する必要がある。しかもアスパラガスは地中から生えてくるので、人の手で収穫するには中腰での作業が続くので重労働だ。

具体的には、ロボットが搭載するカメラが捉えたアスパラガスの画像をAIが解析し、栽培位置や高さ、奥行きを測定したあと、出荷基準を満たす個体だけを選別・収穫する仕組み。規格外品や病害などについては、画像を照合して判別し、異常がある場合は早期に刈り取ることも可能だ。収穫に使うアームは、細かな操作を得意とする医療系のロボットアームをベースに開発されている。

同社はロボットを農家に直接販売するのではなく、ロボットを中心としたサービス(RaaS、Robot as a Service)を展開。サービスを導入した農家には、順次最新のロボットが提供され、収穫量に応じてinahoにマージンを支払うというモデルのため、初期投資が不要なのが特徴。高齢化が進み長期の設備投資が難しい農家にも受け入れられそうだ。