オンラインで「人対人」の接客を実現するオモチャデバイス「KARTE GATHER」

ショップに入ると、かわいいモンスター型の人形に向かって、店員が商品をあれこれ見せながら、何かを勧めている。接客の練習? それともスマートスピーカーか何かなのか? いや、どうやらモンスターのお腹にあるカメラの向こう側では、顧客がオンライン越しに、リアルタイムでショッピングを楽しんでいるらしい……。

顧客体験(CX)プラットフォーム「KARTE(カルテ)」を提供するプレイドは8月20日、同社のR&D部門が開発する新プロダクト「KARTE GATHER」を発表した。

オンライン越しにリアル店舗の接客ができるオモチャデバイス

KARTE GATHERは、モンスター型のオモチャデバイスを通じて「リアル店舗の店員がオンライン接客できる」というプロダクトだ。顧客が店のECサイトなどにアクセスすると、ウェブ接客のポップアップの代わりにデバイスへの接続ボタンが表示される。接続されると、デバイスに搭載されたカメラを通して店員との対話や商品の確認ができ、その場に居ながらにして、店で買い物しているような体験が可能になる。

開発を担当したプレイド VP of R&Dの秋山剛氏は、2017年11月に発表された、VR空間上にECサイトの訪問客を可視化するプロダクト「K∀RT3 GARDEN(カルテガーデン)」開発にも携わっている。秋山氏は1年ほど前から、店舗に新たな価値のひとつとして「コミュニティ」の場という役割を付加できないかと、新たなプロダクトを構想していたとのことだ。

「顧客の行動が変化し、オンラインでの購入が増える中で、店舗は商品を買うほかにショーケースとしての役割を担うようになっているが、果たして店舗はショーケースというだけでいいのか。またアパレルなどでは店員さんのブランド化・メディア化も進んでいるが、それもやはりメディアというだけでいいのか、と考えていた」(秋山氏)

プレイド VP of R&Dの秋山剛氏

ショーケース、メディアというだけでは「共通言語によるコミュニケーション」が足りていないという秋山氏。リアル店舗には、店員と顧客が互いに顔を覚えて“お得意様”になっていく過程や、これまでに顧客が買ったものを店員が覚えていて、その人に合った新しい提案をしたり、顧客の方も気軽に店員に質問ができたりする環境があって、リアルならではの購買体験がある。そこでオンライン/オフラインの垣根なく、新しいコミュニケーションを生むプロダクトとして開発したのがKARTE GATHERだと説明する。

「KARTEは、ECサイトで顧客ごとに個別最適化した提案ができるけれども、R&D的には物足りない。買い物はもっと楽しいもののはず。人と人とのコミュニケーションが生む意外性が、それを生み出す。ウェブ接客だと初回割引クーポンが出て、2回目以降だと割引率が初回より低いということもあるが、それでは合理性に走りすぎている。店に行くことが楽しいという、プライスレスな体験をKARTE GATHERでは提供したい」(秋山氏)

秋山氏は「今のテクノロジーだけでは、個別最適化が難しいところ、店員さんが勝っているところがある」という。KARTE GATHERでは、デバイスを通して対話することで、顧客と店員が互いに印象づけられ、「もう一歩二歩、深いところでコミュニケーションできるようになる」と話している。

なぜ「モンスター型オモチャ」の形をとったのか。秋山氏は「スマホでもタブレットでも同じような接客は実現できるが、無味乾燥だし、ほかの来店客から見て接客しているのか別の業務をしているのかが分かりにくい。お客さんに“ヒト感”があるのは接客には重要と考え、『ヒト感があるけれどもヒトではない』キャラクターデバイスを作った」と説明している。

現在3体用意されているデバイスは、外面を少しずつ異なる布地にしているとのこと。腹部にはカメラ、背面にはタッチパネル、角と目に当たる部分にはLEDが装備されいる。LEDは接客中に、顧客が「イイね」などのアクションを示すと、光で知らせてくれる。

デバイスは自分では動けないので、顧客が見たい商品がある場合には、店員にデバイスを抱っこして動かしてもらわなければならない。カメラ位置が商品に寄りすぎたり遠すぎたりする場合も、「もう少し後ろへ」「前へ」と声をかける必要がある。また、顧客はカメラを通じて接客する店員の顔を見ることができるが、店員は顧客の顔を見ることはできない。

これらは一見不便なようだけれども、この「余白」「非対称性」によって、店員の接客の個性が出るのではないかと秋山氏は考えている。

「最適・最速だけではヒト感がない。ミスや行き違いがあることもコミュニケーションを生む。店員さんによって行動が変わり、自由度があることで個性が生まれ、楽しい顧客体験を生む。店舗スタッフの力が発揮できる設計だ」(秋山氏)

あらゆる接客が発生する場を対象にトライアル企業を募集

KARTE GATHERの着想は、新型コロナウイルス感染症の影響が出る以前のことだが、その後、リアル店舗へ出向きにくい状況となり、店舗営業の縮小も増えている。一方で、「オンラインにはない価値」が見直される動きもあって、店舗のあり方は今、まさに問われている。

秋山氏は「店頭での接客を今、行うことについて、肯定的立場でも否定的立場でもない」と話す。「客がいないのに店を開けるべきでない、とか、リスクを超えても店は開けるべき、といった極論でなく、場とスタッフをうまく活用できればいいと思う。来店客がいないのでスタッフが暇だというなら、KARTE GATHERのようなツールを利用することによって、Eコマースに生かせればいい」(秋山氏)

今後、導入を検討する企業や店舗とともに、KARTE GATHERの実運用の部分を「一緒に作っていきたい」という秋山氏。CXプラットフォームのKARTE利用を前提として、アパレルや不動産ほか、「接客が発生するあらゆる店舗」(秋山氏)を対象に、導入トライアル企業を募集していくそうだ。