宇宙航空スタートアップのRelativity Spaceが初の政府との契約を獲得した。同社はNASAのTipping Point(ティッピング・ポイント)という高度、複雑なミッションを実施する上でRelativityの3Dプリンティングによるロケットフェアリングが最適のチョイスと判断した。
ミッションは、宇宙空間で十数種類の極低温液化ガスの取り扱いを実験するものだ。中でも液化水素は処理が非常に難しい物質として知られている。しかもこの実験は単一の衛星上で行われるため、メカニズムのデザインは非常に複雑となる。
液化ガス処理システム自体は、NASAのパートナーであるロッキードが設計する。しかし、当然ながらシステム開発にあたっては実際の打ち上げに用いられるロケットの開発者と緊密に協力する必要がある。
RelativityのファウンダーであるCEOのTim Ellis(ティム・エリス)氏はこの複雑なミッションを実施するロケットの製作には3Dプリンティングが最適だと説明した。
エリス氏は「予定されているペイロードに合わせて、カスタマイズされた特殊な形状のフェアリングを製作する必要があります。ペイロードへの適切なフィッティングも必要とされ、これも特別なものです。もちろん部外者が一見したところでは普通のロケットに見えるかもしれません」と述べた。
フェアリングというのはロケット先端のペイロード搭載部分を覆うカバーで、ペイロードに合わせて設計されねばならない。Tipping Pointのような実験では特に高度なカスタマイズが必要となる。10種類以上の低温液化ガスをロケットに搭載し、打ち上げ直前まで状態を確認し続けなければならないため、特殊なフェアリングを必要とする。これを従来の方法で製造すればコストの大幅上昇を招く。
エリス氏は「現在のロケットの製造マシンは60年前とほとんど変わっていません。据え置きタイプの巨大な機械で、見た目は壮観ですが、特定の目的のために設計されおり単一の製品しか作ることができません。製造過程はすべて手作業で1年から2年かかります」と現在の製造プロセスの問題点を指摘する。
しかし、Relativityはそうではないという。
「私たちの3Dプリンティングは、フェアリング全体を30日以内に出力します。製造過程はソフトウェアが制御するため、異なる形状の製品を製造する場合は制御ファイルを交換するだけでいいわけです。今回のミッション向けのフェアリングには数多くのカスタマイズが行われていますが、私たちのテクノロジーは柔軟性が高くすばやい適応が可能です。Tipping Pointプログラムはスタートしてからすでに3年経っていますが、このようなミッションでは打ち上げが近づけば近づくほど『最後の瞬間の変更』が頻繁になるのはよくあることです。3Dプリンティングならこのような変更にも即座に対応できます。従来のテクノロジーでは設計からやり直さねばなりません」とエリス氏は説明する。
Relativityは、ロッキードのような有名大企業と公開契約を結ぶことができたことに興奮している。こうした巨大企業は無数の政府契約を得ており、多数の衛星打ち上げに関わっている。宇宙産業では、こうした大企業と契約できることが非常に重要となる。いってみれば、相手の住所録に名前が載るだけでも大きなメリットだ。今回のような(月面探査とか有人宇宙飛行などと比べて)小規模なミッションは、Relativityスタートアップが能力を示す絶好のチャンスだ(もちろん多数の3Dプリンティング部品が打ち上げに利用されており注目に事欠いていない。しかし関心がさらに高まるのはメリットだ)。
プロジェクトが計画通りに進めば同社のフェアリングは2021年の後半に実際に宇宙に飛び出すことになる。「当社では数週間前から実際にフェアリングの出力を始めています」とエリス氏はコメントした。
NASAのTipping Pointプロジェクトによりロッキードは8970万ドル(約93億9000万円)の契約を獲得している。Tipping Pointというプロジェクト名のとおり、この実験は低温液化ガステクノロジーの商業利用の根本的な革新を目指している。有人月面探査やロボットアームには数十億ドル(数千億円)という巨額の資金が投じられているのに対してこのプロジェクトは比較的小規模だが、NASAにとってはある種のベンチャー投資なのだろう。
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カテゴリー:宇宙
タグ:Relativity Space、NASA、Lockheed Martin、3Dプリント
画像クレジット:Relativity
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(翻訳:滑川海彦@Facebook)