監視カメラやAIビジョンシステムを合成人間のデータで訓練する英MindtechがIn-Q-Telなどから3.6億円調達

誰のプライバシーも侵害されず、巨大なデータベースに顔がスキャンされることもなく、プライバシー法が破られることもない世界があったとしたら?そんな世界がすぐそこまで来ている。企業は単に現実世界の監視カメラ(CCTV)映像を捨て、潜在的なシナリオを100万回以上演じる合成人間に切り替えることができるのではないだろうか?それが、有力な投資家から資金を集めている、英国の新しいスタートアップが示す魅惑的な展望だ。

英国に拠点を置くMindtech Global(マインドテック・グローバル)は、エンド・ツー・エンド合成データ作成プラットフォームを開発した。簡単にいえば、店内での人の行動や、道路を横断する様子など、視覚的なシナリオを想像できるシステムだ。このデータは、大手小売企業、倉庫業者、ヘルスケア、輸送システム、ロボット工学などの顧客向けに、AIベースのコンピュータービジョンシステムを訓練するために使用される。文字通り、合成世界の中で「合成」CCTVカメラを訓練するわけだ。

このたび同社は、英国の地域投資家である国家生産力投資基金(NPIF、National Productivity Investment Fund、Mercia Equity Finance)がリードし、Deeptech LabsIn-Q-Telが参加した325万ドル(約3億6000万円)のアーリーステージ資金調達ラウンドを終了したと発表した。

この最後の出資者は重要だ。In-Q-Telは、米国の諜報活動を支援するスタートアップに投資しており、(ペンタゴンのある)バージニア州アーリントンに拠点を置いている。

MindtechのChameleonプラットフォームは、コンピューターが人間同士のやり取りを理解し、予測できるように設計されている。周知のように、現在、AIビジョンシステムを学習させるためには、企業がCCTVの映像などのデータを調達する必要がある。このプロセスにはプライバシーの問題がともない、コストと時間がかかる。Mindtechによると、Chameleonはこの問題を解決し、顧客は「フォトリアリスティックなスマート3Dモデルを使って、無限のシーンやシナリオをすばやく構築することができる」という。

さらに、これらの合成人間は、AIビジョンシステムのトレーニングに利用でき、人間のダイバーシティやバイアスからくる人的要因を取り除くことができるとのこと。

MindtechのCEOスティーブ・ハリス氏(画像クレジット:Mindtech)

MindtechのCEOであるSteve Harris(スティーブ・ハリス)氏は次のように述べている。「機械学習チームは、トレーニングデータの調達、クリーニング、整理に最大80%の時間を費やしています。当社のChameleonプラットフォームはAIトレーニングの課題を解決し、業界はAIネットワークイノベーションのようなより価値の高いタスクに集中できるようになります。今回のラウンドにより、当社の成長を加速させることができ、人間同士や周囲の世界との関わり方をよりよく理解する新世代のAIソリューションを実現することができます」。

では、それによって何ができるのだろうか?次のような場合を考えてみよう。ショッピングモールで、子供が親の手を放して迷子になったとする。Mindtechのシナリオの中で動いている合成CCTVは、それをリアルタイムで発見してスタッフに警告する方法を何千回も訓練されている。別の例では、配達ロボットが路上で遊んでいる子供に出会い、どうすれば子供を避けることができるかを学習する。最後の例として、プラットフォーム上で乗客がレールに近づきすぎて異常な行動をしている場合、CCTVは自動的にそれを発見して助けを呼ぶように訓練されている。

In-Q-Telのマネージングディレクター(ロンドン)であるNat Puffer(ナット・パッファー)氏は次のようにコメントしている。「Mindtechは、Chameleonプラットフォームの成熟度と、グローバルな顧客からの商業的牽引力に感銘を受けました。このプラットフォームが多様な市場で多くのアプリケーションを提供し、よりスマートで直感的なAIシステムの開発における重要な障害を取り除くことができることに期待しています」。

Deeptech LabsのCEOであるMiles Kirby(マイルズ・カービー)氏は次のように述べた。「ディープテックの成功のための触媒として、当社の投資およびアクセラレータプログラムは、斬新なソリューションを持ち、世界を変えるような企業を作る意欲のある野心的なチームを支援しています。Mindtechの経験豊富なチームはAIシステムのトレーニング方法を変革するという使命感を持っており、我々は彼らの旅をサポートできることを嬉しく思います」。

もちろん、スーパーでの万引きを発見したり、過酷な労働環境にある倉庫作業員を最適化したりするような、よりダークな用途への応用も考えられる。しかし理論的には、Mindtechの顧客はこのプラットフォームを利用して、中間管理職のバイアスを排除し、顧客によりよいサービスを提供することができる。

関連記事
ニューヨーク市で生体情報プライバシー法が発効、データの販売・共有を禁止
全米で失業保険用に導入された顔認識システムが申請を次々拒否、本人確認できず数カ月受給できない人も
欧州人権裁判所は「大規模なデジタル通信の傍受には有効なプライバシー保護手段が必要」と強調

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Mindtech Global資金調達イギリスプライバシーコンピュータービジョン監視カメラ

画像クレジット:Mindtech’s Chameleon platform/Mindtech

原文へ

(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)