きっかけは漁師である祖父の死、ITで海難事故から大事な家族を守るnanoFreaksが資金調達

IoTデバイスなどを活用して海難事故から漁師を守る「Yobimori」を開発中のnanoFreaksは12月10日、複数の投資家より資金調達を実施したことを明らかにした。具体的な金額は非公開だが関係者の話によると数千万円規模の調達とみられる。

今回nanoFreaksに出資した主な投資家は以下の通り。同社では調達した資金を活用してプロダクトの開発を進め、まずは2020年内を目処にベータ版ローンチを目指していく。

  • Sapporo Founders Fund
  • D2 Garage
  • Yosemite LLC
  • 岩佐琢磨氏(Cerevo創業者 / 現Shiftall代表取締役CEO)
  • 松岡 剛志氏(元ミクシィ取締役CTO / 現レクター代表取締役)

nanoFreaksが解決しようとしているのは、漁師が海中へ転落してしまった際の救助に関する課題だ。漁師はその性質上、常に海難事故の危険と隣り合わせであり、実際に海上での事故による死亡者が後を絶たない。特に沿岸漁業の漁師には危険が伴い、漁船からの海中転落者死亡率は60%を超えるという。

背景にあるのは事故認知の難しさだ。沿岸漁業の漁師は一人で漁を行うことが多く、いざ事故に遭ってしまった際に当事者からSOSを発信する手段も乏しい。その結果周囲がすばやく事故に気づくことが困難で、約40%が事故認知までに2時間以上も要しているのが現状なのだそう。

nanoFreaks代表取締役の千葉佳祐氏の話では、実際に関係者へのヒアリングを重ねると認知までに数時間かかるのは珍しいことではなく、時間がかかると12時間経過してしまうケースもあるという。

これは事故開始から転落した漁師を発見するまでに要した時間ではなく、あくまで事故に気づいて救助がスタートするまでの時間だ。要は「事故が起きてしまっても救助がすぐに始まらない」のが課題であり、千葉氏らは開発中のYobimoriを通じて救助開始までにかかる時間を「数分」に短縮しようとチャレンジしている。

Yobimoriはすぐに救助が呼べるおまもり型のIoTデバイスと、救助を効率化するアプリによって構成されるサービスだ。漁師が海に転落した際にIoTデバイスを起動すると、アプリをインストールしている関係者に通知が届く仕組みになっている。

漁師は出港する際にIoTデバイスを体に装着。デバイスは緊急時でも簡単に起動できる設計になっていて、起動後は即座に近くの船や家族、海上保安庁などへSOS信号が送信され事故当事者の位置情報が共有される。さらにアプリを通じて救助従事者に事故当事者の漂流予測や救助状況などを可視化した情報を提供されることで、救助活動をサポートする機能も計画しているという。

「緊急時にすぐ助けを呼べる手段が普及していないので、これまでは帰りが遅いことを家族が心配して初めて事故に気づくようなことも多かった。また事故時のデータも正確なものが取得しづらく、遅れて通報があっても救助従事者がいつ、どこで事故が起きたのかを把握するのが難しい。Yobimoriにはそういった課題を解決できる機能を取り入れていく」(千葉氏)

ビジネスモデルとしてはデバイスの販売費で売上を作るのではなく、アプリをセットにして毎月、固定の利用料を得る構造。現時点では漁業協同組合に一括で導入してもらい、人数に応じて具体的な料金が決まる仕組みを考えているそうだ。

開発中のYobimoriのプロトタイプ

きっかけは漁師である祖父の死

nanoFreaksは2019年8月に設立した福岡発のスタートアップ。代表の千葉氏は現在九州大学の大学院を休学してプロダクト開発に取り組んでいる。

大学院で九大に進学したが、漁業が盛んな北海道紋別市の出身。実は千葉氏には漁師だった祖父を海難事故で亡くした経験がある。事故自体は自身が生まれる前の出来事だったそうだが、その事実を家族から聞いたり、事故後に祖母や母が生活に苦労したこともあって、海難事故の救助を効率化する事業を立ち上げた。

nanoFreaks CTOの成田浩規氏(写真左)、代表取締役の千葉佳祐氏(写真右)

ビジネスとして見た場合にどれくらいのマーケット規模があるかはさておき、命に関わる重要な課題であることは明らかであり、海難事故に対する何かしらの解決策がすでに出てきていてもおかしくないが、千葉氏の話では今のところこれといって普及しているものはないそうだ。

「個人的には業界の文化的な側面も関係しているのではないかと思う。もともと漁師は危険を伴う職業で、何かあったら死んでしまってもおかしくないと考えられている。IT化が進んでいない領域ということもあり、この現状をどうにかしようと具体的に動き出せる人があまりいなかったのではないか」(千葉氏)

当然ながらYobimoriはプロダクト完成後、実際に漁師に日々装着してもらって初めてその効果が出るものだ。使いやすい設計にすることはもちろん、普及させていくためには導入時のハードルを超えるものにしなければならない。千葉氏はそのためのポイントとして「家族など周りの人を巻き込んだサービス設計にすること」を挙げる。

「漁師本人もそうだが、実はそれと同じくらい家族や周囲の人の課題感も強い。いつ死んでしまってもおかしくない場所に毎日送り出すわけで、心配や不安もある。(漁師だけでなく)周囲の人の不安も解消できるサービスを目指したい。ゆくゆくは家族の人からプレゼントされるような存在になれるのが理想だ」(千葉氏)

現在はYobimoriの課題感や構想に対して共感してくれる組合も出てきているそうで、まずはその人たちにヒアリングをしつつ課題解決に繋がるプロダクトを作っていく方針。エリアを絞ってベータ版をリリースした後、ユーザーの動向なども見ながらアップデートを加えた全国版を提供する予定だという。

実際に漁師の方にプロトタイプを試してもらっている様子