個人とアーティストをつなぐ新サービスThe Chain Museum、スマイルズとPARTYが共同出資

スマイルズの遠山正道社長(左)とPARTYの伊藤直樹CCO(右)

食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」やネクタイ専門店「giraffe」などを手がけるスマイルズと、成田空港第3ターミナルの空間デザインやサンスターと共同開発した歯みがき IoT「G•U• M PLAY」などで知られるクリエイター集団PARTYが、共同出資で新会社The Chain Museumを設立。アーティストの活動を支援する新サービスを立ち上げた。

実は、国内で展覧会などに作品を展示しても、入場料収入は会場やスタッフに支払う必要経費でほどんど残らず、アーティスト本人に還元される額は少ない。それでも絵画の場合は、オリジナル作品そのもの売買やコピーの販売などでアーティストを支援できるが、インスタレーションや屋外に設置したアート作品などに個人が支援する手段は用意されていないのが現状だ。スマイルズの遠山正道社長によると「欧米とは異なり企業などからの寄付も少ないため、少子化が進む日本の芸術の発展に危機感を覚えている」とのこと。

The Chain Museumは、こういった現状を打開すべく個人がアーティストと簡単につながれるサービス。気に入ったアート作品を見つけたら手軽に気軽な金額を寄付できるのが特徴だ。

アートに触れる場を「ミュージアム」として再定義し、青森県・十和田市のラファエル・ローゼンダール「haiku」や東京・南青山での「ドクダム by Co.山田うん」など、アーティストとともに「プロジェクト」を立ち上げていくという。具体的には、アーティストの制作活動を同社がプロジェクトとして定義し、アーティスト個人ではなかなか難しいスポンサー探しなどをチームとして進めていく。空間や施設に合わせたアート作品のキュレーションやコンサルティングなども実施していく予定とのこと。

気になるサービスの内容についてPARTYの創業者でCCOを務める伊藤直樹氏は「これまで絵画などのアート作品は個人が購入するとその人のものになっていました。しかし最近のアート作品にはインスタレーションなども増えており、売買以外の方法でアーティストを支援する仕組みが必要だと感じていました。The Chain Museumでは、アート作品がある場所に行くことで、QRコードを利用して気に入った作品にその場で数百円から寄付できるようにする予定です」とのこと。アプリを開くと近くにあるアート作品を教えてくれるような仕組みも取り入れるそうだ。

「アート作品はこれまで、専門家や実際に作品を購入する資金力のある人の評価しか得られませんでしたが、The Chain Museumによってアーティストは一般の人からの寄付を伴った評価を受けられるようになります」と遠山氏。ユーザー同士の情報交換も可能になる予定で、遠山氏によると「例えば、遠山コレクションとして私が自分が好きなアート作品をリストにまとめておくと、他のユーザーがそれを見て『この人はこういう作品が好きなんだ』といったコミュニケーションが生まれるかもしれない。FacebookやInstagramとは異なる、アート作品を評価する新しいSNSのように育てたい」とのこと。

The Chain Museumが広がることで、街中に展示されたアート作品を個人が気軽に評価、支援できるようになる。そんな未来は楽しい。

  1. TCM02

    ラファエル・ローゼンタール「RR Haiku 061」(2014、十和田美術館)
  2. TCM03

    須田悦弘「風車の上の雑草」(2018、唐津市湊風力発電所)
  3. TCM04

    山田うん「ドクダム by Co.山田うん」(2018,Restaurant 8ablish)
  4. TCM05

    Smiles「檸檬ホテル(レモンホテル)」(2014、香川県・豊島唐櫃岡地区)

「日本でうまく行ったことは、ぜんぶ外れた」、ネット企業海外進出の成功と挫折

12月3日〜4日に京都にて開催中の招待制イベント「Infinity Ventures Summit 2014 Fall Kyoto(IVS)」。1つ目のセッションは「グローバルで活躍するプロフェッショナルの条件」がテーマ。インフィニティ・ベンチャーズ共同代表パートナーの小林雅氏がモデレーターを務める中、indeed,Inc. CEO&Presidentの出木場久征氏、グリー取締役 執行役員常務 事業統括本部長 青柳直樹氏、PARTY Creative Director/Founder 川村真司氏がそれぞれの海外進出の状況について語った。

日本でうまく行ったことはことごとく外れた

グリー取締役 執行役員常務 事業統括本部長 青柳直樹氏

小林氏がまず3人に尋ねたのは海外進出での苦労話。青柳氏は「まず、日本でうまくいったから米国でもワークすると思ったことは、ことごとく外れた」と振り返る。ソーシャルゲームが好調だったグリー。だが同社が日本で手がけてきたゲームやそのマーケティングノウハウといった成功の体験やパターンというのがほとんど通用しなかったという。同社が米国進出した2011年といえばグリーが強かったブラウザゲームからスマートフォンにプラットフォームが変わる過渡期。さらにはビザの取得や人材採用などのさまざまな課題があり、ビジネスの違いを学ぶまで1、2年かかったそうだ。

indeed,Inc. CEO&Presidentの出木場久征氏

出木場氏はリクルートの出身で現在は同社が買収したindeedのCEOを務めている。当初indeedのファウンダー2人に出会ったのが「まるで恋だった」と、振り返る。そこで、本来(買収元である)リクルートという会社を紹介するというよりも、自身がどんなことをやってきたか、またどんなことをやりたいか。さらにファウンダーらが何をやりたいのかを話したのだそうだ。

そういった会話からはじめた結果、(ロックアップの外れる)買収後2年でファウンダーも従業員もやめることなく共に働いている状況なのだという。「『お前はどんなマジックを使ったんだ』なんて周囲に聞かれる」(出木場氏)

事業面だけでなく、そんな人材面での成功もあった一方で苦労したのは英語。出木場氏は、本人曰く「『オマエコレタベルカ』というレベル」の英語だったのだそうだ。そこで英語のレベルを上げるための勉強をするのではなく、現状の英語でどう経営できるかを考えるようになったそうだ。「『お前とはこの数字でこれをやって』と任せた(コミットメントを求めた)」(出木場氏)。

出木場氏は米国は日本以上にレポートラインを重視するとも語ったが、青柳氏もこれに同意し、さらに「部下とのワンオンワンでの会話や、『握り』が重要」と語る。ただ一方で青柳氏は、日本的なマネジメントにもチャレンジしたそうだ。買収先の会社では、約200人の社員全員との個別面談をしたこともあるという。「半年かかった。最初は非効率だとも言われたが、それによって徐々に見方が増えて、『いろいろ教えてやるよ』という人が出てきた」(青柳氏)。そして何より、成果が出ることで会社の状況が変わったそうだ。「成果が出ると(社員は)ついてくる。逆に出ないということ聞いてくれない。成果が出てからの2年は比較的楽だった」(青柳)

PARTY Creative Director/Founder 川村真司氏

川村氏のPARTYはニューヨークと日本に少数精鋭のチームを置いているが、「みんなで決めていく」ということを重視しているそうだ。特にニューヨークの拠点は設立して1年未満。マネージングパートナーといった立場でなくとも、ある程度の判断に参加してもらい「オーナーシップを作り、DNAを育てているところ」(川村氏)だそうだ。ただ川村氏本人はデザイナーであり、マネジメントに向いていないのでビジネスディレクターが必要だという意識があるとした。

リーガル、HR、バックオフィスの重要性

ここで小林氏が「仁義やリーガルといった点で何か問題があったのか」と尋ねる。

出木場氏と青柳氏は、パテントトロール(特許やライセンスを持ち、権利を侵害する企業から賠償金やライセンス料を得ようとする企業の蔑称)について触れた。出木場氏曰く「ハイパーリンクをクリックすればウェブサイトが遷移する」というレベルのパテントを持った会社を法律事務所が買収し、訴訟を起こすというようなケースが有るという。

実際に両氏も裁判を経験し、ほぼ勝ってきたという状況だそうだが、この経験を踏まえて、「うまく行ったのはHR(人材)とリーガル、バックオフィスを雇えるようになってから。それらのバイスプレジデントが揃って、やっと組織と数字に集中できるようになった」(青柳氏)そうだ。indeedについても、「7月にHRのヘッドを雇えた。CxOを採用するには、CEOが口説かないといけない。そうなるとカタコトのCEOだとめちゃくちゃ不安になるじゃないですか。それがやっとちゃんと出来るようになってきた」(出木場氏)と語る。

ピカピカ人材を獲得するコツは?

ここで会場とのQ&Aとなったが、その一部を紹介する。会場からの質問は「ピカピカの人材を採用するコツは」というもの。これに関して青柳氏は、進出した地域にコミットしていると伝えることだという。

社員数人でサンフランシスコに拠点を立ち上げたグリー。青柳氏は採用の際に「今サンフランシスコに住んでいる。成功するまで帰らないし、失敗したらクビだろう」と語って、自身が現地で「ハシゴをはずさない」ということをアピールしたそうだ。また後任となった現地のマネージャーについても出会ってから1年半かけて関係を構築したこと、周囲から「グリーに行くことがいいオポチュニティになる」と思ってもらうようにするということも重要と語った。出木場氏もローカルへのコミット、またミッションの共有なども重要だと語る。

川村氏も創業者が現地にコミットしていることは大事だとしながら、PARTYはクリエイティブエージェンシーという特殊性もあって「面白いものを作れているかどうかしか評価されない」と語った。クリエイティブ系の人材は自らが作ったものを見てPARTYに来るので、何よりもアウトプットが大事だとした。

青柳氏の折り返し地点は「2年前のサンクスギビング」

最後に小林氏は3人に世界に出る人たちへのメッセージを求めた。川村氏は「とりあえず出てから考えよう」と語る。目的があって、ノウハウも持っているからなんでやらないのかとなる。失敗したら失敗したで日本があるのだから、何よりまず飛び込んでみるべきだという。

青柳氏は、ちょうど2年前に米国で事業をいくつかやめて、社員にも辞めてもらうことになった時期を振り返る。その時期はサンクスギビングということもあり、街で先週まで社員だった人間が家族と歩いていた時に表現できない気持ちになったという。「そこが折り返し地点。そこから絶対成功してやろうとなった。最初は『まず行ってみる』ということで良かったが、買収では300億円くらい使って、社員を雇っている。そんな責任をもって今がある」。そう青柳氏は語った。

そして新ためて世界に出る意味について「マーケットは凄く大きい。こんな僕でも出来ましたというのがメッセージだ。日本の調達環境は良い、バブルとも言われるがこれをどう使うか。ここで出たアドバンテージ、キャピタルを是非グローバルに使ってもらいたい。いちボランティアとしてアドバイス、サポートしたい」(青柳氏)

出木場氏は「心意気というのは世界共通言語。『これがしたいんだ!』というのは分かり合える。『日本の良い物を世界に出す』という考え方もあるが、やっぱりネットビジネスやってるなら世界で勝負することはこの先10年考えると避けて通れない。だからやるなら早くやった方がいい」と語った。