私はこうしてパテント・トロル(特許ゴロ)を撃退した―みんな立ち上がれ!

編集部: Chris Hullsは家族向けSNSのLife360の共同ファウンダー、CEO

いじめと戦うのは中学でおしまいかと思っていた。大人しくおくてだった私は小さい頃、かっこうのいじめの的だった。しかしある日、敢然と反撃するともう誰からもいじめを受けることはなくなった。それがまた始まったのだ。私はテクノロジー起業家として新たないじめに直面した。パテント・トロル(特許ゴロ)だ。

これは法律の抜け穴を巧みに利用し、他人の成功にたかって生き血を吸おうとする貪欲非道なヒル的存在である。 こいつらは無用ないし無効な特許を盾にとって「ライセンス料」を取り立てようとする。

学校のいじめと同様、たいていの人はいじめを恐れて反撃しない。ほとんどの場合、連中に金を払う方が訴訟より安くつくからだ。

去年の5月、私の会社、Life360が5000万ドルの資金を調達すると同時にパテント・トロルに襲われた。

このケースでわれわれを特許権侵害で訴えてきたのはAdvanced Ground Information Systems Inc.(AGIS)という会社で、最初はパテント・トロルであるかどうかはきりしなかったが、その行動はパテント・トロルそっくりだった。この会社を調べてみるとまともな会社にしてはおかしな点がいろいろ浮かび上がった。LinkedInに登録した社員が一人もいない。本社がフロリダのビーチの家だ。

AGISの主張によれば、地図の上にユーザーの位置をマーカーで表示したり、スマートフォンの位置情報をSNSに利用したりすればすべて彼らの特許の侵害になるという。

給料日に強盗に襲われたようなものだ。それまでにトロルと示談したことはあったが、私はもう黙っていないぞと決意した。いじめに屈すれば、さらなるいじめの標的になるだけだ。背中に「私はカモ」ですというドル印をつけて歩き回るようなものだ。

そこで「金を払うかサービスを停止しろ」という要求に対して私はこう答えた。

クソ野郎どの:

われわれは弁護士と相談しながら問題を調査している。そちらのいう金曜日の最終期日までに金を払うことはできない。弁護士と相談した後で迅速に対応するつもりだ。

今晩のところはあなた方にカルマが報いる〔自業自得の目に遭う〕ことを願っておこう。

クリス

私の言葉づかいはだいぶ過激だったが、意味は明白に通じた。われわれはすぐに連邦裁判所で顔を合わせることになった。連中は和解を望んだが、私は「1ドルたりとも支払う気はない。すべての特許をすべてのスタートアップに対して無料で公開するか、そうでなければわれわれはそちらのすべての特許の無効を申し立てる」と答えた。

AGISはわれわれがブラフをかませているのだろうと思ったらしい。大間違いだ。先週、陪審員が決定を下した。特許権侵害の訴えはすべて退けられた。トロルは死んだ。

トロルとの対決で私は3つの非伝統的戦略を取った。トロルに襲われた会社は参考にしていただきたい。

それで必ず勝てるという保証はできないが、「いいなりに和解金を払うつもりはない」という強いメッセージを伝えることはできる。それがトロルどもにとっては痛いのだ。他のトロルにもあなたが従順な被害者ではいないということを伝えることができる。

情報の公開

パテント・トロルやその後押しをする法律事務所にとって、自分たちの存在や活動が公けにされるぐらい嫌なことはない。だまって金を払ってくれることを望んでいる。われわれはAGIS Inc.とKenyon and Kenyon LLP法律事務所の弁護士、Mark Hannemann、Thomas Makinが陰に隠れることを許さなかった。訴訟の継続中、われわれは有力メディアや業界で影響力のある人々に向けてトロルどもの役割を公表した。

情報と資源の共有

AGISに襲われている他の会社を助けるためにわれわれはAGISの主張を無効にするためにわれわれが収集した情報を公開し、いわば訴訟をオープンソース化した。さらに調達資金が2500万ドル以下で同様の問題でAGISに訴えられている会社に対しては無料で訴訟援助を申し出た。これはAGISの主張に根拠がないことに広く注目を集めさせると同時に、われわれを訴えればトロルの他の訴訟にも悪影響が及ぶことを知らせるのが目的だった。

腹を据えてやり通す

これは正と邪の戦いだ。それだからやりがいがある。正義のために戦っているのだということをしっかり腹に据えておかねばならない。いささかおもはゆい言い方のような気がするかもしれないが、状況が苦しくなってきたときにこの自覚は大きな差を生む。

「訴訟は金が掛かり過ぎる、それより少額で和解した方が得だ」と勧める人もいた。しかしそれはおそろしく近視眼的な見方だ。トロルのいいなりにならず、断固として戦って撃退したという記録は他のトロルに狙われる危険性を大きく下げるのだ。

たしかにコストのかかる対処法ではあるが、われわれの強硬策が正解だった有力な証拠がある。AGISが特許権侵害の訴訟を起こした後、われわれはさらに2件の特許権侵害の通告を受けたが、AGISが壊滅的な敗北を喫したのを見ると、どちらも取り下げられた。

起業家、ベンチャーキャピタリスト、その他テクノロジー・コミュニティーの皆さんにお願いする。どうか和解に逃げないで欲しい。NewEggのLee Cheng、Findthebestの Kevin O’Connor たちに加わり、断固としてノーと言って欲しい。多くの被害者が立って反撃すればいじめはなくなる。テクノロジー・コミュニティーの宿痾ともいうべきパテン・トロルといういじめも同じだ。

画像: EFF Photos/Flickr UNDER A CC BY 2.0 LICENSE

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


オバマ氏の大統領令が、特許ゴロのばかげた悪用を阻止する

アイディアを所有することに法的権利を与えることが、意図せざるばかげた結果を生むことがある。「大ばかな特許がスモールビジネスを破壊している」と、NBAダラス・マーベリックスのオーナー、Mark Cubanはかつて私に言った。スタートアップのおよそ1/3が特許侵害で脅されており、その多くがスモールビジネスを脅して示談に持ち込むことだけを目的として設立された組織(いわゆる「特許ゴロ」)による。オバマ大統領は今日(米国時間6/4)午前、国際的に嫌われている企業体に対していくつかの非常に具体的な大統領令を発動する決定を下した。

背景を少し説明した後、ばかげた法の乱用を阻止する3つの方法を挙げる。

特許囲い込みの歴史

特許ゴロ、あるいはもっと外交的正式名称である特許係争団体[Patent Assertion Entities (PAE)]は、知的財産を蓄積して他の脆弱なスモールビジネスを脅して示談に持ち込むことのみを目的とするダミー会社である。

「彼らは自分では何ひとつ生産していない。他人のアイデアを利用してハイジャックし、金をゆすり取ろうとしているだけだ」と、オバマ大統領は今年のGoogle+ハングアウトで明言した

サンタクララ大学の研究によると、特許裁判の推定61%が特許ゴロによるもので、訴訟の76%が15社以上を訴えている。これは言うなれば訴訟マシンだ。

知的財産の囲い込みは、アメリカで多くの偉大なイノベーターたちが主張してきた由緒ある伝統だ。ライト兄弟は補助翼(翼につけられた着陸時に伸びる小さなフラップ)を持つ飛行機を商品化する者は誰でも訴えると脅した。「1917年に政府が介入し、ライト兄弟に特許をライセンスするよう命じたことで、ようやく飛行機のイノベーションが本格的に始まった」とスタンフォード法科大学のマーク・レムレー教授は書いている

よって、過激な特許囲い込みに対する政府の介入は、アップルパイ並みにアメリカンなのである。

ばかげた乱用を阻止する3つの試み

1. 機能クレームの範囲を狭める – 多くの恥知らずな会社が、とんでもなく広い範囲のイノベーションの所有権を主張する。Amazonが「ワンクリック購入」ボタンの特許を取得しようとしたことは有名だ。Acacia Researchという特許ゴロは、インターネット経由で医療画像を送信することの所有権を主張した。オバマ氏の大統領令は「発明の範囲を、ある目的を果たす〈あらゆる〉方法ではなく〈特定の〉方法に限定しようとしている」と、電子フロンティア財団がこの大統領命令に関するブログ記事で説明している。

「官邸がソフトウェアの機能クレームに注目していることは大変喜ばしい。特許ゴロによる広すぎる特許係争の多くは、これに起因していると私は考えている」とレムリー教授が私宛のメールで語った。

2. エンドユーザーを巻き込む – 時として特許ゴロにとって、彼らが所有権を主張する製品を使っていると言って企業の不意をつくだけの方が簡単なこともある。例えばLodsysは、ユーザーに「クリックしてアップグレード」させているアプリデベロッパーを脅す暴力的訴訟を続けている ― AppleとGoogleが提供している機能だ。

当然Appleは自社ユーザーを守るためにこれに介入し、未だに裁判は続いている。

3. 所有者を公表する – 特許ゴロは法の抜け穴を使って審査を回避し、誰が実際にその知的財産を所有しているかを隠そうとするが好きだ。例えば、Intellectual Venturesは、特許権を主張するダミー会社を1000社持っていて、司法審査を避けることが戦術であると自ら認めている。オバマ大統領の命令は「特許所有者は、特許庁に真の所有者の最新状態を報告する」ことを義務付けている。

追加のステップ ― おそらく不十分

オバマ大統領が宣言するだけでアメリカ特許の混乱状態を正すことはできない。法律の助けが必要だ。具体的には、彼は「敗者負担(loser pays)」を支持している。これは、特許ゴロが裁判で負けた時に支払い義務を負わせることを意味している。今年の2月に、〈革新的ハイテク企業を言語道断な法的争いから救う〉(SHIELD)法案がこの解決策を提案している。

情報の自由のタカ派にとってはこの命令でも全く不十分だ。Mark Cubanをはじめとする多くの人々が、ソフトウェア特許のほぼ全面廃止を要求している。ずる賢い特許ゴロが利用する法の抜け穴はどうやっても残る。MITのEric von Hippleは、デザインに多くの資金を必要とする発明(新薬やiPhoneなど)にとって、特許は殆ど価値を提供しないことを発見した。

何を信じるにせよ、この大統領令が正しい方向への一歩であることは間違いないようだ。

[Flickr User Cali4Beach]

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(翻訳:Nob Takahashi)