Netflixはもう不要?――次世代のコンテンツ配信方法を開発するPulitが1億円調達

電子透かし技術を利用した新しいコンテンツ配信方法を開発するPulitは6月21日、CVC1社と投資会社1社から合計1億円を調達したと発表した。今回の資金調達は戦略的な事業提携を見据えたものであり、そのリリースまで具体名は明かせないということだが、Pulit代表のKunwoo Lee氏によれば「それぞれ広告系とメディア系1社ずつからの調達だ」という。

Pulitは、画像などに情報を埋め込む”電子透かし技術”を利用することで、TV局などのコンテンツホルダーとユーザーを直接つなげる新しいコンテンツ配信方法を開発するスタートアップだ。

コンテンツホルダーはSNSなどにURLを貼ることでコンテンツを配信することができる。一方のユーザーは、Pulitと提携するアプリをデバイスにダウンロードしているという条件をクリアしてさえいれば、URLをクリックするだけでコンテンツを視聴したり、デバイスに保存した特殊な画像からコンテンツを再度呼び出したりすることもできる。

その具体的な流れは以下のようになる。

  1. コンテンツホルダーは有料コンテンツ(映画、アニメ、マンガ、雑誌など)に紐付けられたURLを発行し、それをSNSやメディアに貼り付けることでコンテンツを配信する。
  2. ユーザーは専用アプリのダウンロードや入会手続きをすることなく、URLをクリックするだけで即座にコンテンツを視聴可能(ただし、後述するPulit提携アプリがデバイスにダウンロードされている必要がある。ダウンロードされていない場合、提携アプリのダウンロードページに遷移する)。
  3. 視聴したコンテンツを保存する場合、コンテンツに関する情報が埋め込まれた画像ファイルをスマートフォンに保存する。これは通常のJPEG画像なので、スマホの”ギャラリー”アプリで閲覧可能。この画像にはURLやコンテンツの利用条件などの情報が埋め込まれている。同社はこの画像を”MDI(Multicast Distribution Image)”と呼ぶ。
  4. 次回にコンテンツを視聴する場合、ユーザーはデバイスのギャラリーアプリでMDIを選択する。デバイスにPulitが提携するアプリがダウンロードされていれば、画像の共有ボタンを押すと”MDIを観る”というアイコンが現れる。それを押すことでコンテンツを視聴することができる。
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    コンテンツホルダーがSNSなどでコンテンツを拡散
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    クリックでコンテンツを表示
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    MDIに変換
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    変換したMDIはデバイスのギャラリーアプリで閲覧可能
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    MDI
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    ”MDIを観る”ボタンからコンテンツを再度表示できる

コンテンツホルダーは配信方式として課金方式と広告方式の2つを選択することが可能で、Netflixなどのように、1つのコンテンツを共有できるデバイス数に制限をかけることができる。

Pulitの配信モデルを実現するための必要条件

このビジネスをワークさせるには、Pulitモデルに参加するコンテンツホルダーと、PulitのViewer機能を搭載した提携アプリの存在が不可欠だ。この配信モデルがスケールするためには、コンテンツを販売したいと思うコンテンツホルダーが必要だし、そもそも、提携アプリがデバイスにダウンロードされていなければコンテンツを視聴することができない。

Pulitは2017年7月〜8月にかけて100人程度を対象にしたクローズドβテストを実施し、つづく9月〜10月にオープンβテストを行う予定としている。

現時点でPulitのβテストへの参加を決めたコンテンツホルダーは全部で13社。内訳は、民営放送局6社、出版社4社、アニメ制作会社3社だ。これらの具体名は現在非公開だが、約2ヶ月後に控えたオープンβのリリース日にあわせて公開する予定だという。

もう一方の提携アプリだが、こちらは現時点でβテストへの参加を決めたアプリは3つ。こちらも具体名は非公開であるものの、内訳は「2つのメディアアプリと1つのSNSアプリ。3つを合計すると7000万ダウンロードの実績がある」(Lee氏)という。コンテンツホルダーと提携アプリともに、実際の契約はβテスト後に締結するという。

Lee氏によれば、特に民営放送局は、いつかはNetflixなどのプラットフォームにコンテンツを提供しなければならない時が来るという危機感を持っているからこそ、ユーザーにコンテンツを直接販売することが可能になるPulitモデルに興味を示しているという。

また、提携アプリには「トップティアのコンテンツをミニマムギャランティー0円で迅速に提供できるということで、アプリ側のアクティブユーザー数やダウンロード数にポジティブな影響を与えられる」とLee氏は話す。

Pulitのコンテンツ配信方式が主流になれば、ユーザーは異なるコンテンツを視聴するために複数のコンテンツ配信プラットフォームに加入したり、専用アプリをいくつもダウンロードしたりする必要がなくなる。僕はNetflixユーザーなのだけれど、先日、Netflixにはないがどうしても観たいドラマを視聴するためにdTVにも加入した。こんな僕の悩みもなくなるわけだ。

コンテンツホルダーにとってもメリットがある。これまで、自前の配信プラットフォームを持たないコンテンツホルダーたちは、NetflixやHuluなどの外部のプラットフォームに乗っかってコンテンツを販売するしかなかった。当然、この方法では中間マージンを取られてしまうわけだが、ユーザ直販型のPulitのモデルを利用すれば、より高い利益率を確保しながらコンテンツを販売できる。

一方でPulitは、コンテンツホルダーが弊社のサーバーにコンテンツを乗せた後、ユーザーがストリーミングする際に発生するトラフィック容量に従量制課金をするかたちでマネタイズする。

Pulitのコア技術

Pulitの配信モデルを可能にするのが、Pulit独自の電子透かし技術と、シームレスなコンテンツ視聴を可能にする「Pulit SDK」だ。

PulitのMDIの例。この画像にURLやコンテンツの利用条件などの情報が埋め込まれている。

MDIのように、情報が埋め込まれた画像の代表例がQRコードだ。しかし、このような従来の方式では、SNSなどに画像をアップロードする際のJPEG圧縮により画像が劣化し、「95%以上のデータが閲覧不可能になってしまう」(Lee氏)そうだ。

一方、Pulitはそのような劣化にも耐えうる電子透かし技術を開発した。これは、圧縮によって取り除かれてしまう空間周波数が高い領域ではなく、中間の領域に情報を埋め込むというものだ。

また、MDIの隅にある丸いカラフルなマークは、画像に埋め込まれたデータを解析するためのヒントが埋め込まれており、いわば”解析ガイドブック”の役割をしている。

そして、URLやMDIからのシームレスなコンテンツ視聴を可能にしているのがPulitの”Viewerアプリ”だ。

ただし、Pulitは専用アプリを自前で提供するのではなく、SDKを提供してサードパーティアプリにコンテンツの視聴機能を搭載してもらうというアプローチを採っている。

先ほど説明した”MDIを観る”ボタンは、提携アプリがデバイスにダウンロードされていれば表示される仕組みだ(仮にTwitterとPulitが連携しているとした場合、Twitterアプリをダウンロードしていればボタンが表示される)。

正式リリースは2017年12月予定

これまでに、Pulitは韓国のBonAngels Venture Partnersなどから合計5000万円を調達している。サービスの正式リリースは2017年12月の予定だ。

「12月サービスリリースに向けて、国内のすべての放送関係者、出版関係者に事業展開を進めて行きたいと思っております。最終的なビジョンとして、日本国内のコンテンツホルダーが発信に困らない世界、そしてより良い作品を作ることに集中できる世界を目指しております」とLee氏は語る。

「電子透かし×超流通」でコンテンツ流通の新ルートを開拓するPulitが5000万円を調達

Pulitは、2016年8月29日に総額5000万円を調達した。同社は、独自の「電子透かし」技術をデジタルコンテンツの「超流通(Wikipedia)」の実現のために活用する取り組みを進めている。今回の資金調達に参加したのは、BonAngels Venture Partners Inc.(本社:韓国)が運用するファンドおよび、成松淳氏(ミューゼオ代表取締役CEO)、佐藤裕介氏(フリークアウト 取締役COO、M.T.Burn代表取締役)、松田良成氏(漆間総合法律事務所 所長弁護士)、加藤寛之氏(イロドリ代表取締役CEO)、山口豪志氏(54 代表取締役社長、デフタ・キャピタル アクセラレーター 兼 横浜ジェネラルマネージャ)の各氏である。Pulitは今後、人員を現在の4名から6人程度までに増やし、各分野のパートナー企業と手を組んで今後1年以内をメドに同社サービスを事業化する考えだ。

サンプル0_SD画像

SD画像の例(一部ボカシあり)。コンテンツのキービジュアルであると同時に、画像そのものにコンテンツ配信システムへのアクセスするための情報が埋め込まれている。

同社が考え出したコンテンツ流通の仕組みは、大筋で次のようになる。コンテンツホルダーは、まずPulitのシステムにコンテンツを登録する。扱うコンテンツとして、当初の段階では日本発のコンテンツが国際競争力を持つ分野であるアニメーション作品やコミック作品を想定している。Pulitのシステムではこれらのコンテンツに対して、Direct Access Link(URL)および「SD画像」(SD=超流通。「SD画像」は現段階では仮称)と呼ぶ画像ファイルを紐付ける。

ここでSD画像はコンテンツの「看板」(キービジュアル)としての役割があると同時に、画像そのものに「電子透かし」としてコンテンツのメタデータ(コンテンツ利用条件やDirect Access Link)が埋め込まれている。このような、キービジュアルとコンテンツ配信システムへのアクセスのための情報が一体化した「SD画像」がPulitのシステムを特徴付けている。TwitterなどSNSに「SD画像」を貼り付けて情報を拡散することも可能だ。

もちろんDirect Access Link(URL)そのものをSNSに貼って拡散することもできるが、「(単なる)URLにはない特徴がSD画像にはある」と同社CEOのKunwoo Lee氏は説明する。「(単なる)URLは有料コンテンツ発信には向いていない。URLだけをたくさん保存すると埋もれてしまう。SD画像はローカルに保存でき、いつでも閲覧して素早くコンテンツを探し出せる」(Lee氏)。

ユーザーが最小の手間でコンテンツに到達できることを狙う

ここでユーザーの視点で、スマートフォンなどのデバイスの上でPulitのコンテンツを発見してから再生するまでの流れを追うと、次のようになる。

(1) コンテンツの発見。SD画像がWebサイト、SNSなどに置かれているのを見て、デバイス内のギャラリーに保存する。あるいは、Direct Access Link(URL)がSNSなどに貼られているのを発見し、クリックする。

サンプル2_SD画像の閲覧

ギャラリーに保存したSD画像から、ワンクリックでコンテンツ閲覧アプリへ遷移できる。

(2)SD画像もしくはDirect Access Link(URL)をクリックするとコンテンツ閲覧機能を備えたViewerアプリ(PulitのViewer APIを組み込んだアプリ)が立ち上がる。もしViewerアプリがない場合はViewerアプリの入手の画面に誘導する。

(3)コンテンツが広告モデルの場合はそのまま再生し、課金モデルの場合はその場で購入できる。なお、コンテンツホルダーは広告モデルにするか課金モデルにするかを管理画面から自由に指定できる。

(4) 後で見たいコンテンツ、繰り返し見たいコンテンツの場合、SD画像をギャラリーにダウンロードする(URLをブックマークするのと違いキービジュアルを見ることができる)。

以上の流れの中で重要なのは、コンテンツ再生までをシームレスにカバーしてくれるViewerアプリだ。このViewerアプリについては、Pulitが独自アプリを配布するというよりも、ニュースアプリやSNSのようなすでに多数のユーザーを抱えている有力アプリがViewer APIによりSD画像再生の機能を組み込む方向で普及させていく考えとのことだ。

コンテンツ配信元としては、アニメーション制作会社2社、コミックのエージェント会社2社と交渉中としている。他の分野のパートナーとも交渉中だ。

ユーザー、コンテンツホルダー、広告主にメリットがある「もう一つの配信ルート」を目指す

Pulitのシステムが狙うのは、ユーザー、コンテンツ提供者、広告主のそれぞれにとって、手軽で有利な「もう一つの手軽なコンテンツ配信チャネル」となることだ。

例えばユーザーから見れば、従来のコンテンツ配信では、配信チャネル(コンテンツ配信サービス)ごとにそれぞれ独自アプリをインストールし、入会手続き、課金のためのクレジットカード登録などを個別に行う必要があった。Pulitによる配信の場合、個別アプリのインストールや入会手続きは必要なく、課金もスマートフォンアプリのアプリ内課金のような標準的な方法を使う。コンテンツを発見してから閲覧するまでの手間を最小限に抑えられるとPulitでは考えている。

一方、コンテンツホルダーから見た場合、PulitのViewer APIを組み込んだアプリが増えてくれば、新たな配信チャンネルをコストをかけずに開拓できることになる。Pulitシステムへの登録、SD画像の作成は、独自Webサイトやアプリの構築、課金システム構築に比べてずっと敷居が低いからだ。コンテンツの価格設定なども、自分たちで決められる部分が大きくなる。再生や広告収入に関する情報がコンテンツ提供者にも詳しく開示されることも特色だ。

広告分野の企業も同社の取り組みに魅力を感じているそうだ。コンテンツホルダー側に有利な仕組みにより注目度や満足度が高いコンテンツを獲得できる可能性が高く、コンテンツの閲覧状況を一貫性を持って追跡して効果測定できる仕組みを備えているからだ。

Pulitの独自技術についても少し触れておきたい。同社のコア技術は画像にメタデータを埋め込む一種の「電子透かし」の技術だ。前述のSD画像に情報を埋め込むにあたり、空間周波数が高い領域ではなく中間の領域を使う。SNSなどに画像をアップロードすると大幅な画像圧縮がかかって画像の情報量が減ってしまうが、同社の電子透かしの情報はそのような劣化した画像からでも取り出せる特色がある。なお、画像の隅にある丸い模様の領域には、情報を取り出すさいの「ヒント」としての意味がある。同社の電子透かし技術は信号処理/マルチメディアアプリケーション分野の学会SIGMAPで最優秀論文の候補になった実績があり、特許も申請中とのことだ。

ひとつ疑問が残るのは、コンテンツ配信の入り口はPulitのシステムがカバーできるとして、コミックやアニメーション、つまりサイズが大きな画像や動画を含むコンテンツの配信という「力仕事」をどうするのかだ。同社に聞いたところ、詳細を話せる段階ではないものの次の一手を進めているとのことだ。

コンテンツビジネスは難しい分野だが、同社は独自技術と超流通を組み合わせたアイデアで挑む。コンテンツ流通の分野に風穴を開けてもらうことを期待したい。