Q-CTRLとQuantum Machinesが提携、量子コンピューティング開発を加速

Q-CTRLとQuantum Machines(カンタム・マシンズ)は量子制御分野で最もよく知られている2大スタートアップだ。米国時間9月9日、両社は新たな提携関係を結び、Quantum MachinesはQ-CTRLの量子ファームウェアを自社のハードウェア/ソフトウェアソリューションであるQuantum Orchestrationに統合すると発表した。

量子コンピューターの開発にはきわめて特殊な知識が必要なので、選り抜きのスタートアップ同士が協力するのは驚きではない。今回の提携はその典型例であり、今後このような提携が増えることが予想される。

「量子コンピューティングの魅力は、膨大なコンピューティングパワーであり、それを提供するべき量子コンピューターは存在してはいるが、まだ能力を引き出せていない。本格的な量子コンピューターはまだない」とQuantum Machinsの共同創業者兼CEOであるItamar Sivan(イタマール・シヴァン)氏は語る。

画像クレジット:Quantum Machines

これまで長い期間、プロセッサの開発、量子ビット(qubits)の寿命延長、古典的制御ハードウェア、ソフトウェアの開発といった基礎的な課題に焦点が当てられてきた。しかし、真の難題はこのすべてをまとめ上げることだ。

「これは多層的で多くの専門分野にまたがる非常に複雑な課題であり、量子コンピューターの夢を現実にするためには、高度に集中し高度に専門化された分野が密に協力して仕事をする必要がある」とシヴァン氏。

Quantum Machinesは、専用の従来型ハードウェアを使って複雑なアルゴリズムを量子コンピューターで動作させるQuantum Orchestrationというプラットフォームを通じて、統合されたソフトウェア、ハードウェアスタックを提供している。一方Q-CTRLが提供している量子制御基盤ソフトウェア(基本的に量子コンピューターのファームウェア)は、ユーザーがプロセッサーを較正してノイズやそのために起こるエラーを減らすために使用される。

シヴァン氏とQ-CTRLの創業者兼CEOのMichael J. Biercuk(マイケル・J・ビアクック)氏はしばらく前から知り合いだったことが役に立ったのは間違いない。。量子スタートアップの世界が広くないことを考えれば不思議ではないだろう。しかし、2つのテクノロジーは生来の補完関係にあることも事実だ。

「Quantum Machinesの作っていた量子コントローラーとパルスプロセッサー、およびQ-CTRLが作っていた量子制御ソリューションを使ってそれぞれのチームが解いていた問題に不思議なつながりがあることを我々は知っていた。そして、私には最近20年間この分野の学界にいた経験があり、私の学術研究チームは量子コンピューター・ハードウェアを作っている」とビアクック氏は。「こうした経験と、私がスタートアップを立ち上げようとした経緯から『すべてを自分で作ろうとするDIY方式と完全な垂直統合』という学界ではごく普通のやり方がこの世界では通用しないことはわかっていた」と続けた。

「この提携は自然な選択ではあったが、ここに至るためにはそれぞれのテクノロジーが成熟状態に達している必要があった」と両氏。提携は排他的なものでもなく、それはこの分野がまだまだ流動的であることを踏まえると十分理にかなっている。

画像クレジット:CIPhotos/ Getty Images

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

量子コンピューターを制御する古典的コンピューターに注力するQuantum Machines

量子コンピューターは通常、量子世界のエキゾチックな特性を、基本的な管理を担う古典的コンピューターと組み合わせたハイブリッドマシンとなっている。この業界では、量子プロセッサーの部分に注目が集まりがちだが、量子部分がより強力になるにつれて、古典的な部分がボトルネックになりつつある。つまりデジタルコマンドを、量子コンピューティングの世界のアナログ世界で使うために変換するプロセスを担う部分だ。そしてそれこそ、ステルス状態から姿を表したイスラエルのスタートアップ、Quantum Machinesが取り組んでいる課題なのだ。

同社のQuantum Orchestration Platform(量子編成プラットフォーム)は、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせて量子システムをコントロールする完結したソリューションとなっている。同社は独自のカスタムパルスプロセッサーを開発した。このプロセッサーが、やりとりしている量子プロセッサーとは独立に、とは言ってもサポートした状態で、マルチキュービットの操作を受け持つ。

「量子コンピューターの古典的なレイヤーには、まだ満たされていない真のニーズがあります。そこがボトルネックとなっているのです」と、Quantum Machinesの共同創立者であるItamar Sivan(イタマー・シヴァン)氏は語った。「私たちは、この業界の進歩を阻んでいるものについて、真剣に検討してきました。この業界を前進させるためにいまできることは何か。そして、将来の進歩を加速するにはどうしたらよいのか。これまでは、ほとんどの努力が量子プロセッサーだけに注がれてきたので、私たちがこの課題に取り組むのは、むしろ自然なことでした」。

彼の説明によれば、量子プロセッサーで複雑なアルゴリズムを実行するためには、非常に強力な古典的コンピューターも必要だという。しかし、ムーアの法則も終わろとしている今、それを効果的に実現するには、特殊なハードウェアが必要となる。そして、Quantum Machinesのハードウェアは、非常に高速なキャリブレーション機能を備えている。それにより、制御している量子プロセッサーから、より優れた、より正確な結果が得られる。もちろん同社は、この問題をどのように解決したのか、詳しいことは公開していない。その部分は、同社のチームが開発した秘密のレシピというわけだ。

シヴァン氏は、Yonatan Cohen(ヨナタン・コーエン)氏とNissim Ofek(ニッシム・オフェク)氏とともに、この会社を設立した。3人とも、一流大学の博士号を取得し、量子コンピューティングの課題に取り組んできた豊富な経験を持っている。「私たちの経験を考えると、ずるいほどの優位性があると言えるでしょう」と、シヴァン氏は冗談めかして語った。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)