Wordで作ったファイルを複数人で管理していると、やがていろいろな箇所にちらばっていき「最新版はどこにあるんだっけ」問題が発生する。TechCrunch読者のみなさんも、一度くらいはそのような体験があるかもしれない。
特に契約書など法務関連の書類は、IT系のベンチャーでもいまだにWordを使って作成することが多いと聞くから、その共有方法や管理方法はもっと改善できそうだ。
7月2日に先行リリースとなったリーガルテックサービス「hubble」を開発するRUCは、まさにその課題に取り組むスタートアップ。hubbleを通じてWordファイルの共有方法を変えることで、バックオフィスの業務効率の向上を目指している。
ローカルのWordを使いながら、クラウドの恩恵も受けられる
hubbleを使ってできることは大きく3つ。ローカルのWordファイルを従来よりも簡単に共有・管理できること、ドキュメントの編集履歴やコメント履歴を自動で記録(バージョン管理)できること、複数人で同時に並行編集できることだ。
hubbleではPC上で編集したWordを、保存ボタンひとつでクラウドに自動共有できる仕組みを構築。そのため毎回いちいちファイルをダウンロードしたり、アップロードしたりすることもなく、常に最新版がhubbleに残る。最大の特徴は「ローカルのWordを使っているけど、クラウドの恩恵も受けられる」(RUCのCEO早川晋平氏)ことだ。
「弁護士事務所や企業の法務部にヒアリングをしてみてもWordの文化が根強く、そこを一気に変えるのは難しい。GoogleドライブやDropboxのような使い勝手をいかにWordでも実現するかを追求してきた」(早川氏)
特に複数の契約書や法務書類を扱うようなフェーズの企業では、ファイルがチャットツールやGmailなど複数のチャネルに散らばってしまうことも多い。hubbleは特に難しい操作や面倒な作業なく、ファイルを保存さえすれば最新版が常に一箇所に集約されることがウリだ。
書類の作成や編集はなじみのあるWordを呼び出して実行。ファイルを保存すると最新版が自動でhublle上に共有され、ローカルには何も残らない
契約書や利用規約の作成過程を蓄積
早川氏によると現在クローズドな形で複数の企業(弁護士事務所や企業の法務部など)がhubbleを導入しているそう。そこでファイルの自動共有機能に加えて反響があるのが、バージョン管理機能だという。
hubbleではブランチと呼ばれるコピーのようなものを作ってファイルを作成し、そのファイルを原本(マスターブランチ)に統合するというフローを採用。毎回の変更履歴は編集者の名前とともに自動で記録されるため、必要に応じてこれまでの道のりを振り返ることもできるし、ファイルにコメントを入れることで変更の意図も確認できる。
たとえばサービスの利用規約を例に考えてみたい。複数人で利用規約を作る場合、メンバー間でその都度フィードバックしながら内容を磨いていくことが多いはずだ。法律の改正や機能の追加があった場合には、本文をアップデートすることもあるだろう。
その時に「誰が、どんな意図で編集したのか。どんなことを考慮する必要があるのか」といった情報が一箇所にまとめられていた方が、内容に手を加える際にもスムーズに進むはずだ。
「法務担当者が変更になってしまった場合、利用規約や契約書がなぜ現在の内容になっているのか、どのようなリスクがこれまで検討されてきたのかが新しい担当者にはわからない。hubbleを見れば作成過程をナレッジとして残すことができる」(早川氏)
変更部分(差分)もわかりやすい仕様になっている
それ、GitHubなら簡単にできるかも
RUCは2016年4月の設立。CEOの早川氏はもともと会計事務所の出身だ。ちょうどその頃にマネーフォワードやfreeeの手がけるプロダクトが界隈でも広がり、業務効率が大きく向上する場面を目の当たりにしたのだという。
「専門スキルのある会計士が領収書の入力に時間をかけているのはもったいない。専門家の方々が本来やるべき仕事により多くの時間を使えるように、その他の業務を簡単にするサービスを作りたいと考えた」(早川氏)
CTOの藤井克也氏がAI領域に詳しかったこともあり、最初は紙の書類をスキャンして保存すると、自動で整理してくれるプロダクトを考案。2017年7月にはANRI、TLM、CROOZ VENTURESから資金調達もして開発を進めていたが、データの不足などいくつかの課題もあり、そこから軌道修正をしてhubbleのアイデアに行き着いた。
hubbleのきっかけは、現在RECのCLO(最高法務責任者)で当時は同社の顧問弁護士だった酒井智也氏とのブレスト。酒井氏から「書類のバージョン管理に困っている」という話を聞いた早川氏が、「GitHubのような仕組みがあれば簡単にできるのに」と思ったことから具体的にプロジェクトが始まったのだという。ブランチの概念などはまさにGitHubからきたものだ。
数千万円の資金調達も実施、8月の正式リリースへ
RECでは2018年6月に既存株主のANRI、CROOZ VENTURESから数千万円を調達。まずは書類管理などに課題を抱えているようなステージの企業の法務部と、スタートアップ企業の2軸を中心にhubbleの導入を進めていく。
なんでもスタートアップに関しては、CLOの酒井氏が以前あるM&A案件に携わった時、事業は評価されているものの「契約書の管理などがきちんとされておらず、法務のリスクからバリエーションが下がってしまった」ことがあったそう。
将来のエグジットも見越して初期からhubbleを導入してもらうことで、「全ての法務書類がhubble上できちんと管理されている」という使い方を広げていきたいという意向もあるようだ。
本日より問い合わせベースで少しずつ企業への提供を開始。ユーザーの反応も見ながら、8月を目処にWeb上での正式リリースを予定している。機能面については現状のものに絞って強化しつつ、他サービスとのAPI連携に取り組みながら利便性の向上を目指す。
「(社員数が数名の)自分たちですら、ファイルがどこにいってしまったのか探すのに時間がかかるということはありがち。同じような課題を抱える企業のバックオフィスをサポートしていきたい。まずは契約書などの管理や内容調整ならhubbleという立ち位置の確立を目指していく」(早川氏)