ウェルビーイングがテーマの事業共創プログラム「Well-BeingX」をスクラムスタジオと異業種の大企業4社が開始

全世界的なデジタル化、そしてコロナ禍による社会が変化し健康意識が高まる現在「ウェルビーイング」に注目が集まっている。身体的なものだけでなく、精神的、社会的に良好な状態を意味するウェルビーイング。

近年では、1人ひとりのニーズに応じたウェルビーイングな社会の実現への関心が高まり、実現のための新たなテクノロジーやビジネスモデルが求められ、そのニーズと機会はさらに大きくなっていくと考えられている。

スクラムスタジオ住友生命保険東京建物日本たばこ産業をパートナー企業に、博報堂をサポーター企業に向かえ「多様なウェルビーイングの実現」をテーマに、世界中のスタートアップと連携・事業共創を行うグローバルオープンイノベーションプログラム「Well-BeingX」を開始すると発表した。

プログラムでは、異なる業種の企業間やスクラムベンチャーズグループのスタートアップ精査のノウハウなどを通じて、募集、選考される企業との事業共創に取り組み、1人ひとりのニーズに応じた価値の高い先進サービスやアプリの創出に取り組むとのことだ。

募集は本日、3月8日から開始(2022年5月31日まで)。募集するスタートアップの主要領域は「パーソナルケア&ウェルネス」「栄養&健康管理」「エイジング&介護」「保険&健康経営」「こころと体」の5つとなる。開催期間は2022年3月から2024年12月迄の3年間プログラム(1年目プログラムは、2022年3月から2022年12月迄を予定)となる。

パートナー企業の住友生命保険の上席執行役員兼新規ビジネス企画部長藤本宏樹氏は「住友生命は自治体・企業・さまざまなパートナーのみなさまと一緒に「WaaS(Well-being as a service)」エコシステムを構築することで、Well-beingな社会の実現を目指しています。『Well-BeingX』への参加が、その大きな一歩になることを期待しています」と述べる。

また、本プログラムにおいて地域課題の共有や実証プロジェクトなどで協力する先進自治体がオブザーバーを務めるが、その1つである東京都渋谷区のグローバル拠点都市推進室瀬野小枝子氏は「渋谷区では社会課題を解決するため、スタートアップ企業の実証実験事業「Innovation for New Normal」を実施し、多様な人々がそれぞれの想いを叶えられる社会を目指しています。今回のWell-beingXにおいても、困難をチャンスに変え、Well-beingの実現に向けて社会を豊かにする新しいイノベーション・カルチャーをともに作っていけたらと思っております」と語る。

応募はこちらのページから、プログラムや応募に関する詳細は公式ウェブサイトで。

「脱炭素」でさらに注目が集まる気候テック、IoT、AI、SaaS活用でさまざまな企業、サービスが誕生

遂に、本格的なClimate Tech(気候テック)のブームが到来したといえるだろう。

その背景には、世界規模の脱炭素の風潮がある。筆者は職業上、関連トピックをフォローしていたため、「カーボンニュートラル(CN)」や「ESG」といった単語は以前から聞き慣れたものだったが、最近では、テレビやTwitterといったメディアでも、関連用語を目にするようになっている。我々の日常生活においても、脱炭素に考慮した生活スタイルが浸透しつつある。

Climate Techは脱炭素のプレイヤーとして大いに期待されている。Climate Techとは、地球温暖化を軽減するためにCO2を含む温室効果ガスを削減する技術やそのビジネスを指している。PwCのレポートによると、Climate Techへのグローバル投資は2013年から2021年H1にかけて総額2220億ドル(約25兆5514億円)2020年H2から2021年H1の期間では839億ドル(約9兆6417億円)となり、過去8年間の4割弱を占めた。VC含む巨額投資マネーがClimate Techに流れている。

画像クレジット:PwC

2012年のClean TechブームVS近年のClimate Techブーム

なお、こういった技術分野のブームは、2006年から2011年にかけてもシリコンバレーに存在していた。

12年前、類似技術領域は「Clean Tech」の名称で呼ばれていた。このClean Techは、優れた性能を低コストで実現し、環境への影響を大幅に低減または排除する製品やプロセスと定義されている。一方、近年のClimate Techは環境への影響低減から一歩踏み込んで、「地球温暖化」という具体的な危機に対処する技術を指している。その背景には次々と国内外の政府や大企業が期限付きカーボンニュートラルを表明した経緯がある。つまりClean TechとClimate Techの本気度合いが大きく異なっている。

また、10年前と比べて、Climate Techに呼水効果をもたらす気候変動特化型機関が増えている。Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏が設立したBreakthrough EnergyやAmazon設立のClimate Pledge Fund、その他ESGに特化したファンド、インパクト投資を行う金融機関、そして日本企業含むCVCが例として挙げられる。

この呼水効果の影響が各案件の投資額の増加にも表れている。2021年のグローバルベンチャー資金調達では過去最高で6430億ドル(約73兆8700億円)を記録し、そのうち半分はメガディールと呼ばれる1億ドル(約114億9000万円)超の案件であった。実際、1件の額が膨れ上がった理由としては、VCによるアーリーやシード段階での投資意欲が増加し、資金調達額やバリュエーションが上昇したこともある。Holon IQのレポートによると、2021年末時点でClimate Techのユニコーンは45件、メガラウンドは61件だった。昨年11月に上場したEVベンチャーRivianのバリュエーションは665億ドル(約7兆6400億円)となり、株式市場を揺るがせた。2012年のClean Tech投資件数・規模は10年前のものより拡大した。

また、今回のブームでは技術面でIoT、AI、SaaSといったソフトウェア技術がClimate Tech領域に進出している。エネルギー分野だと巨額な設備投資額が必要なディープテック系が主流と思われがちだが、今ではアプリを通じて脱炭素に貢献するスタートアップも続出している。

Climate Techにはエネルギー需要側・供給側、そしてその中の技術分野など様々な側面がある。本記事では筆者が注目している直近でVCやCVC資金が集中した3つのエネルギー領域をご紹介したい。

Climate Tech領域カテゴリマップ(画像クレジット:Scrum Studios)

二酸化炭素回収・貯留・利用(CCUS)

CCUSはその名の通り、二酸化炭素の回収・有効利用・貯留を指し、火力発電や工場などの排気ガスに含まれているCO2を分離・回収・有効利用する技術を指す。「脱炭素」という意味で直接的な効果をもたらすという点から、元々は石油・ガス業界による投資が多かったものの、今は製造業など他業種も投資検討するようになった。

CB Insightsの報告によると、2020年8月〜2021年8月のCCUS技術への投資は6億8700万ドル(約789億円)、前年比で3倍以上 になると想定されている。下図の通り、そのCCUS技術の中に大きく6つの分野があるが、うち4つにかかる主要スタートアップを挙げる。

画像クレジット:CB Insights

1.炭素利用(Carbon Utilization)

従来セメント製造とSolidia製造方法(画像クレジット:Solidia Technologies

画像クレジット:Solidia Technologies

炭素利用とは、回収したカーボン(炭素)を有効利用する技術である。主な利用対象の1つ目に合成燃料が挙げられる。英国のLanzaTechは一酸化炭素、二酸化炭素、水素を含むガスに、微生物を用いて発酵させ、エタノールなどの化学品を作り出し、燃料にする。同社は全日本航空(ANA)と協業し、エタノールを用いてバイオジェット燃料の開発もしている。米国のTwelveもジェット燃料を含め、自動車部品や洗濯用洗剤など、石油化学製品に活用されている。

他にも、世界の二酸化炭素排出量の5〜7%を占めているコンクリートへの炭素利用もある。例えば、米Solidia Technologiesは水の代わりに二酸化炭素を吸収させ、コンクリートを硬化させる。Forteraは石灰岩のみでセメントを生成することで、CO2を60%削減させ、コストも従来生産方法より10%低く抑えることを可能にしている。

2.クリーン製造

全体の製造過程のける大量のCO2排出量を削減する目的としてH2 Green Steelが挙げられる。同社はグリーンな鉄鋼製造を実践することで、1トン辺りのCO2排出量を95%削減することを可能にしており、Mercedes Benzとも協業している。

3.カーボンオフセット・炭素市場

他の場所で実施した温室効果ガスの排出削減・吸収を購入することによって、炭素排出の埋め合わせを可能にする、「カーボンオフセット」。こちらも、CCUSの技術領域に入ってきており、前述のソフトウェア技術を駆使して注目を浴びているのはPachama。世界中の森林再生プロジェクトをオンラインの炭素市場に持ち込み、機械学習を用いて森林による吸収量を把握し、検証済みのオフセットを購入することを可能にしている。AmazonやSoftbankとすでに提携している。

4.排出量トラッキング・管理

トラッキング・管理の領域でもソフトウェアが大活躍している。大企業によるScope 1〜3のCO2排出量の開示が求められる中、カーボンフットプリントの算出・可視化をクラウド開発・ソリューション提供を行う企業が増えている。グローバル大手には、既に大手PEや銀行グループが導入している米Persefoniがあり、2021年10月にClimate Tech SaaSベンチャーとして最大級のシリーズB調達を成し遂げている。国内でも、CO2算出、削減管理、TCFDなどの国際基準の報告形式に対応したアウトプットも提供する、zeroboardが2021年に設立され、注目を浴びている。その他にも、フランスのSweepや日本のbooost technologiesも参入している。

水素製造

画像クレジット:Sunfire

水素技術もClimate Techでの注目領域である。日本では、グリーン成長戦略に水素が重点分野として掲げられている上、官民連携して水素サプライチェーンの構築に注力している。

CB Insightsによると2021年8月時点のグローバル水素投資合計は前年比4倍弱の6億9400万ドル(約797億円)だった。その中で、水素バリューチェーン上、川上に位置する「製造」、そして川下に位置する「利用」に企業が集中している。今回は前者のうち、スタートアップ例を挙げたい。

前述の資金調達額の半分ほどがこの過程に充てられていた。水素は水などから抽出されるべきもので、様々な方法で実施可能である。その中で、注目しているスタートアップ数社を挙げる。1社目は高温で電気分解技術を開発するドイツのSunfire。再エネ電力、水蒸気、回収したCO2などから、再生可能な水素(e-fuel)、水素、そして一酸化炭素の混合合成ガスを生成している。CCUSの要素もあることから、製油所から自動車会社、航空会社など、幅広いセクターにおいて応用されている。

次に、食品廃棄物や再生可能エネルギーから水素製造(Waste-to-Energy)を実践するElectro-Active Technologiesがある。特許取得済みの微生物及び電気化学的プロセスを用いて、効率的に有機廃棄物を電子と陽子に分解し、水素を製造する方法は、水の電気分解よりも2倍以上効率的に水素製造を可能にする。他にも、水素分離膜を用いるSygyzy、電極を用いた水分解を開発するH2Pro、バイオマスや廃棄物から水素製造を行うSGH2なども挙げられる。

エネルギーマネジメント

エネルギーマネジメントとは、住宅、工場、ビルなど、建物や施設におけるエネルギー状況を把握し、効率的にエネルギー使用を改善していく方法である。主にBEMS(Building Energy Management System)やHEMS(Home Energy Management System)といった名称が知られており、日本でも普及しているが、本記事では注目したい事例を挙げる。

1.工業利用

フランスのMetronは工場などの施設内の機械の稼働状況や温度、湿度、生産量のデータを集約し、AIが工場の各種設備の最適運用パターンをアドバイスし、工場のエネルギー消費を最適化している。すでに日本でも、NTT グループが同社と事業提携し、工場の生産ラインのコスト最適化を実現し、省エネ・コスト削減に貢献している。他にも、分散型エネルギープラットフォームと卸売市場と連携するVoltusや、工場の設計段階からエネルギー使用を最適化するSkyven Technologiesも注目されている。

2.住宅・商業施設利用

Cove.toolの建築設計最適化を行うソフトウェア(画像クレジット:Cove.tool

商業施設は世界のGHG排出量の4番目に多く貢献しているとされている。その中でcove.toolは建築家が同社のプラットフォームに建築物の詳細を入力すると、空調設備、建築材料、再エネ(太陽光発電など)の最適化方法を提案することを可能にしている。2021年12月のシリーズBラウンドには、俳優のRobert Downey Jr.(ロバート・ダウニーJr.)も参加した。

また、BlocPowerは学校や老朽化した中型規模のビルのエネルギー性能を管理・分析している。省エネ型冷暖房設備のアップグレードも支援する。空調シェア世界一のダイキン工業ともパートナーシップを結んでおり、同社のサービスを利用した企業に向けて設備更新の際のソリューション提供をしている。

3.プラント・設備効率化

また、エネルギーマネジメントには再生可能エネルギー設備などの最適化を図るものもある。例えば、LeapはEV、蓄電池、大型冷蔵設備などといったDERをクラウド上で管理するVPPオペレーターである。DERを束ね、同社のSaaSプラットフォームを通じて卸売市場に入札することを可能にしている。2021年11月、日本のClimate tech企業ENECHANGEがファンドを通じて同社に出資をした。

他にも、風力発電設備の効率化を行うIoT会社WindEsco、水力発電設備の効率化を図るHydrogridも、設備レベルでエネマネを実施している。

ここで紹介した複数事例は、Climate Tech全般のほんの一部である。

10年前から技術の進歩により、ハードのみならず、ソフト面でのイノベーション促進を通じてCNに向けて更なる加速化に期待したい。

編集部注:本稿の執筆者は島田弓芙子(Yuko Shimada)。日本企業と海外スタートアップの新規事業創出を手がけるスクラムスタジオで、脱炭素・サステナビリティのプログラムを担当。それ以前は、デロイトにて再エネや電力のアドバイザリー事業、ムーディーズにて国内電力・自動車・商社の格付分析業務に従事。ジョージタウン大学卒、コロンビア大学大学院修了。

スマートシティ創造に向けたアクセラレータ「SmartCityX」が1年目の成果を発表、6つの共創事例を紹介

日本企業とグローバルスタートアップによる新規事業創出をスクラムスタジオは、自社プログラムの1つである、大企業とスタートアップの共創を促す「グローバル・アクセラレーター・プログラム」で、スマートシティを題材とした「SmartCityX」に関するついて1年目の成果発表会を6月23日に開催、代表的な事業共創事例6件を発表した。

同プログラムは2020年8月に発表された。日本の各業界を代表する大企業13社と世界20カ国と地域から採択されたスタートアップ95社が、6つの先進自治体・経済団体、60名超の専門家メンターとともにサービス・アプリケーションの開発に取り組み、事業共創案件を創出することを目指している。

SmartCityXでは、産業や技術の視点のみならず、特に生活者の視点でので議論を深めており、多様性を意味する「カラフル」、DX化を意味する「ライフアップデート」、愛着と主体性を意味する「オーナーシップ」の3つを「SmartCityX Principles」と定義し、事業共創が行われているという。

生活者目線でスマートシティを目指す6つの共創事例

発表会では共創事例として「1.予防医療」「2.公衆衛生」「3.防災」「4.事故防止」「5.スポーツ観戦」「6.マイレージプログラム」という6ジャンルの生活サービスが紹介された。

  1. 予防医療
    地域エコシステム「スマートよろず屋」。スピード脳ドックやオンライン予約・診療を提供するスマートスキャンのサービスを、2021年2021年6月10日から三重県の東員町にて、トレーラーを用いて実証実験として地域に提供する。出光興産、スマートスキャン、三重県が参画。
  2. 公衆衛生
    「Infection Control & Public Hygiene ~街をきれいに安心に~」では、消毒液が見える場所に定点カメラを設置し、手指の消毒を組織中何名が行なったかを観測。衛生行動をモニタリングし、行動喚起して、衛生観念を高めてくことを目指す。匿名性に配慮しており、映像の中では人物特定ができないようになっている。ライオン、東日本旅客鉄道、博報堂、エクサウィザーズが参画。
  3. 防災
    「住民の行動変容を促す、日常使いできる防災ソリューション」には、あいおいニッセイ同和損害保険と東京都渋谷区が参画。あいおいニッセイ同和損害保険の被災建物数予想システムcmapをベースに、注意喚起や災害時の避難誘導などを進める狙いとなっている。2021年度内にはプロトタイプを開発し、渋谷区内での実証実験を予定する。
  4. 事故防止
    あいおいニッセイ同和損保はこれ以降のプロジェクトにも参画している。事故防止に関する事例である「デジタル時代の新たな交通安全対策~テレマティクス技術を活用した新たな交通システム~」では、福井県、福井県警察と協働し地域交通課題に取り組む。急加速、急ブレーキ、スマホ操作といった危険挙動を示すタグをマッピングし、県内ドライバーの運転データと組み合わせ、地域内の危険エリアを検出する。警察側は実際に事故があった地点の突合を行うという。
  5. スポーツ観戦
    「トラストあるデータ流通基盤を軸とした、鹿島アントラーズファン向けの新たな価値提供およびホームタウン地域課題へのチャレンジ」では、日本ユニシス、ジェーシービー、あいおいニッセイ同和損保、茨城県鹿嶋市、鹿島アントラーズ・エフ・シーに、すべての移動に価値を持たせることを掲げるスタートアップ米Milesが協業する。試合当日の混雑緩和などなどをデータ、インセンティブ設計などで解消し、地元とファンのストレスを緩和する狙い。
  6. マイレージプログラム
    「生活者向け行動変容型サービスで実現する『地方創生』『地域活性化』」では東日本旅客鉄道、あいおいニッセイ同和損害保険、Milesが、生活者の移動情報に応じてリワードを提供するスマートフォンアプリ『JREAD』を共同開発し、訪れたことのない店舗への移動を誘導するといった行動変容やデータの地方創生への活用を目指す。2021年2月、3月に実証実験を実施し、アンケートやモニタリングを通じてサービスの受容性が確認できているという。

いずれも、実証実験で一定のニーズや成果が見えたものについては他の地域でも展開を検討していくとのことだ。

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カテゴリー:VC / エンジェル
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