TWS(完全ワイヤレス)イヤホンの「進化」と「深化」
「TWS(完全ワイヤレス)イヤホン」と一口に言うが、最初の製品が発売されてからわずか5年の間に大きな技術的変化を遂げている。オーディオ信号の転送にしても、当初は左から右、あるいは右から左へと片チャンネル分をリレーする形式が主流だったが、近距離磁気誘導技術の一種「NFMI」やQualcomm(クアルコム)の「TrueWireless Streo Plus」など新技術が登場。Bluetooth SoCも進化し、送受信の安定化のみならずDAC部やアンプ部の改良により音質が飛躍的に向上している。
急速な技術的進化にもかかわらず、市場規模拡大や参入企業増加による競争の激化により価格は大幅に低下。つい3、4年前は2万円以上が当たり前だったところ、いまや1万円以下の製品が目白押し。しかも途切れにくくなり、音質も飛躍的に改善されている。音質については、振動板の性能やボディ構造などアナログな部分の影響も大きく、メーカー・製品の差が存在することに変わりはないが、「コーデック」の種類と音響的な性能は5年前から大きく変化している。
今回取り上げるSOUNDPEATSの「Sonic」は、そんなTWSイヤホンの急速な「進化」、あるいは「深化」を感じさせる製品だ。Qualcommの最新Bluetooth SoC「QCC3040」を採用、接続安定性や省電力性を高める「TrueWireless Mirroring」をサポートするほか、状況に応じてビットレートを変動させるコーデック「aptX Adaptive」も利用できる。後述するが、音もしっかり……というより、かなり良い。
音質「aptX Adaptive」
音途切れしにくさ、ケースとイヤホン本体の質感の高さ、先進機能を積むTWSイヤホンとしては圧倒的なプライシングと、このSonicを語るキーワードはいくつもあるが、まず最初に挙がるのは「aptX Adaptive」。このコーデックをサポートするスマートフォン/トランスミッターは、SnapDragon 855/865など比較的新しいQualcomm製チップを積む端末に限られるが、音質を保ちつつ音途切れを減らすという可変ビットレート機構はメリットが大きい。
早速Androiスマホ「Xiaomi Redmi Note 9S」(SoCはSnapDragon 720G)にSonicをペアリングすると、画面には「aptX Adaptive」の文字が。Sonic側に特別な反応はないものの(どのコーデックで接続しても「Connected」とアナウンスされる)、aptX Adaptiveで接続していることが分かる。
aptX Adaptiveはベストな通信状態のときはaptX HD相当(最大420kbps、48kHz/24bit※)、通信状態がかんばしくない場合はビットレートを下げaptX相当(279kbps、44.1kHz/16bit)となる。ただしそれはaptX Adaptive対応端末を利用したときの話で、aptX対応だがaptX Adaptive非対応のスマートフォンの場合はaptXでの接続となるため、それがオーディオ信号の情報量の差、ひいては音質差になって現れる。
※:Snapdragon 865で最大ビットレートは640kbps、96kHz/24bitに拡張されている。
そのaptX HD相当かaptX相当かの音質差は、想像以上にはっきりと感じ取れる。シンバルやスネアをロールしたときやピアノのサスティーンなど、音の消え際や余韻が違うのだ。屋内で聴いているとき(通信安定時)はエコーの広がり、音の定位や奥行きもつかみやすく、全体的にすっきりと見通しがいい。aptX Adaptive対応スマートフォンの場合、よほど混雑した場所でもないかぎりaptX HD相当での接続となるはずで、それがSonicの実力だ。
aptX Adaptive非対応スマートフォンでSonicの音を聴くと、印象は少々変わる。iPhone 12(AAC接続)でも整然として緻密なサウンドキャラクターは共通だが、量子化ビット数が24bitから16bitとなり低域・高域の情報量が減るためか、ややおとなしく感じられるのだ。この点、こだわる向きはaptX Adaptive対応端末で聴くべきだろう。
ウェブ会議にも便利な「TrueWireless Mirroring」
もうひとつの注目点は「TrueWireless Mirroring」。Qualcommが開発したTWS向け左右独立受信技術で、音途切れを減らすとともに省電力効果がある。
TWS向け左右独立受信の技術としては、同じQualcommの「TrueWireless Stereo Plus」があるが、TrueWireless MirroringにはSoC依存がないため、iPhoneでも左右独立受信が可能という大きなアドバンテージがある。Bluetoothアドレスがひとつのため、ペアリングの際「◯◯◯-L」と「◯◯◯-R」のふたつが表示され混乱するということもない。
iPhone 12 Proにペアリングして試してみたが、効果はすぐに確認できた。一般的なTWSイヤホンは、両耳利用から片耳利用のとき、あるいは片耳利用から両耳利用に戻すとき、オーディオ信号を左右のどちらで受信するか交通整理のために音途切れが発生するものだが、TrueWireless MirroringをサポートするSonicではマスター/スレーブの入れ替え(ロールスワップ)を瞬時に行うため、それがない。
だから両耳利用の状態で左側を充電ケースへ戻しても、右側からは途切れることなく音楽が聴こえる。その状態から左側を充電ケースから取り出し、今度は右側を充電ケースへ戻すと左側から音楽が。しかもステレオミックスのモノラル再生だから驚きだ。この仕様は、音楽鑑賞というより音声通話やウェブ会議で重宝されることだろう。
感嘆と呻吟のプライシング
このSonic、さらに驚くべきはプライシング。2020年12月現在、ここ日本での販売はオンラインのみと販路は限られるものの、価格はなんと税込4980円(Amazonでの価格。公式サイトでは税込4794円)。aptX AdaptiveとTrueWireless Mirroringに対応したTWSイヤホンはすでに数モデル存在するが、Sonicはそれらの半値近い価格だ。機能とスペックだけでオーディオ機器は語れない(質が最優先!)ものの、ことTWSイヤホンにおいてaptX AdaptiveとTrueWireless Mirroringというフィーチャーは魅力だ。
記事執筆のためのテストをひととおり終えたあと、思わず腕組みして唸ってしまった。AmazonのFBA(フルフィルメント by Amazon)を利用した通販オンリーの製品ということもあるが、ほぼ最先端といっていい機能としっかりした音、そして高い品質 ― イヤホン本体やケースはもちろんパッケージまでハイクオリティだ ― の製品が、税込5000円以下で手に入るとは。うーん。唸るしかない。
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