SPORTS TECH TOKYOにかける思いとSports Tech最新事例——TC Tokyo 2018レポート

写真左からTechCrunch Japan編集統括の吉田博英、Scrum Ventures創業者の宮田拓弥氏、データビークル代表取締役/Jリーグアドバイザーの西内啓氏、日野自動車フューチャンプランアドバイザーの山下大悟氏

オリンピックはテクノロジーの見本市と呼ばれることもある。2018年に平昌で開催された冬季オリンピックでは、世界初の5Gの実証実験サービスが行われたり、Intelのドローン技術を用いたライトショーもあった。東京2020オリンピックでも、さまざまな最新テクノロジーを見たり体験することだろう。

テクノロジーは、スポーツそのものやスポーツビジネスにも進化や新たな価値を生み出している。11月15日、16日で開催中のTechCrunch Tokyo 2018では、今後注目がますます集まるであろう「Sports Tech」をテーマにしたセッション「スポーツ系スタートアップを支援する『SPORTS TECH TOKYO』が始動」を開催。日本や世界におけるSports Techの最新事例や、今後の課題、SPORTS TECH TOKYOにかける思いなどが語られた。

登壇したのは、Scrum Ventures創業者の宮田拓弥氏、データビークル代表取締役/Jリーグアドバイザーの西内啓氏、日野自動車フューチャンプランアドバイザーの山下大悟氏。モデレーターはTechCrunch Japan編集統括の吉田博英。

世界中からテクノロジーを持ってくる「SPORTS TECH TOKYO」

まずはセッションタイトルにもなっている「SPORTS TECH TOKYO」の概要について。SPORTS TECH TOKYOは、Scrum Venturesと電通が共同運営するアクセラレーションプログラムで、スポーツ分野(eスポーツも含む)で優れた技術や事業アイデアを持つスタートアップを世界中から募り、事業化のためのメンタリングなどを約1年間支援するというもの。

競技団体、プロリーグ、チームなどの関係者や選手を「スポーツアドバイザリーボード」に迎え、参加するスタートアップに対してネットワーキングやプレゼンテーション、実証実験の機会も提供する。プログラムは、アスリートの育成や競技に関するデータ解析などはもちろん、スポーツの観戦やファンの満足度、スタジアム体験なども含んでいる。開催期間は、2019年1月から1年間。

宮田氏はプログラムのネーミングについて、「Sports Techが進んでいるアメリカをはじめ世界中のテクノロジーを日本に持ってきてもらいたいと思い敢えて“TOKYO”をいれた」とその理由を説明。TOKYOという旗を立てることでテクノロジーが集まるチャンスを創出する。

また、日本のスポーツ産業がテクノロジーに注目しはじめていることを実感しており「日本が目覚めてきた」と語った。

アメリカの最新Sports Techと日本のテクノロジー活用

ここで気になるのは、宮田氏が進んでいるというアメリカのSports Tech事情だろう。宮田氏は最先端の事例としてアメリカンフットボールを挙げた。

「アメリカンフットボールのスタジアムにはセンサーが入っており、リアルタイムで選手の位置の把握やランのスピードを解析している。(そのデータを使って)視聴者に対して、例えば競り合っている選手のどちらが速いのかをリアルタイムで画面表示もしている」(宮田氏)。

2019年には、上記のデータトラッキング技術とAI技術が組み合わさることで「選手が今からどの方向にボールを投げるのかを予測した情報」なども表示されるそうで、「アスリートの考えをファンが見られるようになる。面白い進化が起きている」と語った。

一方、日本ではどのようにテクノロジーやデータが使われているのだろうか。西内氏はJリーグでのテクノロジーやデータ活用に触れる前に「サッカーは野球よりデータ利用の歴史が浅い」と語った。野球は何十年も前から打率の概念が存在していたが、サッカーは2000年代に入るまでパスの成功率の指標すら管理されていなかったそうだ。そこからスポーツデータの解析を専門におこなうデータスタジアム社の活用などがはじまり、現在に至る。

「Jリーグでは、画像解析ソフトやGPSを使って選手の位置の把握や、走行距離などをはかったデータ活用をしている。加えて、ここ1、2年で主要なクラブチームではチケット販売サービスとデータを共有してCRMのようなものができるようになってきた」(西内氏)。

山下氏は、「ラグビーでは、10年くらい前から選手にGPSをつけて位置の把握などさまざまなデータを取得し、選手の評価や改善に取り組んできた」と説明した。山下氏が監督をしていた早稲田大学ラグビー蹴球部でもGPSを使っていたそうだ。また、早稲田大学ラグビー蹴球部では選手の評価や、トレーニング内容、練習メニューなどさまざまな事柄にデータを活用し「ほぼデータだった」と振り返った。

eスポーツから学んでスポーツに展開する

登壇者3人は日本のスポーツにおける今後のSports Tech活用についてどのような課題があると考えているのだろうか。それぞれが見解を聞いたところ、西内氏と山内氏はそろって「若年層のデータ化」を挙げた。

サッカーもラグビーも、プロになってからのデータを取ることはできるようになってきているが、ユース選手のデータが少なく、ユースチームのコーチが選手個人のデータを持っていないという。

「1万時間の法則みたいな鉄板的なものをデータで見出してほしい。また、個人にカスタマイズしていくことが重要になってくのではないか」(山内氏)。

「データが取れたとしても、一方でプロでもデータを活用しきれていないところがあるので、分析をどう活かすかも課題になってくる」(西内氏)。

「選手とファンのエンゲージメントやコミュニケーションが今後のキーワード。また、eスポーツ的な見せ方をスポーツに導入するといった、eスポーツから学んでスポーツに展開することがあるのではないか」(宮田氏)。

SPORTS TECH TOKYOは今だからこそチャンスがある

最後に、観客の皆さんからスピーカーに直接質問できる「Q&Aコーナー」セッションの様子を紹介する。

Q.アメリカなどに比べてスポーツ関連の事業化が遅れているが、スポーツ系スタートアップが立ち上がることによって、どれくらいで挽回できそうか?予想と期待値を教えてください。

A.2019年に我々が開催する「SPORTS TECH TOKYO」や、2020年に開催されるオリンピックもあるので、「このタイミングしかない」と思っているし、まだまだチャンスはある。(宮田氏)。

NFLやメジャーリーグはすごく収入があるが、1980年代は日米で収入の差はそこまでなかった。この20年~30年のあいだでマーケティングなどによる差が広がった。逆に言えば、ちゃんとキャッチアップすればアメリカの市場価値まで日本も上がるのではないかと期待している(西内氏)。

Q.ウェアラブルデバイスがSPORTS TECHで普及していく条件は?

A.ハードウェア側として、もっと小さくて軽くすることをもっとやっていかなければならない。また、カッコよい、ストレスなく使えるなど、デザイン面でも突き詰めていく必要がある。ソフトウェア側は、取得してデータをどう活かすかが課題ではないか(西内氏)。

Q.東京2020オリンピックはSports Techにとってどのような意味を持つか?

A.オリンピックは、大勢のプレイヤーがやってきて、大勢の人が見る場。会場やテレビで見るだけではなく、スポーツとどうエンゲージするかが重要になってくる。ARやVRを使った表現や、例えばさまざま角度から競技をみることができるかもしれない(宮田氏)。

各国から選手やコーチが集まるので、ほかの国が使っていた技術を見れる機会でもあるので「いい技術があった」「この技術うちも使いたい」といったことが起こることも期待できる(西内氏)。

(文/写真 砂流恵介)