パンデミックの間、自宅学習に縛り付けられている子ども持つ親たちは、バーチャル授業で失われた手を動かす実践学習を行う新たな活動を探さなければならなかった。ニューヨークを拠点とするエドテックのスタートアップThimble(シンブル)は、STEM(科学、技術、工学、数学)学習が行えるキットをサブスクリプションで提供し、この問題に対処している。これに参加した子どもたちは、送られてくるロボットや電子回路などのプロジェクト実習用キットを使って学べるほか、ライブのオンライン授業を受けることができる。
Thimbleは2016年、Kickstarter(キックスターター)のプロジェクトとして始まった。そのとき、STEM教育向けロボティクスとプログラミングのキットは45日間で30万ドル(約3100万円)の資金調達に成功している。翌年、そのキットの販売が、おもにニューヨークの学校に向けて開始され、授業や放課後の課外活動で使われるようになった。それから数年が経過し、Thimbleは顧客ベースを、ニュヨーク、ペンシルベニア、カリフォルニアのおよそ250の学校に拡大し、キットの販売と、教師向けトレーニングを提供してきた。
しかし、COID-19(新型コロナウイルス)のパンデミックにより、Thimbleの事業の方向性が一変した。
「多くの学校がパニックモードでした。何が起きているかもよくわからず、そのため予算もしばらく凍結されていました」と、Thimbleの共同創設者でCEOのOscar Pedroso(オスカー・ペドロソ)氏は話す。彼は教育畑の出身だ。「私たちがトップの顧客と見なしているところでも、『いや、今はそれどころじゃない。学校を閉鎖することになりそうだ』と言うのです」
ペドロソ氏は、学校ではなく子どもの保護者に直販するよう、すぐに方向転換すべきだと悟った。
4月ごろに、同社は切り替えを断行した。実質的に、初めてB2C市場に参入したことになる。
現在同社は、サブスクリプション型のサービスを保護者に提供している。それには、15種類のSTEMプロジェクト学習用キットと、教育者によるライブ授業などのカリキュラムが含まれる。ひとつのキットは3カ月かけて送られてくるが、もっと早く手に入る迅速なプログラムもある。
最初のキットは、たとえばドアベル、キッチンタイマー、作曲ツールといった単純な電子回路の作り方を子どもたちに教えるエレクトロニクスの基礎編。キットは、子どもたちの興味と、もっとやりたいという気持ちを持続させるために、「即座に成功」を体験できるようデザインされている。それが、Wi-Fiロボット、小型ドローン、光るLEDコンパス
、自分でDJ遊びができるシンセサイザーといった将来の高度なキットにつながってゆく。
子どもたちのエレクトロニクスやロボティクスの実践学習を支援するこれらのキットは、どの家庭でも使えるが、サブスクリプション登録者のおよそ70パーセントは、すでにロボットや電子回路の工作に慣れている子どもを持つ家庭だとペドロソ氏は話す。残りの30パーセントは、これを使ってロボティクスやエレクトロニクスの概念を子どもに教え、興味を示すかどうかを確かめたいと考えている家庭だ。また利用者の約40パーセントが女の子だという。
個別にDIY工作を行うのに比べて、月額59.99ドル(約6200円)というサブスクリプションは高価だが(1年契約なら月あたり47.99ドル:約5000円)、毎週1時間のZoomを使ったライブ授業が含まれているためでもある。Thimbleには、プロジェクトの教え方の専門家というだけでなく、情熱的でエネルギッシュで、子どもが問題を抱えていたりイライラしているとわかればすぐに手を差し伸べる、子どもたちを惹きつける授業が行えるパートタイムの講師が揃っている。5人いる講師のうち2人が女性。2カ国語を操り、スペイン語で授業できる講師も1人いる。
授業中は、1人の講師がプロジェクトの進め方を教える間、別の講師がチャットルームを担当し、授業に関する子どもたちからの個別の質問に応じる体制になっている。
ひとつのライブ授業は15〜20人の子どもを対象にしているが、もっと少人数のグループのためのパッケージも用意されている。これは、ホームスクーリングの「ポッド」などのグループで利用されている。
「私たちは、ポッドから、そしてマイクロスクールから意見を聞くようになりました」とペドロソ氏は話す。「そこでは、つながりを持った保護者たちが、同じクラスで子どもたちを学ばせたいと望んでいます。そうしたグループでは、概してもっと親密な授業やカスタマイズが求められます」と彼は言う。
これに対応したサブスクリプションは月額270ドル(約2万8000円)と高くなるが、グループの保護者たちで折半できるため、家庭ごとの費用は安くなる。顧客ベースのほとんどが個別の家庭だが、全体のおよそ10パーセントがこのプランを利用している。
Thimbleはまた、子どもへの資金援助でサブスクリプション費用をさらに安くできるよう、一部の市場のコミュニティーや非営利団体とも協力している。こうした機会は、利用が可能になったときに、学校、ニュースレター、その他の販促方法を通じて知らされる。
サブスクリプションに方向転換してから、Thimbleは顧客ベースの再構築を行い、現在は有料顧客数が1110件を数える。だが一部には初期の価格設定のまま継続されているものもあるため、Thimbleは事業規模を拡大する必要がある。
Kickstarterの他にも、その年Thimbleは資金調達を行い、ボストンのLearnLaunch、ワシントンD.C.のHalcyon、コロラドのTelluride Venture Acceleratorなど複数のアクセラレーターの協力を得て事業を進めている。
ピッツバーグのJoel Cilli(ジョエル・チリ)氏と共同創設したこのスタートアップは、現在、100万ドル(約1億300万円)のシードラウンドで60パーセントほどの調達を行っているが、現時点の詳細は明らかにされていない。
画像クレジット:Thimble
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(翻訳:金井哲夫)