東大OBの上場起業家が後輩を支援する応援ファンド、1号案件は電子トレカの「whooop!」

写真左から2番目がventus代表取締役CEOの小林泰氏、中央が取締役COOの梅澤優太氏。2人とも現役の東大生だ

東大出身の起業家をより多く誕生させたいーー。そんな背景から2018年11月に設立された「東大創業者の会応援ファンド」。東大OBの先輩起業家と後輩スタートアップをつなぐ同ファンドの1号案件が明らかになった。

電子トレカサービス「whooop!」を展開するventusは2月14日、東大創業者の会応援ファンドを引受先とした第三者割当増資を実施したことを明かしている。増資は2019年1月に行ったもので、調達額は500万円。ventusにとっては2018年5月以来の第三者割当増資による資金調達だ。

東大創業者の会応援ファンドでは東大出身者(在学/中退/卒業)が起業した設立5年以内のスタートアップを対象に、原則として一律500万円を出資する。何と言っても最大の特徴は「東大OBの上場起業家から事業支援を受けられる」点だ。

中心となる先輩起業家は以下のメンバー。出資金額だけを見ると少額だが、時価総額ベースで合計7000億円を生み出した先輩たちの手厚いアドバイスとネットワークはかなり希少価値が高いと言えるだろう。

  • ユーグレナ代表取締役社長 出雲充氏
  • ホットリンク代表取締役社長 内山幸樹氏
  • ミクシィ取締役会長執行役員 笠原健治氏
  • エルテス代表取締役 菅原貴弘氏
  • Gunosy取締役ファウンダー 福島良則氏
  • マネックスグループ取締役会長 松本大氏
  • スター・マイカ代表取締役社長 水永政志氏
  • エボラブルアジア代表取締役社長 吉村英毅氏

もともと2010年に東大出身で株式上場を果たした有志数名を中心に東大創業者の会がスタート。それ以降は上場を目指す同大出身の若手起業家も集まるようになり、現在は上場経験者10名以上、上場準備中の起業家も含めると20名規模のコミュニティが形成されているという。

東大創業者の会応援ファンドは後輩起業家を支援したいという想いを形にするべく、大学発ベンチャーへ出資を行っているAngel Bridgeと共同で設立したファンド。現在のファンド規模は1.3億円(今後増額予定)で、これから数年間で東大出身の後輩起業家が運営する創業期のスタートアップ20〜30社に出資をしていく計画だ。

今回同ファンドから出資を受けたventusは、電子トレカを通じてスポーツチームやアスリートとそのファンをつなぐ「whooop!」を2018年10月に正式公開。現在国内外の約50チームに導入されている。

同社では調達した資金や先輩からのサポートを基に組織体制の強化や事業の拡大を目指す。2019年4月を目処に「whooop!」の大型アップデートも計画中とのことだ。

電子トレカでスポーツチームを支援できる「whooop!」が正式公開、7種目12チームから展開

スポーツチームやアスリートがオンライン上で電子トレーディングカードを発行することで、ファンと関係性を深めたり資金を集められる「whooop!」。TechCrunchでも5月に紹介した同サービスが、ベータ版を経て10月10日に正式リリースとなった。

ベータ版では3チームだったスポーツチーム数も7種目12チームまで拡大。まずは2018年末に50チーム以上での展開を目指していくという(後日トレカを販売することが決まっているチームも含めると15チーム。具体的なチーム名は記事末尾にて紹介)。

whooop!は各ユーザーがチームの発行した“電子トレカ”を購入・売買することで、そのチームを応援できるプラットフォームだ。

ユーザーがトレカを購入する方法は2パターン。チームのカードパックを直接購入するか(カードは1枚から購入でき、どのカードが当たるかはランダム)、オークション機能を使ってユーザー同士で特定のカードを売買する。

直接購入した場合にはカード代金の90%が、ユーザー間で売買した際にも取引額の2.5%がチームの収益となるので、カード集めを楽しみながら好きなチームを応援できるのが特徴だ。

チームは保有するカードの種類や量に応じた「特典」をつけることが可能。たとえばチームの運営方針に関する投票権を付与したり、e-sportsなどであれば「実際に好きな選手と1対1で対戦できるイベント」を設けるのもありだ。今後はファンクラブのような形でチーム側から情報を発信し、カードを持っているユーザーだけがその情報をチェックできるような仕組みも入れていくという。

運営元であるventus代表取締役CEOの小林泰氏と取締役COOの梅澤優太氏に近況を聞いてみたところ、実際に3チームで運用してみた中で「(好きなチームを応援できるような場所を求めているファンがいて)whooop!のようなプロダクトに対するニーズがあること、お金を払ってトレカを買ってくれる人が一定数いることは検証できた」(梅澤氏)という。

たとえば9月からカードを販売しているサッカー東海リーグ1部の鈴鹿アンリミテッドの場合、ホーム開催の試合に合わせて販売をスタートしたところ、3〜4時間で数百枚のカードが売れたそう。チームを応援したいと思っているコアなファンは試合会場に足を運んでいるケースが多いので、ホームゲームというリアルイベントに紐づけて会場でビラ配りなどをすると、関心を持つ人も多いようだ。

「現地でファンに話を聞いてみても『カードを集めること自体も楽しいけれど、それ以上に使ったお金がチームにしっかりと還元されるのがいい』という反応が多い。当初から、クラウドファンディングのようにモノの対価としてではなく、純粋な支援としてチームにお金が還元される仕組みを作りたいという思いがある。トレカを買うというよりも、好きなチームを支援した結果、それを証明するものとしてトレカがついてきたというような世界観を目指している」(梅澤氏)

スポーツチーム側にとっては、在庫がなく原価もかからないのが特徴。大きなリスクやコストなどの負担なく続けられ、トレカを軸にファンとの関係性も深められるような場所を意識しているという。

「チームが新しいチャレンジをするための“道具”になれそうな手応えはある。より深く掘り下げられるようなポイントにも気づけたので、今後は機能面をさらに拡充し、より面白い場所にしていきたい」(小林氏)

whooop!ではトレカを買った結果、どのくらいのお金がチームに還元されているかがわかるようなデザインになっている

冒頭でも触れた通り、正式リリースに合わせてチーム数も12チームまで拡大。種目数が広がったことに加え、筑波大学蹴球部(サッカー部)のように大学スポーツのチームもトレカの販売が決まっている。

2018年内に50チーム以上、2019年初頭には100チーム前後への展開を見込んでいて、すでにサッカーJリーグのクラブやラグビーチームとも話が進んでいるそう。国内だけなく欧州有名サッカーチームとの協業も予定しているという。今後もさまざまな種目・規模のチームを加えることで、「いろいろなチームやファンが集ったスポーツ横断型のコミュニティ」の形成を目指していく。

本日TechCrunchではスポーツチームに投げ銭をできる「Engate」も紹介しているけれど、スポーツチームやアスリートが収益源を確保したり、ファンとの関係性を築いたりする方法はもっとアップデートできる余地がありそうだ。

なお本日時点でwhooop!に参加することが決まっている15チームは以下の通り(鈴鹿アンリミテッド、宇都宮ブリッツェン、名古屋OJAはベータ版から参加)。

  • 東京武蔵野シティFC(サッカー/JFL)
  • コバルトーレ女川(サッカー/JFL、トレカ販売開始は後日)
  • 鈴鹿アンリミテッド(サッカー/東海リーグ1部)
  • 筑波大学蹴球部(サッカー/大学サッカー、トレカ販売開始は後日)
  • 琉球アスティーダ(卓球/Tリーグ)
  • 宇都宮ブリッツェン(サイクルロードレース)
  • 那須ブラーゼン(サイクルロードレース)
  • キナンサイクリング(サイクルロードレース)
  • ヴィクトワール広島(サイクルロードレース)
  • 名古屋OJA(e-sports)
  • CYCLOPS athlete gaming(e-sports)
  • 広島ドラゴンフライズ(バスケ/B2)
  • TOKYO DIME(バスケ3×3)
  • スタープラチナ(女子ゴルファーサポートチーム)
  • 埼玉アストライア(女子プロ野球、トレカ販売開始は後日)

“電子トレカ”がスポーツチームの収益源になる「whooop!」発表、1500万円の資金調達も

ここ数ヶ月の間に、個人や団体(企業)が資金やファンを集めることのできるプラットフォームが急速に増えてきている。

たとえば先日TechCrunchでも紹介した「SPOTSALE(スポットセール)」や「BASE」の取り組みは、店舗がサービス上で“独自のコイン”を発行し、初期のファンや資金を調達できるというもの。ほかにもコミュニティが“コミュニティコイン”を発行して支援者を募る「fever」や、少し方向性は違えど、設定した特典と交換可能な“ポイント”を無料配布しファンと交流できる「MINT」のようなサービスもある。

もちろんクラウドファンディングもそうだし、プラットフォームではないけどICOも同じような目的で活用される仕組みだ。

そして今回紹介する「whooop!」もこれらに近く、スポーツチームやアスリートがファンから資金を調達できるプラットフォーム。ただしwhooop!の場合は独自のコインでも、ポイントでもなく“電子トレーディングカード”を用いている点が最大の特徴だ。

開発しているのは現役東大生を中心とした若いメンバーが集まるventus。同社は5月23日よりwhooop!の事前登録を開始するとともに、谷家衛氏や高野真氏を含む個人投資家などから、総額1500万円を調達したことを明かした。

電子トレカが変える、チームとファンの関係性

whooop!はスポーツチームやアスリートがオンライン上でトレーディングカード(以下トレカ)を発行することで、ファンとの関係性を深めたり資金を集めたりできるサービスだ。

トレカにハマったことがある人にはイメージがつきやすいと思うが、スポーツチームは複数枚の選手カードをランダムに集めてパックにしたものをファンに販売。ファンはチームから直接購入するほか、オークションやトレード機能を使ってファン同士で取引することもでき、カードを集めながらお気に入りのチームを支援する。

各チームごとに「ファンランキング」が導入されているほか、チームの運営方針に関する投票など、カード保有量に応じた「特典」も設定が可能。ランキングによって自らの“ファン度”をアピールでき、特典を使うことでより一層深くチームに携わることができる。

一方で収入に悩むスポーツチームにとっては、電子トレカが新たな収益源にもなりうる。whooop!ではカードを販売した際に販売額の90%がチームの収益となるほか(10%がwhooop!の取り分となる)、ファンの間でカードを売買した際にも取引手数料として2.5%がチームに支払われる仕組みだ(同じくwhooop!にも2.5%が支払われる)。

ここまで読んで「カードを売買できる以外はクラウドファンディングとあまり違わないのでは」と思う人もいるかもしれない。

この点についてventus代表取締役CEOの小林泰氏に聞いてみたところ、「(単発的になりやすいクラウドファンディングとは異なり)カードはシーズンやイベントごとに発行できるので、継続的な支援を受けやすいのが特徴。グッズなど物のリターンだけではなくチームに関わる体験をファンに提供でき、ファンの視点ではカードを保持しておけば支援したことを証明することもできる」のがウリだという。

各カードのサンプル画面。

whooop!では琉球アスティーダ(卓球)、宇都宮ブリッツェン(自転車)のほかプロサッカーチームや個人アスリートと連携し、βテストを行っていく計画。6月中を目処にこれらのチームに関してカードの購入、特典の獲得ができるようになる予定だという。

また連携チームを増やしながら、2018年夏頃にwhooop!の正式版をリリースする方針だ。

スポーツチームが継続的に収益をあげられる仕組みを

ventusは2017年11月の設立。代表の小林氏と取締役COOの梅澤優太氏を中心としたチームで、2人は現役の東大生だ。

ventusのメンバー。写真左から1人目が取締役COOの梅澤優太氏、3人目が代表取締役CEOの小林泰氏

小林氏は学部生時代にアイスホッケー部に所属。その傍ら、アイスホッケーを広めるために大学リーグの全試合を生中継するメディア「Tokyo IceHockey Channel」を立ち上げ、3年以上運営してきた。

「生中継をしていて感じたのが、本質的な価値は現場体験にあるということ。その価値をあげるためにはどうすればいいか、その体験に参加してお金を払ってくれる人を増やすにはどうすればいいかを考えたのがひとつのきっかけ。またメディアを運営する過程で自分たちでクラウドファンディングをやるなど、多くの人から支援してもらった。その支援を何らかの形で可視化して、蓄積できると面白いと思っていた」(小林氏)

一方の梅澤氏も3歳の頃からサッカーに打ち込んできたスポーツ好き。スポーツベンチャーでのインターンも経験し、スポーツ業界で事業をやることを考えていたところ小林氏と会ったという。

「スポーツだけに限った話ではないが、ただ1つのことに打ち込み勝負をしている人たちと、その人たちを支えたいと思う人が繋がれる場所を作りたいと考えていた」(梅澤氏)

もともと2人が考えていたのは、ちょっとしたベッティング要素やゲーム性を取り入れること。たとえばwhooop!でとあるチームのカードを購入する。そのチームを応援し続けた結果、チームの価値が上がれば自分の保有するカードの価値も高まるといった具合だ。

これによって何となくカードを購入したことをきっかけにそのチームを熱狂的に応援する人がでてくるかもしれないし、その結果チームにきちんと資金が入る仕組みになっていればファンもチームもハッピーだろう。「もともとスポーツにはトレカという文化があるため、ファンだけでなくスポーツチーム側にとってもわかりやすい」(梅澤氏)こともあり、電子トレカを活用したwhooop!のアイデアに固まったそうだ。

今後whooop!では中長期的に様々な種目、レベルのチームをプラットフォーム上に展開することで、スポーツファンが集まる「スポーツ横断型のコミュニティ」を形成を目指す。収入源をチケット代やスポンサー料、放映権料に依存しがちなプロスポーツチームやアスリートにとって「電子トレカが継続的に資金を得られる収入源のひとつになること」を目標に事業を成長させていきたいという。