小さくて安価なLiDAR技術の生産拡大を目指すVoyantが約17.7億円調達、ロボティクスや工作機械がターゲット

LiDARの未来は、Voyantが望むように、価格と大きさが今の数十分の一にまで下がらないかぎり不確実だ。LiDARがサンドイッチのようなサイズの数千ドル(数十万円)のデバイスであるかぎり、広い普及は望めない。そこでVoyantは、高性能なLiDARを小型化 / 低価格化し、容易に生産できるように資金を調達した。

2019年に同社のシードラウンドをTechCrunchが報じたときの同社の目標は、シリコンフォトニクスを利用してLiDARをサンドイッチから指の爪ほどのサイズに縮小することだった。しかし、どのLiDAR企業でも、その最大の課題は価格を下げることだ。強力なレーザー装置と有能なレセプターとビームの方向を制御する機械的もしくは光学的な手段が合わさると、それをLEDやタッチスクリーン並に安く作って、定価3万ドル(約345万円)未満の車に複数装備することは容易でない。

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CEOのPeter Stern(ピーター・スターン)氏は、新型コロナウイルスの初期に同社に加わった。当時同社は、共同創業者のChris Phare(クリス・ファー)氏とSteven Miller(スティーブン・ミラー)氏が開発した有望なプロトタイプを、市販製品として完成させる方法を探していた。基本に戻った彼らが当面の策としてたどり着いたのは、既存の商用半導体工場でも作れる、フォトニクスをベースとする周波数変調連続波(FMCW)システムだった。

「他のシステムはいずれも、高価なものを大量に使っている。私たちのビジョンは、そこらのありふれた半導体のように、大量生産できるチップだ」とピーター・スターン氏はいう。さらにスターン氏は、強力で高精度なレーザーを使わないことが、費用とスペースの大きな節約に貢献していると述べた。「現在、レーザーソースとして使われているものは高額で、組み立てと較正を必要とし、レンズの問題もある。私たちのレーザーソースは、時代遅れのDatacomのレーザーを改造したようなもので、サイズは胡ゴマ一粒ぐらいだ。その価格はおよそ5ドル(約580円)、レーザーパスに30ドル(約3450円)といった程度です」。

このような小型化は、レーダーでよく使われているFMCW方式のおかげだ。光の連続ビームを解読可能なデータパターンでエンコードし、その周波数をコンスタントに調整する。このアプローチは、従来のLiDARの方法にあった多くの問題を回避する。そしてVoyantのやり方では、それを安価でできる。量産で100ドル(約1万1510円)未満になるかもしれない。そして1つのチップの上に、すべての光学系とビームの操作、センシングなどが搭載している。

LiDARチップ上の導波管の一部を接写(画像クレジット:Voyant Photonics)

しかし同社は、Velodyneや自動車分野でしのぎを削っているLuminarやBarajaのような新興のLiDAR企業を相手にしていない。「私たちは資金が少ないため、自動車の開発サイクルにはついていけない」とスターン氏はいう。そして、まさにそれは、参入をトライするだけでも極めて高くつく市場だ。「私たちは安売りをするため、アプリケーションはロボティクスやモビリティ、工場や工作機械などの安全化など、Velodyneのパックを検討しているようなところなら、どこでもいい」とスターン氏はいう。

あなたは、こう問いたくなるかもしれない。「私のスマートフォンにもLiDARが搭載されているが、それとどこが違うの?」。確かに、小型のLiDARはすでにあった。しかしそれらは、能力が極端に限られている。リビングルームをスキャンすることはできても、それより数メートル遠かったり、日射や悪天候の中では信頼性が低い。Voyantは自動車分野には進出しないが、そのスペックはすでに自動車にも搭載できるもので、100m先に対しmm精度だ。時速110kmで走っていても問題ない。

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FMCWはAevaのLiDARも使っているが、ポイントが少なく、したがって解像度が低い。しかしそれは、ドップラー速度が瞬間に得られる。ビームを当てたものが、どれぐらい速く動いているのか、それが、スキャンや計算を強力にしなくてもわかる点は明らかに有利なものだ。

競合技術に対してもう1つおもしろい利点は、そのユニットが距離や速度を認識するだけでなく、材質もある程度見分けることだ。光はそれが当たる面の性質によって微妙に変化するが、その偏光と呼ばれる違いをVoyantは計測できる。したがって単一のデータポイントからそのデバイスは、相手が金属か、アスファルトか、木か、衣服か、毛皮かなどを見分けることができる。それは、モノを分類するのにすごく便利だ。毛皮だったら、それは木でもクルマでもなく、野生の動物かもしれない。

LiDARテストキット「Lark」のブロック図(画像クレジット:Voyant Photonics)

1540万ドル(約17億7000万円)のシリーズAは、UP.Partnersがリードし、LDV CapitalとContour Venturesが参加した。同社が計画しているその用途は、本番生産に向かう第一歩として、開発キットをパートナーに提供することだ。2種類の開発キットのうち「Lark」は従来的で、レーザー信号をミラー検流計から反射する。もう1つの「Sparrow」は、2D状にセッティングしたビームを使って、機械的な部品の必要性をさらに減らす。

スターン氏によると、2022年にはパートナー向けのユニットを約200生産し、商用の受注は2023年に開始する。その時点で自動車産業が注目することもありえるが、でもVoyantの戦略がうまくいけば、大きくて高価なユニットを作っている企業にとって産業市場の大きな部分が彼らの手をすり抜けているだろう。

画像クレジット:Voyant Photonics

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)