現在、eコマースは全小売売上高の14%を占めている。業界の成長とともに、企業のオンライン販売を可能にするツールを開発するスタートアップの価値も増加している。また1つ新しいニュースが飛び込んできた。ラテンアメリカで創業したVTEXが1億4000万ドル(約150億円)を調達した。同社はWalmart(ウォルマート)のような企業の新興市場進出を支援する。注文、在庫管理、フロントエンドの顧客体験やカスタマーサービスなどをカバーするエンドツーエンドのeコマースサービスを提供している。今回調達した資金で、ビジネスをさまざまな国に展開する。
ソフトバンクが自社の中南米のファンドを介して投資ラウンドをリードした。Gávea Investimentos、Constellation Asset Managementも参加した。既存株主にはRiverwoodやNaspersなどが名を連ねる。VTEXによるとRiverwoodは引き続き株主として残るようだ。
VTEXをGeraldo Thomaz(ジェラルド・トーマス)氏と共同で創業したCEOのMariano Gomide(マリアーノ・ゴミデ)氏はバリュエーションを明かしていないが、創業者と創業チームが引き続き会社の50%以上を保有していると明言した。ウォルマートに加え、VTEXの顧客には、Levi’s(リーバイス)、ソニー、L’Oréal(ロレアル)、Motorola(モトローラ)などがいる。毎年、約2500の店舗で約24億ドル(約2600億円)の総流通価値(小売ベースの流通額)を処理しており、過去5年間で年平均43%増加した。
VTEXは1999年創業。この分野のビジネスに関わって久しいが、ようやく厚いバランスシートを持つに至り、成長に向け舵を切った。PitchBookのデータによると、これまでの調達額は1300万ドル(14億円)に満たなかった。
今年設立されたソフトバンク・イノベーション・ファンドにとっても大きなラウンドの1つとなる。同ファンドは、ラテンアメリカのテクノロジー企業への投資に特化したファンド。今年初めに20億ドル(約2200億円)でスタートし、50億ドル(約5500億円)まで拡大した。1000億ドル(約11兆円)のビジョンファンドには及ばないが、最近の論争や損失とは逆の方向への発展が期待される。
ラテンアメリカでサービスを提供しているスタートアップにとっては巨額だ。ソフトバンクは他のラテンアメリカ企業にもすでに多額の投資を行っており、オンライン宅配ビジネスRappi、貸付プラットフォームCreditas、不動産テックのスタートアップQuintoAndarなどがある。
ソフトバンクの投資に共通するテーマは、さまざまな形態のeコマースに注目していること(貸付にせよピザの宅配にせよ)。VTEXは、その多くをより広い市場で可能にするプラットフォームプレーヤーとして位置付けられる。フロントエンドを構築するツールだけでなく、バックエンドで在庫、注文、顧客管理ツールも提供する。
「VTEXには成功を加速する3つの特徴がある。強力なチームカルチャー、業界最高のプロダクト、収益性を重視する起業家だ」と、ソフトバンクのラテンアメリカファンドの投資パートナーを務めるPaulo Passoni(パウロ・パッソーニ)氏は声明で述べた。「ブランドと小売業者は、信頼性とイノベーションを試せる基盤を求めている。VTEXは両方を提供して市場の期待に応える。 VTEXにより、同じデータレイヤーでアドオンを柔軟にテストできる、実績のあるクラウドネイティブプラットフォームにアクセスできる」
VTEXは米国(今年初めにUniteUを買収した)のような市場に進出したものの、収益の80%はラテンアメリカで稼いでいるとゴミデ氏はインタビューで答えた。
同社はラテンアメリカへの進出に関心のある小売業者やブランドのパートナーとしての役割を果たしてきた。店舗を現地化するための統合ツール、顧客やマーケットプレイスを管理を支援するプラットフォーム、さらにアナリティクスを提供し、SAP、Oracle、Adobe、Salesforce(セールスフォース)に対抗する。一方Commercetoolsは競争相手ではないと、筆者の質問に答えた。Commrcetools は中・大規模企業向けにShopifyスタイルのAPIツールを開発しており、先月1億4500万ドル(約160億円)を調達した。
eコマースは規模の経済が働くビジネスであり、VTEXはまさにその典型であるとの見方が以前からあった。同社は年間約25億ドル(約2700億円)の取引を処理しているが、その収益は6900万ドル(約75億円)と比較的小さい。これに加え、幅広いビッグデータ(これも規模の経済)をアナリティクスにかけられる利点が、VTEXが欧州や北米などの新市場への進出に賭けている大きな理由だ。規模があれば収益も増えるし、より多くのデータも手に入る。
「結局のところ、eコマースソフトウェアは知識の組み合わせだ。数千のグローバルな事例にアクセスできない場合、ソフトウェアに知識を吹き込むことはできない」とゴミデ氏は述べる。「特定の地域に注力する企業は、商取引がグローバルなものであることを認識している。 中国がそれを証明した。eコマースツールの既存プロバイダーが国際化に対応できないため、多くの企業が我々のところに来る。グローバルなアプローチに対応してきちんと役に立つ企業はほとんどない。当社は現在、各国の決済方法にあわせ122件の統合を進めており、その数は増える見込みだ」と同氏は語った。
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(翻訳:Mizoguchi)