インタビュー:多様性促進のために企業が取るべきアクションとは

BLCK VCは2024年までに黒人のベンチャーキャピタリストを現在の2倍に増やすという目標の実現に取り組んでいる。その理由は説明するまでもない。パートナーレベルのベンチャーキャピタリストのうち黒人が占める割合はわずか2%にすぎない。黒人のパートナーが全くいないVC企業も全体の81%に上る。この数字を踏まえると、VCコミュニティの下に構築されたスタートアップエコシステムが、非常に多様性に欠けるものであるのも驚くにあたらない。

私たちは、Extra Crunch LiveのエピソードでBLCK VCの共同創業者兼共同議長のSydney Sykes(シドニー・サイクス)氏と共に、現在進行中の抗議運動、VC業界の多様性や開放性に関する現状、また我々がテックエコシステムのあらゆる面でより非排他的になるための実践可能な洞察と戦略について話し合った。

これは非常に重要な会話であるため、我々はこのエピソードとQ&Aすべてを無料で公開することとした。

下記に、かわされた会話の中から重要な部分を文字起こしし、それに簡単な編集を加えたものをまとめた。また会話全体はYouTubeでご確認いただける。また、BLCK VCの「We Won’t Wait(私たちは待たない)」 アクションデーの動画もそこでご覧いただける。

現在テック企業に充溢するエネルギーが持続し、継続的な変化をもたらすことができるかどうかについて:

これらのテック企業すべてが「Black Lives Matter(黒人の命は重要である)」と言い、そして寄付をしているのをご存知だと思います。寄付をし声明を発表しても、企業のあり方は変わらない、というのが私の考えです。そのような方法では、業界のあり方を変えることはできません。ですから、そうした声明を聞くと、うんざりして悲観的になり、状況は今後も変わらないと感じてしまいます。私が本当に楽観な気分になれるのは、これらのテック企業の従業員、そして市民が「ただ Black Lives Matterというだけでは足りない。それを実現させなければ」と発言するのを聞く時です。

現在、ボトムアップの、本当の意味での草の根レベルで「今までのやり方で問題が解決しないのなら、現状を変える必要がある」という声が上がっています。私はこれらの企業は今後とも従業員や顧客の声に対応していく必要があると思います。ですから、私は今までにないほど楽観的です。そうは言っても、私は依然としてアメリカに暮らす1人の黒人女性ですし、今起こっていることが人種差別を是正するとは考えていません。しかし、将来的には事態が改善すると楽観的に考えています。今から1ヶ月前と1ヶ月後を比較して、どれだけ事態が改善されているかを知るには、もうしばらく待つ必要があります。でもどのような変化が起きるのだろうかと、わくわくしています。

企業の内側と外側から変化を引き出し促進することについて:

私が初めてベンチャーに興味をもったのは大学の後半でした。あらゆるVC企業の様々なページを閲覧しましたが、白人男性投資家の白黒写真ばかりでした。この業界に属し、黒人女性の投資家としてベンチャー企業で働くだけで変化をもたらし違いを生み出せると感じました。個人的には、行動を起こし変化をもたらすには、内側から働きかけるのが最良の方法だと感じました。しかしそれが誰にとっても正しい選択だとは思いません。また、有色人種たちが彼らが内側にいてこそこれらの業界や企業を変えられると考えているからといって、常に彼らに現状を変えるという重荷を背負わせ、不快な立場にいるようにすべきだとも思いません。ですから、そこはバランスだと思います。

一方で、過去にはボイコットが変化をもたらしたことがありました。これは完全な断絶です。不正なシステムから完全に離れることです。一方、企業には内部に従業員がいて、彼らがその環境内で変化を促進しています。

どのように変化を促進するかについて、正しい答えはないと思います。耳を傾けてもらえる立場にいて、意見があるならば、可能な限り最も強力な形で発信する必要があります。Alexis Ohanian(アレクシス・オハニアン)氏の場合、辞任することで意見を伝えたわけですが、これは大変強力なやり方だと思います。内側から声を挙げるのも有効なやり方だと思います。しかし同時に、彼がずっと発言していたにもかかわらず何も変わらないのであれば、彼が辞任することでより強く意思を伝えることができます。おそらくそれも1つの方法です。内側から変化を起こす事ができないのなら、なぜいつまでもそこにとどまって時間を無駄にする必要があるでしょう?変化を推進できる別の場所へ行くべきではないでしょうか。

VC企業の多様性を示す数字をトラッキングする重要性について:

企業内の人々、既存のGPや投資家がどれほど問題が大きいかを認識するためには、数字をトラッキングすることが非常に重要です。書き出してみなければ、何が足りていないか、何が欠落しているかを認識する必要に迫られません。数年後企業がデータを書き出すようになるか、企業の従業員比が突然米国の人口比を反映したものになるか、多様性の価値を認識するか、と言われれば私は楽観視していません。しかし、雪だるま式に変化が起こる効果もあると思います。すぐには変化は起きないでしょうが、より多様性のある人材を社内またはネットワーク内に確保できていれば、あるいは最低でもどこにいるか把握できていれば、投資を行うとき、イベントを主催するとき、エコシステムを拡大するとき、多様性についてより考慮するようになります。

率直に言って、当社にコンタクトを取ってくる多くの企業は、制度化した人種差別を既にある程度認識し理解しています。彼らは暗黙の偏見を理解し、人材に欠落があることを理解しています。これらの企業が最も支援を必要としている人々や企業でないのは確かです。

しかし、当社と積極的に関与する意思のある企業と出会ったとき、あるいは多様性に欠ける企業や、雇用している投資家に人種的多様性のない企業と接触することになったときこそ、多様性がもたらす価値について話し合うチャンスです。多くの研究で、多様性があるほどビジネス、投資家、企業は優れた業績をあげており、彼らがその多様性を保持できれば企業はさらに業績を上げていけることがわかっています。このことは、繰り返し示されています。

ですから、自社のポートフォリオや投資家について、これ以上望めないほど優れていると思っていても、おそらくそれは正しくないでしょう。また、多様性を持つということは情報に基づいた視点を持つことである、という事実強調したいと思います。

自社の投資家、話をする周囲の人々、共に投資の決定を行う人々、これらの人々に多様性があるほど、視点にもその分の多様な情報がもたらされます。ですから、投資委員会に多様性がなければ、資金の投入について決定を下す際、視点が欠け、情報が不足します。

D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)のトラッキングに関するベストプラクティスについて:
VC企業については、トップレベルの従業員をトラッキングすることをお勧めします。地位の高い従業員について、そのうちの何パーセントが少数派に属するバックグラウンドを持っているかや、性別、LGBTQなど、すべての種類のデータをトラッキングします。そして、シニオリティレベル、つまりアソシエイト、コントローラー、GPについてトラッキングすることもおすすめします。これらの人々のうち何人が、少数派に属しているでしょうか。そして、それに加えて、パイプラインをトラッキングすることも重要だと思います。採用候補者のうちどれくらいが少数派に属しているか、または異なる学校の出身であるか。これらの指標もやはりすべて重要です。パイプラインの不足している箇所を見出すことができるからです。イベントを主催する際、登壇者の顔ぶれはどんな感じでしょう?パネリスト全員が、あなたと同じ人種ということはないでしょうか?

また、起業家側としては、どれだけの費用を費やしたかを確認するのが非常に重要です。何人の少数派に属する創業者に投資したかよりも、彼らにいくら投資したかが重要です。

また最後に、これはやや掴みどころのない部分なのですが、投資する起業家をどこで見つけるかです。他の投資家から薦められた起業家でしょうか?電話やeメールであなたにコンタクトを取ってきた起業家でしょうか?様々なカレッジや大学へ行き、そこの学生を説明会に招待す予定はありますか?そこでもパイプラインのトラッキングを少なからずすることができ、これは非常に重要です。

伝統的に白人が大多数を占めるVC企業で黒人のパートナーの数を増やすことvs黒人のVCに自らの企業を起こすことを薦めることについて:

これには、2つのアプローチがあります。

1つ目は、白人が大多数を占める非常に大規模なこれらの企業が、ベンチャーキャピタルに分配される資産のうち極めて多くの部分を管理しているという考えです。年間800億ドル(約8兆6000億円)を超える資産の大部分は、上位10社からのものです。ですから、新しいファンドを立ち上げても、大手企業による投資額と同等にすることは非常に困難です。

また黒人が率いるこれらのVC企業が上位のGPに気兼ねせず、投資することが非常に重要だと思います。彼らは大変貴重な視点を持っています。どちらも必要なのです。

黒人の投資家は自らのファンドや企業を立ち上げ、また肌の色に関係なく、自らが信じる創業者に投資する必要があります。また私たちは最大規模のファンドを扱う人々に、彼らの行う大規模な富の創造と雇用の創出が、我が国の多様性と黒人の投資家の視点を反映した形で行われるようにしてもらうべきだと思います。

ソフトバンクa16zが行っているような、少数派の起業家への投資に特化した個別のファンドについて:

かつてよく「パイプラインの問題」という言葉を聞いたものです。今でもこの言葉を聞くことがあります。これは、過去によく使われた、黒人の人材が十分いないという意味の婉曲表現ですが、これは真実ではありません。パイプラインの問題は確かに存在しますが、それは企業側が多様性に富んだパイプラインを持たないために発生する問題です。企業が多様性に富んだパーソナルネットワークを持たず、またそうしたネットワークを築こうとしてこなかったことが原因です。彼らは投資をするにしても、話をするにしても、彼らの同種の人々を対象に選ぶ傾向があります。これこそがパイプラインの問題です。これらの企業がどのように変わるか、私にはわかりません。

先程ソフトバンクについて言及されましたね。現在、少数派の起業家への投資に特化したファンドがいくつかあります。黒人の創業者に資金が流れるのはどんな形であれ良いことだと思います。私は、少数派の創業者に投資するための個別のファンドの必要性が理解できないでいます。少数派に属する創業者へ投資した経験がない場合、個別のファンドがなんらかの変化をもたらすでしょうか?私にはわかりません。そこで、それについて調べ、なにが問題なのかを尋ねる必要があります。なぜ、あなたは少数派に属する創業者に投資してこなかったのでしょう?

投資に値する企業ではないからでしょうか?優秀な人材が十分に揃っていないからでしょうか?彼らの経験が十分でないからでしょうか?どれもが真実ではありません。私がお薦めするアプローチは、なによりも、パイプラインを変化させることです。パイプラインが上手く機能していなければ、機能するように変えて下さい。創業者に会いに行き、また、あなたとは異なる方法で少数派の企業に投資をしている投資家に会って下さい。このように行動している企業が実際に存在します。すぐにこのようにできないと感じる場合は、少数派に属するスカウトを連れてきて、投資のための資金を与えてはどうでしょう?企業に代わって投資し、それらの資金を実際に投入することができる、スカウトとして素晴らしい能力を発揮するであろう優れた黒人創業者、CEO、投資家、エンジェル投資家が大勢います。これで瞬時に状況が変わるでしょう。

自分にはできないと感じているなら、現在そうした活動を実践しているファンドに資金を投入してください。Precursor(プリカーサー)が良い例です。すばらしい多様性に富んだ人材を見出すことのできるファンドが他にもたくさんあります。Backstage Capita(バックステージキャピタル)もそうです。たくさんのファンドがあります。これらのうちのどれもできないという場合は、そうですね、それは、やってみようとしていないのだと思います

VCコミュニティに幻滅を感じている、あるいは締め出されていると感じている、志ある黒人投資家へのアドバイス:

諦めないで挑戦を続けて欲しいと思います。常に返事があるとは限りませんが、売り込みのeメールを送り、自分のネットワークの中に友達の友達といったつながりを見出すよう心がけ、ベンチャー企業の中にネットワークを築くよう努めます。大変だとは思いますが、挑戦を続けてください。また、起業家と協力し、その仕事がどのようなものかを学び、スキルの構築にどういったことが役立つかを学んでください。あなたの周囲に起業家がいたら、彼らと共にプロジェクトに取り組むにはどうしたらよいか尋ねたり、彼らにインタビューをしてください。現場を見学したり実際にインターンをする機会をあなたに提供してくれるアクセラレーターやインキュベーターは大勢います。 これは大変良いアプローチで、そちら側により多くの仕事があるはずです。

正直に言うと、ベンチャーの仕事の多くは投資銀行の担当者が扱います。これが唯一のアプローチではありませんが、投資銀行システムあるいはスタートアップエコシステムの中にいると、ベンチャー業界そのものよりもややアクセスしやすいベンチャーキャピタリストとつながりを持つのに役立ちます。大変な道のりですが、一番良い方法は、自分のネットワークを拡大し地に足を付け
積極的に取り組むことです。

この問題を認識し現状を変えたいと考えているが、日和見主義、あるいは単なる見せかけのパフォーマンスになってしまうことを恐れている企業について:

見せかけのパフォーマンスは問題です。

言っていることに行動が伴っていません。これがすべての問題です。行動が伴っているなら、それは見せかけのパフォーマンスではありません。あなたが自分の言っていること、ソーシャルメディアに投稿していること、語っていることを本当に信じているのなら、その行動は本物です。少数派を取り込む形で採用を始めること、これは日和見主義、あるいは単なる見せかけのパフォーマンスには見えません。見識のある啓蒙された行動に見えるでしょう。それは劇的な変化かもしれませんが、あなたがついにこの問題を理解したように見えるでしょう。私はどの企業も行動を起こすこと、特にネットワークを多様性に富んだものにすることに関して、恐れるべきではないと思います。

ここで問題となるのは、あなたが投資した資金やあなたの行った採用について、良いPRになるとか、慈善事業である、と考えるようになる場合です。大勢の黒人の起業家がいますが、彼らがあなたのポートフォリオを向上させてくれるから、という理由で彼らに投資をすべきです。彼らがきっとあなたにより条件の良い投資家を紹介してくれるからという理由や、彼らがあなたの資金をより良いものに改善する機会を与えてくれるからという理由。彼らがあなたのネットワークを広げ、問題について、別の視点から考える機会を提供してくれるから、という理由で黒人投資家の雇用に資金を投入すべきです。彼らは異なる視点、意見をもたらし、あなたにとって最も優れた投資家そして投資対象の一部となるでしょう。彼らを雇用したのに投資を行う権限を与えず、発言し意見を共有する機会を与えないのであれば、それは見せかけのパフォーマンスです。これでは現状を変化させる力にはなりません。見せかけのパフォーマンスでは、生活、人種差別、企業のあり方を変えることはできませんし、ポートフォリオや企業の改善につながりません。

過去数年で見られた前進について:

素晴らしい例の1つがElliott Robinson(エリオット・ロビンソン)氏です。彼は私たちの創設したBLCK VCの取締役会の役員で、現在はBessemer(ベッセマー)のGPです。彼は意見は、黒人のVCコミュニティだけでなく、VCコミュニティで尊重されています。これは前進の印だと私は思います。彼は資金を動かす権限を持っています。

また白人の同志が取締役から降りて、黒人のアドバイザーが独立した取締役会のメンバーとなれるよう議席を空けるという動きがあるといいと思います。これは非常に重要です。これは継続していくべき重要な動きです。取締役会の議席というのは大変な影響力とリソースがあり、多様性を取り入れていくために非常に重要です。

また、私はテック企業につとめる白人従業員の同志からのサポートのうねりをみて興奮しています。彼らは「私たちはあなた方の方針を支持します。私たちは黒人の投資家や黒人の従業員を白人と同じ割合で昇進させない方針を支持しません。私たちは制度的人種差別を促進する動きをサポートする方針を支持しません」と声をあげてくれています。私はこれらは大きな力になると思います。本当に、この運動が今後どうなっていくのか興味があります。とても期待しています。現在緊張感が溢れ行動が起こされ、そして今までにない興奮が沸き起こっていると感じています。今後もこの運動を頑張って前進させていく必要があります。

Image Credits: Courtesy of Sydney Sykes

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ

タグ:差別 インタビュー

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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