「らしさ」を取り戻したMacBook Pro 16インチモデル

ポーカーでは、自己満足は破滅を招く。前進する勢いを徐々に奪っていくのだ。何回かの少額の勝ちで、大きな負けをカバーした気になっているうちに手遅れになり、レバレッジも底をついてしまう。

ここ数年というもの、Apple(アップル)のMacBookのゲームも、それと似たような低迷に苦しみ始めていた。Apple Watch、AirPods、iPad Proなど、比較的最近になって登場した製品を含め、Appleの他のシリーズのほとんどは好調だった。それに対してMacBookシリーズは、信頼性の低いキーボード、RAM容量の上限の小ささ、貧弱なグラフィックス、といった欠点が目立ち始め、かつて他社のノートマシンに対して築いていた大きな優位性も、いよいよ輝きを失い始めていた。

Appleが米国時間11月13日に発表した新しい16インチのMacBook Proは、最も忠誠心が強く発言力も強いユーザーが抱いていた不満を、すべてではないとしてもほとんど解消するものだ。いくつか妥協したと思われる部分は見られるものの、かなり強大なメリットが、それらを補って余りある。グラフィックスも改善され、ディスプレイの周囲のベゼルも、かなり細くなっている。バッテリ容量も増大し、寿命も延長されている。そして、まったく新しいキーボードも装備した。

今回は、まだ1日しかマシンを使えていないが、この記事を書くための試用と、実際の執筆は、すべてこのマシン自身の上で行なった。ニューヨーク市の周辺を持ち歩き、空港に行って飛行機に搭乗し、そして今、こうして記事を公開している。これは、ちゃんとしたレビューではないが、新しくなった部分について取り上げ、それぞれについて考えを述べることにしよう。

このマシンは、さまざまな点で、より大きなMacBook Proはどうあるべきか、ということを考え直した製品だと言える。なおAppleは、この新しいモデルによって、15インチMacBook Proを完全に置き換えることになる。これまでのラインナップに追加されるものではない。

今回の新しいMacBook Proを担当したチームは、重量、騒音、サイズ、またバッテリなどに関して、なんの制約も設けずに設計を開始したというのは重要なポイントだ。これは、これまでより薄いマシンでもなく、小さなマシンでもなく、静かなマシンでもない。しかし、本当に重要なすべての点で、これまでのMacBook Proよりも優れているのだ。

新しくなった部分を、最も重要なものから順に見ていこう。

パフォーマンスと温度

16インチMacBook Proは、Intel(インテル)の2.6GHzで動作する6コアのCore i7、または2.3GHzで8コアのCore i9のいずれかを搭載する。これらは、これまでの15インチMacBook Proが採用していたプロセッサと同じだ。つまり、16インチモデルの新しくなった部分は、Intelのチップのおかげではないということは言える。

16インチMacBook ProのCore i7モデルは、基本モデルで2399ドル(日本では24万8800円)で、これまでの15インチモデルと同じ。512GBのSSDドライブと、16GBのRAMを搭載する。

Core i7モデルの標準グラフィック構成では、4GBのビデオメモリを装備するAMD Radeon Pro 5300Mと、CPUに内蔵するIntelのUHD Graphics 630を搭載している。システムは、これら2つのグラフィック機能を動的に切り替え、状況に応じてパフォーマンスとバッテリー寿命のいずれかを優先させる。

Core i9モデルの価格は2799ドル(日本では28万8800円)からで、1TBのドライブを搭載する。また4GBのメモリを搭載したAMD Radeon Pro 5500Mを装備している。

いずれのモデルも、以前の15インチモデルに比べてストレージの容量を増大させ、ほとんどの人にとって、かなり快適な領域に入っているはず。どちらのモデルも、発表と同時に注文を受け付けていて、すでに店頭にも並んでいる。

また、いずれもCTOによって、8GBのGDDR6メモリを搭載したAMD Radeon Pro 5500Mが選べる。SSDストレージの容量は、最大8TBで、Appleによればノートブック史上最大だという。メインメモリは、2666 DDR4で、最大64GBを搭載できる。もちろんこうしたアップグレードは、それなりに高価なものになる。

新しい内蔵電源は、これまでより最大12W多い電力を供給できる。それに見合うよう、新たな排熱システムを採用している。冷却用のヒートパイプも再設計された。 従来の15インチモデルと比較すると、冷却ファンの大きさは35%大きくなり、ブレードの数も増大している。それによって、空気の流量も28%多くなっている。

新しいMacBook Proのファンは、同じ騒音レベルなら、以前よりも多くの空気を排出できる。したがって、音は小さくなってはいないが、けっして大きくなっているわけでもない。同じ音で、冷却効果が高まっているのだ。このMacBook Proの設計プロセスのレベルで注力したのは、以前と大差ないものを作るのではなく、確かなパフォーマンスの向上が得られるようにすることだった。

電源アダプタも新しくなっている。物理的なサイズは15インチのMacBook Proのものと変わらないが、供給電力は87Wから96Wに増大している。アダプタは相変わらず分厚く、じゃっかん重くなったようにも感じられるが、供給電力は確実に増加しているのだから、よしとしよう。

今のところ、このMacBook Proでビデオの編集や、レンダリングのテストはできていないが、複数の8Kストリームを同時に扱っているライブデモを見ることはできた。Appleによれば、強力な内部構成のため、通常は最大4つ、場合によっては5つの未レンダリングのProRes形式のストリームを扱えるという。

大きくなったディスプレイと厚くなったボディ

新しいMacBook ProのRetinaディスプレイは、対角線が16インチ、226ppiで3072×1920ピクセルの解像度を持つ。最大輝度は、従来の15インチモデルと同じ500ニトで、広色域(P3)とTrue Toneテクノロジーを実現している。画面周囲のベゼルは狭く、正面に座ると、画面はさらに大きく感じられる。この狭いベゼルのおかげで、新しい16インチMacBook Proの本体サイズは、15インチモデルと比べて幅と高さはわずか2%しか大きくなっていない。また、厚みの増加も0.7mmに抑えられている。

画面サイズの増加を、幅の狭いベゼルが吸収して、全体的な本体サイズの増加を最小限に抑えているかたちだ。このモデルも、2015年の15インチMacBook Proと、厚さはほとんど変わらない。15インチモデルは、このマシンがターゲットにしているような市場のユーザーに、今でも非常に人気がある。16インチモデルの重量は4.3ポンド(2.0kg)で、これまでの15インチモデルの4.02ポンド(1.83kg)よりも重くなっている。

実際にピクセル数が増え、ベゼルが狭くなって面積も増えたため、ディスプレイは非常に鮮明で素晴らしい。ちょっと大げさに言えば、iPad Proと同様、全体が画面になっているようさえ感じられる。

このちょっと厚みの増した本体には、現在のFAA(米連邦航空局)の規制による許容範囲で最大の、100Whという容量のバッテリを搭載している。Appleによれば、バッテリ容量の増加により、これまでの15インチMacBook Proと比較して、同社のテスト条件で1時間ほど長く動作するようになったという。私は、これまでのところ、その実際に効果を試すことができていない。

ともあれAppleが、パフォーマンスとバッテリー寿命を向上させるために、iPhone 11 Proと、この新しいMacBook Proを、あえて少しだけ厚くすることを選ぶ意思を示したことは喜ばしい。最近のほとんどのデバイスは、もう十分に薄くなっている。パフォーマンス重視はありがたい。

スピーカーとマイク

16インチMacBook Proで大幅に改善されたもう1つの領域は、スピーカーとマイクだ。正直なところ、私はラップトップから出てくるサウンドの音質について、これまで多くを期待したことはなかった気がする。どうせヘッドフォンを使うのだからどうでもいい、といった程度にしか考えていなかった、というのが本当のところだ。この新しいMacBook Proから出てくるサウンドを初めて聞いたときの私の驚きを想像してみて欲しい。誇張抜きで、非常にいいのだ。

全部で6つのスピーカーを組み合わせたシステムは、2つのサブウーファーが反対向き、つまり背中合わせになるように配置されている。これにより、ラップトップの小さなスピーカーの宿命だった、ガタガタ鳴るような振動をうまくキャンセルすることに成功している。

またこのようなスピーカーの構成によって、これまでのポータブルマシンでは聞いたことないような端切れのいい高音と、深い低音を再生することに成功している。映画を観るのも、この内蔵スピーカーでなら楽しくなる。ラップトップのスピーカーに対して、こんな評価を書いたことは、かつて一度もなかった。

スピーカーの音は、キーボードのキーの周囲の隙間から出てくるのではなく、すべてキーボード左右の専用グリルから出るようになった。これにより、音の鮮明度が確保されている。音場は左右に十分拡がり、あたかも人声用のセンタースピーカーを装備しているようにさえ聞こえる。この方式の欠点を挙げるとすれば、スピーカーグリルの前に手を置いて音を遮ると、以前より音の違いが目立ってしまうということくらいだ。

音質は、本当にとても優れている。HomePodチームが音場の再現に取り組んだ仕事が、ここにも活かされているのだろう。

オーディオ面で優れているのは、スピーカーだけではない。Appleは、録音用として3個のマイクからなるシステムを導入した。それにより、外部マイクに匹敵するほどの、十分なSN比を実現したという。私も、iPhoneの内蔵マイクと比較してテストしてみたが、結果は月とスッポンほど違ったものとなった。MacBook Proで録音した音には、ヒスノイズがほとんど入らない。ミュージシャンが、ボーカルや、その他の録音のスケッチパッド的に使ってみれば、いい意味で驚くに違いない。

これまでのところ、自分自身では外部マイクとの比較はしていないが、Blue Yetiや、他のラップトップの内蔵マイクで録音した音を聴いて比較する機会を得た。MacBook Proの内蔵マイクは、他のすべてのラップトップの音よりも優れていたのはもちろん、Blue Yetiともいい勝負だった。

一般的なポッドキャスト用外部マイクには、指向性があり、その点はMacBook Proの内蔵マイクよりも確かに優れている。しかし、少なくともモバイル環境で録音する機会を考えると、これまではまったく選択肢にも入らなかったものが、いざという時には有力なバックアップ手段と考えられるほどのものにはなっている。よくよく注意して聴かなければ、違いは分からないほどだ。

内蔵マイクを目当てにMacBook Proを購入する人はいないだろうが、「プロレベル」のデバイスに、ついにプロレベルのマイクが内蔵されたのは、究極の選択と言えるだろう。

この話題については、だいたいこんなところだが、まだ何か忘れているような気がしないでもない。

そしてキーボード

そう、これだ。MacBook Proのキーボードについて、ここしばらくの間、一定の水準に達したものでなかったことを、くどくどと繰り返す必要はないだろう。最近のストロークの短いバタフライキーボードが好みではなかったかどうかは別として、私もその一人だが、引っかかって動かなくなったり、キーの反応がなくなるというトラブルに遭遇したかどうかも別として、これまでのキーボードに問題があったのは確かだ。

これまでのキーボードの状況については、ケーシー・ジョンストン(Casey Johnston)氏と、ジョアンナ・スターン(Joanna Stern)氏によって、盛んに書かれてきた。また、ここ数年、ツイッター上でも、いろんなライターが不満を書き募っていた。Appleは、そのキーボードの信頼性を高めるために、一連のアップデートを提供し、交換保証期間を延長してユーザーの不満をなだめてきた。

しかし、本当の解決策は、これまでの設計を完全に捨てて、やり直すことだけだった。そして、その結果がこの、まったく新しいキーボードだ。

Appleは、この新しいキーボードをMagic Keyboardと呼んでいる。iMacのMagic Keyboardにちなんだもの。ただし、まったく同じ設計というわけではない。新しいキーボードのメカニズムは、バタフライ式ではなく、シザー(ハサミ)式だ。ストロークは、1mmということになっているが、実際にはもっとあるように感じられる。また、キーの下には、特別に設計されたラバードームがあって、適度の抵抗感と反発力を生み出し、満足のいくキーアクションを実現している。キートップは、ストロークの最上部にあるとき、つまり押されていない状態ではロックされ、安定する。MacBook Air時代のキーボードのようなぐらつきは、もはや感じられない。

キートップは個別に取り外して、中のメカニズムにアクセスできるようになっている。また、矢印キーは、逆T字型の配置になった。さらにエスケープ(esc)キーは、物理的な独立したキーとなった。

Appleは、この新しいキーボードを開発するあたって、大規模な生理学的調査を実施した。1つのテストは、キーを押すことが人間の指に与える影響の測定だ。具体的には、人間の指先にあるパチーニ小体に、キーが与える影響を測定した。パチーニ小体というのは、皮膚の中にあるタマネギのような構造体で、神経の末端を収容している。機械的な振動の圧力に最も敏感な部分だ。

Appleは、特別なプラスチックドームを作成し、この受容器に対して特定の振動を送り込むようにした。それにより、指が脳に対して、「はい、そのキーを押しましたよ」という信号を送信する。その結果、脳を満足させる「ストロークが完了しました」というメッセージを伝えることのできる、正しい振動波長を発生する設計が実現した。

キーとキーの間のスペースが広くなり、ストロークの信頼性も高められた。キートップが、以前よりわずかに小さくなったことによるもの。このキー間のスペースに対応するには、多少の慣れが必要だが、私は、この原稿を書いている時点で、すでにだいぶ習熟した。Catalinaのタイピングの自動修正機能など、まったく必要としないほどだ。

この新しいキーボードは、これまでAppleが古い設計のキーボード適用してきた保証延長プログラムには含まれない。このモデルには、通常通り1年間の製品保証があるが、同社の声明は、この新しい設計のキーボードの耐久性には自信があるということを意味するのだろう。本当にどれだけの耐久性があるのかは、もっと多くのユーザーに使われて、私などよりもずっと手荒なキーボード使いの手にかかってみなければ分からないだろう。

今回の新しいキーボードの設計は、結局のところ使いやすいキーボードを生み出すことに成功したのだろうか。結論を言えば、イエスだ。私に言わせれば、これは古いMacBook Airのゆったりしたクッションと、薄型で安定性のあるiMac用のMagic Keyboardの中間に位置するもの。Appleがここ数年の間に作った最高の感触のキーボードだと言えるだろう。もっと言えば、現代において最高に使い心地の良いキーボードだろう。ただこの点に関しては、ストロークの深いメカニカルキーボードの方が良かったという意見も認める。しかし、このキーボードがそれに次ぐものであることは確かだ。

真にプロ用のPro

私のこれまでの短期間の、そしてかなり限定されたテストでは、16インチMacBook Proは、このマシンの本来の目的であるプロ用として、十分に機能するもののように思える。しばらくの間、Appleのラップトップのラインナップには欠けていた領域だ。ストレージの上限も増大し、より大きな画面を備え、より大きなバッテリー、さらに再設計されたキーボードを持つマシンは、実質的に2015年以降変化のなかったMacBook Proからアップグレードする人にとって、なんのためらいもなく購入できるもの。

このところのApple製品に冠された「Pro」という名前は、「プロフェッショナル向け」というより、単に「最高」といった意味で使われていた。Appleにしてみれば、そうしたことは昔からさほど珍しくはなかった。しかし最近では、AirPods ProやiPhone Proなど、明らかに一般消費者向けのデバイスにも、平気でProという語が使われている。

これまでAppleが、プロ向けとは言えない製品に恥ずかしげもなくProという名前を付けていたのに比べるまでもなく、16インチMacBook Proは、堂々と胸を張ってProを名乗れる製品だろう。これは、本来のMacBook Proらしい、本当に魅力的な製品の復活と言える。新しい設計のキーボードの耐久性と修理のしやすさが気になるところではあるものの、この製品はAppleのラップトップとして、新しい確かな時代を切り開くものになると信じている。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

投稿者:

TechCrunch Japan

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