「アナ雪」のCG技術やGMのシートベルト開発研究を組み合わせて60年前のディアトロフ峠事件の謎に迫る

ディアトロフ峠事件は、史上最大級の「未解決事件」として知られている。1959年にウラル山脈の奥地で9人の遺体が発見されたが、これまで誰も納得のいく説明ができなかった。しかし、新しい研究では、さまざまな時代のシミュレーション技術を組み合わせ、この悲劇的な謎についておそらく最も信じがたいであろう物語に迫っている。

米国時間1月28日付でNature Communications Earth and Environmentに発表されたこの論文は、National Geographic(ナショナルジオグラフィック)に非常に読み応えのある要約が掲載されており、一読の価値がある(「科学が解決した…?」という酷い見出しが付けられているにせよ)。

基本的に謎は次のようなものだ。8人の学生と彼らのスキーインストラクターは、安全だと思われる(ホラート・シャフイル山、現地では別名「死の山」と呼ばれている)斜面にテントを張っていた。しかし、後にその周囲から損壊したテントや衣服を脱いだ遺体が発見された。その惨状は、雪崩に遭ったというだけでは説明がつかないように見えたし、そもそも雪崩が発生した証拠も可能性もないように思われた。

60年以上もの間、この事件はさまざまな推測や疑惑を呼んだ。特に当時のソ連政府による隠蔽工作があったように見えたためだ。2019年にこの出来事を再調査したロシア当局でさえ、納得のいく説明は得られなかったようだった。

そこに登場したのが、スイスのETHチューリッヒとEPFLという2つの非常に権威のある高度な技術研究所のAlexander Puzrin(アレクサンダー・プズリン)氏と Johan Gaume(ヨハン・ガウメ)氏だ。それぞれの理由でこの事件に興味を持った2人は、何が起こったのかをはっきりと解明する方法を調べ始めた。興味深い個人的なディテールとしては、次のようなことも書かれている。

この科学的な調査には、ロシア人であるプズリン氏の妻もひと役買っている。「私がディアトロフの謎に取り組んでいることを話したとき、初めて彼女は私を尊敬の眼差しで見てくれました」と同氏はいう。

……なんと言えばいいのかわからない。

何はともあれ、研究者たちはいくつかのアイデアに基づいて新しい仮説を立てた。第1に、斜面は見た目ほど浅くなく、雪崩が発生するための最小限度に近いこと。そして表面の雪を滑りやすくする基底層を持っていた。凍った風が質量を増し、グループが斜面を削ってテントを張った部分の下に滑り台ができた可能性がある。

次に、ガウメ氏は、非常にリアルな雪のシミュレーションが見られる映画「アナと雪の女王」の制作スタッフを訪ねた。同氏はディズニーの雪シミュレーションの専門家に会い、そのコードを使用・改変する許可を得て、雪崩がテントで寝ている学生たちを直撃したらどうなるかをシミュレートしてみた。そのシミュレーションによると、当時の救助隊が目撃したような惨状を引き起こすには、大型自動車ほどの大きな氷った雪の塊は必要ないことがわかった。

画像クレジット:Gaume, Puzrin / Nature

さらに彼らは、シートベルトの開発のために100体もの死体の肋骨を折ったGMの研究成果を利用した。ロシアの学生たちはスキーの上で寝ていたので、固いものに支えられた死体が衝撃を受けたとき、どのように反応するかを調べたこの研究に、極めて近いのではないかと彼らは提唱したのだ。その結果、通常の雪崩の被害者に見られるような窒息ではなく、あのような酷い怪我を負うことが考えられた。

すべては推測の上に推測を重ねたものだが、大事なことは、これらのさまざま合理的かつ客観的な尺度を組み合わせることで、プズリン氏とガウメ氏がディアトロフ峠の事故の原因が雪崩であった可能性を示したということだ。

しかし彼らは、多くの人がこの説明を受け入れないかもしれないと率直に認めている。「あまりにも普通すぎます」とガウメ氏はいう。そして、そのような人たちは、この事件から半世紀の間に生まれた陰謀や空想を、これからも追求し続けるだろう。しかし、それ以外の人にとっては、この説明が慰めになるかもしれない。このかわいそうな9人の仲間たちは、間違った時間に間違った場所にいただけだと信じられる理由になるからだ。

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画像クレジット:Gaume, Puzrin / Nature

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

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TechCrunch Japan

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