米カリフォルニア州に拠点を置くGeodesic Capital(ジオデシック・キャピタル)は5月17日、第1号ファンドの「Geodesic Capital Fund I」を組成したことを発表した。ファンドの総額は3億3500万ドル。三菱商事のほか、三井住友銀行、三菱重工業、三菱東京UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、損害保険ジャパン日本興亜、ニコン、日本政策投資銀行、東邦銀行などが出資する。
ジオデシック・キャピタルは、前駐日米国大使のジョン・ルース氏と、アンドリーセン・ホロウィッツ元パートナーのアシュヴィン・バチレディ氏、三菱商事で立ち上げた投資ファンド。
ルース氏は第1期オバマ政権下、2009年から2013年まで駐日大使を務めたが、それ以前はスタートアップのサポートにも積極的なウィルソン・ソンシーニ・グッドリッチ&ロサーティ法律事務所のCEOを務めていた。TechCrunchの過去記事にもあるが、Salesforce.comをはじめとしたIT企業の取締役も務めている。またアシュヴィン・バチレディ氏は米VCのアンドリーセン・ホロウィッツでFacebookをはじめ、Twitter、Box、Airbnb、Githubへの投資に関わってきた。
日本やアジアのマーケットを狙う米スタートアップに出資
Geodesic Capitalでは、グロースステージのシリコンバレーのスタートアップに対して、500万〜3000万ドルの範囲で投資を実行する。バチレディ氏いわく、投資の際に重要視するのは(1)Strong Leader、長期的なビジョンを持ち舵取りをするCEOがいること、(2)イノベーションを起こすプロダクトを持っている個と、(3)潜在市場、ポテンシャルがあること、(4)強い実行力と急速な拡大を実現できること——の4点。
投資の対象とするのは、日本やアジア進出を狙うシリコンバレーのスタートアップだ。ルース氏は大使としての日本赴任から米国・シリコンバレーに戻ってきて、あらゆる業種でITによる破壊的なイノベーションが起こっていること、また同時にシリコンバレー企業が日本の市場への関心が高まっていることなどを背景にこのファンドを立ち上げたと語る。現在公開されているポートフォリオは、セキュリティのTanium、メッセージングサービスのSnapchat、アプリケーション配信ネットワークのInstart Logic、ビットコインマイニングに特化したコンピュータを手がける21の4社。
こう聞くと——あまりにも使い古された表現だが——「黒船襲来」という印象を持つ人がいるかも知れない。だがルース氏らは、海外からのイノベーション、イノベーティブな企業が日本の市場に参入することこそが、日本経済に価値をもたらすと語る。「一方通行でなく、両方が通行できる『架け橋』を作る」(ルース氏)。シリコンバレーのスタートアップに対しては日本を玄関口にして、アジア進出を支援。一方、ファンドへ出資する日本企業に対してはシリコンバレーの拠点も用意しているという。
三菱商事もファンド組成の趣旨について「当然だが金融投資のリターンは大いに期待している」(三菱商事常務執行役員新産業金融事業グループCEOの吉田真也氏)とした上で、「狙いは中期経営戦略2018にうたっているとおりで、ビジネスにおける先端技術の利用や新規ビジネスの開発、既存ビジネスの変革。そのためにもシリコンバレーとのアクセスを深めていきたい」(吉田氏)と語る。
新しい市場へのチャレンジ、「One size fits all」になるな
ところで、米国で人気を博したサービスであっても、いざ日本市場に参入した際にはパッとしないなんて話は時々聞くものだ。そうならないためにも重要なのは、ローカルパートナーと組むなどして、カルチャライズすることだろう。例えば、今では日本人が数多く利用するTwitterも、デジタルガレージと組んで日本に参入している。
リース氏もこの点については意識しており、「米国企業に限らず、世界の多くの企業が日本やアジアの国々に進出する際に犯す過ちが『One size fits all』。つまりそのまま持ってくれば成功すると信じているところだ」と指摘する。これに対してGeodesic Capitalでは、投資先の日本参入支援を行う日本法人「ジオデシック・ジャパン」を設立しており、カントリーマネージャーには元オムニチュア・ジャパン カントリーマネージャーの尾辻マーカス氏、シニアアドバイザーに元ツイッター日本法人代表取締役会長の近藤正晃ジェームス氏を招聘。日本でも成功したそのノウハウを生かして投資先の支援を行うとしている。